Free Companies Federation 作:ウラリンゴ
「つまり、噂は本当か」
整理整頓が行き届いており、物が少なく間接照明で照らされた室内。
部屋の持ち主の趣味が全開のハウスに、Sector-13の内3名が集まって報告を聞いていた。
「いえ、正しくは、『噂は本当である』と言う噂が出た、に過ぎないですね。調査はこれからといったところでしょうか」
第2席セリエ・ヴァレーヌは、報告してきた仲間のFCメンバーに聞き返す。
この集まりの主催者なのか上座に座った彼女の手には、美しい意匠のカップが指でつままれていた。
「はい、その通りです。これから評議会が調査委員会を設置して、元老評議両議会から特別メンバーを招集するとの事です」
報告係のFCメンバーは右手に持ったバインダーから逐次情報を見ながら答えた。
元々開催されていたお茶会の様な催しに、急遽入り込んだ報告の為か、報告されている内容の割に空気は軽かった。
「メンバーなぁ、誰がなるかってもう決まってんのか?」
FCF創設者中の最初で最後の良心と言われる第13席ローチアクト・スラフレールシンは、ルガディン族特有の体躯を傾けて聞いた。
手には豪快なジョッキが掲げられており、中に入っている液体が何であれ、恐らくララフェル族は入れそうな大きさだった。
「元老院派遣のメンバーなんて自明だろうが。多分ここに居る全員の頭に同じ顔が出てきてるぜ」
技術屋を自称しメンバーからもそう呼ばれる第10席ハ・チャカ・ティアが、笑いながら予想を口にする。
優雅に組んだ脚が、部屋の中央に置かれたローテーブルの下に放り出されていた。
「せーので合わせなくても分かる。絶対あいつだ」
まさしくその通りで、席に座った3名と、報告しているメンバーですら答えを知っているのにメガネをかけたエレゼン族の男を思い浮かべていた。
その様子を感じ取ったハ・チャカが調子に乗って続ける。
「『その収支報告書記録だけでは横領を行った証拠としては極めて弱いと言わざるを得ないでしょう。裏帳簿があるならそれと比べた数字が無いとどれが正しいか何て分からないと思いませんか?』。報告している可哀想な評議会の議員さんが泣かされてるのが目に見えるぜ」
ハ・チャカはかけてないメガネの位置を修正する振りをしながら、声を真似た。
「あいつに技術予算の申請をしに行った時の事をまだ覚えてるぜ。嫌味と皮肉の連続で、その日は頭の形を何回確かめた事か。おい、オレの頭の形は正常だよな?」
「形は普通だが中身が詰まってないんじゃないか?」
ハ・チャカがおどけた様子に隣のローチアクトに聞くと、ローチアクトは笑いながら辛辣な答えで返した。
その様子に少し落ち込んだフリをするハ・チャカ。
「お辞めなさいな、第5席の事を悪く言うものではありません」
そんな様子を諫めるように、セリエが優雅にカップを口元に持って行きながら止めるが、併せて墓穴も掘る。
「おやぁ?ワタクシめはメガネをかけて嫌味と皮肉を繰り返す数字に強い人が誰かなんて言ってないんだけどなぁ~」
ハ・チャカはわざわざ一人称すら変え、口を三日月にゆがめてセリエをいじった。
そんな様子にローチアクトはまた始まったと考えていたが、いつもの事なのでスルーする。
ハ・チャカが適当な事を言ってセリエが墓穴を掘るのはS13メンバーにとってはもうありふれたことであった。
「茶化すのもお辞めなさい、ハ・チャカ。あなたが言ったのですよ。自明だと。それにこのFCFで数字に強い人なんてわたくしは1人しか知りません」
「正確に言うと、金に強いんだけどな」
慌てた様子もなくセリエは答えるが、しかし、彼女の内心が慌てふためいている事をローチアクトは知っていた。
そしてローチアクトはそれを指摘する様な鬼畜では無いし、ハ・チャカもまたそこまで鬼ではないのだ。
第5席に関しては、その人となりはここに居る全員が分かっていた。
そしてそれらはFCFにおいて説明不要とも言えるほど周知されており、ある種の畏怖と尊敬を集めていたも事実であった。
「まあ、あいつが居たから今のFCFが破産しなくて済んでいるのは理解してるし尊敬もしてるさ。だが、あの時言われた数々の嫌味や皮肉は絶対忘れないからなー!」
さらに第10席が破産常習犯であることも、第5席と他会計の知識がある者たちにとっての常識であった。
「あなた、一体幾ら使おうとしたのかお忘れですの?あの時、予算の半分を持って行こうとしたのは、わたくしも忘れておりませんからね?」
「お前、会計部門のパブリック・エネミーだって言われてんの忘れたのか……?」
今度は本気でしょんぼりするハ・チャカ。
◆
「話を戻します」
脱線した話が終るのをずっと待っていたセリエのFCメンバーが、ここだと言わんばかりに軌道修正する。
少し、バインダーを握る手がいつもより強い事に気付いたセリエが、即座に謝罪した。
「そうだったわね。ごめんなさい、続けて」
「今回元老院からはご想像の通り、第5席様が派遣されます。なお、これは両派閥の共同合意によるもので、保守派閥代表のエドガー・セイン議員より正式に要請されたものです」
派閥。
最初に噂が流れてから既に2日は経っており、それまでにエドガーとヴィクトルは様々な情報の共有を行っており、かつてない程、元老院は結束していた。
