Free Companies Federation   作:ウラリンゴ

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失望

「第11代主席執政官、レオニード・カルヴァート。あなたをFCF憲章違反の疑いで拘束させていただく」

 

 潮風が香り人と物の行き交う交易の中心地の一角で、洗練された制服に身を包んだ一団が居た。

 海の近くと言う事もあり、気温はそこまで暑くなかったが、彼らの先頭に立つ人物は額や首から汗を流していた。

 背中に回して組んでいた手を一定の間隔で開放すると、再度組み直す一連の動作を繰り返しながら待機していた彼は、船から降りたばかりのカルヴァートの前に胸を張って立つと言う。

 

「現時刻を持って、あなたのFCFにおける権限を剥奪する」

 

 派遣された評議会議員は説明しながら、腰の魔道具に手を添えるも、その手は震えていた。

 周囲に立つ随行員はただの護衛ではないのが見て取れたが、誰もカルヴァートから目を離さず空気が張り詰めている。

 

「帰るなり物騒ですね」

「このような公共の場で抵抗されると、こちらも相応の手段を取らざるを得ない。素直に応じてくれると助かる」

 

 これは議員の本心だった。

 そんな彼の表情や言動を見ても、顔色一つ変えないカルヴァートは答える。

 

「まあ、良いでしょう。案内お願いしますよ」

 

 派遣された議員は自分が思っていたよりも素直な反応を見せるカルヴァートを不審に思いながら、周囲の随行員に指で指示を出す。

 一行は、カルヴァートを中心に随行員が周囲を固め、議員が後ろを歩いて移動した。

 また、途中離れたところにもFCFのメンバーが周囲を見張っており、厳戒態勢での護送となっていた。

 しかし、幸いにもカルヴァート本人に抵抗の意思はなく、また、カルヴァートを救おう等と言った狂人からの襲撃は無かったため、極めて平穏に事は進む。

 

「さて、私をこのような形で拘束したのには、それなりの証拠があっての事ですよね?」

 

 移動中、FCF専用のチョコボキャリッジ内では、余裕綽々の様子でカルヴァートが目の前の随行メンバーに聞いた。

 脚と腕は優雅に組まれており、ここに紅茶などがあれば、とても容疑者の護送には見えないだろう。

 

「無論。また、後日査問会が開かれる。全て吐けば評議会も寛大な処置をしてくれるだろう」

「結構。では今は大人しく従いましょう」

 

 意味ありげな目で議員を見やるカルヴァートを、他の随行員は不気味に見ていた。

 通常、自身が拘束されるとなったら、取り乱したり大声で叫んだりするものでは無いのか。

 なのになぜこの男は、ここまで平然と談笑するような形で我々に話をしに来るのか。

 議員と随行員は底知れない不安と空気の重さを感じ取っていた。

 

「いえ、良いんですよ。仕事をされてるだけでしょうし。ええ、従いますとも。今はね」

 

 ◆

 

 程なくして一行はFCF本部前に到着した。

 本部の前では今回の騒動で動いた主要人物等数名と、今まで政治に興味が無かったがFCFの機関紙「The Union Herald」の号外にも上がった人物を一目見ようと野次馬が集まっており、一時的な賑わいを見せている。

 そんな一同を代表して、評議会議長が一歩前に出る。

 

「なぜ、このような形で会うことになったか、貴様はもう知っていると思うがな?」

 

 議長は平然を装いながらカルヴァートを見るが、目線は泳いでおり、横に放り出された手は落ち着きが無く、握ったり開いたりを繰り返す。

 それもその筈、目の前にはFCF至上最大の問題を抱えた男が居るのだ。

 議長自身が監視し評価を下す組織の長、元老院の政治首班たる主席執政官はチョコボキャリッジから降りると辺りを見回しながら笑みを浮かべていた。

 

「はて、私の外遊の終わりを労うためでは無いですかな?すみませんね、如何せんこのような歓迎パーティーには疎いもので」

 

 カルヴァートは朗らかに笑いながら議長の皮肉に皮肉で返した。

 返答を聞いた議長は、自身を落ち着かせるために息を吐く。

 願わくばさっさと行って欲しいと思う心と、ここで怒鳴り散らしたいと叫ぶ心がせめぎ合っていた。

 

「貴様が横領に手を染めたのは既に割れているのだ。後日査問会を開始して貴様の悪事を全て吐かせるからな」

 

