「人生とは、長い旅路を往く旅のようなもの。きっと山を越え、海を渡り様々な人に出会い、その人々に──時には自分にも──歓び、悲しみ、憂い、憎むだろう。でも忘れないで欲しい、その旅人であるあなたは、この物語の主人公であることを。あなたが生まれなければこの物語は紙一枚にもならなかったのだから」
仮に文字に起こしてみたが、おれはこういう類の言説が嫌いだ。妙に説法じみているし、誰もがその
して、
おれもその1人だが、──人は信じたいものだけを信じ、見たいものだけを見る。そのためだけに息をして、それを最期に朽ちていく。
一、
言ってみたものの、最近は間近に
「おれって、生きてて
「あっくん──」
「なんだよ」
「ランク下がったん? おめでとう!」
「はぁ?」
「いつも消えたいって言ってるのが、生きてていいのかな、ってなったってことは、ネガティブランク下がってんじゃん」
「独り言に口挟むなよ、和陽、それに下がってねー。そんなランクあったら……てかランク言うな、真剣に悩んでんだぞ」
「それはごめん、でもほんとにやばそうな時はオレの見えないところでやるだろ? いっつもそう。だから返してもいいかなって」
「ゔっ」
痛いところを突かれた。確かに
そうでなくとも、きつい時にこそ大丈夫と言ってしまう悪癖があるのでなおのこと話さないようにしている。
「よくご存知で」
「
「本当に
「……善悪の方のか」
「なんで会話でわかんだよ怖……」
「わざわざ聞き直すってことは同訓異字かなと、お前そこあたりの小説好きそーだし」
「お勉強頑張ってんすね……偉いよほんと」
「お前オレに伝わんないようにするの得意
「バカだけどな」
「今のはカタカナだなぁ。foolの方の意味の時は
肩が揺れる。つくづくわかりやすい体になったもんだ。
「ギクってしたぁ、当たりだ。カマかけたのに」
「そろそろ真面目に怖ぇんだけど。まさかトーク画面とか見返してる?」
「んにゃ、肌感」
「──やけに鋭いよな、お前の
疲れている時も、そうでない時も、気だるい時も、──消えたい時も。そっと手を携えずにオレのことを見てくれる。おれにだけじゃないのもわかってる。だからおれは応えたい。報いたい。
──消えたいのだ。なおのこと、それに値しないから。
「基準に能うとか能わないとか、オレそういうの他人には考えないから。オレはオレの"大事"で動くだけ。"たいせつ“を人に向けるだけならオレの自由だろ?行動に起こさなきゃさ」
──だからさ。
それに続く二の句におれは唖然とした。
「お前も
「──おれの目を
「違うよ、誰が説得なんか」
「じゃあ、なんで」
「いつか、
そうだったのか。今まで和陽はおれが好きで、心の底から生きて欲しいと思っているだけだと思っていた。隣を歩きたいと言ってくれたのは救おうと必死になってくれてるんだって。だから幾度となくその手を振り払ってしまう事を、望みを叶えられない事を、申し訳なく、そんな自分を疎ましく思っていた。だからより一層消えたく、重たくなっていったのだ。
でも、違った。和陽にとってそれは最善のシナリオなだけで、彼には「
それは、おれが反対ならその立場には至れないほど純然で、酷く冷めていた。火照る間もないほどに。当たり前のようだった。
こいつに対しては、応えるべき理想なんて、最初からなかった。こいつは「現在の秋瓢」が好きなんだ。好きになってくれるんだ。
たとえ、これから一生、おれが救われなくても、変われなくても、もっと堕ちても。彼は手を出してくれる……
