Faber est suae quisque fortunae 作:ラグなロック
「あの……凪咲さん大丈夫ですか?」
「なんとかな。ありがとう」
誰もいない夜の公園で、なのはと凪咲はベンチに腰掛けていた。
フェレットはそんな二人を見ながら、話しかける。
「でも本当に凄いです。思念体相手に一歩も退かないし、魔法を使いたてで封印魔法でジュエルシードを封印して」
「なあなんでコイツ若干他人事なんだよ。俺あと少しで死ぬとこだったんだけど?」
「そこについては本当に申し訳ございませんッ!!」
頭を下げながら謝罪を述べたことで、凪咲は一先ず話を続ける。
「さて。とりあえず話してくれ。アレは何か。君は何者か……そして俺たちはどうして君の声が聞こえたのか」
「はい。まず大前提として……僕は貴方方の世界で言うところの魔法使い、というものです」
魔法使い。
古来よりその存在を示唆する表現や、その存在を弾劾する裁判や風習は存在しているが。いずれも時代の在り方などがそうさせた空想の産物。
……というより。世の中の不都合を押し付けられる偶像、と言った方がいいのだろう。
目の前のフェレットは、そうしたモノだと言っている。
凪咲は長く息を吐く。
「……動物専門の脳外科って何処だっけ」
「僕は正常ですよ!?」
「そ、そうですよ! それに魔法とかでもないとこの状況に説明がつかないと言いますか……」
「分かってるって。ただのボケだよ」
流してくれ、と切り替える。
「まあ予想の範囲にはあったけど。まさか本当にあるとはな」
「私は全く何が何だか……」
「それが普通だよ。俺がおかしいだけだ」
「自分で言うんですかそれ……」
自覚あるし。
フェレットは続けて自己紹介をする。
「僕はユーノ。ユーノ・スクライアって言います」
「あ、どうも。私は高町なのは。なのはって皆呼ぶよ」
「鳴無凪咲。好きに呼んでくれ…………で。ユーノ。早速一つ聞きたいんだが」
はい、と凪咲の方を見る。
「さっき『貴方方の世界』って言ったよな? それはお前が別の世界から来たって意味でいいのか?」
「あっ、はい。そうです。僕はこの世界の住人じゃありません」
あっさりと認めた。
……もう少し誤魔化されると思ったが。
よくよく考えると自分から普通に言っていたしそういうものなのだろう。
そう納得する。
「ユーノのいた世界じゃあ魔法はあるのが当たり前なのか?」
「当たり前かどうかは分かりませんが、少なくとも魔法を認知している世界はそれなりにあります」
「魔法って、私がさっき使った奴みたいなの?」
「うん。君が持っているレイジングハート……僕らはデバイスって呼んでる。魔法発動補助媒体ですね」
「……?」
「あー。つまり魔法使いの持つ杖だな。魔法の発動に必要なアイテムだよ」
ユーノの説明があまりよくわかっていなかったので凪咲が噛み砕いて補足する。
「魔法、ってよりかは科学の延長って感じがするな」
「実際その色が強いですね」
「あの、私と凪咲さんがユーノ君の声? が聞こえたのはどうして?」
「それは、二人に魔法の才能があるからです」
そういいながらユーノは前足を前に出す。
すると、そこから翠色の魔法陣が出現した。
「僕らの使う魔法はリンカーコアと呼ばれる器官から魔力を消費して発動します。お二人にも同じようにコアがありますので、僕の念話が聞こえたんです」
「ユーノはデバイス無しでも魔法が使えるのか?」
「はい。僕だけじゃなく、訓練すれば基本誰でも。向き不向きはありますが」
「あのスライムみたいなのは何だったんだ?」
「アレは、ジュエルシードと呼ばれるロストロギアから生まれた魔法生物です。実体はありますが、倒されたり今回のように封印されたりすれば肉体は霧散して消えます」
「ろすと、ろぎあ?」
聞き慣れない単語を口にするなのは。
ユーノが慌てて補足する。
「えーっと。オーパーツ……うーん。昔の文明が作り上げた魔法の道具、ってところかな」
「あ、オーパーツは分かるよ。この間友達と話してたし」
「小学三年生が話していい内容じゃなさすぎる……」
