Free Companies Federation 作:ウラリンゴ
第1回調査委員会が開会されて3日後。
委員会に招集されたメンバーはありとあらゆる面から、金の流れと噂の出どころを調べていた。
しかし、証拠として提示された噂の中に裏帳簿と思われるものがあったが、果たしてどれが正しい数字だったのか詳細不明になっており、正規の帳簿すらその正当性を疑わざるを得なくなっていた。
「それで、委員会は手詰まり、と?」
第1席アーヴェン・クロイツァーは、頬を手のひらで変形させながら、肘で目の前のテーブルを削る。
何か良い依頼が無いかとグリダニアを歩いていたら、突然第5席ベルテナン・ファルヴェールに拉致されたのだ。
手頃な酒場に連れ込まれて無理やり座らされたと思うと、適当な酒と食べ物を勝手に注文されて、気付いたら本日の第5席愚痴傾聴大会主席審査員になっていた。
今思い返せば実に慣れた手際だ。
もしかしたらいつも誰かにやっているんじゃないかと、目の前の熱心に語る男を疑わし気に見る。
そんなアーヴェンの目に気付かないフリをしながらベルテナンは続けた。
「まったく一体いつから書き換えが行われていたのか!数字もそうだがそもそもの現金から調べなければならなくなった!さらにこのふざけた状態が罷り通っていたのも意味不明だが、この噂を流した奴が一体どこからこの情報を手に入れたのか!調べれば調べるほど埃が出てくる!私はまるで埃の山を手掘りしている気分だ!」
ベルテナンの声は留まるところを知らない。
取り敢えず、今回はベルテナンの奢りだと言うので、出された酒とツマミを突きながらアーヴェンは聞く。
「お前、会計から離れて何年だっけ?」
「4年だ。正確に言うと4年と8ヵ月だが」
答えと訂正が一緒に来た事で頭を抱えたくなったアーヴェンは、頬に合った手をこめかみに移動させてから指で押す。
出された酒が全く減っていない事にも気付いたので、一度頭をリセットするために一気に飲み干した。
ひとしきり飲むと、胃の中の空気が外に出てきそうなのを我慢しながらアーヴェンは言う。
「戻るのが遅れたな。そんだけあれば腐敗も始まるか」
「私の予測では後2年は問題ないと考えていた」
「それが、破綻していたとはな」
言った瞬間に、アーヴェンは立ち上がり震えるベルテナンを見て固まる。
ベルテナンは今にも爆発せんと揺れる火山そのものだった。
そしてアーヴェンの額に汗が垂れると、それは噴火した。
「まったく度し難い!FCFの根幹ですらある会計部門を侮辱する行為だ!が、しかしだな」
突然静かになったベルテナンに、背筋が凍るアーヴェンは何も言えない。
噴火の予測は出来ていたので体は動かなかったが、脚が逃げていた。
「何とも言えん。違和感と言うか、やり方が綺麗すぎる。鮮やかと言っていい。私ですら美しいと感じた芸術だ。ここまで痕跡を残さないのははっきり言って、無かったも同じだ」
横領犯を褒めるベルテナンに、今度は寒気を感じたアーヴェンは何も言えない。
そしてアーヴェンは、あの時グリダニアをほっつき歩いていた自分を激しく責め立てる。
そう、あの時、あの瞬間にあの場所を自身が歩いていなければ、今この苦難は無かったのだ。
元凶とも言うべき自分の行動を自省するが、自分は悪くないだろうと思い返して、その反省は終わった。
「現金にしても、帳簿にしても綺麗に揃っているんだ。それ故に手詰まりかつこれまで知られなかったんだが、証拠として提示された帳簿が横領を物語る。いや、そもそもその裏帳簿なる物が嘘で横領なんて無かったのかもしれないな。が、しかし大元の、まあここで言えばFCからの拠出なんだが、これに破綻があったんだ」
「分かりそうな物じゃないか?拠出金をネコババするなんて、源流も下流も同じギルであることに変わらないんだから」
ベルテナンは不気味に笑う。
その様子が夢に出てきそうでアーヴェンは慌てて目を逸らす。
あの顔が夜のグリダニアに出てきたら速攻で逃げる自信があった。
そしてベルテナンは落ち着いたのか席に座り、出来の悪い子供に対して教えるように、手振りを交えながら答えた。
「そこが違ったんだ。およそ3年前から物による拠出が慣例化していたんだ。これは私ですら知らなかったが、この『物』を時価で取引して、その際の申告を下げていたらしい。つまり、実際の価値と帳簿上の価値に差が生じることで差額を横領犯の懐に入れる事が出来る。これは調査の一環で判明した事だ」
ベルテナンは手頃にあったジョッキへ酒を注ぎ、それを少し飲んでアーヴェンに渡した。
「物での納品?しかしそれでは正確な拠出金額が分からなくならないか?」
「ごもっともな指摘だ。だからこそ横領犯にとって都合が良かったのだろう。そもそも現物拠出はFCFで制度化したものでは無い。しかしいつの間にかこれが普通の事になっていたんだ。そしてFCFの誰も不思議に思わない。なぜなら財務会計担当がこの方法はいつも通りですよと言っているんだからな」
「と言う事は、横領をしていたのは主席執政官だけではない?」
アーヴェンは頭の疑問を1つずつ聞いてみると、それぞれに答えられ気分が良くなる。
しかし再度語意が強くなるベルテナンを見て、調子に乗ったことを後悔する。
