台湾有事 その日、日本有事になった   作:合点承知

15 / 19
DAY -3

2030年8月22日 午前4時52分

中国・福建省福州市

東部戦区指揮施設

 

夜はまだ明けていなかった。

 

東部戦区指揮施設の会議室では、壁一面の大型画面だけが人の顔を青白く照らしていた。台湾海峡、中国沿岸、台湾本島、そのさらに東の太平洋までを含む作戦図には、昨日までとほとんど変わらない数の記号が並んでいる。

 

ほとんど変わらない。

 

それこそが問題だった。

 

本来なら、この日の正午で大規模演習は終了する予定になっていた。

 

演習が本当に終わるのなら、すでに一部の部隊では撤収準備が始まっていてもおかしくない。艦艇なら帰投に向けた配置変更、航空部隊なら前方基地からの移動、ロケット軍なら展開状態の解除、民間船なら港湾集積の縮小が見え始める時間だった。

 

だが、何も減っていない。

 

周啓明中将は机に置かれた冷めたコーヒーにも手をつけず、台湾東側の海域に表示された艦艇配置を見ていた。

 

作戦参謀が時計を見る。

 

「予定では、あと7時間8分です」

 

周は資料から顔を上げた。

 

「何が」

 

「演習終了時刻です。正午」

 

周は一度だけ時計を見て、それからまた資料へ視線を戻した。

 

「予定ではな」

 

作戦参謀は少し笑いかけたが、続く言葉が見つからなかった。

 

周自身も笑わなかった。

 

情報参謀が新しい画面を出した。

 

「台湾側は夜間も分散作業を続けています。空軍機の一部は主基地から移動。防空部隊も配置変更を継続しています。米軍は嘉手納とグアムでさらに航空機を移動させました」

 

周が聞いた。

 

「日本は」

 

「南西方面の航空部隊が即応態勢を維持。早期警戒機の活動も増えています。海上自衛隊の艦艇も港外待機を増やしています」

 

「昨日の海上輸送船は」

 

「神戸の海成丸です。昨日から積載準備に入っています」

 

そこで周の指が止まった。

 

「積荷は」

 

「現時点では日本側の人道支援物資が中心です」

 

周が情報参謀を見る。

 

「現時点では?」

 

情報参謀は少し間を置いた。

 

「米軍側で、追加貨物の選定と輸送準備を進めている兆候があります」

 

作戦参謀が顔を上げた。

 

「武器か」

 

「断定はできません。ただ、航空機関連部品、防空関連装備、弾薬を含む可能性があります」

 

「台湾へ?」

 

「そう見ています」

 

作戦参謀は周を見る。

 

「昨日の方針を維持しますか」

 

周はすぐには答えなかった。

 

「何の話だ」

 

「日本船が台湾へ武器を運ぶ場合です」

 

「まだ船は出ていない」

 

「出た場合です」

 

周は作戦参謀を見た。

 

「昨日も言っただろう」

 

「昨日とは状況が変わっています」

 

「何が変わった」

 

作戦参謀は少し前へ身を乗り出した。

 

「日米台は、我々が攻撃すると見て準備を始めています。米軍は航空機を散らし、日本も艦艇を動かし、台湾は防空部隊を移動させている。こちらが日本への配慮を続けても、日本が最終的に参戦しない保証はありません」

 

周は少し黙った。

 

「ない」

 

作戦参謀が一瞬、意外そうな顔をした。

 

周は続けた。

 

「保証など最初からない」

 

「なら」

 

「保証がないことと、こちらからその確率を100に近づけることは別だ」

 

作戦参謀は黙った。

 

周は大型画面に日本列島を表示させた。

 

北海道から南西諸島までが映る。

 

その南西端近くには、嘉手納、那覇、佐世保、岩国など、米軍と自衛隊の主要拠点が表示されている。

 

「今の日本は、政府と軍が先に動いている」

 

「はい」

 

