Free Companies Federation 作:ウラリンゴ
リムサ・ロミンサから船で向かった先、ラノシア地方のある小島に、冒険者専用の居住区ミスト・ヴィレッジがある。
ここの片隅、他のハウスに隠れる目立たないハウスが会合の指定場所だった。
常に潮風が吹くこの場所は空気の停滞した場所が少ないが、指定されたハウス付近だけは何やら暗い雰囲気があった。
そんなミスト・ヴィレッジの道を男が歩いている。
急いでいるのか、走ってはいないが歩行にしてはやや速い速度で、石畳を鳴らしていた。
「ついた……」
目立たないように進む男は目的地に着いたのか歩みを止めた。
早歩きが影響しているのか、少々息が荒い。
男がドアノッカーを叩いた。
「待っていた。早く入れ。それと、尾行はされてないだろうな?」
男を中に招き入れた家主と思われる人物が質問する。
「ああ、問題ないはずだ。何度も角を曲がって来た」
ハウスの中は無機質で生活感が無く、精々人が座るための椅子が複数とテーブルがあるだけの質素というより、粗末と言った方が正しい。
このハウスがこの会合の為だけ使われていることが分かる。
2人は椅子に腰を下ろすことなく、部屋の中央まで行くと立ったまま話し始める。
「委員会は17時までだったな」
「ああ、先ほど終わった」
簡潔な質問を簡潔に返す。
しばらく無言の時間が続く。
部屋の外は夜の潮風が吹き晒しており、ドアや窓を叩いて風特有の不気味な音を鳴らしていた。
秒針が3回ほど回った時、ドアノッカーが鳴る。
神経が張り詰めていたのか、室内の2人は瞬時にドアの方を向いた。男の1人がドアに向かい、覗き穴で外の人物を確認すると部屋に招き入れた。
「すまんな、遅くなった。雨の影響か船が中々出なくてな」
「御託は良い。それで、出来たんだろうな?」
家主がと思われる男が答えを急ぐ。
「そう急かすな。ここに来るまでに散々濡れたんだ。せめて火を付けさせてくれ」
そう言うと、来たばかりの男がタバコに火を付ける。
紫煙が肺を満たして男を満足すると、今度は室内を煙で満たす。
「お前……、いや良い。どうせすぐに引き払うんだ。それよりも書類は、証拠はちゃんと消したんだろうな」
「そう慌てるなって」
魔力を帯びたタバコの煙に顔をしかめる家主が急かすと、答えが用意されているかのように男は答える。
「消したよ」
言いながら、タバコも灰皿に押しつぶした。
「証拠書類はぜーんぶ綺麗さっぱり。委員会が見つけた時には数字が書き換わってるさ」
答えを聞いた2人はあからさまに安心したような顔をする。
「裏帳簿が基準の全く新しい数字だ。第5席でも果たして気付けるか怪しいな」
「そんな力技、マンパワーが無いと不可能だろ。お前どうやってそんな……」
家主とは別の男が聞く。
「そんなん、オレのFCがしたに決まってるだろ。いや~苦労したぜ。オレのメンバーを会計部門に潜り込ませるのに一体どれだけのギルと人脈を使った事やら。主席執政官になる前からずっと計画してたんだ。使ったギル以上の金が入ったから良かったが、これでマイナスだったら一緒に自首しような」
「お、お前から言ってきたんだぞ!オレも一枚嚙ませろって!それまで細々と見つからない様にしてきたのに、一体どこから漏れたんだ!?」
冗談のように語る男に怯んだ家主。
「落ち着け、噂は主席執政官が横領してるってだけだ。俺たちはバレてない」
最初にハウスに居た2人が慰めあうように話す。
「そうは言うが、オレが噛んだことで相当美味い思いをしただろ?トントンじゃねえか。これでオレが罷免されても、お前らは悠々自適に暮らせるだけの金がある。オレもちょ~っと泣きまねでもして、謝るフリを繰り返していればこんな騒動さっさと終わらせられるんだ。その後はお前らと合流すっからその時に報酬はちゃんと寄越してくれよ」
