Free Companies Federation   作:ウラリンゴ

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罷免!?

「罷免?」

 

 日没から既に2時間。空は青のインク瓶を撒いた後の様に、漆黒に染め上げられている。

 通りは昼間のような活気さは無いが、まだ用事を残している者や帰宅途中の者がちらほらと歩いていた。

 そんな通りの一角、とあるFCのマスターで元老院議員のヴァルター・グランツは秘書からの報告に表情を強張らせた。

 

「はい、評議会より現主席執政官を罷免する動きがあります」

 

 元老院議員の秘書エレナ・クインティは彼の自室で囁くように報告する。

 

「罷免って、確かに明文化されてはいるが、まだ一度も使われてないんだぞ」

 

「おっしゃる通りです。しかし既に評議会議員の中には動議獲得のために動いている者もいるとのこと」

 

 主席執政官の罷免。

 これは現在の政治首班である主席執政官の働きが、FCF内において一定の評価に値しないと断じられた場合、評議会にて決議され、執行されるもの。

 

 初代元老院議長が制定し、今の今まで一度も使われたことの無い、極めて異例の評議会が持つ特権であった。

 

「し、しかし彼はFCFに忠実だ。そんな彼を罷免などしたら、評議会は自分で権威を陥れる様なものじゃないか」

 

 元老院議員は秘書に対して当然の疑問をぶつける。

 しかし秘書の反応は芳しくない。

 

「それが、そうでもないのです。まだ不確定の情報ではありますが、評議会議員の間では彼が横領をしていると噂が」

 

「横領!?」

 

 ヴァルターの声が部屋に響く。

 

「ヴァルター様……!まだ未確定の情報です!声を落としてください!」

 

「す、すまない……いや、しかし、横領なんて。FCF開闢以来一度も聞いたことが無い」

 

 ——横領。

 無論、犯罪である。

 

「このことは、S13や第零席様は!?」

 

「いえ、そこまでは……。しかしあの方ですので、既にご存じかと……」

 

 ヴァルターは明日以降の予定を頭で整理する。

 

「閣下に連絡を取ってくれ……」

 

「かしこまりました。以降のスケジュールは全てキャンセルと致します」

 

「頼んだ。それとFCのメンバーにこのことは一切口外するな。要らん混乱を招く上に噂の広がりが拡大するだけだ」

 

 ヴァルターはエレナに指示を出しながら今日は寝られないな、と覚悟と諦観の入り混じった顔をしていた。

 

 ◆

 

「閣下は話を聞いておられますか……?」

 

 ヴァルターは秘書とのやり取りの後、すぐに連絡が取れた者同士で集まり、日付を跨がずに緊急会議を始めた。

 

「ああ、秘書から聞いたよ」

 

 同じ日に、立場は違えど同じ情報を秘書から聞いたことに妙な親近感を覚えたヴァルターは、しかしここでは言わなかった。

 

「はぁ……利益に目がくらんだかな?」

 

 ヴァルターの目の前で閣下と呼ばれた男は、人目を憚らずに溜息が出る。

 

「噂についてはこちらでも調べておくよ。しかし本件に関しては、既に弾劾手続きが進められていると仮定して動くべきだね」

 

「し、しかしこれが保守派から齎されているデマの可能性は無いのですか?」

 

「無論、その可能性も捨てきれない。しかしあの人がこんな姑息な真似をするとも思えないし」

 

 何より現在の情報では、あまりにも分からない事が多すぎた。

 しかし噂は既に評議会議員の間で流れているので、もみ消すには遅すぎる。

 そして恐らく、明日の明朝にはFCF全体に広がっている事だろう。

 

 結局彼らが出来る事は、既に起きているであろうことを予測して、その先を行くように努めるだけであった。

 

「明日朝一番に彼を、カルヴァート主席執政官を呼び出してくれ。真偽を確かめなければ」

 

「かしこまりました。しかし彼が応じなければ?」

 

「その時は真実だってことが分かるだけだ」

 

 後に第14代・第15代主席執政官を務める男、革新派リーダー、ヴィクトル・アシュレイは厳かに答えた。

 

 ◆

 

 時を同じくして、偶然ではあるが議会の保守派閥も彼らのリーダーの部屋に集まって緊急会議を行っていた。

 

「噂は所詮、噂だ。しかし既に看過できない規模にまで広がっている」

 

 そう語る男はエドガー・セイン。

 後に第零席クラレ・インフェリアーレと、なぜか遺跡調査に行く伝統保守派のリーダーである。

 

「しかし閣下。今が好機ではありませんか?奴は革新派の重役とも言える立場。この噂から傷口を広げていけば、評議会は必ず弾劾手続きに入り、最後には主席執政官の罷免という、今までにない事を成し遂げます。革新派は回復不可能な打撃を受けるに違いありません」

 

 保守派のメンバーの一人がエドガーに提案する。

 

「罷免が執行されれば、政治的空白が許容できない元老院は即、次代の執政官選挙を行います。この時に閣下が立候補すれば当選確実でしょう」

 

