ロボットに乗って陰でスパイや裏切り者を始末してますが、幼なじみには筒抜けのようです 作:½夜城
デブリーフィング後、酒を飲み始めたレイドをクリスに押し付……任せて、俺は学園へと戻ってきていた。
灰色のパネルで構成される学園の廊下はゴムが敷き詰められており、足音が響くことはない。
だからだろうか、俺に対する小さな呟きがよく聞こえるのは。
まぁ理由は大体分かってる。任務に出る前、あわや大事故を起こしかけた空力戦闘機を救った事だ。
あ、ちなみにデブリーフィングが終わってすぐ救助したパイロットが礼を言いにきたんだが…公的な褒賞とは別に個人的な礼として相応の金額を払うと言われ、断った。
流石に個人間で金品のやり取りは好ましくないし、代わりに一度、アリサと空力戦闘機相手の模擬戦に付き合ってもらうという条件で終結した。彼女も空力戦闘機相手ならあまり実戦経験は無いからだ。
それに、彼は空力戦闘機を扱うパイロットとしてはトップクラスの実力を持っていたからな。でなければあれほどの損傷を受けて帰還出来る訳もない。
……話は戻るが、やはり学園は噂が広がるのが早い。一部始終を目撃してた奴が言いふらし、上層部や正規軍人に繋がりのある連中が情報の裏を取った結果、俺という存在が浮かび上がった———そんなところだろう。
ただ、俺がアリサの周囲によく居る事を知り、普段から悪意のある視線を向けてくるのは基本的に同学年なはずなんだが、現在は他学年の視線も集めている。それも好意的なものが多い。よほど大勢が同時に言いふらしたか、或いは———。
「…すまない、君がコウ・クルセイダー君で合っているかな?」
「あぁ…じゃなくて、そうです」
マズイ。ハンナ皇女の件のせいで戦闘意識が抜けてない。返答が硬くなってしまった。てか、誰だ?
後ろを振り返り、声を掛けてきた人物の姿を視界に収め……え?
「せ、
「あぁ、こちらこそすまない。いきなり声をかけて驚かせてしまった」
「生徒会長が謝ることでは…」
濡羽色の長髪をポニーテールに纏め、翠色の瞳を持つこの女性は、〈クオリア・アロンダイト〉。このシーシア連邦軍養成学園の生徒会長にして、アリサと同様、学生のうちにネームドと成った———〈
付け加えるなら、大規模作戦の指揮を任されるほど戦術判断に長けており、方向性は違うものの、軍内部ではアリサと同列に語られる程。
そして個人の知名度で言えばアリサ以上かもしれない。アリサは白い凶星というネームドとしての異名が語られることが多いからな。
と、そんな学園内ではアリサ以上に崇められてる存在にすら認識された。それも、恐らく好意的な形で。これは、いくらなんでも……
「君の噂は耳にしたよ。事故を起こした機体を救助したそうじゃないか。それも卓越した操縦技術で」
「買い被り過ぎですよ。火事場の馬鹿力ってあるでしょう? それと似たようなものです」
「そうか、実際に記録映像を閲覧したが……咄嗟の動きと言うより、冷静に状況に対応しているように見えたんだが?」
「……生徒会長にそこまで手間を取らせた上で申し訳ありませんが、もう一度同じ事をやれと言われても不可能である確信があります」
「……良いだろう。本人がそこまで言うならこれ以上は詮索しない。ただ忘れないで欲しい、
時間をとってすまなかった。と謝罪の後、生徒会長はこちらに背を向け去っていった。
……間違いなく、俺が実力を隠していると疑われている。カスケード1であると言う情報までは辿り着けないだろうが、警戒するに越したことは無い。
もちろん、彼女にバレたとて致命的じゃない。俺が黙っていてくれと伝えたら絶対口外しないだろう。
