Free Companies Federation 作:ウラリンゴ
カルヴァートから放たれた言葉は、委員会室の空気を一度止めた後に、一瞬で修復不可能のモノにした。
前面に座っていた委員や後方の傍聴席は一気に騒がしくなり、議長の静止の声すら届かない。
そんな中で、第5席は中央に立ち周囲を煽る様に笑い続ける男を観察し続けていた。
ベルテナンは当初からこの査問会において、カルヴァートの言動を別の視点から注視していた。
本部前のやり取りの後、ベルテナンなりに考えていたが、どうにも横領犯の言動には見えなかったのだ。
そして、先ほどから顔に張り付ける、こちら側を煽る様な笑み。
わざとこちらを挑発し、調査委員会や評議会を観察するような目には、どこか彼なりの目的があるように見えた。
そんな周囲とは逸れた思考の最中、議長が一際大きな声で中止を宣言した事で、ようやく、ベルテナンも自分が査問会の只中にいることを思い出した。
「本査問会は中止とする!残りの質疑については後日改めて行うものとする!閉会せよ!」
そして、後に第1回査問会と呼ばれる調査委員会とカルヴァートの邂逅は終了した。
◆
「やはり、引っかかる」
査問会が終了し先ほどまでの喧騒が嘘の様な、静かで涼し気な室内で、ベルテナンは1人で呟いた。
本部前での言動、査問会での煽り、そして最後の一言。
全て、カルヴァートの言葉には、ある種の一貫性があった。
「こちらを試している。それも、どこまで進んでいるのかを見ていた?」
それは何故か。調査委員会と評議会の調査能力を確かめて何をするつもりなのか。
それで何を?どこかへ報告を?何処へ?奴の背後に何かが居る?
考えれば考えるほど、行き詰まる感覚を覚える。
「答え合わせ……」
奴は言った。この場は答え合わせなのだと。
もし、もし仮にFCFに敵対的な存在が居た場合、奴がこちらを調査するために送り込まれたスパイだったら?
「いや、だったらそもそも横領なんてしないはずだ。奴は主席執政官だ。ここで自分の存在をばらす様な真似はスパイだとしたら機能しなくなる悪手だ」
しかしこちらの調査能力が露呈した場合、どこまで金の動きを把握しているかを見ている可能性がある。
今後どのような手段でギルをかすめ取れるかの、判断材料にも成りうる情報だ。
だが、カルヴァートがわざわざ主席執政官になってまでやる事かと考え直して再度行き詰まる。
「だめだ、分からん……」
これ以上の思考は無駄だと判断し、ベルテナンは考えるのをやめ、静かに立ち上がろうとしたところで、声がかかる。
「第5席様」
ベルテナンは飛び上がらんばかりに驚いた。部屋には自分一人だけだと考えていたからだ。
自分以外の気配を感じなかったし、呼吸や近づいてくるときの足音も聞こえなかった。
心臓が飛び出たと思ったベルテナンは、実際に驚きの声を上げる。
「うわぁっ!!」
すると今度は、話しかけてきた方も驚いた。
「えぇっ!?」
まさか声をかけたら驚かれるとは思っていなかったし、至近距離で突然大声を上げられた為、ベルテナン同様に声を上げたのだった。
◆
「いやー突然声を上げられて、びっくりしましたよ」
話しかけてきたミコッテ族の女性は、先程のやり取りに笑いが止まらない。
そんな彼女は、自身を調査委員会のメンバーだと紹介した。
「なぜ貴公がこちらに?私はもう全員部屋から退出したのだと考えていたのだが」
心臓の音が鳴り止まないベルテナンは、既に手遅れなのは理解しつつも平静を装いながら相手に聞く。
ここ最近で一番の物理的な驚きだったかもしれない。
「実を申しますと、ただの忘れ物です。途中まで他のメンバー達と歩いていたんですがペンを忘れましてね?取り急ぎ戻ったところ何やら誰かとお話してる声が聞こえまして。ただよく見ると第5席様御一人じゃないですか。誰かいたんですか?」
