天蓋に、太陽と月の次に、強く輝く星を明星と呼ぶ。
アヴェスタ山脈の一角、カシーヤを一望できるその場所に、一人の少女の姿があった。
その相貌は明星の如く黄金に輝き、金色の髪が夜風にたなびいている。白と黒のコントラストを描くゴシックドレスを身に纏っていた。
あどけない白面の容貌から滲み出る悪辣。
結社“虚空の柩”の盟主、三賢人の一人、アリストテレス。
都市カシーヤを冷たく見下ろしていた彼女の傍に、影が侍る。
影が羽織る外套には渦巻く風の紋章が描かれている。
風魔竜への信仰と風魔教団への帰属を示すシンボルだ。
──クライシュに風魔教団あり。
そう恐れられることでクライシュを守護する、彼ら暗殺教団の誇りは、その盟主たる三賢人の手によって、変質を遂げようとしていた。
「回収できた?」
アリストテレスは振り向かずに問うた。
「はい、こちらに」
影が手渡したのは一冊の本だった。
六芒星を象ったヒトデが張りついたような薄気味悪い装丁。
始原武装“万魔目録”ヘテルツォラシュだ。
「黒鉄の部隊と、エルフの集団が周囲を探索しています。恐らくはヘテルツォラシュを探しているものかと」
「彼らに先んじられたのは素晴らしい成果ね。よくやったわ」
アリストテレスは頷いた。影を一瞥すらしない。
彼女はそっとヘテルツォラシュの表紙を撫でた。
「お疲れ様、
その声音は、先程までの表情とは打って変わって柔和で、穏やかなものだった。
そして、彼女は再び冷めた眼光で眼下の都市に目を移す。
「結果は思う通りには行かなかったけど、
「……黒鉄会、ホワイトベル・ファミリーについては今後、如何いたしますか?」
「そうね」
影からの問いに、アリストテレスは顎に指を当てながら答える。
「まさか執行者を二人も失う結果になるとは思わなかったわ。黒鉄斬雄、クローディア=ホワイトベル。侮っていたつもりはないけれど、認識を改める必要はありそうね」
彼女はパンと手を叩いた。
「執行者を招集してちょうだい」
「……どなたをお呼びすれば?」
その問いにアリストテレスは目を細めて笑みを浮かべる。
「
其は、権謀術策の懐刀。その刃は四方を彼方まで穿つ。
「
其は、呪われし忌み子。死を纏い、死を食らう蛇。
「
其は、傲岸なる簒奪者。万手を
「
其は、国を呑みし淫婦。抗えぬ魔性の
「……!」
影は思わず息を呑んだ。
一つの作戦にここまでの執行者が投入された例は、少なくとも彼が知る中では、一度もない。
「ほら、よく言うでしょう? 戦力の逐次投入は愚策だって」
悪魔は嗤う。次の悲劇を目論んで。
「──さあ、