「お前のFCはどうするんだ?」
「この金の為に作ったんだ。5人しか居ねえし、散らばった後の合流先は共有済みよ」
主席執政官レオニード・カルヴァートは事も無げに言う。
「そういえば、金を回してた先の1つが潰されてたんだが、おいお前、どっか良い洗浄先知らないか?」
質問をされた男は少し違和感を覚えたが、あまり詳しく聞くこともできないので流した。
「それならウルダハのを使え。南ザナラーン交易公司が使える。霊銀鉱の取引口がある。屋号はあそこの地名だがウルダハには関係無い。洗浄先にはうってつけだ。あと使う先は複数に分けろ。あとでリスト化して渡すからお前の希望に沿って使うと良い」
「助かるぜ。グリダニアにも使いやすいとこはあったが。やっぱそこは商業都市ってところか」
カルヴァートは満足そうに語る。
「さて、雨が止んだらここを出るかな。なんか食い物とか無いか?ちょいと頑張りすぎて腹が減っちまったよ」
「はぁ……、そこの棚に一応の食い物はあるが、贅沢は言うなよ」
「さんきゅー、愛してるぜ共犯殿」
言いながら棚に向かって物色する姿は、さながら泥棒だった。
「まったく、誰が流したかとかはもう分かったのか?」
「いや、突如湧いた噂って話だ。委員会もその辺の特定が出来ないから躍起になっていた」
「そうそう、もし見つけたらお礼を言いに行かないとな。余計な事しやがって、もう少し稼いでいたかったんだがとんだ破産だ」
話題は噂と委員会の事に移っていく。
「第5席は相当お怒りだったぞ。FCFの金に手を付けるとはってあの白い顔が真っ赤だった。恐らく何本かペンを折ってるな」
「それは見てみたかった。あいつはホント邪魔しかしてこないからな。そんな奴の顔が見れたなら傍聴に行く価値が上がるってもんだ」
憤懣やるせない感情の発露は止まらない。
2人の会話は弾んでいく。
「あの第零席とか言う女も、お高く止まりやがって。だいたい第零席なんて肩書からして気に入らねえ。『私偉くありません』みたいなすました顔してるくせに、あの女が一言いえば空気が変わりやがる。オレはああいう女が大っ嫌いなんだ」
「お前嫌ってる割には詳しいな」
「嫌いだから視界に映っちまうんだ。気持ちわりぃ。ああいう何考えてるか分かんねえのが一番気味悪いしよ」
「確かに分かるな。あの奥底まで見てそうな目、見てると寒気がしてくる」
「そうそう!気色悪い目に気色悪い顔。こんな組織さっさとずらかってあの方にお褒め頂かないと」
話が続く中、外の雨は小康状態となって、雨音は一段静かになった。
タバコを吸いながら窓の外を見ていたカルヴァートは、灰を落として言う。
「お、雨も止んで来たな。じゃあ、そういう事だから、もうちょいは安心できると思うぜ。ああ、後でリストは渡してくれ。それが無いと金が使えんからな」
「おう、もうちょいの執政官様頑張ってくれよ」
「ああ、苦労を掛けるな」
「良いって事よ。ただ報酬はちゃんといただくぜ」
そう言って、再度タバコを吹かしながらカルヴァートは小雨の中を歩いて消えた。
◆
「低俗な輩だ」
吹かしたタバコの火を消すと男は悪態をついて舌打ちをしながら歩き出す。
「計画は順調。完遂まで後僅か……。大丈夫だ落ち着け。誓ったはずだ、やり遂げると。計画を話したときに覚悟したはずだ。私の為に泣いてくださるあの方が褒美まで約束してくれたんだ。ここですべてを無駄にするわけにはいかない」
男は一度立ち止まると、自らを落ち着かせるように呼吸を繰り返した後、再度歩き出した。
目には力が籠っており、確かな覚悟が漲っている。