普段この子たちは一体何の話をしてどういう結論に至っているのだろうか。
魔法よりも大分そっちが気になるところだったが、今はユーノの話に耳を傾ける。
「ロストロギアは今の技術では再現不可能なモノも多くあって、ジュエルシードはその内の一つなんです。それを僕の一族が発掘しました」
「……一族?」
「あ、はい。僕の一族はまあなんと言いますか。定住の地を持たないんです。歴史や遺跡が好きな人たちが多くて」
「
「そうですね。それが一番近いかと」
ユーノの話を聞きながら凪咲は頭の中で整理していく。
……平行世界……いや。おそらく同時間軸同世界線の話だろうな。ってことはどっちかというと並列世界、って言った方がいいのか。
宇宙単位で世界が地続きになっているのか。自分流の解釈をしながら話の続きを待つ。
「ロストロギアは大昔の歴史を知る重要な手がかりになる一方で、取扱注意の危険なものでもあるんです。本来はそれを管理する人たちに渡すのが僕の仕事だったんですが……」
「何か、あったの?」
「その、時空震に襲われまして……」
「時空震?」
「時空間を移動して他世界に行くのが普通なんですが、そこで起きる地震のようなものです」
それが輸送途中で発生して喰らってしまった。
その際に運んでいたロストロギア『ジュエルシード』が落失。ユーノがジュエルシードを追いかけた先が、
「俺たちのいる地球……この海鳴市だったってわけか」
「はい……巻き込んでしまって申し訳ありません」
「そんな、ユーノ君のせいじゃないよ!」
「そうだな。それにその時空震ってのは自然災害みたいなものなんだろ。予測不能だろ」
「いえ、時空震は前触れがあって計器で予測も出来るんですが……あの時は全くその気配がなかったんです」
計器の故障かも、そういうユーノは少しフラフラと具合悪そうに揺れる。
それを見たなのはが慌てて支えるために抱える。
「だ、大丈夫!?」
「ご、ごめん」
「とりあえず何したらいいんだよ。そのジュエルシードってのを集めればいいのか?」
「あ、はい。その……凄く申し訳ないのですが、協力していただけたらなと」
しゅんとして、頭を下げる。
凪咲は少し考え始めた。
「……そのジュエルシードってのはあとどのくらいあるんだ?」
「全部で二十一個あって……」
「今一個手元にあるから後二十個か……」
意外と多い。
しかし、隣で聞いていたなのははユーノと目線を合わせる。
「私、手伝うよっ!」
「あっ、おい!」
「だってユーノ君、ここまで来たんですよ。一人で。誰も知らないところまで来て……」
だったら、と今度は凪咲の顔を真っ直ぐに見る。
「私に出来ることがあるなら、手伝ってあげたいです!」
「いや、そりゃあまあそうだけどよ……」
凪咲も出来得る限りは手伝ってあげたい。
自分が住む町にそんな危険物がばら撒かれているからというのもあるが、目の前に困っている人――人ではないが――がいるのなら手を差し伸べるのはいいことだろう。
ただ、
「なのはちゃん。君、まだ小学三年ね? 夜中とか勝手に抜け出せないでしょ」
「うっ……こ、こっそり?」
「多分あのご家族のことだからバレると思うが?」
「ううっ、否定が出来ません……」
凪咲が言うとなのはは撃沈する。
なのはの家族は道場を持っていて、彼女の兄や姉。そして父親は相当に腕が立つ。
凪咲も何度か会ったことがあるが、全く体の軸がブレてないのは驚嘆の一言だった。
『少しよろしいでしょうか?』
と、今まで聞いたことのない女性的な機関音声が聞こえてくる。
見ると。なのはのポケットから赤い宝玉のようなものが宙に浮かぶ。
「この子がさっき言ったデバイス。名前はレイジングハートです」
『彼女の魔法の才は今まで見たことない程です。彼女とのバディを希望します』
「えっと……よ、よろしくお願いします?」
『こちらこそレディ』
「待て待て待て待て。話を勝手に進めるな」
レイジングハートと呼ばれるデバイスとなのはが親交? を深めていると、凪咲が待ったを出す。
「見ただろう。あんなバケモンみたいな相手があと二十体は出てくるんだぞ。今回は運が良かっただけかもしれないのに」
