Free Companies Federation 作:ウラリンゴ
「まあ、掛けてくれ」
素直に着席する調査員は、少し散らかった部屋に違和感を覚えた。
確かに来客が来ると言う事で、若干の整理をした形跡はある。
しかし、来客に見せるために整えたというより、ただ端へ寄せただけに見えた。
そんな調査員の目線に目ざとく気付いたマスターが陳謝する。
「散らかっていてすまないな。ちょっと、片づけをする気分じゃないんだ」
自覚有り。調査員は頭のメモにそう書き記した。
「それで?評議会の調査員様がこんなFCの萎びたハウスに来るなんて、理由は1つしかないよな」
言いながらマスターは液体をグラスに入れて持ってくる。
中身は何だろうか、酒だろうか、日中から飲めるわけ無いだろうが、と警戒した調査員はグラスに鼻を近づけてアルコール特有の臭いが無い事に安堵した。
「はい、お察しの通りです。差し当たって、所属していた彼が脱退直前に何を言っていたかとかを教えていただけますでしょうか」
長々と嫌味を言われるのも嫌なので、調査員は直ぐに切り出す。
「あいつなぁ、いや、特には何も言ってなかった気もするが、脱退する時はここには居られなくなったって言ってたかな」
「居られなくなった?家族とかですか?」
出来る解釈が広すぎる。
情報を出し渋る趣味でもあるのか、マスターの話に若干の苛立ちを覚えた調査員だったが極力顔には出さない様に努めた。
「いや?家族が居たなんて事は聞いたことが無いな。ただ、オレが聞いてないから話してないだけかもしれないが。態々聞くのも出来んからあの時は流したが、まさか亡くなるなんてなぁ。ギルドから聞いた時は何かの冗談かと思ったさ。同姓同名の別人じゃないかともな」
思ったほど情報が得られていないことに焦りを覚えた調査員は、慎重に聞く。
「葬儀などは?葬儀代表者は居られたのでしょうか」
「代表者?オレがやったさ。直近の知り合いの中で一番の責任者って言われてな。うん?そういえばオレが代表をしたって事は、家族はいないのか?すまんすまん、間が抜けてたな」
家族は居ない可能性が高い。
しかしここには居られなくなったから脱退して、直後に死亡。
調査員は調べれば調べるほど、入れば出てこれない何かに進んでいる感覚がしてきた。
「彼自身は家族の事について話してないんですよね?話してないなら話してない事を覚えて良そうな気もしますが」
「確かになぁ。あぁ、脱退申請を出してきた時はちょっと焦ってた気もするかな。あいつ、いつもは間がある感じで話すんだが、申請の時はちょっと早口だった気がするぞ。丁度お前が座ってる席に居たんだが、オレが出したドリンクを飲みすらしなかった。居られなくなったって言うんで、なんか緊急の事でも起きたんかと思ったから何も言わなかったけどな」
調査員は聞けば聞くほど、このマスターが間抜けすぎる事に気付き始めていた。
いや、結果論かと自身で叱責して思考を次に進める。
しかし、このマスターが元老院議員であることに一抹の不安を覚えたのも事実だった。
「ご協力いただきありがとうございます。もしまた何か思い出したりした時は、評議会の調査委員会へお問い合わせください」
「いや、良いって事よ。ドリンク飲んでくれてありがとな。自信作なんだ」
まさかの自作だった。
◆
「家族?居ないわよ?彼が自分で言ってたわ」
現物拠出の担当者が所属していたFCのメンバーは事も無げに言う。
最初からここに来ればよかったと、少々の後悔を背負った調査員は気を取り直して聞き続ける。
「でも故郷が南ザナラーンのさらにちょっと南って言ってたし、帰るって言ってたならそっちじゃない?」
ここで調査員は違和感に気付く。
彼が死んだのはクルザス東部高地なので、もし故郷に帰るなら方向はまったくの逆。
何かしらの理由で居られなくなったと理解した彼が、FCを脱退して向かった先が南の砂漠ではなく、北の雪国だった。
「なるほど。他に何か彼が言ってた事とかはありますか?」
「今までありがとうとかかな。ちょっと焦ってた気もするけど。あの人いつも口調が少しゆっくりでね、聞いてると眠くなっちゃうの。けど、良い人だったわ。いろんな事を教えてくれたし、話にもノッてくれて。亡くなったって聞いた時は本当に悲しかった……。もう乗り越えたと思ったけど、やっぱりまだ駄目ね……」
彼女の声に涙が混ざる。
担当者が亡くなって1年が経つが、まだ終わりきっていない人も居るのだ。
そして、亡くなったと知った後に始まる人も居る。
「辛い事を思い出させてしまい申し訳ありません。もしまた何かあれば評議会の調査委員会にお願いいたします。本日はありがとうございました」
調査員はこれから整理する報告書は短いが、重要度が跳ね上がる事を肌感覚で気付いていた。
◆
「あの死亡報告書がこんな形で返ってくるとは思わんだろう」
報告書を開いた第5席ベルテナン・ファルヴェールは呻く。
「さて、可能性を提示してもらおうか」
「他殺、準備不足の自然死、元来の病死、様々ありますが、私自身は自殺の可能性が高いと考えます」
「その心は?」
「状況証拠だけですが、聞いた限りで彼の性格上他の可能性が低いと考えます。さらに具体的に申し上げますと、教唆の末、自殺が高いと思われます」
ベルテナンの口から人とは思えない低い唸り声が聞こえる。
「教唆、誰かに諭されて死を選んだ、と」
「あくまで可能性の話です。しかしながら通常とは異なる話し方、脱退後に向かう先が故郷とは逆、そして最後の感謝。見つけてくれと言われている気がします」
「結論が早くないか?彼の死自体は然程不自然ではない。ああ、それで自殺を考えたのか。しかしそれでも教唆が絡むのは情報が少ない気もするがな」
ベルテナンは慎重だった。
ここで答えを知る必要は無いし、断定するにしても、先に答えを決めてしまうべきではない。
そこで、ベルテナンは敢えて聞いた。
「貴公の考えを悪く思っているわけでは無い、しかしここで聞く。誰が教唆した?」
調査員は逡巡した後、意を決して答える。
「主席執政官レオニード・カルヴァートです」
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