「まさにそこだ!つまるところ、奴の単独犯ではない可能性が出てきた!だから話がどんどんデカくなっていって収拾が着かなくなってきている!最初に言っただろう!埃の山を手掘りしているようだと!」
今回は立ち上がらなかったが、哀れなジョッキが叩きつけられ、テーブルが他の食器と一緒に大きな音をたてた。
さらにテーブルに肘をついていたアーヴェンは、鈍い衝撃をモロに食らい脳みそが振動するのを感じながら、ふと湧いた疑問を口にする。
「その現物拠出は誰から始まったんだ?」
ここでベルテナンは、今まで動き回っていた手や体の動きを止める。
考えていなかった。
当初、主席執政官が横領をした、と情報が流れてからベルテナン達委員会はカルヴァート1人に絞って調べてきた。
しかし、ギルの流れを追う内に単独犯では成しえない可能性が浮上してきた。
そこで気付くべきだったのだ。
「誰が?それは、カルヴァートが、いやしかし奴が主席執政官になったのは1年前だから、現物拠出が横領の温床ならそれ以前からこれを始めていた奴が居る事になる。もちろん、奴がFCマスターの頃からやっていた可能性もあるが、しかしその為には財務会計担当を取り込む必要があるし、自身がFCマスターなんだから回りくどいことはせずに適当にFCの金を入れればいい。なんで気付かなかったんだ?これは、そもそもの主犯がカルヴァートではない可能性が出てきた」
ここに来て委員会の前提が崩れ始めていた。
指を顎に当てると、前が見えなくなったようにベルテナンが紡ぐ言葉が止まらなくなる。
不気味に呟き続ける姿は酒場では異様で、見かけた他の客が恐ろしいものを見たといった様子で離れていく。
仲間と思われたくないアーヴェンは、しかしその場を離れられない事を嘆く。
「3年前に誰かが現物拠出を始めて、それに気づいたカルヴァートが主席執政官の選挙に立候補、無事当選を果たして、いや?いやいや、なんで主席執政官になる必要が?しかしやり易くなったのは事実だ。その後誰かがこの事に気付いて評議会にリークした。あぁ!なんでこいつは評議会にリークしたんだ!?」
ベルテナンの独り言は前からあったもので、自身も悪癖であると認識していた。
しかし一度始まると止まらないのでストッパーを必要としていた。
今回は哀れにも第5席自身から拉致され、目の前に座る男が名誉の抜擢をされる。
「待てベル。一度整理した方が良い。横領と噂のリークを混同しているぞ」
「あ、ああ。すまない、助かった。いやしかし問題の根本が見えてきたぞ。これは明日から委員会が今までにない速度で進む」
「と言うか、その話題の渦中であらせられる主席執政官様はどこで何をされておられるんだ?」
アーヴェンが尊敬語をたっぷり込めた皮肉を言う。
横領の噂がFCFを拡散してから、カルヴァートは一度も表に出てきていない。
とある別の噂では、横領が真実故に出てこれないといったモノから、死亡した等といったモノまで囁かれていた事をアーヴェンは知っている。
また、事実第1席である自分ですら見た事が無かったので、精々謹慎しているんだろうぐらいに考えていた。
だが、委員会が設置された以上、聞きに行けば早いだろうとも考えていたため、疑問として出したのだった。
「詳しい事は知らんが、元老事務局曰く外遊中とかって話だ。今頃東方辺りに居るだろうよ」
「外遊?タイミングが良いな」
確かに噂が広まるのも、外遊に行くのもタイミングが良すぎた。
横領の噂が広まって外遊に行ったなんて、何も知らない人が聞けば逃げたと思われるだろう。
皮肉で言ったもののまさかそれを超える答えが返ってくるとは思っていなかったアーヴェンは、目線だけはベルテナンを見ながらジョッキに口を付けて酒を飲む。
しかし、無意識下で妙な事に巻き込まれている気がして味がしない。
酔いが回る頭の中では、冷静に状況を整理しており事態が考えていたよりも深刻であることを理解していた。
そんな中、ベルテナンは深呼吸を一度すると話し始める。
「まったくだ、帰ってきたらコインを数える全員で一発ずつ殴っても文句は言われん」
言いながら酒を一気に飲み干し、追加の注文をするベルテナンは既に酔いが相当回っているようで、いつもの白い顔が凄まじいまでの赤に彩られていた。
ここまで酔っているところは珍しいと、アーヴェンは凝視したが止めても面倒なので何も言わない。
しかし、止めずにこのまま飲ませれば確実に後が面倒なのも事実だった。
二者択一の内、後悔することを分かったうえで今を選んだのだ。
呂律が怪しいまま、ベルテナンは続ける。
「この現物拠出なんだが、恐らく最初にやり始めた奴が横領込みで考え出した巧妙な罠だ。オレの想像に過ぎないが、FCF加盟のFCが現金での拠出を渋るようなら現物でも良いみたいなことを言い出したのがきっかけだろう。それが慣行化して今に至るといったところか。オレや上のもとに届く時には既にギルに現金化された数字だけが行くわけだ。あぁ、あの時のオレはなんて馬鹿なんだ。ハ・チャカの事を言えないなこれは」
「今更だろ」
ベルテナンが自責し始めたので更に面倒くさくなったアーヴェンがボソッと答える。