「この噂が限定的であれば、ですな」

 

 血気盛んなメンバーを戒めるエドガーは、右後ろの人物に顎で指示を出す。

 

「噂は既に主席執政官だけに留まらず、元老院議会全体にまで及んでいます。このまま行けば、元老院の存在そのものにすら疑義が発生しかねません」

 

 答えたエドガーの側近、バルト・レイノルドは集まった議員に報告する。

 エドガー等が報告を受けてから既に5時間は経とうとしていた。

 

「まず噂の出どころは何処なんですか?真偽も不明な情報では動けませんよ」

「今が好機とは言うが、これが誤報、酷ければブラフだった場合、我々の方が甚大な被害を受ける」

「革新派のデマの可能性は無いのか?これが何かしらの陽動だった場合、どうあがいても我々の行動は後手に回るぞ」

「噂だけを根拠に動けば、こちらが信用を失いかねません」

「カルヴァートが横領をしているのに、我々が誰も気づかないのも不自然だ」

「そもそもなぜこの噂が今、出てきてるんです?」

「それは今は関係ないだろう。今議論するべきは、我々の今後だ」

 

 議論が紛糾する。

 そして、両派閥共に相手が流してきたデマを疑うのは日頃から相手との交流が無い弊害だった。

 

「いずれにせよ、まずは真偽のほどを確かめるほか無いですな」

 

 エドガーは結論を急いだ。

 今、情報が無いまま話し合っても、碌な答えは出ないだろう。

 

「閣下、本件はアシュレイ閣下とも話し合うべきかと」

 

 メンバーの一人がエドガーに提言する。

 しかし、これは保守派閥の内情を相手に知られる行為ですらあった。

 当然、この内容には反発が出る。

 

「話し合い!?そんなことをすれば、革新派の奴らに自分たちは何も知らないと言いに行くものでは無いか!」

 

「しかし、ここまで真偽が隠されているのは些か不自然です!相当な情報統制を敷いていても、必ずどこかでボロが出るはずです!」

 

 そう、現在、FCF内で噂されている内容はどこまで言っても噂の域を出なかった。

 横領をしている『らしい』。罷免する『かも』。評議会が騒がしいと『聞いている』。

 どれも憶測で語られており、どれも他人からの又聞きに過ぎなかった。

 

「こちらが推測でしかモノを語れない以上、噂よりも先んじて手を打つべきです!」

 

 メンバーの一人は語意を荒げて語る。

 一理ある。そうエドガーは感じた。

 そして、危険だとも理解した。

 

 ここで判断を誤れば、取り返しのつかない事になる。そしてそれは、FCFの存亡にも関わるだろう。

 比喩ではない。文字通り、FCFは元老院の解体から組織そのものの空中分解すらあり得る事態を招く。

 

「Sector-13、いや、インフェリアーレ様は何か言っているか?」

 

 エドガーは絞り出すような低音の声でバルトに聞いた。

 

「いえ。しかしあの方ですので、既にご存じかと」

 

 バルトは静かに答える。

 この間、部屋は静まり返っていた。

 夜の虫の息遣い、風がドアを撫でる音すら聞こえそうな静寂は、長くは続かなかった。

 

「明日、アシュレイと会って話をする。バルト、もう夜は遅いが会談の準備をしろ」

 

「かしこまりました」

 

 後にエドガーは、回顧録でこの決断を英断であったと語る。

 

 ◆

 

 時間は戻る。

 

 とあるFCハウスの一室、白髪の女性が大きなテーブル奥の椅子に深く腰かけていた。

 彼女は肘掛けに肘を置き、その手を自らの角の支えにしていた。

 

「横領、ね」

 

 反応は淡泊、返答も少ない。

 報告は続く。

 

「はい、現在真偽を確認中ではありますが精度の高い情報源に依れば、この横領は1人に留まらない、との事です」

 

 彼女のもう片方の手にはカップのハンドルが握られており、つい先ほど淹れたばかりの様な湯気が漂っていた。

 

「分かった。現時点での報告は不要。真偽についても調査は要らない。評議会が動いたら都度報告して。元老院に関しての報告は、派閥長の会話だけで良いわ」

 

 指示を受けたヒューラン族は、頭を少し下げて部屋を退出していった。

 

 ◆

 

 翌日、太陽が真上を通る少し前。

 

 徹夜で情報収集と整理をしていた、エドガーとヴィクトルは表には出さないが草臥れた状態で話し合いに挑んだ。

 ここに、非公式ながらも保守派と革新派の初めての会談が成立する。

 

「こうやって話すのは初めてですね」

 

 ヴィクトルが切り出す。心なしかいつもより覇気が無い。

 

「ええ、呼びかけに応えてくださり感謝しております。アシュレイ閣下」

 

 エドガーが返答するも、事は急を要する。直ぐに本題に入った。

 

「今回お呼びしたのは他でもない。件の噂に関してです。率直にお聞きする。そちらの指示ですかな?」

 