彼女は手に持ったペンを振りながら、薄暗い部屋でブツブツ誰かと不気味に話していたと思われるベルテナンに聞いた。
「い、いや。ただの独り言だ」
独り言を聞かれていたか、と少々恥ずかしいベルテナンはふと湧いた疑問をぶつけてみることにした。
「これは独り言の内容に触れるのだが、ふむ、貴公は先程のカルヴァートを見て何を思ったか聞いても良いか?」
ベルテナンは、この疑問は1人では到底解決しないと薄々感じていた。
そして1人で持ち帰るにはあまりにも大きすぎる。
また哀れな第1席にぶつけても良いだろうが、一から説明するのは少々骨が折れるし正確な情報を伝えられるかも怪しかった。
「さっきの主席執政官殿ですね?何と言いますか、横領だけが目的じゃない気がするんですよね」
彼女が語る内容はベルテナンが考えていたカルヴァートに対する評価とそう違わなかった。
しかしそれが何故なのか、目的が不明であるがゆえに気味が悪いと。
執拗にこちらを煽る時の目は、別の物を見ているようだと語った。
「特に最後失望しましたって言ってましたね。みんなブチギレてましたけど査問会で査問されてる側が言う事ですかね?なんだかこちらを試してるみたいで思い出したらまた腹立ってきたし……」
そう、査問されている側であるはずのカルヴァートがこちらを採点しているような言動を繰り返す。
これは、本部前でのやり取りからもそうだった。
唐突に第零席を引き合いに出して……、あれは議長の反応を見ていた?
「そういえば、あの三枚目を気取るクソ執政官殿ですけど、第5席様を見るときだけなんだか変な目してましたよ。私、目が良いんでその辺の機微が分かるんです!戦闘する時も魔物が攻撃する時は必ず目で見てくるんですよ」
ベルテナンは話を聞きながら益々気味が悪くなる。
カルヴァートが自分を見るときだけ目が違う?
こちらもあんなに注視していたはずだが、全く分からなかった。
ベルテナンは妙な事を言い出す目の前の彼女に、どんな目だったのかを再度聞く。
「何と言いますか、議長とかにはずっと煽ってたんですけど、第5席様の時だけちょっと薄れているような……ほんと、分かんないですよ?ただ、気付いてほしそうな……悲しそうな……?」
横領犯が仮にもS13を見て悲しそう?
自分の胃袋を心配してくれているのだろうか。
だったら議長閣下の胃袋も心配してあげて欲しい。主にお前のせいでこの艱難辛苦を舐められているのだから。
ベルテナンはそんなことを考えながら礼を言いながら立ち上がる。
「そ、そうか。情報提供ありがとう。まあそもそも査問会は開かれたばかりだし進んですらいないから、また後日気付いたことがあれば、報告してくれ」
「はい、第5席様もお疲れ様です。さっさとこの事件も終わらせちゃいましょう!」
ベルテナンは最近自身から抜け出している元気な様子に苦笑で返して、2人で部屋を退出していった。
◆
「ダメですね。評議会は少々短絡が過ぎます。これでは要求水準すら超えるか怪しいです」
薄暗い部屋の中で男が1人で話している。
しかし、独り言にしては会話が成り立っているような、反応のある話し方をしており、ここには居ない誰かが居るような錯覚を覚える。
「しかし第5席様は中々こちらを見る視線が違いましたね。流石元老院と言いますか、反応が他とは明らかに違いましたよ。議長?まあ私が居なくなる時は彼も変わっている事でしょうし。しかしあれでは満点は無理でしょうね。及第点すら厳しいラインに居ます。議長閣下は私の挑発を真正面から受けているのもありますが、感情に流されやすい」
談笑するかのような様子は、この後も長く続いた。
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