一、背中を託す、をかんがえる。〜Friend ship〜
俺は友達というものを作るのに若干及び腰なところがあると思ってる。
「友達に
その点、涼喜はやりやすい。知ってか知らずかそのあたりを汲んでくれてる。手を触れるのすらシャイなだけかもしれないけど。
家が近いので、食の面倒を見る、という大義名分の下、俺の腹がすいた頃を見計らって来られるのだけは少々
「公遙? 来たよ〜」
「おー」
「あ〜、またアンパン一個で済ませようとしてるでしょ」
炬燵の上を
「悪りぃかよ」
「あんまり他人に干渉されたくないのは知ってるけどさぁ、流石に不摂生じゃない? ……僕より体デカいんだし」
「しゃあねーだろ、自炊できねーんだから」
「自覚あるなら練習したら? w」
こいつ……俺にだけはどんどん容赦がなくなってる気がする。俺だけに向けられた反応と考えると満更でもねーけど。
「……お前さ、最初のしおらしさどこに置いてきた」
「言ったの公遙じゃん、なよなよ喋られるとムカつくからドンと構えてろ、って。これでも頑張ってんだよ?」
「悪りぃ……頑張らんでいいからもうちょい軟めで頼むわ」
ムカつくとか以前に怖さすら感じそうになってたから、ここらで軌道修正しとかんと尻に敷かれる羽目になりそうだと思った。
「……わかった、ごめんね?」
「だから何でもかんでも謝んなって」
「わわっ、ごめん!」
「だからぁ……」
「そっか……なかなか難しいなぁ」
隣の顔はまたへにゃりとわらった。
「別になんでもいいんじゃね……お前が楽にできんなら。強要するつもりはねぇよ。ナヨナヨすんなってだけ」
「そんなもんなのかなぁ」
思えば俺は、兄さんを亡くしてからものの言い方がキツくなった気がする。一時的なものではなく永続的に
──だから、独りで消えられると思った。
──なのに。あいつがやってきた。
──だから、今がある。
今まで兄さんと家族しかいなかった俺の
俺はその礼をしていない。そもそも礼をするべきなんだろうか。
──謝罪じゃないのか?
こんな気弱そうなのに、どこの誰とも知らない奴の血に触れて、初めて
どっちつかずな気持ちを抱えたままなら、聞いてしまった方が早い。それが俺の
「なぁ──」
「ん?」
台所を
「お前、あの時……何考えてたんだ?」
聞いた瞬間、しまったとも思う。
聴くにしても、もうちょっと忍びなさそうにできたはずだ。
仮にも救けてもらった側のはずなのに。
「あの時かぁ……、色々考えてたね……。公遙がなんでやろうとしてたのか、とか切った腕にはどんな
助けていいか?こっちの事情は関係ないはずだろ、なんでそこで迷うんだ……?
「僕だけかもしれないけど、物語を読んでるとね?
その語り口はまるで涼喜自身を叱るような
──愛
「こういうことが文学の世界ではよく起こるんだよ。我慢できないくらいの気持ちが
刃を入れる直前の俺の心情を言い当てられているようだった。
あの頃は兄さんに会いたくて必死だった。
そう──どこかで──信じていたのかもしれない。
──遺された方の気持ちなんてすっかり忘れてた。
だからふらっと、あんな奇行に及んだんだ。
「だから、僕の行動が本当に
また力なさそうに
「バツが悪そうな顔しながら言うなよ……あの時の俺はイかれてたって言ったろ……その……あんがとな、助けてくれて」
俺はこの一件の始末をして欲しいと頼まれてるんじゃないと思った。
だから、俺はこれからの生き方でこいつの行動を、俺の生きると決めた
もう兄さんに泥を塗るようなくたばり方はしねぇ。
向こうでちゃんと、笑えるように。
「色々御託並べて助けるのが遅れたからお互い様だよ、そこは……僕も早く、公遙が安心して背中預けられるやつにならないとね!」
「何言ってんだこのチビw」
「ひどいなぁもう……」
多分、お前はもう十分強いよ。
嫌々生きる覚悟ができてなかったのは俺の方だ。
「あっ、そうだ」
「?」
「僕がいつもお世話になってる先輩がいるんだけど、公遙のこと会わせたくて。今日の夜空いてる?」
「なんもねーけど」
「よかったぁ、じゃあ
「おー」
なんとなく約束して、なんとなく集まる。背中なんか預け合わなくって、それでいいのかもしんねーな。
