Free Companies Federation   作:ウラリンゴ

1 / 9
罷免!?

「罷免?」

 

 日没から既に2時間。空は青のインクが瓶の中で濁るような色に染め上げられている。

 通りは昼間ほどの活気こそないが、まだ用事を残している者や帰宅途中の者がちらほらと歩いていた。

 そんな通りの一角、とあるFCのマスターでもある元老院議員、ヴァルターは秘書からの報告に表情を強張らせた。

 

「はい、評議会より現主席執政官を罷免する動きがあります」

 

 秘書は彼の自室で囁くように報告する。

 部屋の中には2人しか居ないが、他の誰かには聞かせたくないといった意思が見て取れた。

 そんな様子を察したのか、ヴァルターは秘書に合わせるように小声で答える。

 

「罷免って、確かに明文化されてはいるが、まだ一度も使われてないんだぞ」

「おっしゃる通りです。しかし既に評議会議員の中には動議獲得のために動いている者もいるとのこと」

 

 主席執政官の罷免。

 これは現在の政治首班である主席執政官の働きが、FCF内において一定の評価に値しないと断じられた場合、評議会にて決議され、執行されるもの。

 初代元老院議長が制定し、今の今まで一度も使われたことの無い、極めて異例の評議会が持つ特権であった。

 

 その重大性を理解しているため、秘書はさらに顔を近づける。

 秘書が普段付けているであろう香水の香りが間近で感じ取れることに、ヴァルターは場にそぐわない感情を自覚した。

 

「し、しかし彼はFCFに忠実だ。そんな彼を罷免などしたら、評議会は自分で権威を陥れる様なものじゃないか」

 

 ヴァルターは自身の鼓動を誤魔化すように、秘書に対して当然の疑問をぶつける。

 

「それが、そうでもないのです。まだ不確定の情報ではありますが、評議会議員の間では彼が横領をしていると噂が、」

「横領!」

 

 ヴァルターの声が秘書の発言を遮るように部屋を響かせた。

 声に驚いた秘書は、小声を張り上げるようにして、口に手を当てながら議員に対して注意する。

 

「まだ未確定の情報です!声を落としてください!」

 

 議員は咄嗟に出た自身の言葉にも驚いたが、秘書に言われた通り慌てて口に手を当てた。

 狼狽する議員に秘書は事の重大性を再確認する。

 

「す、すまない。いや、しかし、横領なんて。FCF開闢以来一度も聞いたことが無い」

 

 横領。

 無論、FCFにおいて憲章違反である。

 評議会からしてみれば、恰好のエサとも言えるもので、横領が事実なのであれば動かざるを得ない。

 

 議員は口に持ってきていた手を正面の重厚なデスクに肘をつき、考えこむようにして正面を向きながら秘書に聞いた。

 

「このことは、第零席様は?」

 

 第零席。

 FCFを創始した人物で、長身のアウラ族。

 彼女もまた元老院議員であるが、近ごろはあまり議会に姿を見せないので、新規で加盟したFCのマスターからは不思議な人物として認識されていた。

 しかし、未だにFCF内では権威の象徴として扱われている女性だ。

 

 彼女がこの問題を放置するはずが無い。秘書から報告を聞いた議員は漠然とした考えを持っていた。

 

「いえ、そこまでは、しかしあの方ですので、既にご存じかと」

 

 秘書は噂の情報しか知らないため、憶測でしか語れない自分を呪った。

 そんな秘書の葛藤を横目に、ヴァルターは明日以降の予定を頭で整理する。

 

「閣下に連絡を取ってくれ」

 

 この話は1人では処理しきれないと感じたヴァルターは、自身が属する派閥の長に判断を仰ぐことにした。

 彼なら何かしらの行動指針を建ててくれるかもしれないと、頭を抱えながら行動にでる。

 ついでに自派閥の他議員も呼んで会議まで出来たら上々かと、考えての行動だった。

 

「かしこまりました。明日以降のスケジュールは全てキャンセルと致します」

 

 秘書は左手に持っていたバインダーを握りしめ、一歩下がる。

 事実確認が済んでおらず曖昧な情報ではあったが、言って良かったと安堵した。

 

「頼んだ。それとFCのメンバーにこのことは一切口外するな。要らん混乱を招き、噂を広げるだけだ」

 

 ヴァルターは秘書に指示を出しながら今日は寝られないと、覚悟と諦観の入り混じった顔をしていた。

 

 ◆

 

「閣下は、話を聞いておられますか……?」

 

