Free Companies Federation 作:ウラリンゴ
「第5席様の仰る通りでした。3年前の記録ですが、現物にて現金処理された形跡が残っておりました」
委員会発足5日目にして、進展が生じる。
ベルテナンが推測した通り、現物拠出をしたFCの記憶にある数と、当時の換算で現金化された額が異なっていた。
ロットで計算すると微々たるものだが、これが100を超えるとトンデモナイ額になる。
ミスリルインゴットを1ロット/100ギルで売るわけがないのだ。
ベルテナンは、FCからの善意による拠出を税のように取り立てることに抵抗があったが故に、詳しい額を調べることも無く報告された額によって通していた己の失態を呪った。
ギルとしてそのまま拠出していたと思っていたものが、物を経由していたとは当時夢にも思わなかったのだ。
「舐められたものだな。しかし、誰がやったかまで分かったのか?」
悔しさの滲む顔を隠しもしないで、報告に来てくれたアウラ・ゼラ族の男性に再度聞いた。
「それが、当時の担当者は既に所属していたFCを脱退しております。そこから更にギルドを使い調査しましたところ、大変言いにくいのですが、その後不幸があったようでお亡くなりになられております」
「亡くなった?」
――死亡。
揶揄でもなく死ねば死ぬ。
それは星海に還ると言う事であるが、この状況下に置いては聊か不自然だった。
「何年前の話だ?」
「今から1年ほど前です。クルザス東部高地にて魔物との戦闘中に亡くなられたと報告されております」
「……1年前?大凡、選挙中か……暗殺?いや、まさかな」
「当時の記録に不自然なものはありません。純粋な事故、能力不足による冒険者にありがちな殉職といったところでしょう。ギルドにも問い合わせてみましたが、報告はイシュガルドの神殿騎士団からですので信頼性があります。こちらが資料の写しです」
「そうか、ありがとう。少々邪推が過ぎたか」
ベルテナンは自分が短絡的になっていた事に気付き修正した。
3年前に現物拠出の処理を担当していたと思われる人物が1年前の選挙中に突如としてFCを脱退後死亡。
文面だけ見ると陰謀論甚だしいが、神殿騎士団からの報告なのであれば疑うのも馬鹿らしい。
「報告ご苦労。引き続き調査を進めてくれ。私は……、いや待て。なんでFCを脱退したんだ?」
死亡報告によって流されていたが、突如FCを脱退するのも不自然極まる。
タイミングが良すぎるのも問題だが、FCを脱退して直ぐに死亡も中々にハードな人生だ。
「すまないが、もう一度その人物について詳細な記録を洗い出してくれ。それと神殿騎士団からの死亡報告はまあ良いとして、所属していたFCのマスターやメンバーからの聞き取りも欠かさないでくれ」
「確かにそうですね。かしこまりました」
ベルテナンは一度手放した情報を再度整理させるべく部下に指示を出す。
「何はともあれ一歩前進か。亡くなられた方には申し訳ないが謎を解く鍵が見つかったようなものだな」
ここから問題が解決することを祈りながら、そうはならない事を予感していた。
◆
そして次の報告は予感の通り、進展が無かった。
「噂の出処ですが、まったく特定に至っておりません。現段階で分かっているのは、これが複数の評議会議員から出てきたもので、同時多発的に発生したと言う事だけです。噂を広めたと思われる議員に関して聞き取りを行ったところ、降って湧いたや天啓だったとか昼寝から起きたら知っていた等、当てにならないものばかりです」
FCFの評議会は夢遊病者しかいないのか?