「それは……そう、かもですけど……」
「ユーノ。俺がそのデバイスを扱うのはダメなのか?」
「ダメ、というわけではないんですが……どう? レイジングハート」
『おそらく駄目です』
「おそらく駄目って何なんだよ……」
『簡易的ですが彼の魔力資質を調べた結果、かなり特殊な波長をしていることが分かりました』
レイジングハートは続ける。
どうやら凪咲の魔力は大分特殊らしく、普通のデバイスだと出力が足りないか。もしくは足りていても魔法発動までのラグが大きいとのこと。
今回で言えば後者のようだ。
「そんなことあるんだ……」
「僕もあまり聞いたことは無いかな」
『その点彼女なら私との相性は問題ありません』
「つっても。俺は別に相性云々で言ってるわけじゃないぞ」
『理解しています。貴方が彼女を危険な目に遭わせたくないというのも』
ですが、
『このままでは被害が拡大します』
☆
それを聞いて、凪咲は沈黙する。
……んなことは分かってるんだよ。
「……オーケー。
「それは……はい。勿論僕もそう思っています。元々僕の不注意が招いたことでもあります。僕自身が解決するのが筋です」
でも、
「お願いします。今は、今だけは力を貸してください。その後のことは如何様にでも」
「…………なのはちゃん。君はどうだ?」
「私は……」
「さっきのを見て、怖くなかったか? 正直に言ってくれ。俺は君の意見を否定しない」
真っ直ぐに、なのはの目を見てそう告げる凪咲。
なのはは、少し考える。
「……本当は、ちょっと怖かったです」
「…………」
「でも」
なのはも、凪咲の目を真っ直ぐに見返す。
「誰かが困ってるなら、私はそれを助けてあげたいです」
その言葉には力が籠っていた。
なのはの答えを聞いて、凪咲は長く息を吐きながら天を仰ぐ。
「……ユーノ。お前、歳いくつ?」
「えっと。今年で九歳ですね」
「えっ、同い年なんだ!?」
「僕もびっくりしたよ」
張りつめていた空気が少し緩む。
「……俺は別に保護者じゃないし、この場の決定権があるとも思ってない。だからこの子がそう決めたなら別にいいよ」
だから、と凪咲はユーノを見る。
「ユーノ。俺に魔法を教えてくれ。デバイス無しでも魔法は使えるんだろ?」
「あ、はい。でも結構難しいですよ。ある程度知識があるならともかく、全くのゼロとなると」
「構わない。どうせ学校の勉強は二年くらい先まで終わらせて頭に入ってる。残りの時間は魔法に費やすさ……俺も手伝う。なのはちゃん。それでいい?」
「っ、はい!」
花の咲くような笑顔で頷く。
さて、と凪咲はベンチから立ち上がる。
「とりあえずそろそろ帰ろう。ユーノは……どうすっか」
「あ、じゃあ私が家に連れ帰っていきます」
「……説得は手伝えないぞ?」
「うっ……が、頑張ります!」
大変そうだな。
そう思うと同時に、なのはの家族の温かさは知っているから問題ないかと放置。
「んじゃ明日から動くか。ユーノ。念話、っつったっけ? アレを俺に飛ばして魔法の指南を頼めるか?」
「はいっ。あの、ありがとうございます」
「いいよ。どのみち放置が出来ないわけだしな。えーと。レイジングハート? この子のこと、よろしく頼むな」
『勿論です。貴方もどうか死なな――――――幸運を』
「縁起でもねえこと言ってんなあこの赤いの!?」
「あ、あの!」
このまま解散という雰囲気に、なのはが凪咲を呼び止める。
「ずっと思ってたんですけど。これからは、普通に『なのは』って呼んでください」
「え、いつも呼んでるじゃん」
「ちゃん付けはもう嫌です。アリサちゃんもそう言ってますし」
頬を膨らませるなのは。
それを見て苦笑する凪咲。
……あー。まあ、いい傾向だなあ。
「分かった分かった。今度から気を付けるよ」
そういいながら、なのはを家まで送っていく。
家に着き次第。家族から質問攻めにあったのは言うまでもない。
そして――――
「兄ちゃんおそーい。どこに行ってたの?」
「はい凪咲君。うちの門限をご存じかしら? ちょっと話があるのだけれど?」
こちらもこちらで説教が待っていた。