 重々しく語るヴァルターの口からは、曖昧なモノしか出てこなかった。

 しかし、目の前に座る男は既に、情報ぐらいは手に入れているだろうと言う確信を持ってヴァルターは聞く。

 

「ああ、秘書から聞いたよ」

 

 疲れた様子の男は、つい先刻聞かされた情報に頭を抱えていた。

 自派閥のメンバーが政治首班になって喜んでいたら、程なくして横領の疑惑が出たのだ。

 これには普段、平静さを努めて他人に接してきた男も表情を隠しきれない。

 

 そして同じ日に、立場は違えど同じ情報を秘書から聞いたことに妙な親近感を覚えたヴァルターは、しかしここでは言わなかった。

 

「はぁ、利益に目がくらんだかな?」

 

 ヴァルターの目の前で閣下と呼ばれた男は、人目を憚らずに溜息を出した。

 口から漏れる息は、音と共に周りに伝播し、重い空気を醸造していく。

 

「噂についてはこちらでも調べておくよ。しかし本件に関しては、既に弾劾手続きが進められていると仮定して動くべきだね」

 

 頭から手を放し、ヴァルターを見て話し始める彼の目は明らかに憔悴しているようで光が無い。

 彼の推測でしかないが、評議会が動き始めていると仮定したほうが、幾分かこちらも動きやすいと考えての発言だった。

 噂が既に回り始めている以上、何もしない選択肢はもう無かったのだ。

 

「し、しかしこれが保守派から齎されているデマの可能性は無いのですか?」

「無論、その可能性も捨てきれない。しかしあの人がこんな姑息な真似をするとも思えないし」

 

 何より現在の情報では、あまりにも分からない事が多すぎた。

 しかし噂は既に評議会議員の間で流れているので、もみ消すには遅すぎる。

 そして恐らく、明日の明朝にはFCF全体に広がっている事だろう。

 

 結局彼らが出来る事は、既に起きているであろうことを予測して、その先を行くように努めるだけであった。

 

「明日朝一番に彼を、カルヴァート主席執政官を呼び出してくれ。真偽を確かめなければ」

「かしこまりました。しかし外遊直前ですし彼が応じなければ?」

 

 ヴァルターも聞きながら答えは分かっていた。

 無駄な問答である事を理解しながらも、その先にある答えの為に聞かねばならない。

 

「その時は真実だってことが分かるだけだ」

 

 後に第14代・第15代主席執政官を務める男、革新派リーダー、ヴィクトル・アシュレイは厳かに答えた。

 

 ◆

 

 場面は変わる。

 時を同じくして、偶然ではあるがヴァルター等とは真逆の派閥である保守派閥も、彼らのリーダーの部屋に集まって緊急会議を行っていた。

 華やかさは無いが、上質な物で揃えられた部屋の中央に男が座り、その前に円を描く形で派閥の重鎮たちが立って議論している。

 

「噂は所詮、噂だ。しかし既に看過できない規模にまで広がっている」

 

 事態を前に重々しく語る男はエドガー・セイン。

 後に第零席と、なぜか遺跡調査に行く保守派閥のリーダーである。

 

「しかし閣下。今が好機ではありませんか?奴は革新派の重役とも言える立場。この噂から傷口を広げていけば、評議会は必ず弾劾手続きに入り、最後には主席執政官の罷免という、今までにない事を成し遂げます。革新派は回復不可能な打撃を受けるに違いありません」

 

 保守派のメンバーの一人が、鼻息荒く提案する。

 

「罷免が執行されれば、政治的空白が許容できない元老院は即、次代の執政官選挙を行います。この時に閣下が立候補すれば当選確実でしょう」

 

 提言をする彼は、ここで派閥の利益を優先することで、自身の功績にしようと企んでいた。

 仰々しい身振りで興奮している事が分かる。

 

「この噂が限定的であれば、ですな」

 

 血気盛んなメンバーを冷めた目で見やるエドガーは、状況が深刻であることを告げると、右後ろの人物に顎で指示を出す。

 

「噂は既に主席執政官だけに留まらず、元老院議会全体にまで及んでいます。このまま行けば、元老院の存在そのものにすら疑義が発生しかねません」

 

 答えたエドガーの側近、バルト・レイノルドが一歩前進して手に持ったバインダーを見ながら集まった議員に報告する。

 情報の確度は低いが、既に広がり方は常軌を逸しており、報告されたものだけで元老院が半ば危機に陥っていた。

 そして、彼らが報告を受けてから既に5時間は経とうとしていた。

 