「国民はまだ後ろにいる」

 

情報参謀が小さく頷いた。

 

「台湾への支援については理解が広がっています。ただ、自衛隊が中国軍と直接戦うことについては、世論はかなり割れています」

 

周は日本列島を見たまま言った。

 

「その間にあるものを、こちらから壊すな」

 

作戦参謀が眉を寄せる。

 

「何をです」

 

「政府と国民の距離だ」

 

周は続ける。

 

「日本政府が危機だと説明しても、国民全員が明日から中国と戦争しようと思うわけではない。その距離が残っている限り、日本政府の選択肢は制約される」

 

「でも日本船が武器を運べば」

 

「その距離は縮まる」

 

「なら止めるべきです」

 

「止め方を間違えれば、一気になくなる」

 

作戦参謀はそれ以上言わなかった。

 

情報参謀が時計を見る。

 

午前4時57分。

 

北京から、演習終了に関する新しい指示はまだ来ていない。

 

作戦参謀が低い声で言った。

 

「今日、本当に終わるんでしょうか」

 

周は数秒、大型画面を見続けた。

 

「終わるなら、そろそろ撤収に向けた命令が来てもいい」

 

「まだ来ていません」

 

「そうだ」

 

会議室が静かになった。

 

誰も、その沈黙を安心材料とは受け取らなかった。

 

午前5時41分

台湾・新北市

 

怡君は飛行機の音で目を覚ました。

 

最初は夢の中の音だと思った。

 

低く長いエンジン音が窓の外から響き、少し遅れて別の音が重なる。

 

時計を見る。

 

午前5時41分。

 

隣の部屋から俊偉の声がした。

 

「また飛んでる」

 

怡君は布団の中から答えた。

 

「聞こえてる」

 

数日前なら、そのままもう一度目を閉じていた。

 

中国軍の演習が始まってから、戦闘機の音にも多少慣れていた。

 

今日はスマートフォンへ手を伸ばした。

 

ニュースアプリを開く。

 

中国軍の動向。

 

台湾国防部の発表。

 

米軍の活動。

 

日本政府の警戒強化。

 

どの記事にも、ほとんど同じ文章が入っていた。

 

**「本日正午、中国軍演習終了予定。」**

 

ドアが少し開いた。

 

俊偉が顔を出す。

 

「今日で終わるよね」

 

怡君は画面から目を離さずに答えた。

 

「予定では」

 

俊偉が少し嫌そうな顔をした。

 

「姉ちゃんまでそれ言うようになった」

 

怡君はそこで初めて自分の言い方に気づいて、少し笑った。

 

「本当だ」

 

「前まで『今日で終わるでしょ』だったのに」

 

「だって、まだ飛んでるじゃん」

 

俊偉も窓の方を見る。

 

「最後だから飛んでるんじゃない?」

 

「そうかもしれない」

 

「そういう言い方も嫌」

 

「じゃあ何て言えばいいの」

 

俊偉は答えなかった。

 

少しして怡君が聞いた。

 

「大学は?」

 

「連絡来た」

 

「何て?」

 

「来週の授業、オンラインに切り替えるかもしれないって」

 

怡君が顔を上げた。

 

「来週?」

 

「うん」

 

2人とも黙った。

 

今日の正午で演習が終わるのなら、来週の授業について今このタイミングで連絡する必要はない。

 

大学側も、今日で全部元に戻るとは考えていないらしい。

 

俊偉も同じことに気づいたようだった。

 

「まあ、念のためだろうけど」

 

怡君は頷いた。

 

「そうだね」

 

声には、自分でも分かるほど説得力がなかった。

 

俊偉が部屋へ戻ろうとしてから、一度振り返った。

 

「正午になったらニュース見る?」

 

「見ると思う」

 

「終わったって言ってほしいね」

 

怡君はスマートフォンを見る。

 

「うん」

 

今度だけは、はっきり答えた。

 

