「ネタが古すぎる」と言われてクビになったので探索者を始めた俺の爆笑魔法に世界がざわつき始める   作:マツモトキヨシ

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第6話 ただのアシスタントですが何か?

「こんにちは、冥ちゃんねるです!」

 

 配信が始まった瞬間、コメント欄が一気に流れ出した。登録者数が増えたせいか、開始直後だからかわからないが、怒涛のように流れるコメントは目で追うだけでも大変だった。

 

 〝待ってました! 〟

 〝松本が出ると聞いて! 〟

 〝松本〇志が出ると聞いて! 〟

 〝紛らわしい〟

 〝今日は第5階層のリベンジかな? 〟

 

「はわわ、すごいコメント。ちなみに今日は、第5階層のリベンジではありません!」

 

 芽衣も少しだけ焦ったらしく、変な悲鳴を上げていた。だが、すぐに元の調子を取り戻して話を続ける。

 

 トラブルがあっても、すぐさま落ち着かせて配信を続けるのはなかなかできることじゃない。元々の性格もあるんだろうけど、何としても成功させようという覚悟が必要だ。

 

「その前に新しくアシスタントになっていただいた、松本さんです!」

「松本です。よろしくお願いします」

 

 〝なんでタキシード? 〟

 〝あれ、ダンジョン行くんだよね? 〟

 〝もしかして、第5階層のリベンジじゃないってダンジョンに入らないってこと? 〟

 〝そりゃそうだ。いくら何でもタキシードでダンジョン入るヤツいるわけないだろ〟

 〝でも、冥ちゃんは普通にダンジョン用の装備付けてるけど〟

 〝紹介の時だけで着替える可能性もあるんじゃないか? 〟

 

「えっと……モンスターと戦った経験はほとんどないので、あくまで裏方として頑張ります」

 

 〝なんでやねん〟

 〝なんでやねん! 〟

 〝なんでやねん! 昨日ミノタウロス倒したやろ! 〟

 〝めっちゃタライ落とし言うてたしな〟

 〝嘘はよくない〟

 〝それな! 〟

 

 本当に戦ったのは昨日のミノタウロスが初めてなのだが……ボケたわけでもないのに視聴者の総ツッコミが来た。解せぬ。

 

「ホントに昨日のミノタウロスが初めてなんですよ。それに着替えはないので、今日はこのまま行きます」

「というわけで! 松本さんが加わったので、今日は第10階層まで行っちゃいます!」

 

 〝は? 〟

 〝うそやろ? 〟

 〝冥ちゃん第5階層までしか行ってなかった気がしたんだが……〟

 〝完全に松本頼みで草〟

 〝その松本はタキシードで戦うみたいなんだが……〟

 〝ダンジョン舐めたらアカン〟

 〝というか、松本も戦ったの昨日が初めてと言っているんだが……〟

 〝うそやろ、初めて戦ってミノタウロスを瞬殺とかありえないんだが? 〟

 

「とりあえずは第5階層をサクッと攻略しちゃいますね!」

「基本的に俺はサポートとしてついていく、でいいんだよな?」

「いざという時には期待してますよ!」

 

 明らかに俺が戦力として期待されている。今さらかもしれないけど視聴者にまで俺が戦力だと思われてしまうのはマズいかもしれない。

 

「俺はただのアシスタントなので──ああいや、ホントにヤバくなったらタライを落としますから!」

 

 〝他のネタもよろしく〟

 〝タライだけじゃ芸がないからな〟

 〝容赦なくハードルが上げられて草〟

 〝そもそもタキシードの時点でハードルが上がってる件〟

 〝ちょっと待って欲しい。そのタキシード、防御力が高いかもしれない〟

 〝ありえないし、RPGじゃないんだぞ〟

 

 埒があかないので、さっそくダンジョンの中へと入っていく。入場手続きの時に受付のお姉さんに白い目で見られたけど、今さらだ。

 

 第4階層までは襲ってくる敵もほとんどいないし、襲ってきたとしても芽衣が余裕で倒し、あっという間に第5階層の階段までたどり着いた。

 

「よし、それじゃあボス行きます!」

 

 〝頑張れ! 〟

 〝松本さんの出番はまだですか? 〟

 〝おいおい、ここは冥ちゃんねるだぞ〟

 〝精一杯おしゃれしてきた男に戦わせるなんて、人の心はないんか? 〟

 

 なぜか視聴者は、アシスタントである俺を戦わせようとしてくるが、俺はあくまでアシスタント。芽衣のサポートをするだけの男だ。

 

 階段を降りると、見上げるほどの巨体を持つ猪の顔を持った人型のモンスターがいた。ハイオークだ。

 

 俺たちに気付いたハイオークは棘の付いた棍棒を地面に叩きつけて威嚇してくる。

 

「それじゃあ、行きますね!」

 

 芽衣が突撃して剣を振り下ろす。だが、ハイオークの棍棒によって弾かれ、わずかに掠った程度でしかない。

 

 ──GYAAAAAA!