「まず噂の出どころは何処なんですか?真偽も不明な情報では動けませんよ」

「今が好機とは言うが、これが誤報、酷ければブラフだった場合、我々の方が甚大な被害を受ける」

「革新派のデマの可能性は無いのか?これが何かしらの陽動だった場合、どうあがいても我々の行動は後手に回るぞ」

「噂だけを根拠に動けば、こちらが信用を失いかねません」

「カルヴァートが横領をしているのに、我々が誰も気づかないのも不自然だ」

「そもそもなぜこの噂が今、出てきてるんです?」

「それは今は関係ないだろう。今議論するべきは、我々の今後だ」

 

 議論は先の見えない答えを探しに紛糾する。

 口々に語る言葉は、今まで部屋に鎮座していた静かで重苦しい空気を吹き飛ばさんとしている。

 ある者は噂の真偽を、ある者は敵の欺瞞を、ある者は派閥の今後を憂いているが、全員の心にあるのは情報の不足であった。

 そして、両派閥共に相手が流してきたデマを疑うのは日頃から相手との交流が無い弊害ともいえる。

 

「いずれにせよ、まずは真偽のほどを確かめるほか無いですな」

 

 目を細め、頭痛をこらえるように眉の中央に皺が寄る。そして激化する議論を終わらせるべく、結論を急いだ指針を伝えた。

 今、情報が無いまま話し合っても、碌な答えは出ないだろうと考えた上での苦渋の決断だった。

 

「閣下、本件はアシュレイ閣下とも話し合うべきかと」

 

 それは部屋の空気を一変させるほどの一言だった。

 誰が言ったのか一瞬分からず、議員等の目が右往左往する。

 そして、これは保守派閥の内情を相手に知られる行為ですらあった。

 内容を聞いたメンバーの1人が、発言者が分からないまま反射的に大声で反論を述べる。

 

「そんなことをすれば、革新派の奴らに自分たちは何も知らないと言いに行くものでは無いか!」

 

 彼の言葉も尤もであった。

 それを皮切りに他の議員達も、発言の終わりを待たずに各々喋りたい事を話していく。

 元老院の保守派閥を代表する室内は議論ではなく、言い合いと化していた。

 

「しかし、ここまで真偽が隠されているのは些か不自然です!相当な情報統制を敷いていても、必ずどこかでボロが出るはずです!」

 

 提言を行った議員は、努めて冷静にかつ通る声で、しかし全員を説得するように発言する。

 

 そう、現在、FCF内で噂されている内容はどこまで言っても噂の域を出なかった。

 横領をしている『らしい』。罷免する『かも』。評議会が騒がしいと『聞いている』。

 どれも憶測で語られており、どれも他人からの又聞きに過ぎなかった。

 

「こちらが推測でしかモノを語れない以上、噂よりも先んじて手を打つべきです!」

 

 議員の1人は語意を荒げて締めくくる。

 一理ある。エドガーは息を吐きながら素直に感じた事を頭に浮かべる。

 そして、他の議員が言うように、危険だとも理解した。

 

 ここで判断を誤れば、取り返しのつかない事になる。そしてそれは、FCFの存亡にも関わるだろう。

 比喩ではない。文字通り、FCFは元老院の解体から組織そのものの空中分解すらあり得る事態を招く。

 

「Sector-13、いや、インフェリアーレ様は何か仰っておられるか?」

 

 絞り出すような低い声で後ろのバルトに聞いた。

 

「いえ。しかしあの方ですので、既にご存じかと」

 

 バルトが静かに答える中、部屋は静まり返っていた。

 夜の虫の息遣い、風がドアを撫でる音すら聞こえそうな静寂は空気そのものを止めているようだった。

 

 考える。

 派閥の利益を優先した場合、ここで敵派閥を瓦解させる事で想像もできない程の大きな利益が返ってくるだろう。

 今流れている噂を起爆剤として、評議会に同調し、弾劾手続きから罷免の執行まで進められれば、保守派閥の勢力圏は盤石となる。

 

 考える。

 しかし、もし、もしこの噂が嘘、若しくは何かしらの陰謀であった場合、元老院は信用を失い、派閥など意味をなさなくなる。

 

 思考を巡らせる。あらゆる可能性を模索し、潰し、なおも思案を重ねる。

 

 そして、あらゆる可能性を考え抜いた結果、結論を出した。

 

「明日、アシュレイと会って話をする。バルト、もう夜は遅いが会談の準備をしろ」

「かしこまりました」

 