午前6時18分

東京都新宿区・防衛省

 

佐伯直哉二等海佐は、ほとんど寝ていなかった。

 

若い分析官も同じだった。

 

机の上には紙コップが3つ並んでいる。

 

そのうちどれが今飲んでいるものなのか、本人にも分かっていないようだった。

 

若い分析官が画面を見ながら言う。

 

「中国側、撤収の兆候ありません」

 

佐伯が時計を見る。

 

「まだ早い」

 

「ですよね」

 

「正午まで5時間以上ある」

 

若い分析官も時計を見る。

 

「5時間42分です」

 

佐伯が彼を見る。

 

「細かいな」

 

「今日は時計ばっかり見てるんで」

 

そこへ情報部門の一佐が入ってきた。

 

「何か出た?」

 

佐伯は首を横に振る。

 

「撤収準備らしい動きは、今のところありません」

 

一佐が聞く。

 

「逆は?」

 

若い分析官が答えた。

 

「あります」

 

一佐の足が止まる。

 

「何」

 

「福建沿岸の一部航空基地では夜間も活動継続。ロケット軍も展開位置を維持しています。海上部隊にも帰投に向けた動きがありません」

 

「増えてる?」

 

佐伯が答える。

 

「大きくは増えていません」

 

「でも減ってない」

 

「はい」

 

一佐は椅子へ座った。

 

「普通、演習最終日ってどんな動きになる」

 

佐伯は少し考えた。

 

「規模にもよりますが、少なくとも全部が同じ配置のまま正午を迎えるとは考えにくいです。一部部隊は帰投準備、補給部隊は撤収、港湾集積も縮小し始める。それが自然です」

 

「それがない?」

 

「今のところは」

 

「何時まで待つ」

 

佐伯は画面を見た。

 

「中国側の公式発表が出るまで。何もなければ、正午を過ぎた時点で評価を更新します」

 

一佐が少し黙った。

 

「評価文は?」

 

「昨日から準備してあります」

 

「読み上げて」

 

佐伯は一瞬ためらった。

 

それから文書を開く。

 

「『中国軍は演習終了予定日を迎えた現在も、台湾周辺に展開した主要部隊の縮小・帰投に向けた明確な動きを示していない』」

 

一佐は黙っている。

 

佐伯が続けた。

 

「『予定時刻を超えて現態勢が維持された場合、一連の部隊集積を通常の演習として説明することは著しく困難となる』」

 

読み終える。

 

一佐が言った。

 

「昨日より強いな」

 

「はい」

 

「使うと思う?」

 

佐伯は時計を見る。

 

「使いたくないです」

 

「聞いてるのはそこじゃない」

 

佐伯は少し黙った。

 

「使うと思います」

 

一佐はそれ以上聞かなかった。

 

若い分析官が画面を見ながら小さく言う。

 

「正午になって帰り始めたら、全部笑い話ですね」

 

佐伯が答えた。

 

「そうなったら俺が一番笑うよ」

 

「怒られません?」

 

「笑いながら怒られる」

 

一佐が少しだけ笑った。

 

「それで済むなら安いな」

 

誰も、その可能性を高いとは思っていなかった。

 

午前7時03分

ハワイ・キャンプ・H・M・スミス

米インド太平洋軍司令部

 

「撤収準備は確認できません」

 

情報参謀の報告に、司令官は椅子から立ち上がった。

 

「ゼロ?」

 

「少なくとも、演習終了日に通常期待される規模の動きはありません」

 

大型画面には東部戦区の主要軍事活動が並んでいた。

 

司令官は一つずつ確認する。

 

「艦艇」

 

「配置維持」

 

「航空機」

 

「前方基地から大規模な帰投なし」

 

「ロケット軍」

 

「展開継続」

 

「民間船」

 

「港湾集積維持」

 

「病院」

 

「前方受け入れ態勢維持」

 

司令官は情報参謀を見る。

 

「撤収へ向かってるものは?」

 