 この時、エドガーは自身にとっても、またFCFにとっても一世一代の賭けとも言える行動をとっており、この答え次第で革新派リーダー『ヴィクトル・アシュレイ』が真の意味で敵か味方かが決まる事を覚悟していた。

 もし、もし仮に、ここでヴィクトルが舐めた対応をしてくるなら、求める結果とは大きくかけ離れるがエドガーにも取れる手段は残されていなかった。

 

「まさか、そちらの策略かと思っておりましたとも」

 

 エドガーの草臥れた雰囲気を察知して、ヴィクトルは素直に内情を吐露する。

 ヴィクトルは返す言葉でエドガーに確認を取る。

 

「では、そちらも?」

 

「ええ」

 

 両者共に、それはそれは非常に長い息を吐き出す。

 

 長い夜だった。

 互いに疑心暗鬼になって、互いにあちらが流したデマだと思い、互いにあちらの策略だと考え……。

 情報が無いまま、考えれば考えるほど整理すればするほど整合性が取れず、このままだと元老院が、果てはFCFが崩壊すると焦りも出てきて、派閥内でも言い争いが絶えなくなり心労は溜まるばかり。

 

「では、お互い何も知らなかったと」

 

 心労の解放感に軽い酔いを感じた両者。

 エドガーが場を整える。

 

「1つ、我々の知っている情報を共有させていただきます」

 

 ヴィクトルは今朝、新たに手に入れた情報を提供する意思を伝えた。

 

「本日未明に現主席執政官であるレオニード・カルヴァートを、私の自室に呼び出しを行いました」

 

「おお、してどのような?」

 

 エドガーは期待した目でヴィクトルを見る。

 ここに来て進展があるのは喜ばしい上に、相手から情報をもらえるとは思っていなかったからだ。

 

「いえ、彼は来ませんでした」

 

 革新派リーダーの呼び出しに、メンバーである当事者が来ない。

 これは実に分かりやすい離反と真実の裏付けとなった。

 

 状況は一歩前進する。

 そのことを感じ取った二人は、かつてない連帯感が生まれつつあった。

 

「そうでしたか。いえ、情報提供誠に感謝いたします。実を言うと手づまりでしてな。噂の根源すら特定に至らず、焦りが見えました」

 

「役に立ったようで何よりです。かく言う私もメンバー等と話し合っても埒が明かず。しかしまだ特定されておりませんか」

 

 ヴィクトルはエドガーの少し安堵したような顔を見て、彼の覚悟を見た。

 

「しかしですな。我々のメンバーが1つ気になることを申してまして」

 

 エドガーも夜中の内に出尽くした情報を整理しながら、自らが不自然に感じた事を共有する。

 

「気になる事?ですか。それはどのような?」

 

「つまるところ、なぜ噂の出どころが評議会なのかと……」

 

 確かに。横領の噂が流れるならその部門だろうし、最も近いのは元老院である。

 それがなぜ、元老院の監査監察を行う評議会にピンポイントで流れるのか。

 もし狙っているのなら出来すぎているし、噂の根源であるそいつは何処で情報を手に入れたのか。

 

 もしそいつが派閥に入れ込んでいるのであれば、情報を売るなりしただろう。しかしそうしなかった。

 厳密にいえば評議会に情報を流したこと、これが分からなかった。

 

「その、噂の報告をされた時はいつ頃でしたか?」

 

「……?」

 

 ヴィクトルからされた質問の意図がエドガーは汲めなかった。

 噂の報告がされた時間?

 その反応を見たヴィクトルは訂正の言葉を入れる。

 

「いや、申し訳ないです。私の派閥内にて情報の整理をしていた時、ふと時間が全員一致しておりましたもので」

 

 考えた事も無かった。エドガーはヴィクトルの評価を一段階上げた。

 

「確か、夕方だった気がしますな。まだメンバーを集めておらず、秘書から終了業務の報告を受けている時にこのような噂があると……」

 

 ヴィクトルは息をのむ。

 時間、報告者、状況ほぼすべてが一致する。

 

 そんなヴィクトルの反応を見て、エドガーも彼らが同じ経験をしたことを知る。

 

「恐れながら、何かしら、もしくは誰かしらの作為的な工作を疑わざるを得ませんね」

 

「ええ、これは、元老院に対する挑戦状にも見えますな」

 

 ここで、両派閥のリーダーは互いを信ずるに値する仲間であることを再認識する。

 主席執政官約10代分にわたって、選挙や政策で熾烈な争いをしてきたが、1つの大問題を前に彼らは向かうべき意識を1つにした。

 

「では、今後に関して、状況が落ち着くまでこの非公式の会談は続けるとしましょう」

 

「そうですな。私のリンクシェルを渡しておきますので、何かあればすぐご連絡を。後ほど側近たちも交換させるとしましょう」

 

 この日、FCFの元老院は、秘かに大転換を迎えた。




いきなり登場人物が多すぎる?多いよね…。欲望のままに書いてたらこんなに増えて・・・。
いつか整理します・・・。
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