だが、もし何処か————例えばカスケード隊とシャドウスパローの合同任務等で、緊急性の極めて高い事態に陥った際、咄嗟の呼びかけで正体が露見する可能性はある。
バレるリスクは極力排する。やるなら最後まで徹底的に隠し通す。
だから場合によっては、学園でのヘイトコントロールを放棄し実力を認める事はあるかもしれない。
忌み嫌われる味方殺しの悪魔によって、英雄の、白銀の輝きが曇るなどあってはならないから。
◇
「連中は間違いなく強かった」誰が否定しようと、彼はそう主張する。
〈ヴァイス・ドルスタンド〉————プレイヤー1とも、赤錆隊長とも呼ばれる男は、部下の1人を失い、任務にも失敗した結果として謹慎中であった。
ここ、反重力機動戦艦〈キャンヴェラ〉の独房にて。
「では、〈鍵〉の回収には失敗したんだな?」
「あぁ、堕天使共々、皇国の連中に踊らされたよ」
「まさか我々にも偽の情報を流すとはな……介入してきたということは皇国にとっても本意ではない結果に終わったんだろうが」
「恐らくだが、皇国はネメシスを釣り出したかったんだろう。あの国は未だ、
独房の扉にもたれ掛かり、ヴァイスと言葉を交わす軍服の男。
この艦に配属された情報将校であり、ヴァイスとの個人的な友人でもある。
「古代から続く一族の呪い、ね。今まで数多のネームドが挑んで敗れてると言うのに、まだ皇国は諦めないか。幾らネメシスが過去の歴史の中で最強と謳われるネームドだとしても、実現可能性は高いとは言えないのに」
「皇国の知り得ない情報を握った上、それを利用しようとした我々共和国も大概愚かだがな」
「違いない」
静かに笑い合い、軍服の男がもたれかかるのを止めて廊下に立つ。
同時に懐から煙草を取り出し火を付けると、ため息と共に再び口を開く。
「少し不可解なのが、皇国はネメシスを釣り出した後にどうやって呪いを解かせる気でいたのか分からない点だな。ネメシスからすれば呪いなんざ知ったことじゃないし、それにタイタン要塞内部で普通に接触せず、こんなまわりくどいやり方を採用した理由も分からん」
「出来ればシーシアそのものには知られたくなかったからじゃないか?シーシアは慎重派が多いし、英雄を他国に派遣することは嫌がるだろう。呪いを解かせる事を了承させるのは……まぁ俺たちを誘い出し、共和国が一枚噛んでいてかつシーシアに不都合な事を企てているとネメシスに認識させて…って感じだろう」
ここまで言い、ヴァイスは独房の中で手慰みにしていたペンを放り投げる。
そしてそのままベッドへと向かい、シワのついたシーツを整え始めた。
「ネメシス……英雄殿がそんな軽く判断するとは思えないんだが。あれで上層部とはかなり距離が近いというのに」
「それは俺も分からん。普段は冷静に盤面を詰める印象があったが、今回の皇国は明らかに焦ってる。……あまり時間がないのかもしれん」
「だとしたら、俺たちもなりふり構っている場合じゃないな」
口に咥えていた煙草を携帯灰皿で消し、軍服の男は独房の格子を握りながら告げる。
「ヴァイス、俺は一度本国に戻る。今回の件を受けて上層部がどう判断するか確認しなければ」
「分かった、俺も謹慎が明け次第もう一度鍵……ハンナ皇女の奪取に動く。今度は皇国の好きにはさせないさ」
「あぁ、そうしてくれ。我々共和国が現状を打破するためにはハンナ皇女の存在は絶対に必要だ」
「……まぁ個人的にはすげーやりたくないけどな。
「諦めろ、倫理的には決して許されないことは承知で上層部も俺も動いている。この戦争に勝利するために、な」
言いながら、独房区画の外へ歩み始める男。
その背中をヴァイスは見送り、独房のベッドに寝転がるのだった。