短い沈黙。

 

若い情報将校が答えた。

 

「目立ったものはありません」

 

司令官は壁の時計を見る。

 

「評価は?」

 

「昨日の75から85への引き上げを提案します」

 

司令官が振り返った。

 

「10上げる?」

 

「はい」

 

「まだ正午前だぞ」

 

「それでもです。演習終了日の朝になっても縮小が始まらない。その事実自体に意味があります」

 

司令官は少し苦い顔をした。

 

「分析ってのは慎重にやれと言われる一方で、遅れたら何を見てたって怒られる」

 

情報参謀が答える。

 

「両方必要です」

 

司令官は一瞬だけ彼を見る。

 

「そうだったな」

 

若い情報将校が資料を切り替えた。

 

「日本側の海上輸送についても進展があります」

 

「船?」

 

「海成丸。日本政府が確保済みです」

 

「積荷は」

 

「日本側の人道支援物資に加え、米側から提供可能な装備を選定しています」

 

画面に優先候補が表示される。

 

航空機用交換部品。

 

暗号通信機材。

 

防空関連装備。

 

弾薬。

 

医療物資。

 

戦闘開始後、短期間で不足しやすいものが優先されていた。

 

司令官が聞く。

 

「全部一隻に?」

 

「当然全部は無理です。優先順位を付けます」

 

「台湾側が一番欲しいのは」

 

「弾薬と航空機用交換部品です。特に、戦闘開始後数日で消耗が問題になる可能性のあるもの」

 

「防空弾薬?」

 

「含まれます」

 

司令官は少し考えた。

 

「日本側には」

 

「まだ詳細を提示していません」

 

「今日出せ」

 

情報参謀が確認する。

 

「正式な出港要請ですか?」

 

「違う。積載準備要請だ」

 

「武器まで?」

 

「そうだ」

 

「日本側は難色を示す可能性があります」

 

「分かってる」

 

司令官は台湾の地図を見る。

 

「出すかどうかは政治が決める。でも、出すと決めた日に船倉へ荷物を積み始めたら遅い」

 

「了解」

 

「それに、出さずに済むなら一番いい」

 

若い情報将校が聞いた。

 

「準備だけして、使わない?」

 

「それが一番いい準備だ」

 

司令官は画面に表示された海成丸を見る。

 

「台湾に時間を買うんだろ」

 

「はい」

 

「だったら、こちらが準備で時間を無駄にするな」

 

「了解しました」

 

午前8時27分

中国・北京市

中央軍事委員会関連施設

 

会議そのものは短かった。

 

少なくとも、表面上は。

 

大型画面に東部戦区側が接続され、周啓明中将も福州から参加している。

 

中央側の幹部が文書を読み上げた。

 

「本日正午に予定されていた東部戦区統合演習の終了について、計画を変更する」

 

周は画面越しに相手を見る。

 

「演習は継続する」

 

隣にいた作戦参謀の姿勢がわずかに変わった。

 

中央側の幹部は続ける。

 

「延長期間は現時点で公表しない」

 

周が聞いた。

 

「対外説明は」

 

「訓練成果のさらなる深化、および複雑な海空状況下での統合作戦能力検証」

 

公式説明だった。

 

周は一度だけ頷いた。

 

「実作戦開始との関係は」

 

中央側の幹部が周を見る。

 

「別だと昨日伝えた」

 

「了解」

 

「部隊配置は現状を維持。一部部隊は予定された次段階へ移行する」

 

周が聞く。

 

「次段階とは」

 

「個別命令で伝える」

 

周はそれ以上聞かなかった。

 

中央側の幹部が最後に言った。

 

「対外発表は午前10時」

 

周が時計を見る。

 

正午まで、まだ1時間半以上ある。

 

「正午を待たない?」

 

「そうだ」

 

「了解しました」

 

通信が終了した。

 

画面の一つが暗くなる。

 

