「ネタが古すぎる」と言われてクビになったので探索者を始めた俺の爆笑魔法に世界がざわつき始める 作:マツモトキヨシ
「ゲスト出演?!」
「はい、今日の配信のせいで松本さんがあちこちで話題になってるんですよ。この勢いで是非ともゲスト出演をしていただきたいんです」
「うーん……」
俺のことがすでにあちこちで話題になっている時点で不本意ではあるが、ミノタウロスを瞬殺したのが配信されてしまった以上、どうしようもない。
芽衣としても、話題になっている俺をゲスト出演させることで登録者を増やしたいという意図があるのだろう。
だが、俺の表舞台は30年前で終わっている。人気が出なくて表舞台から退いた俺が、今さら表舞台に立てるわけがない。
それが仮に許されたとしても、前と同じように、すぐ飽きられてしまうだろう。
「ちょっと厳しいかな。インパクトはあっても単調ですぐ飽きられるから、芽衣の力にはなれないと思うんだが」
「そんなことはありません。今日の戦いを見て思いましたが、松本さんの実力があれば探索者としても十分やっていけます!」
「探索者としてはやっていけるかもしれないけど、配信に出るのは微妙だと思うんだが」
「そんなのやってみないと分からないじゃないですか」
過去のトラウマから思わず腰が引けてしまう俺に対し、芽衣は常に前向きな姿勢で配信に臨んでいる。俺も若い頃は芽衣のように前向きにお笑い業界の頂点を獲るつもりだった。
もっとも、その夢はあっさりと砕かれてしまったわけだが。
俺は何とかゲスト出演を回避できないかと考えながら話をしていたが、芽衣の方は何としても俺に出演して欲しいらしく、話は平行線をたどっていた。
「ダメ元で一回だけお願いします。もし、その結果が芳しくなかったら、二度と無理は言いませんから」
「うーん、その1回がダメだった時に耐えられそうにないんだよな」
「それじゃあ、私の指南役という形で出てもらうというのは──」
「探索者登録したばかりの駆け出しなんだが……」
「それじゃあ、私のアシスタントということで正式に雇います。それなら問題ないでしょ」
ゲストじゃなくて裏方のアシスタントということか。それなら表舞台に立つわけじゃないから問題はないだろう。
「わかった。だが、芽衣の足を引っ張るようだったら、いつでも解雇して構わんからな」
「うーん、そんなことにはならないと思いますけどね」
俺は芽衣のアシスタントとして正式に働くことになり、いつでも連絡取れるようにLINEの連絡先を交換して、その日はお開きとなった。
翌朝、俺は芽衣からの着信によって叩き起こされた。
「おう、こんな朝早くからどうした?」
『た、大変なんですよ! 昨日帰ってから、さっそく松本さんをアシスタントとして雇うことになったとお知らせに流したんですけど──今朝見たらチャンネル登録者が10倍になってました。登録者1万人ですよ、1万人!』
「マジかよ。でも、俺がアシスタントになったことと関係があるとは限らないだろ」
しかし、芽衣ははっきりと首を何度も横に振った。
『いえ、昨日の動画──拡散した切り抜きにも新たにいくつものコメントが残されておりました。間違いなく、松本さんのおかげと言えます』
「そうは言ってもなぁ……」
俺が映っている動画にコメントが残っていることを考えると関係がないとは言い切れないが、さすがに俺のおかげは言い過ぎだろう。
たしかに期待したい気持ちはわかる。もう一度、表舞台で輝けるんじゃないかという淡い期待を俺自身も抱いてしまう。
だが無理だ。
俺はしょせん爆笑魔法というキワモノで目立つだけの男。一流の芸人や芽衣のような華があるわけじゃない。身の程を弁えなければ、ふたたび叩かれて沈められるだけだろう。
もっとも芽衣の考えは違うようだが。
『そういうわけで、次回の配信にはアシスタントとして松本さんにも出演してもらいます!』
