Free Companies Federation 作:ウラリンゴ
「だから君もあいつの弾劾動議に賛成して欲しいんだ!」
目の前の彼はやたら熱心に語る。
夜ももう遅いというのに、唐突に家の門を叩いて来たかと思えば、開口一番入れてくれときたもんだ。
知らない仲では無いから取り敢えず入れたが、数分前の自分は随分と短絡的で、考え無しで、愚か者だったかもしれない。
「はぁ……、弾劾とは言うが、そもそもその話が真実かも分からん。安易に動いて実は違いましたでは僕の今後にも関わるだろ」
「既にこの話を聞いたオレの仲間が動議獲得のために動き出しているんだ!もう3分の1に達しているかもしれない」
3分の1。
この数字は評議会が何か動議を発するのに必要な議席の数だ。
疑わしい。こんな嘘か真かも分からない話を聞いて賛成した奴が居るのか?
評議会議員になって、こいつとつるんできたが少々感情に動かされやすいきらいがあった。
悪い奴では無いんだがなぁ……。いや、監査監察の評議会議員としてみれば悪いか……?
「とは言うが、お前は誰からこの話を聞いたんだ?そいつの情報源は確かなものなのか?誰かに踊らされてるんじゃないのか?そもそも元老院は何をしているんだ?」
すまないが、少々手荒な方法で行かせてもらう。
矢継ぎ早に質問を叩き込み、ひとまず彼の感情を落ち着かせようかな。
「僕からしてみれば、その情報は少々雑に思える。主席執政官が横領している、だけじゃ弾劾手続きをするには弱い。証拠も、具体的な金額も情報源すら分からないんだぞ。お前、議長からじゃあ、幾らなんですかって聞かれてなんて答えるんだ」
「しかし、他の評議会議員たちはもう動いている人たちも居る。ここで動かなかったら評議会の存在理由そのものに意味がなくなるだろ」
言わんとしている事は分かる。
元老院の監視を目的として設立されている以上、この情報をそのままにはしておけない。
「まあ、飲んで落ち着けよ。別に調査をしてから明るみになったタイミングで手続きをしても遅く無いだろ?」
「それじゃ遅いだろう!今ここで動かないと他の人たちに取られるかもしれない!」
少し誘導したかもしれないが、これが本音だな?
恐らく、彼が欲しているのは評議会の存在理由ではない……。
彼はここで動いたという事実が欲しいのだ。
早い段階で動き、悪徳執政官を成敗した。ここで生まれるストーリーは次回以降の評議会選挙で上手に働くだろう。
こいつ……考えることが強かだな。見え透いているけど。
しかし、今ここで重要なのは速さではないだろう。
この情報の確実性、そして真偽。
だが、まあ、ここで僕に話を持ってきてくれているだけ、一緒に勝馬に乗ろうと誘ってきてくれているのかもしれない。
ならば。ここでこいつを止めなければ、僕にとっても後味の悪い結果になりそうだ。
「落ち着け。僕の考えだが、これは恐らくこの情報を流したやつが仕組んでいる可能性がある」
「し、仕組んでいる?いや、しかし何を……?まさか、革新派の罠って事か!?」
「可能性があるってだけだ。もちろん執政官が本当に横領をしているって事もありえる。しかしここで無闇矢鱈に動くと、後で自分の首を絞める結果になりそうだ」
後先考えずに行動を起こしたものは、己の拙速さを呪うだろう。
そしてこの情報を流した奴はほくそ笑むのだ。してやったり、と。
一体どれだけの評議会議員がこの情報に踊らされているかは分からないが、彼の言う通り相当数が動いているなら評議会はタダでは済まない。
選択肢を選んだ先は何もしないでゼロか、事を起こしてマイナス……。
であれば、ダメージコントロールといった意味でも、ここは静観が正しいだろう。
そして、調査が進んで主席執政官が悪だと、せめて結果が出た後にこう言ってやる。ほらな?僕の言った通りだろう?とな。
「いいか?よく聞け。これはお前にとっても今後を決める重要なポイントだ。そして僕にとっても間違えられない選択肢だ。お前がこの話を僕に持ってきてくれた事を信用して、一緒に次に進むためにもここは慎重に行くべきだ。真偽不明の噂を流布するマヌケの称号は要らないだろ」