 苦々しく言葉を発する議長は、言いながら怒りが湧いて来たのか身体が前に傾き、拳が硬くなる。

 そんな様子を笑みを浮かべて見るカルヴァートは、右腕を広げて手の平を見せながら軽く振って答える。

 

「はいはい、感謝いたしますよ」

 

 そして、あからさまに周囲を見渡しながら、今度は両手を広げて議長に聞く。

 

「しかし、よろしいのですかな議長?評議会の正当性とは、この様な場でもって維持されるものなのですかな?」

 

 カルヴァートの挑発に議長のこめかみが僅かに動く。

 議長自身も分かっていた。ここで声を上げれば、評議会そのものの権威を下げる行為だと。

 愉快そうな表情を崩さず、周囲の野次馬を見ながら発言したカルヴァート。

 

「かような様子、第零席様がご覧になったら。一体何を仰られるのや」

「この期に及んで第零席様を愚弄するか!」

 

 議長の低く響くような声が、本部前の広場を衝撃波の様に埋め尽くす。この様な、FCFが薄汚れてしまった姿を第零席に見られるなど、考えただけで身の毛がよだつ思いだ。

 しかし、周囲の野次馬は議長の突然の大声に静まり返った。今この瞬間だけは議長以外の全ての目が、議長に降り注いでいた。

 そして、息を荒げて憤然とカルヴァートを見る議長に、彼は肩を竦めて何でもないといった様子で歩き出す。

 

「どのように解釈されているか分かったものでも無いですなぁ」

 

 その呟きは、静まり返った本部前の空気に溶けるように消えた。

 

 ◆

 

 事態がひとまずの収束をしたところで、委員会のメンバーだろと他のメンバーから請われ、本部前で一連の流れを見ていた第5席は、隣の部下と共に本部の廊下を歩いていた。

 一定の間隔で置かれた窓や花瓶が、歩く速度に従って横切りながら、途中ですれ違うFCFのメンバーに挨拶をする。

 そんな中、とある元老院議員を見かけたベルテナンはふと湧いた疑問を口にした。

 

「あの男、執政官の姿しか知らなかったが、あんな人を食ったような態度の人間だったか?」

 

 ベルテナンは彼と話したことが無かったのもあるが、少なくとも本会議では先程の本部前で見せたような軽薄な笑みを浮かべ、周囲を煽る様な人ではなかったと語る。

 

「いやー、私も議場や選挙ぐらいでしか姿を見たことがなかったですが、もう少し誠実な人だと思ってましたけどね」

 

 部下も素直に当時見た感想を述べる。

 第5席からしてもその部下からしても、二人の記憶には、あの異様な光景が妙に鮮明に残った。

 

「まあ、ああ見えて実はすっごい動揺してた、とかかもな。それか、あれがあいつの本性だったりして」

「ありそうですね、お酒飲んだ時の人間性みたいな」

 

 実用性のある例えを出されて妙な納得をしたベルテナン。

 癪だったのでベルテナンは少し、答えに攻撃を含めてしまう。

 

「なるほどな。あ、お前も中々ヤバいから自重しろよ」

「え?何です突然。ベルテナン様の酒癖が悪い事、みんなに言いふらしますよ?」

 

 負けた。

 

 ◆

 

 微かな音楽が聞こえる通路先の部屋の前に、重厚な制服を着用した2人の監視が立っていた。

 中はカーテンが閉め切られており、陰鬱としていたが、ゆったりとした曲が流れていることで、不思議と整った雰囲気として受け入れている。

 その部屋の中央に男が1人、椅子に座って何かを飲みながら上を見上げている。

 

「計画は上々、少々理解に苦しむものもありましたが、概ね予定通りでしょう。あれを許容するかはあの方次第ですが、まあ及第点ぐらいは頂けると信じておりますよ」

 

 誰に言うでもなく男は呟くように、そして自身の頭を整理させるよう、さらには許しを請うように独り言を空気に放っていた。

 

 ◆

 

 後日、カルヴァートは調査委員会に呼び出されていた。

 議場の中央最前列上段に評議会議長と副議長が座っており、それを見上げる形でカルヴァートが立つ姿はさながら裁判の様だった。

 始まる前に、弾劾裁判の様だと誰かが呟いていた査問会が、今始まる。

 

「第11代主席執政官、レオニード・カルヴァート。本日貴様を呼んだのは他でもない。貴様が公的資金を不正に流用し、横領していた疑いについてだ。調査は現在も続いているが、貴様の語る証言もまた証拠として扱われ、調査に使われる。質問が無ければ始めるが?」