 ◆

 

 翌日、太陽が真上を通る少し前。

 

 徹夜で情報収集と整理をしていた、エドガーとヴィクトルは、頭は頭痛を抱え、心は心労を抱え、草臥れた状態で話し合いに挑んだ。

 しかし、目の前に居るのは互いの派閥の敵であり、そのリーダーである。

 ここで疲れた顔を晒すのは、今後の展開次第ではやり辛くなることを理解していたため、表向きはにこやかに対面する。

 ここに、非公式ながらも保守派と革新派の初めての会談が成立した。

 

「こうやって話すのは初めてですね」

 

 ヴィクトルが切り出す。心なしかいつもより覇気が無い。

 昨日から朝にかけては噂に翻弄された一夜となった。

 右手を前に握手の構えを見せたヴィクトルに、答える形でエドガーも右手を差し出す。

 

「ええ、呼びかけに応えてくださり感謝しております。アシュレイ閣下」

 

 ひとしきり握手を交わしてエドガーはヴィクトルに対して椅子に座る様に促した。

 互いの後ろには豪華な肘掛け椅子が用意されていたが、両者共に浅く座り肘を肘掛けではなく自らの膝に置いた。

 事は急を要する。エドガーは直ぐに本題に入った。

 

「今回お呼びしたのは他でもない。件の噂に関してです。率直にお聞きする。そちらの指示ですかな?」

 

 この時、エドガーは自身にとっても、またFCFにとっても一世一代の賭けとも言える行動をとっていた。

 額に汗がにじむのを自覚しながら、エドガーは拭わない。否、拭えない。

 この答え次第で革新派リーダー『ヴィクトル・アシュレイ』が、真の意味で敵か味方かが決まる事を覚悟していたのだ。

 もし仮に、ここでヴィクトルが舐めた対応をしてくるなら、求める結果とは大きくかけ離れるが、エドガーにも取れる手段は残されていなかった。

 どうか、派閥においての敵であったとしても、FCFにおける味方であることを、会談が始まる前から心より願っていた。

 

「まさか、そちらの策略かと思っておりましたとも」

 

 エドガーの草臥れた雰囲気を察知して、ヴィクトルは素直に内情を吐露する。

 ヴィクトルは返す言葉でエドガーに確認を取る。

 

「では、そちらも?」

「ええ」

 

 両者共に、それはそれは非常に長い息を吐き出す。

 

 長い夜だった。

 互いに疑心暗鬼になって、互いにあちらが流したデマだと思い、互いにあちらの策略だと考えて。

 情報が無いまま、考えれば考えるほど整理すればするほど整合性が取れず、このままだと元老院が、果てはFCFが崩壊すると焦りも出てきて、派閥内でも言い争いが絶えなくなり心労は溜まるばかり。

 空気は軋み、日は落ちて時間が経つというのに室内は暑く、背中には嫌な汗が滴る一夜。

 それが会談1つで解消されたのだ。2人の心情は釈放された囚人の様だった。

 

「では、お互い何も知らなかったと」

 

 心労の解放感に軽い酔いを感じた両者。

 エドガーが場を整える。

 

「そうですね。ああ、今朝入った新しい情報がありました。共有しておきますよ」

 

 ヴィクトルはここで、エドガーの事を派閥の敵ではあるが元老院の、そして同じFCFに属する味方であることを認識したため、情報提供の意思を伝える。

 

「本日未明に現主席執政官であるレオニード・カルヴァートに対して、私の自室に呼び出しを行いました」

「おお、してどのような?」

 

 エドガーは期待した目でヴィクトルを見る。

 ここに来て進展があるのは喜ばしい上に、相手から情報をもらえるとは思っていなかったからだ。

 

「いえ、彼は来ませんでした」

 

 エドガーが起きた事象を把握すると、目を細めてヴィクトルを見る。

 革新派リーダーの呼び出しに、メンバーである当事者が来ない。

 これは実に分かりやすい離反と真実の裏付けとなった。

 即ち、横領の疑惑は、極めて高いと。

 

 状況は一歩前進する。

 そのことを感じ取った二人は、かつてない連帯感が生まれつつあった。

 

「そうでしたか。いえ、情報提供誠に感謝いたします。実を言うと手づまりでしてな。噂の根源すら特定に至らず、焦りが見えました」

 

 エドガーが頭の中で状況を整理しながら答える。

 空気は6月下旬らしく少しばかり暑かったが、気分がある程度晴れた事で、室内の雰囲気も始めた当初よりは幾分か軽い。

 目に見える形で進展があった事で、ヴィクトルも答えが明瞭になっていた。

 