「あ、ああ。分かったよ。そうだよな、ちょっと考えが足りなかったかもしれない」
かもしれないじゃない。足りないよ。
◆●
夜の空気は音を際立たせ、周囲からの情報を数倍にする。
とあるハウスの一室で男が何やら話し込んでいた。
「噂を流して10時間が経ちました。現時点で評議会そのものに動きはありません。はい、議員は動き始めている者も居ます」
部屋には彼しか居ない。しかし男は話し続けていた。
「いえ、3分の1には到達していないようです。はい、当初の予定通り、48時間後に真実を。元老院がもう?かしこまりました、それでは、そのように」
●◆
翌朝。
あれは寝たというのだろうか。
結局二人で情報を整理していたら日付が変わっていたことに気付き、明日に響くからとあいつを家に泊めて二人で寝たのだが。
頭が冴えていた。
起きた事が事だけに、考えが頭から離れられず延々とグルグルしていた気がする。
恐らく、こうやって朝に『起きた』のだから寝ていたのだろう。
しかし疲労が、心と頭の疲労が抜けていない。
特に頭が、痛い。昨日は酒を飲んでいないはずだが、これが知恵熱か?いや、僕は何歳だ。
「おい、起きろ。支度をして評議会に行くぞ」
取り敢えずソファーで寝ている、——こいつ気絶してるのか?——バカを起こす。
「いま、何時だ」
「7時になった頃だ。朝食は適当に作るからその辺を掃除していてくれ」
朝食なんて何年振りか。
「飯が終ればすぐに出るぞ。昨日の話が本当か確かめなければ。恐らく噂はFCF全体に流れているはずだ」
元老院も動いていたら話は早いんだがな。
◆
評議会議場についた僕らは別の議員と出会った。
「おう!お前たち、こっちに来てたんだな!」
うーん、昨日家に来たのが考え無しのバカなら、こっちは声が大きい馬鹿だな。
「うーん、ちょっと大きい声を出さないでくれ。ほぼ徹夜してたんだ」
バカが気持ちを代弁した。
いいぞ、その調子だ。僕に声を出させないでくれ。僕も頭が痛いんだ。
「こんな良い天気に覇気が無い!うん?ほんとにどうした。顔色が悪いぞ」
こ、こいつ……まさか知らないのか?
僕らが夜中あんなに頭を酷使して悩んでいたというのに、まさかこいつは昨日の夜を何事もなく過ごしたのか?
い、いかん、殺意が……。
「昨日出た噂を知らないのか?主席執政官だよ」
「ああ、あれなら悩んでも仕方ないから今日の俺様に任せたぞ!」
あぁ、ナルザル様、特にザル様、どうかここで人が一人死ぬことで仕事が増える事をお許しください。
しかし、まあ選択としては正解だろう。
悩んでも分からないし仕方ないから明日確かめようは僕らもしてる事だしな。
決断が少し遅かったけど。
「それで?今日の俺様とやらは何か掴んだのか?」
「ああ、議長に聞いてきた」
!?
「弾劾の手続きはまだだ。定数にすら達していないのだそうで、議長も慎重に成らざるを得んと言っていたぞ」
なるほど、やるじゃないか!流石今日の俺様様!
なんだかさっきまで自分を悩ませていた頭痛や疲労が消えた気がする!
ああ、今日は何て良い日なんだ!風が木を優しくなびかせ、小鳥のさえずりが心地いい合唱を奏でている!
「しかし元老院が何やら活発に動いているようだ。これはもしかしなくても隠蔽の可能性があるな!」
なんだか頭痛がぶり返してきた。
心なしか天気が曇ってきてるし風が強く怪鳥の声がする。
「まあ、元老院の動向は聞けただけ良いか。少なくとも噂が物事を運んでいる事が分かっただけ上々だ」
「それなんだがな、もっと言うと派閥の動きが激しいのだ」
派閥?FCFにある派閥なんて保守か革新かぐらいしかない。
派閥長の思惑は僕らの思考を超えるので考えるだけ無駄だが、これは、少し大ごとになりそうだな。
「おい、馬鹿2人。一度帰るぞ」
「はぁ?お前も馬鹿の1人だろうが!」
「甚だ心外である!馬鹿はお前もであろう!」