二、壊れて繋がったもの 〜ties〜
おれが今いる大学某所の講義室。そのちょうど真ん中で、悪魔の
「秋瓢ぁ、なんか邑くんが友達紹介したいから夕食会しませんかだって」
「ゆ、ゆーしょくかい? そんな体裁しっかりとしたものやるの? 無理無理……友達の友達とかどんな顔して会えばいいかわかんないし……悪いけど丁重に断……」
「もうOKしちゃった」
「は?」
「
「あっ」
そうだった、元はと言えばすっくんは和陽経由の知り合いだった。その時点でもうこの
さらに不幸は重なる。
「今飯の話してませんでしたぁ? wぼくもお仲間に入れてくださいよぉ〜」
「うわっ、出たよ……」
「何すか人のこと害虫みたいにぃ」
実際、宗鞠は神出鬼没すぎるので、エンカウントの頻度としては害虫と遜色ない。
「実際そうだろ」
「まぁ、否定しねーっすけどぉ」
「そこは否定しときな宗鞠、じゃないともっとキツめに来られるぞ」
最初は険悪気味だったのに和陽と宗鞠もすっかり悪友っぽくなってるし……
──あぁ、そうか。
もう拒めないほどに
不思議なもので、もう無理だと、決死による覚悟で心を壊したはずなのに、優しさの
思えば、おれはずっと人の手を借りることを
でも実際は、
もしそれが生糸だったとしても、おれに届く頃には太く
千切れて散り散りになったはずのおれの心は、
これは
泣きたい時に泣ける場所は、いくらあっても困らないと──ようやっと思えてきた。
「ありがとな、二人とも。いつもすいません」
「なんだよあっくんいきなり感謝なんか告げちゃってぇw」
「僕らなんもしてないっすよぉ〜?」
──してんだよ、色々と。
言葉にできないのが歯痒いが、その分、強く……
せめて、一瞬だけでも、おれも誰かの撚り糸になれていたら、壊れてしまった
それよりまず……
「挨拶かぁ……しんど」
「まずそっからだよなぁ、あっくんは」
「僕が仲人やるんでだいじょーぶですよぉ」
「いや結婚式じゃねーから……」
──やっぱり支え方はもう少し熟考していただきたい。
三、やった方は案外覚えてない 〜faith〜
秋瓢はオレに限らず、他人に
──オレはそう解釈している。
だから新たに友達を作るのに二の足を踏んでたりするんだろう。それは個人の
わかっているつもりだから言葉はいらない……はずだけど、ちょっとは欲しいと期待してしまう。
大学での昼下がり、どこからともなく現れた宗鞠と一緒に昼飯を食っているとSMSにメッセージが入った。
【この前話してた友達のこと紹介できそうなので、お夕飯の予定なければ、どうかなぁって思うんですけどどうですか?】12:56
【二人とも大丈夫! オレらからも一人紹介していい?】12:56✔︎
【はい、是非!!】13:01
こういう話は本人の許しを問わずに断行した方が秋瓢は折れやすい。逆に自分で決めちゃうと決めた時点からその
「秋瓢ぁ、なんか邑くんが友達紹介したいから夕食会しませんかだって」
了解の返事を打ちながら伝える。
「ゆ、ゆーしょくかい? そんな体裁しっかりとしたものやるの? 無理無理……友達の友達とかどんな顔して会えばいいかわかんないし……悪いけど丁重に断……」
やっぱり来た。何度やっても慣れないんだなぁ……まあ、そこがかわいいんだけど。
「もうOKしちゃった」
「は?」
「
「あっ」
どうやら気づいたらしい。自分が嫌だ嫌だと言いつつもそのままの「おれ」でどれだけの人と関係を持っていたのか。
お前は
そう口では伝えているはずだが、秋瓢はなかなかそれにOKを出さない。出されなくてもオレはいいけど、墓場に持っていくまで心を許せる人間が
たとえその
そんなことを考えてるうちに、隣に座っている秋瓢の表情がだんだんと緩まっていくのを感じる。
しょうがないと諦めたのか、多くを語らないせいでオレはいつも苦手な行間を読む羽目になる。
バカだからちゃんと言葉で伝えてって言ってるのに。
でも、
「ありがとな、二人とも。いつもすいません」
素直な謝意なんていつぶりに聞いただろうか。こんな時にありがちな弱っているそぶりもない。これは……本心?
──でも一体どこで?