「エドガーさんかぁ、あの人ちょっと苦手なんだよね。何というか、声とか話し方に含みがある感じがして。元老院で話してても、もしかして自分トンデモナイ物をつかまされてるんじゃないかって気分になるんだ」
何かを思い出して背筋が凍り、嫌な汗を感じるハ・チャカ。
あの底の知れない声と、声量は抑制されているのに一音一音が明瞭で、聞き逃せない話し方は聞く者に対して何か含みを感じさせるのに効果的だった。
話しかけられた時、何か契約する話だったら、ハ・チャカは話を聞かずに逃げるつもりだった。
幸い、装備関連の技術的な話だったので事なきを得たが。
「まあ、素敵な方ですよ。紳士的で誠実なおじさまです。ちょっと声と話し方に含みがあるだけで」
「ああ、それに酒にも詳しいしな。この前は新大陸の強い酒について教えてくれたぞ。確か、メスカルとか言ったっけか。今度手に入れたら一緒に飲まないかって誘ってくれたんだ。酒が一緒に飲める奴は良い奴だ。ちょっと声と話し方に含みがあるだけで」
セリエが意趣返しとばかりにハ・チャカに笑みを零しながら答える。
人の不幸を喜ぶ趣味は無いが、先ほどいじめてきたハ・チャカが困ってるとなぜか嬉しかった。
それに同調するローチアクトは、ただの便乗である。
「何なんだお前ら……」
◆
「オホンッ」
脱線に脱線した話をセリエのFCメンバーが軌道修正する。
バインダーの上部は破壊されんばかりに握り絞められている。
金具は軋み、金属特有の高く嫌な音が鳴っていた。
「ご、ごめんなさい」
「すまねえ」
「ごめん」
報告を行うメンバーは慣れたもので、正直この報告の場に行くこと事態、ある程度の覚悟をしていた。
「本件に関しては、評議会議長より正式に発足されたもので、かつ初めての事ですので両議会合同の委員会となった経緯があります」
ここでFCメンバーは一度全員を見渡す。いや、眼光が鋭い。これは、睨んでいる。
強い視線を感じた3名は姿勢を正して聞く。
「故に、両議会議長より第5席様以外のSector-13の皆様方には、元老院とは別にオブザーバーでの参加をお願いしたいとの要請もあります」
「し、質問良いか?」
ハ・チャカが恐る恐る挙手をして発言する。
先程の破壊されそうに軋んだバインダーを思い出し、声が震えていた。
「はい、どうぞ。第10席様」
少々怖がらせてしまったかと、そんな様子に苦笑しながら答えるメンバー。
「クラレは出るのか?」
質問が出た瞬間に空気が少しだけ止まった。
別に何か含むところがあるわけでは無かったが、しかし第零席と言う立場は彼らにとっても特別だったのだ。
情報としてバインダーに挟まった書類に記載はされていたが、質問されるとは思っていなかったメンバーもまた、言葉に詰まる。
質問した者もされた者もそして聞いていた者も、同じアウラ族の女性を思い浮かべていたが、先ほどの第5席とは比べ物にならない程の重い空気が支配した。
「第零席様はご出席されないと既に議長両名に通達されました。と、言うより現在別件で手が空かないとの事です。詳細については分かりかねますが、これは両議長も了解されております」
メンバーは書類をめくりながら該当情報を探し出し答えた。
クラレが議会に出席しないのは今に始まったことではないし、大体第11席と何処かにふらっと出かけることが多かった。
しかし、現在は主席執政官が罷免されるかどうかの瀬戸際、つまるところFCFが出来て最大の事件の真っ只中である。
それに来ないと選択したクラレに違和感を覚えたセリエは、しかし何も言わなかった。
「クラレは来ないか……。まあ、いつも通りではあるが、あいつが今どこで何してるか2人は知ってるか?」
ローチアクトに問われた二人は首を振る。
「クラレさんは前からこんな感じですし……、しかしこんな事が起きてもクラレさんは動かないのですね。いや、動けないとか……?」
「クラレが動けない?それこそまさかだ。あいつがたったの1か月、いや1週間でも同じ場所に居た事があるか?そんなところを見た時には第8霊災が始まってしかも終ってるね」
「いやいや、確か最初の元老院議長をしてた時はちゃんと居たぞ!仕事が忙しくて何にも手が付けられないって嘆いていたんだ。ただ辞めたときの反動がデカかったけどな!」
その時、3人は視線を感じる。
◆
「ありがとうございます」
「い、いえ」
「失礼しました」
「申し訳ありません」
ただひたすら、怖かった。
握られたバインダーの上部は粉々になっており木片と思われるものが零れている。
金属部品は拉げ原形をとどめていない。
視線だけで人を黙らせることができる事を3人は今日、思い知った。
「まあ、もう報告することは殆ど無いのですが最後に、現在評議会の大多数は弾劾動議に賛成傾向にあります。3分の1が動議の最低限ではありますが、既に半数がとの見方もありますので、それだけはご理解くださいませ」
報告会は終わった。空気は冷たいが苦難の時は過ぎ去った。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとは言うが、その後の室内はいつもの活気を取り戻し、3人は思い思いの会話を楽しんだとか。