作戦参謀がすぐに周を見る。

 

「延長ですか」

 

「聞いていただろう」

 

「期間未定」

 

「そうだ」

 

「正午を待たずに、午前10時に発表する」

 

「そうなる」

 

作戦参謀は少し考えた。

 

「日米台はどう見ます」

 

周は椅子にもたれた。

 

「正午まで待つ意味がなくなる」

 

「つまり?」

 

「今日の正午になれば帰るかもしれない、という説明が消える」

 

「最悪に近い見方をする?」

 

「するだろうな」

 

「それでも発表する」

 

周は画面に並ぶ中国軍部隊の記号を見る。

 

「そうさせる段階に入ったということだ」

 

作戦参謀は少し黙った。

 

「昨日までとは違いますね」

 

周が答える。

 

「昨日までは、相手に迷う理由が残っていた」

 

「今日は?」

 

周は静かに言った。

 

「迷う理由が一つ減る」

 

作戦参謀は何も言わなかった。

 

周も、この決定が相手の準備を加速させることは理解していた。

 

だが北京は、それでも延長を選んだ。

 

それ自体が、すでに一つのメッセージだった。

 

午前9時52分

東京都新宿区・防衛省

 

若い分析官がイヤホンを押さえた。

 

「中国国防部、午前10時に臨時会見」

 

佐伯が顔を上げた。

 

「内容は」

 

「まだ不明です」

 

一佐も立ち上がる。

 

「全員呼んで」

 

「はい」

 

分析室の空気が変わった。

 

テレビがつけられ、中国側公式配信が大きく映される。

 

翻訳担当が席に入る。

 

外務省との回線。

 

米側との共有回線。

 

官邸への即時報告回線。

 

すべてが開かれた。

 

佐伯は何も言わず、画面を見ていた。

 

若い分析官が小さな声で言った。

 

「終了前の会見ですよね」

 

「そうだな」

 

「終了発表なら正午にやりませんか?」

 

佐伯は答えなかった。

 

午前9時58分。

 

中国国防部の配信画面が切り替わった。

 

報道官。

 

演台。

 

中国国旗。

 

記者席。

 

何度も見慣れた画面だった。

 

だが、今日は誰も雑談しなかった。

 

午前10時。

 

報道官が原稿を読み始める。

 

「中国人民解放軍東部戦区は、台湾島周辺において実施している統合軍事演習について……」

 

翻訳担当の声が少し遅れて重なる。

 

「……現在の訓練成果をさらに深化させ、複雑な海空環境下における統合作戦能力を検証するため……」

 

若い分析官の手が止まった。

 

報道官が続ける。

 

「……本日正午に予定していた終了時期を変更し、演習期間を延長する」

 

室内から音が消えた。

 

さらに続く。

 

「終了時期については、今後の訓練状況に応じて決定する」

 

一佐がゆっくり椅子に座った。

 

若い分析官が佐伯を見る。

 

「佐伯さん」

 

返事がない。

 

「佐伯さん」

 

佐伯がようやく口を開いた。

 

「正午を待つ必要、なくなったな」

 

誰も返事をしない。

 

佐伯は中国軍配置を映した別の画面を見る。

 

「帰らないって、自分で言った」

 

一佐が聞いた。

 

「評価上げる?」

 

佐伯はすぐに答えた。

 

「上げます」

 

「どこまで」

 

「昨日作った文面を直します」

 

若い分析官が聞く。

 

「侵攻前提?」

 

佐伯は少し考えた。

 

「そこまで書く」

 

「確定じゃなく?」

 

「確定じゃない。でも、有事が起きる前提で動かないと遅れる」

 

一佐が小さく頷いた。

 

「やれ」

 

佐伯はキーボードへ手を伸ばした。

 

正午まで残っていたはずの2時間は、中国側自身の発表によって消えた。

 

午前10時06分

台湾・台北市

総統府

 

「演習延長を発表しました」

 