 

 〝来た〟

 〝取り巻きか、対処はやはり松本が? 〟

 〝そらそうやろ、ソロで3体相手は無理や〟

 

 芽衣と俺を取り囲むように2体のオークが現れ、俺たちの方へと駆け寄ってくる。

 

 だが、俺は動かない。まずは行ける所まで芽衣がやるというのが今回の取り決めだ。

 

 〝松本スルーかよ〟

 〝働け! 〟

 〝サボるな! 〟

 

 芽衣も3体を相手に一歩も退かず戦っている。だが、取り巻きに邪魔されて決め手となる一撃を出せずにいた。

 

「松本さん、やっぱり取り巻きはお願いします!」

「わかった『タライ落とし』!」

 

 取り巻きのオークが落ちてきたタライで瞬殺された。だが、倒したからと言って安心はできない。

 

 ──GYAAAAAA!

 

 なぜなら、倒すと追加でオークを召喚するからだ。だが遅い、俺はすでにタライを落とす準備を終えている。

 

 現れた瞬間、タライに押しつぶされるオークたち。すぐにハイオークが雄たけびを上げるも、現れた瞬間にタライで瞬殺されてしまう。

 

 〝オーク出オチで草〟

 〝リスキルは卑怯〟

 〝それよりハイオークがずっと雄叫びを上げるだけになってるんだが〟

 

「隙あり!」

 

 芽衣の剣がハイオークの左胸を貫く。そのまま、血を吹いてハイオークは絶命した。

 

 〝隙ありっていうか、隙しかなくね? 〟

 〝ハイオーク涙目〟

 〝ともかく討伐成功おめでとう! 〟

 

 コメントで指摘されていた通り、俺が取り巻きを瞬殺していたせいでハイオークは取り巻きを呼ぶことしかできないという隙だらけの状態になっていた。

 

 少しハメ技っぽい気もするが勝てばよかろう、である。

 

「死闘の末、第5階層クリアです!」

 

 〝死闘? 〟

 〝ハイオークにとっては死(ぬしかない)闘(い)だっただろ〟

 〝死闘って言うか蹂躙〟

 

 俺がサポートしたのが視聴者的にはイマイチだったようだ。だが、俺はあくまでサポートに徹しただけ、ハイオークを倒したのは芽衣だから、何も問題はない。

 

「こうも容易くハイオークを倒すなんてな。戦えない俺からしたら、流石としか言いようがない」

 

 〝戦えない(瞬殺)〟

 〝しれっとミノタウロスを瞬殺した件をなかったことにしてるwww〟

 

「偶然、タライが落ちてきたから何とかなったけど、少し危なかったかな?」

 

 〝現実から逃げるんじゃない! 〟

 〝どこの世界に偶然タライが落ちてくることがあるんや〟

 

 視聴者の目は厳しい。どうやら俺のタライを誤魔化すのは難しいようだ。あきらめた俺はコメント欄を放置して、芽衣と共に第6階層の階段を下りていく。

 

 洞窟型だった第5階層までとは打って変わって、石を積み重ねたような壁に変わっている。形はレンガに近いが、色は真っ白で薄っすらと光を放っている。

 

「キレイ──」

「ここが第6階層か……」

 

 白く照らされた石畳は幻想的で思わず見とれてしまう。だが油断はできない。ダンジョンの攻略はある意味ここからが本番。襲ってくるアクティブモンスターも多く、強さも第4階層までとは比べ物にならない。

 

「少し慎重に行こう」

「はい──それじゃあ、進んでいきますね」

 

 ここからはアクティブモンスターが多く、焦って進めば多数のアクティブモンスターを引き連れた、いわゆるトレインを引き起こすこともあるらしい。

 

 配信中とはいえ、モンスターに勘付かれないよう黙って進んでいく。あまりに静かで芽衣の息遣いや唾を呑み込む音まで聞こえるように錯覚してしまう。

 

 慎重に角を曲がった瞬間、芽衣が「きゃっ!」と悲鳴を上げて飛び跳ねた。

 

「どうした?!」

 

 俺も後に続いて角の先をのぞき込むと、巨大な目玉の化け物がゆらゆらと浮かんでいた。

 

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