現実逃避気味にベルテナンは内心で感想を述べる。
「全部又聞きみたいなものか」
「はい、誰から聞いたのかと問えば、AはBから、BはCから、CはAからと堂々巡りになります。正直に申し上げれば、こちらが病気になりそうです」
確かに、報告者の頬がこけているようにも見える。
寝られていないのだろう。
「分かった。現段階ではこれが限界だな。苦労を掛けた。本事案において、噂に関しての調査は一時中断とする。君たちはしばらく休んでくれ」
悪い事をしたとベルテナンが休養を伝えると、目が輝く報告者。
しかしベルテナンの頭の中では奇妙な考えが広がっていた。
噂の出処をわざと掴ませないのは如何なる理由からか、見当がつかないからだ。
これを広めたと何者かに知られると何かがまずいのか、そもそも広めた人物は1人なのか。
考えても無駄な事は理解しているが、気になって仕方がなかった。
しかし目下調査すべきは噂ではなく横領の事実と方法だ。
気持ちを切り替えるべく椅子に座り直したベルテナンに訪問者が来た。
◆
こんにちの元老院で最も有名な人と言えば、S13を除けば2人居る。
元老院の制服に身を包んだ美丈夫の2人が入室すると目立つことこの上ないが、それを気にする様な人物でもなかった。
「時間が空いてしまい大変申し訳ございません、第5席様」
先に口を開いたのは保守派閥のリーダー、エドガー・セインだった。
第5席に委員会への出席を要請した張本人でもあるため、社交辞令の謝罪から入る。
「気にしないでくれエドガー。そちらも忙しいのは重々承知しているしメンバーを割いてくれているのも知っている。これ以上求めたらハルオーネ様から槍で突かれてしまう」
次に口を開いたのが革新派閥のリーダー、ヴィクトル・アシュレイだ。
「お久しぶりですね第5席様。お変わりなく、とは言えませんが、お元気そうで何よりです」
「ヴィクトルも久しぶりだな。元老院ではよく顔を合わせるが、ここまで近づいたのはFCFに加盟した時ぐらいじゃないか?そちらも元気そうで何よりだ。ちょっと痩せたか?」
「筋肉が付いたのでしょうね。決して今回の事件で食欲がなくなったとは思いたくないです」
雑談に花が咲く。
が、それもそこそこに本題に入った。
「さて、ここに大物2人が来たと言う事は、何を聞きに来たんだ?」
ベルテナンが確信を持って聞く。
「話が早いですな。実のところ進捗が気になって来たのも間違いはありませんが、ご報告したい事がございまして」
「報告?エドガー達2人でか?それこそ部下でも良かっただろう」
当然の疑問をぶつける。
顔が出せなかった謝罪込みにしても大がかり過ぎる。
「第5席様、少し気分転換に散歩でもいかがです?」
ヴィクトルの提案にベルテナンの顔が曇る。
ここでは話せない、他に聞かせたくない情報が手に入ったのだろう。
そしてそれは大概の場合厄介なネタであることが多い。
◆
ベルテナンが内心で呻きながら元老院の大物2人と並んで歩く。
散歩とはここまで空気の重いものだっただろうか。
あれはもっと気分が晴れるような、清々しい気持ちにさせてくれるモノだったはずだ。
自身もFCFの重鎮でありながら、今の状況が早く終わることを、願わくば何も聞かずに立ち去ることを戦神ハルオーネに祈ったが、しかしその祈りは届かない。
「突然連れ出してしまい申し訳ないですな、第5席様。如何せん、他に聞かせられる内容ではないもので」
じゃあオレにも聞かせないでくれ。内心荒れ狂うが口にはしない。
「いや、わざわざ2人で来たんだ。恐らく元老院では処理しきれないネタだったんだろう。なんだ?謀略か?陰謀か?それとも暗殺か?」
ベルテナンは、半ば自暴自棄になりながら無理やり自分の聞く態勢を整えた。
「ご心労、大変お察しいたします。実は、拡散された噂に第零席様の陰がございました」
あぁ~聞きたくなかったぁ~。聞かなければよかったぁ~。聞いてしまったぁ~。
「第零席……。クラレ、あの野郎……」
もうベルテナンの頭はパンクしそうだった。
ついこの前に若干進みはしたが、事件調査の進展も少なく、掘れば掘るほど新しい問題が2倍になって返ってくる。
そしてここに来て第零席の陰。
「まだ、詳細は不明ですが、噂の出処をこちらでも独自で調査しましたところ、実に綺麗なスリプルを使用された形跡がありました。巧妙に隠されてはいましたが魔力波形に第零席様によく似たものが見つかりまして」
「あのバカ女……、せめて何かしてるんなら言いに来るなりしろよ!!」
「心中察するに余りありますが、未だ確定ではございませんぞ。しかしながらインフェリアーレ様のお名前が大きすぎます故、この様な密談となったことをお詫びいたします」
ベルテナンは泣きそうになって来た。
えぇ?主席執政官の横領の噂が流れたから調査してみたら、拠出金の納入方法がいつの間にか変わってて変えたと思われるその担当者は既に死亡、噂の出処を調べてみればどいつもこいつも夢遊病者みたいな事を繰り返すし、何やらその裏にはメンドクサイ女の影がある?
もう帰ろうかな。帰って暖かい布団に身を投げ出せばきっと優しさが包んでくれるし嫌な事を忘れさせてくれそうだ。
そうだそうしよう。酒でも飲んで忘れてしまえば今までのこんなクソな状況は無かったことになるだろう!
「第5席様?大丈夫ですかな?」
「あ、ああ。すまない意識が飛んだ気がするが大丈夫だ」
エドガーによって現実に戻されたベルテナンの思考は再開する。
「そのクソ女については調べても何も出ないだろうし私の心の中に留めておく。どうせ聞いても何も言わないだろうしな。しかし報告してくれてありがとう。この件が終わったら絶対に締め上げる」
「いえ、インフェリアーレ様のお名前が出ますと荒れるのを承知で報告致しましたので、重ね重ねお詫び申し上げます。これはお気持ちですので、どうかご自宅などでお飲みください」
そう言いながら一本のボトルを差し出すエドガー。
もうこんな優しさだけでも救われた気持ちになるベルテナンであった。