 

 議長が厳かに進める。

 

「ええ、構いませんよ。何でも聞いてください」

 

 少し前に見たカルヴァートの余裕そうな表情は今も健在で、とても拘禁されていた者の顔とは思えなかった。

 彼の様子に数日前の本部前を思い出した議長は、あの時と同じように自身を落ち着かせるための息を吐いた。

 

「では、単刀直入に聞こうか。即ち、貴様は横領をしていたのか?」

「ええ、してました」

 

 カルヴァートの簡潔極まる返答に、委員会の室内は一気に騒がしくなる。

 誰もが、彼は否定し抗弁をするだろうと、故にあれだけの余裕があったのだと考えていた。

 これが、たったの一言で覆された。

 

 予想外の答えを聞いた議長は次の質問を口にしかけたまま、黙ってしまった。

 用意していた否認に対する追及が全て無駄になったのだ。

 とある委員会メンバーは、次に使われる予定だった証拠を机の下から取り出すところで止まってしまった。

 書記は手が止まり、目線が議長とカルヴァートを行ったり来たりしている。

 

「当然、調査委員会様はご存じなのでしょう?」

 

 先に進まない事を不思議に思ったカルヴァートが逆に質問を返した。

 この声で、議長は我に返った。

 

「む、無論だ。では、次を。横領を始めたのは2年前で間違いないか?」

 

 議長はカルヴァートの異様な空気に飲まれない様にするのに、相当の神経を使っていた。

 少しでも気を抜くと、先程と同じように自身の思考が固まることを分かっていたからだ。

 

「ええ、そのぐらいですかね。正確な日付は覚えていませんが、私が主席執政官になる前ですね。横領における利益の最大化に必要だと思ったので主席執政官に立候補したのですよ」

 

 何の躓きも無く、答えろと言ったことに対して素直に答えるカルヴァートはその場の空気を完全に支配していた。

 審問しているのはこちら側なのに、なぜか汗が止まらない議長と副議長。

 そして、次の質問をした瞬間、カルヴァートは笑みを深める。

 

「では、現物拠出を考えたのは貴様か?」

「おや?まだご存じで無い?」

 

 まただった。またあの時の笑み。今までとは異なる本部前で見た人を嘲笑うあの顔……。

 目だけが笑っていない。相手の言葉の裏側まで見透かしているような、底の知れない笑みだった。

 カルヴァートを正面から見る議長と副議長、そして書記と調査委員会のメンバーは目の前にいるのが一人の政治家ではないような錯覚を覚えた。

 

「それでは答えられませんねぇ。良いですか、議長?これは答え合わせであって、答案用紙の発掘ではないのですよ」

 

 カルヴァートは手を上段の議長たちに向けて、幼い子を諭すかのように答えた。

 しかし、その返答に憤懣やるかたないといった思いで議長が口調を荒げる。

 

「貴様!評議会を侮辱するか!貴様が立っているその場所は第零席様がお創りになった場所でもあるのだぞ!」

 

 その時、数名の調査委員会メンバーが視線を伏せた。議長が証拠や調査能力を捨てて、第零席の権威に逃げているのだと気づいたからだ。

 その議長の怒鳴り声に、カルヴァートは感情の籠っていない、冷淡な返答を返す。

 

「ええ、存じ上げておりますとも。私が座す元老院も、議長がお座りになられているその議長席もですな」

 

 そして、今度は至極残念とでも言うような、相手を小馬鹿にする声で続けた。

 

「議長……、私は残念ですよ。このような場を設けて頂いて大変恐縮でしたのに、真相には殆ど手が届いていないと?形だけ見てあったと叫ぶ様は滑稽ですらある。私はね、あなた方が続々と答えを提示していただき、私がそれにつらつらと答える。そんな席を予想して、期待していたのですがね」

 

 カルヴァートは余裕を崩さない。

 更にはやれやれと言ったような、腰に手を当てて首を横に振る仕草すら始める。

 

「き、きさま……」

 

 そんなカルヴァートの、調査委員会には呆れたといった様子に議長は言葉が出せなかった。

 

「このような時に言える言葉は、これしかありませんな」

 

 議場の中央に立ち、周りを嘲笑する男は深い笑みをさらに深めて言葉にする。

 

「失望しました」




申し訳ありません。
設定周りの重大な欠陥が見つかったため、一度削除して再度上げ直しました。

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