「役に立ったようで何よりです。かく言う私もメンバー等と話し合っても埒が明かず。しかしまだ特定されておりませんか」

 

 ヴィクトルはエドガーの少し安堵したような顔を見て、彼のFCFに対する覚悟を垣間見ていた。

 そんな中、情報提供がヴィクトルだけでは不公平だろうと、エドガー側保守派閥も提供に踏み切る。

 

「しかしですな。我々のメンバーが1つ気になることを申してまして」

 

 エドガーも夜中の内に出尽くした情報を整理しながら、自らが不自然に感じた事を共有した。

 

「気になる事ですか。それはどのような?」

「つまるところ、なぜ噂の出どころが評議会なのかと」

 

 ヴィクトルはエドガーからもたらされた疑問に確かにと呟き、口元に指を置いた。

 

 横領の噂が流れるなら源流はその部門であろうし、執行機関として最も近いのは元老院である。

 それがなぜ、元老院の監査監察を行う評議会にピンポイントで流れるのか。

 もし狙っているのなら出来すぎている上に、噂の根源であるそいつは何処で情報を手に入れたのか。

 

 もしそいつが派閥に入れ込んでいるのであれば、情報を売るなりしただろう。しかしそうはしなかった。

 厳密にいえば評議会に情報を流したこと、これが分からなかった。

 

「その、噂の報告をされた時はいつ頃でしたか?」

 

 次はヴィクトルからエドガーに対して質問がなされたが、エドガーは質問の意図が正確に汲めず、ヴィクトルを見てどういう事かと目線で訴える。

 噂の報告がされた時間?

 その反応を見たヴィクトルは訂正の言葉を入れた。

 

「いや、申し訳ないです。私の派閥内にて情報の整理をしていた時、ふと時間が全員一致しておりましたもので」

 

 考えた事も無かった。

 情報の確度や情報源にばかり目が行っていた事に、反省してしまうエドガーであった。

 エドガーは内心でヴィクトルの評価を一段階上げる。

 

「確か、夕方だった気がしますな。まだメンバーを集めておらず、秘書から終了業務の報告を受けている時にこのような噂があると」

 

 夕方に秘書から聞かされた。

 この情報を聞いたヴィクトルは息をのむ。

 革新派閥も時間、報告者、状況ほぼすべてが一致していたのだ。

 

 そんなヴィクトルの反応を見て、エドガーも彼らが同じ経験をしたことを知る。

 

「恐れながら、何かしら、もしくは誰かしらの作為的な工作を疑わざるを得ませんね」

「ええ、これは、元老院に対する挑戦状にも見えますな」

 

 両派閥のリーダーは互いを、FCFにおいて信ずるに値する仲間であることを再認識する。

 主席執政官約11代分にわたって、選挙や政策で熾烈な争いをしてきたが、1つの大問題を前に彼らは向かうべき意識を1つにした。

 

「では、今後に関して、状況が落ち着くまでこの非公式の会談は続けるとしましょう」

「そうですな。私のリンクシェルを渡しておきますので、何かあればすぐご連絡を。後ほど側近たちも交換させるとしましょう」

 

 この日、FCFの元老院は、秘かに大転換を迎えた。

 

 ◆

 

 時間は戻り夜。とあるFCハウスの室内で、白髪の女性が巨大な執務机の椅子に深く座り報告を聞いていた。

 室内の物は少ないが、洗練され、部屋の統一感が正されており、彼女の性格の一端が見えるような部屋だった。

 

 彼女は肘掛けに肘を置き、その手を自らの角の支えにしていた。

 

「横領、ね」

 

 反応は淡泊、返答も少ない。

 報告は続く。

 

「はい、さらに精度の高い情報源に依れば、この横領は1人に留まらない、との事です」

 

 彼女のもう片方の手にはカップのハンドルが握られており、つい先ほど淹れたばかりの様な湯気が漂っていた。

 紙を捲る乾いた音と、女性がカップから中の物を飲む音だけが部屋に響く。

 

 その後しばらくして。

 

「分かった。現時点での報告は不要。真偽についても調査は要らない。評議会が動いたら都度報告して。元老院に関しての報告は、派閥長の会話だけで良いわ」

 

 指示を受けたヒューラン族は、頭を下げて部屋を退出した。




いきなり登場人物が多すぎる?多いよね…。欲望のままに書いてたらこんなに増えて・・・。
いつか整理します・・・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。