何かしてやってる気持ちもないし、そんな痛く感謝されるようなことなんてもっとない。心当たりがなさすぎてむしろ怖いまである。
「なんだよあっくんいきなり感謝なんか告げちゃってぇw」
とりあえず動揺を隠すためにちょけておいた。
「僕らなんもしてないっすよぉ〜?」
宗鞠も加勢してくれ他のでその場はなんとかバレずにことなきを得た(?)。
「秋瓢ぁ、もっと気持ち言葉で教えてよぉ。オレ時々何考えてっかわかんねーんですけど」
「──っ」
咳払いをした。これは好意的な反応だ。
「知られたくないからこのままでいい」
「さいですかぁ」
あーあ、また
んでもまぁ、彼の
四.邂逅一番地 〜A new Friendship? 〜
「お邪魔しまぁす」
「うす」
僕たちは約束通り、先輩たちの部屋のドアを開けた。そこにいたのは……
「あれぇ? 言ってなかったっけ、オレら側からも合わせたい奴がいるって」
「言ってましたけど、待ち構えられてるとは……」
てっきり
「すみません、僕の早とちりでしたぁっ!」
「まぁ、知らない男が3人いたらビビるよね、主に
燈沓先輩が僕たちの胸中を察して席へ通してくれた。
そして一言。
「合コンか……席の配置」
僕の隣からも「先に突っ込んでくれて助かった」と安堵の声が聞こえる。
向かいの左端にいるのは僕も知らない人。さしずめ僕の二人目の
程なくして会が始まる。
「まずは年上から名乗った方がいい気がするんで……燈沓秋瓢って言います。だいぶネガティブ思考だけどそこのところよろしく……」
「遠輿和陽って言います! 趣味はアウトドアアクティビティと料理です、隣の秋瓢と一緒にここに住んでます」
「同居アピいいって……」
「ふふっ」
いつもの二人だ、と思っていると三人の中で一番陽気そうな声が耳を射抜いてくる。
「二人の同級生の鎮塚宗鞠っていいまぁす! 趣味はネトゲとネットサーフィン! あと美味いもん食うことっす! だいぶガヤガヤしてますがよろしくお願いしますぅw、あっ、うちゲーミングPCあるんで遊びに来ていいっすよぉ」
にへら、という表現がピタリと合うような笑みだった。座る姿も猫背気味で栗毛にパールホワイトが混ざったような髪色は猫っ毛なのかところどころ跳ねている。
──一言で言うなら凄腕ハッカーっぽい出で立ちだ。
「よろしくお願いします。鎮塚先輩! 僕、邑嶺涼喜って言います」
「うわぁっ、先輩! 先輩だってェ……! えへへぇ〜照れるすねぇ」
まるで子供のようにはしゃぐ声に、「うっせぇ帰らすぞ」とピシャリ。燈沓先輩がこの口調ということはだいぶ気心が知れている……のかもしれない。
「じゃあ最後、公遙」
遠輿先輩と燈沓先輩が体をズイッと(実際はしていないが)張るように目を瞬かせる。
「鵜城公遙です、こいつとは同じ学校で……なんやかんやあって仲良くなった……と思ってます」
「しゃあ〜っす」
「よろしく……」
「よろしくなぁ」
その、
──その代わりに質問は僕に集中する。
「すっくんが名前呼び捨てなんて……」
「なぁ? びっくりした、淀みねーんだもん」
「そんな変ですか!?」
「いや変っつーか、慣れない? オレらの前だとずっと敬語だったじゃん」
「……そうなんすか? こいつ結構口強いっすけど」
「それは……」
「なぁるほどぉ、詳しくお聞かせ願おうかぁ〜」
「なんかよくわからんけどぼくも聞きたい!」
「話していいよな、涼喜」
「いいけど……」
「その前に料理出すよ……冷める」
「ぼっ、僕手伝います!」
「「逃げたな」」
ヒヤヒヤしたけど、美味しい料理と楽しい歓談で、いい
────
気づけば時計は
「やべっ、もうこんな時間じゃん! ごめんなぁ、引き止めちゃって」
「楽しかったんで平気っす」
「僕もいっぱい喋っちゃいました!」
「──2人はおれが送ってくよ、公遙くんは歩きで行ける距離だって言ってたっけ」
燈沓先輩が重そうに腰を上げた。
「「おぉ?」」
「そこうるさい」
「怒られちゃったなw」
「ですね?」
と……もう一個確認。
「公遙……楽しかった?」
「そー言ってんだろバカ……お前のルーツがわかった気ィするわ」
「ごめんごめんw、じゃあまた」
「おう」
「秋瓢ぁ、遅くなるなら連絡しろよぉ、宗鞠のことも送ってくんだろ」
「わかってますって……いくぞ宗鞠」
「へーい」
ガチャンと扉が閉まる。
「終わっちゃいましたね……」
「また集まりゃいいじゃん。5人で。なんでもない時にさ」
「早く5人
「言うようになったなぁ、邑くん」
「そうですかねぇ」
そこははぐらかしておいた。多くを語らないのもまた、一つの筆の運び方……そんな気がするから。