でも、そんなの──
「あげられるものが、なくなっちまう──何も返せない」
気持ちを込めたありがとうなんて、おれには重たすぎる。言うのも聞くのも。
「お返しなんかいらないし、気にせんでいいよ、元々一人芝居なんだから──、最近の秋瓢は泣き虫だなぁ」
「泣いてないよ」
涙なんか出してない、正確には堪えている。目頭も乾いたままだ。
「
「──そーかよ」
熱が冷めてきた頃、テレビからこんなCMが聞こえた。
『あなたの
「今のすっげぇ! 書いとこ」
おもむろに取り出したのはルーズリーフのようになっているメモ帳、それに気に入った表現を書き溜めているのだそうで。
「別に普通だろ。目をスクリーンって形容すんのは」
「でも書かないと忘れる!」
「だったらこっちも意外性ある」
おれはその横に映写機と書いてひとみとルビを振った。
「えーしゃき?」
「お前さぁ……堅い言葉だとつながんないよね映画館のあれ」
「あー! フィルムの乗ったでっけぇカメラ!」
「もっと言うとプロジェクターな。人生=ドラマ派の和陽なら刺さると思って」
「へー、プロジェクターもなんだぁ、刺さった! 拝借します!」
斬り捨ててしまえは、和陽は当て字大好きボーイなので、思いつかなかった当て字をくれてやれば鯛を釣る海老にはもってこいだと思っただけだが。
よく言われる瞳をレンズやスクリーンに喩える方では、像を結んで「
人生という大作映画──あるいは大切な瞬間を映して観るためには、まず大元のフィルムがなければ始まらない。さらに昔の型であれば逆さに書き出しも必要になる。
人間に準えるその
スクリーンより、映写機、目より見方。
なのだとすれば。おれの映写機は自己嫌悪に囚われている。今までもこれからも。だから壮大な景色も、大切な人の声も、他ならぬ自分自身の姿さえ。醜悪なもの、分不相応な
「──刺さったわぁ」
「えぇ、何? 自画自賛? 珍しい」
「そうじゃねーし、なぁ、ひーくん」
──その
「なんでもない」
「なんだよぉ」
ヘドロみたいなやつじゃないといいなぁ。
二.それでも僕らは、かくあがく
突然だけど、オレは人生で挫折をしたことがない。舐めプに聞こえるかもしれないから言い直すと、挫折と呼んでいいものなのかわからない、が近い。
成功すれば、それはラッキーの部類で。いくら自分がその前に練習していたとしてもここまでやってりゃ大丈夫、と思えたためしがないのだ。──心配性ってわけでもないけど、成功するはずだ、
でも、そんなオレでも絶望しそうな「後のない失敗」があるとすれば……それは「秋瓢を
前から何度も言ってるがオレは秋瓢を信頼してるし、ネガティブなとこも僻みがちなところも含めて大好きだ。だからどんな秋瓢でも、受け止める秋瓢が苦慮の末に首を括っても、その辛さの中で這っていけると思う。
でもその種がオレならオレは自分を嫌いになるし、死んでも許さない。手っ取り早く話、秋瓢とはまた別方向の「ジメッとした日陰者」になるだろう。そんな未来は──起きてしまったらもうそっちになってるだろうから──来ないので薄々オレが変わるのを楽しみにしている。あくまで仮定の話だから楽しめている。つまるところ、全てオレの自己満足だったんだって最近気づいた。どう表せばいいのかも今ならわかる。だから伝えた。オレの全部を。これが伝わらなくたっていいって。ただ聞いておいてほしんだって。お前が足掻いてるとこも、もがいてるとこも、皮肉言ってる時も、バカにしてくる時も全部、全部大事な時間なんだって。そんぐらい大好きなんだって!