「いやいや、アシスタントって裏方だろ。俺は表舞台に立てるような人間じゃない。今は物珍しさから騒がれているだけで、すぐに落ち着くに決まってる」
『たしかに一時の熱気なのかもしれません。だけど、それでいいじゃないですか』
「いいわけないだろ。あとは落ちていくだけなんだし──」
『ダメなんです、それじゃ!』
俺の弱気な発言が癇に障ったのか、芽衣は声を荒げる。電話越しに沈黙の時間が流れ、彼女の呼吸音だけが受話器から聞こえてくる。
やがて、呼吸と共に気持ちも落ち着いてきた芽衣は、俺に向かってはっきりと告げた。
『配信者だって、いつまで人気が続くかわからないんです。だからこそ、視聴者が熱気に当てられているうちに、もっともっと人気が出るように工夫したり努力したりするんですよ。輝けるときに輝けなかったら、いつ輝くっていうんですか!』
「輝けるときに輝く、か……」
芽衣の言葉が俺の心に揺さぶりをかける。彼女も意図したわけじゃないだろうけど、いつの間にか輝きが失われるのが怖くなって、輝ける時にすら輝こうとしなくなっていたようだ。
今は配信者として人気がある芽衣ですら、いつか落ち目になるという危機感を心のどこかで持っているに違いない。
だからこそ、わずかなチャンスすらも見逃さないように、掴み損ねないように努力しているのだと思い知らされた。
「勝利の女神は自ら努力する者にこそ微笑む、か……わかった。そこまで言うならアシスタントとしてだが出演してやる」
『ホントですか! 絶対ですからね! 急いで告知しなきゃ!』
俺が誰かからの受け売りの言葉をつぶやいて彼女の提案を同意すると、慌ただしくまくし立てて俺の返事を待たずに芽衣は通話を切ってしまった。
勢いに任せて突き進む──これが若さか。
いずれにしても走り出してしまった以上、俺が表舞台に上がるのは避けられないだろう。
だが、まだ完全に終わったわけじゃない。なるべく……なるべく目立たないように映れば叩かれる心配もないはずだ。
◇
三日後、いよいよ配信の日がやってきた。
今日までの間、芽衣も宣伝や準備で忙しかったらしく、特に連絡は取っていない。
一足先に待ち合わせ場所である渋谷ダンジョン前にやってきた俺は柱にもたれかかって佇んでいた。
「あれって、探索者だよね」
「なんであんな格好を──パーティーにでも行くつもりかしら」
「パーティー違いじゃない?」
「そんな間違い、初心者でもありえないでしょ」
良く聞こえないが、俺の方を見ながら居合わせた人たちがひそひそと何かを話している。どうやら、配信動画が拡散された影響は思ったより大きいらしい。
「お待たせ! 今日は──ってなんて格好しているのよ」
「舞台に立つなら普通だろ?」
「行き先はダンジョンなんだけど、そんなパーティーにでも出るような格好は普通しないでしょ」
俺は動画に映ることを意識してきっちりとタキシードで決めてきたのに、会って早々ダメ出しされてしまった。
俺だって動画に映らないんだったら、先日のような作業服にしたんだが。
「作業服の方がよかったのか?」
「何言ってるの。探索者がダンジョンに入るなら、普通に武器とか鎧とか装備品に決まってるでしょ」
「えっ、戦うつもりなのか?」
俺はてっきり戦うことはないと思っていた。昨日、偶然ミノタウロスを倒してしまったが、あれが最初で最後の戦いのつもりだった。
たしかにアシスタントになったが、俺はあくまで裏方。紹介すると言っていたので、キレイな服を着こんできただけで、紹介が終わったら裏でサポートするだけのつもりだ。
だが、芽衣はそれで終わらせるつもりはないらしい。アシスタントである俺もなぜか戦力として計上されているようだ。
「当たり前でしょ。今日は第10階層まで一気に攻略するんだから」
「えっ、第10階層なんて行ったことないんだけど」
「私も第5階層までしか行ったことないから大丈夫でしょ」
何が大丈夫なのかわからない。
俺の初アシスタントとなる配信は、始まる前から暗雲が立ち込めていた。