国防部長の言葉に、総統は手元の資料から顔を上げた。

 

「正午前に?」

 

「はい。午前10時です」

 

「期間は」

 

「公表していません」

 

「理由は」

 

「訓練成果の深化、統合作戦能力の検証」

 

総統は一瞬だけ目を閉じた。

 

「便利な言葉ね」

 

誰も笑わなかった。

 

軍幹部が大型画面に中国軍配置を出す。

 

「これで正午の終了を待つ必要はなくなりました。主要部隊に縮小の兆候はありません。それどころか、一部では活動量が増えています」

 

総統が聞く。

 

「侵攻可能性は」

 

「大幅に引き上げます」

 

「数字で」

 

少し沈黙。

 

「85パーセント以上」

 

総統が軍幹部を見る。

 

「昨日はまだ30残ってた」

 

「はい」

 

「今日は15」

 

「はい」

 

「その15は何?」

 

国防部長が答えた。

 

「大規模な威圧行動のまま終了する可能性です」

 

「本当にそう思ってる?」

 

国防部長は少し黙った。

 

「可能性としては残っています」

 

「あなた個人は」

 

今度はさらに長い間があった。

 

「侵攻準備だと思っています」

 

総統は静かに頷いた。

 

「私も」

 

その言葉が出た後、誰もすぐには話さなかった。

 

総統が続ける。

 

「警戒態勢をもう一段上げて」

 

「はい」

 

「航空機分散を拡大。主基地だけに置かない。主要指揮所の一部を代替施設へ移して。弾薬と燃料も追加分散」

 

「すでに準備しています」

 

「海軍は」

 

「帰港を最小限にします」

 

「予備役」

 

「限定的な招集拡大を提案します」

 

総統は少し考えた。

 

「公表したら買い占めが増えるかもしれない」

 

国防部長が答える。

 

「隠しても、もう分かると思います」

 

総統は窓の方を見る。

 

台北の街は朝の光の中で普通に動いている。

 

「そうね。やって」

 

「了解しました」

 

総統はさらに続ける。

 

「国民向け声明も準備して」

 

「内容は」

 

総統は少し迷った。

 

「落ち着いて、と言って」

 

「はい」

 

「でも嘘はつかない」

 

国防部長が頷く。

 

「はい」

 

「『何も心配ありません』は、もう使わないで」

 

「了解しました」

 

総統は地図を見る。

 

中国沿岸に並ぶ大量の記号。

 

「安心させることと、安心できる状況だと言うことは違う」

 

誰も反論しなかった。

 

午前10時19分

東京都新宿区・防衛省

 

一佐が佐伯を見る。

 

「正午まで待つか」

 

佐伯は首を横に振った。

 

「待つ理由がなくなりました」

 

昨日から用意していた評価文を開く。

 

一度読み、数か所を書き換える。

 

「使います」

 

「読んで」

 

佐伯が口を開いた。

 

「『中国軍は本日、予定されていた正午の演習終了を前に、演習期間の延長を正式に発表した。台湾周辺に展開した主要部隊についても、縮小・帰投に向けた動きは確認されていない』」

 

一佐は黙って聞いている。

 

「『これにより、一連の大規模な部隊集積、兵站活動および民間輸送力の動員を、予定された演習の範囲として説明する根拠は大幅に失われた』」

 

若い分析官が佐伯を見る。

 

佐伯は続ける。

 

「『中国軍が台湾に対する実際の軍事行動へ移行する可能性は極めて高く、我が国としても台湾有事の発生を前提とした警戒態勢へ速やかに移行する必要がある』」

 

若い分析官が聞いた。

 

「前提とした、まで書きます?」

 

「書く」

 

一佐が確認する。

 

「侵攻確定とは書かない」

 

「まだ書けません」

 

「でも、有事が起こる前提で動く」

 

「そうです」

 

一佐は小さく頷いた。

 

「上げろ」

 

「はい」

 