だから、オレは「生きてて
だから言ってやったんだ。あの分からず屋に。
「だからさ、お前も好きにしていいんだって言いたかったの。嫌いなところはオレが好きでいるから。──そういう意味。消えたいって思うのも、死にたいって思うのも、おれなんかって思うのも、オレとしては嫌だけど、止めない。お前の頭には入れないから、言葉でぶつけてくしかないんだと思うことにした。オレの言葉が石になってもいい、心臓に届くナイフにさえならなければ」
オレは、オレの差し出した手が切先にならなければそれでいいのだ。もう他は何も考えない。そんな身勝手なやつなんだって。伝えとかなきゃ。
「──おれの目を醒まさせるために?」
だから違うって。もう
「違うよ、誰が説得なんか」
もう自分の気持ちに嘘はつきたくない。ほんとのことしか言ってなくてもまだ嘘が残ってる気がしてならないんだ。
「じゃあ、なんで」
「いつか、手を握り返せるって、信じたいから。オレのエゴだよ。ぜーんぶ。振り払われたって全然平気」
信じたい。その言葉は言い聞かせるようだったと思う。諦めるためじゃなくて。確認。オレ自身に「ほんとにこれで伝えていいんだな」って聞き直す感じで。
ふと、顔を見る。──こういうのを逡巡してるっていうんだろうなぁ。目に涙浮かんでないのに、泣きそうな顔してて。泣いてない? そうだよな。でもまだ、だろ? それが面白くて笑いそうになりながら表現を選ぶ。
「──
「そーかよ」
そんでまた不貞腐れてそっぽ向かれちゃった。
今日ぐらいは一矢報いてやれたかな……
話は変わって、テレビのCMのコピーライターの人の文章とかかっこいいよなぁって思う。オレが子供っぽいだけって秋瓢には言われるけど。
「別に普通だろ。目をスクリーンって形容すんのは」
よかった、いつもの調子が戻ってきたみたいだ。
こっちの方が意外性あるって言われて渡された紙には映写機で、読み仮名がひとみって書いてあった。やっぱ本読んでる人はぽんって出せるんだなぁ。自画自賛すんのも仕方ないと思う。
でも、それを小説とかに活かす機会は来ないんだろう。秋瓢に会ってから、初めて人には幸せ以外のグラデーションになる感情があるんだってわかった赤ちゃんにだぞ? 他の人の視点とか考えらんないし、ストーリーラインとか言われたって書いてるうちに脱線確定な上に、キャラを動かすったって無理だもん。人と出会って色々感じることはあるけど、それを下地に一から
「なぁ、ひーくん──なんでもない」
「なんだよぉ」
あぁ、そんな悩みがどうでもよくなるぐらい、今日もあっくんは
三.あなたをすくう、ストーリーライン
「なぁ、秋瓢」
「何?」
「リレーしようぜ」
「やだよ、お前のお題なんか変そうだし」
「やる前から決めんなよ」
「……お題は?」
「人生」
「ほら出たよ安直なやつ」
そして、おれが一番答えたくないやつ。
「さっき話題に出てたから。フォンフォ、録音始めて。とりあえず無制限で」
【はい、わかりました】
「勝手に話進めんなよ」
「じゃあまずオレからな、『人生、それは出逢うこと』
「『人生、それは託されること』」
「『人生、それは支えられ、支えること』」
やめろ、やめてくれ……そんな
「『人生、それは時に
これでおじゃんにしてやる……
「──『人生、それは足掻きながらも求めたいと願うこと』」
「っ! ……『人生、それは、痛みを伴い曇ること』」
こいつ、オレの意図を分かってる。むしろ聴いてくれてるんだ。おれが人生に何を思ってるのか。
「『人生、それは輪廻のようなもの。裏と表が混じり合い雨が止まない時もある』」
「『人生、それは文字にはできぬようなもの、インクがかすれてしまうから』』
「『人生、それは音にもできぬようなもの、ラヂオが壊れてしまうから』
「『じゃああなたはなんで書いているの? 歌っているの? 楽しいの?』」
「おっ、型崩しきたかぁ? 『問われたらこう返そう、楽しいなんてもんじゃない、苦しいなんてもんじゃない、やりたいわけでもなんでもない。
「『莫迦なまんまでしょうがない』」
「『愚図なまんまでしょうがない』」
「「野次馬したくてしょうがない』」
「『僻みん坊でもしょうがない』」
「『しようがないからやってやる』」
「『しょうがないから連れ立って』」
「『しょうがないままお葬式』」
「ちょっとあっくんさぁ……w『そんな可もなく不可ばかり』」
「へへっ……ざまぁみろ『
「そろそろ終わりにしようぜぇ〜? 『
「『そんでも一つ願い事──」
もし、それが一瞬でも許されていいのなら、著してもいいのなら……
「どこかの誰かに届きますように、これが《わたし》の
「──いいじゃん!」
「さいですか、終わり終わりぃ」
観客がいるとも思えない、最後まで観てもらえるかもわからない。そんな駄作でいいのなら。このシナリオなら、こいつとなら、腐り切らずに