若い分析官が報告系統へ文書を流し始める。

 

佐伯は画面を見た。

 

正午まで残っていたはずの最後の猶予を、中国自身が2時間早く消した。

 

若い分析官が小さく言った。

 

「午前中に一気に来ましたね」

 

佐伯が聞く。

 

「何が」

 

「昨日まで『もしかしたら帰るかも』だったのに」

 

佐伯は画面から目を離さなかった。

 

「その『もしかしたら』が、一番大きかったんだよ」

 

「2時間で消えた」

 

「中国が消した」

 

一佐が聞く。

 

「佐伯」

 

「はい」

 

「ここから何を見る」

 

佐伯は中国沿岸の表示を拡大する。

 

「帰るかどうかじゃありません」

 

「何を見る」

 

「使う準備がどこまで進むかです」

 

一佐の顔からわずかに残っていた余裕が消えた。

 

午前11時04分

ワシントンD.C.

ホワイトハウス

 

大統領は会議室に入るなり言った。

 

「正午を待たずに延長したな」

 

国防長官が頷く。

 

「はい」

 

「期間未定」

 

「はい」

 

「評価は」

 

情報機関責任者が答えた。

 

「90パーセントへの引き上げを提案します」

 

大統領が椅子へ座る。

 

「まだ10残すのか」

 

「軍事威圧で終了する可能性は、理論上残っています」

 

大統領が彼を見る。

 

「君はそう思う?」

 

情報機関責任者は少し黙った。

 

「個人的には、侵攻準備だと考えています」

 

大統領が眉を上げた。

 

「今日はみんな個人的意見を言う日なのか」

 

国防長官が少し苦笑した。

 

「公式評価が追いつかなくなっています」

 

大統領は笑わなかった。

 

「軍は?」

 

統合参謀本部議長が答える。

 

「中国軍による初撃を受ける可能性を前提に準備を進めます」

 

「どこまで」

 

「航空機分散をさらに拡大。主要港湾にいる艦艇を可能な範囲で港外へ移動。弾薬、燃料、予備部品の配置見直し。基地防空と指揮機能を分散。日本との共同調整も一段引き上げます」

 

大統領が聞く。

 

「2週間は」

 

「ありません」

 

「分かってる」

 

大統領は台湾を見る。

 

「だから、今ある日数を使う」

 

「はい」

 

「海上輸送は」

 

国防長官が資料を出した。

 

「日本側が海成丸を確保しています。こちらから積載を求める貨物を確定しました」

 

「何を入れる」

 

「人道支援物資に加え、台湾側から優先要求が上がっている防衛装備と弾薬です」

 

「具体的に」

 

「航空機用交換部品、暗号通信機材、防空関連弾薬、その他供与装備。医療物資も優先します」

 

大統領が資料を置いた。

 

「武器を積むのか」

 

「はい」

 

「日本の民間船に?」

 

「はい」

 

会議室が少し静かになった。

 

大統領が国家安全保障担当補佐官を見る。

 

「日本政府は受けると思う?」

 

「難しい判断です。昨日までは人道支援物資が中心でした」

 

「今日は違う」

 

「はい」

 

「状況が変わったから」

 

「そうです」

 

大統領は椅子にもたれた。

 

「この24時間で『状況が変わった』って何回聞いた」

 

誰も答えなかった。

 

大統領は少し考えた。

 

「日本へ正式に出せ」

 

「装備搭載まで?」

 

「そうだ」

 

「出港要請は」

 

「まだしない」

 

国防長官が確認する。

 

「積むだけ?」

 

「積め」

 

「中国側に見られます」

 

「分かってる」

 

大統領は国防長官を見る。

 

「でも必要になった時に、船倉が空でしたでは意味がない」

 

「はい」

 

「日本側には正直に説明しろ。この船が着けば台湾が勝てる、なんて言うな」

 

「承知しました」

 

「でも、届かなければ台湾が早く弱る可能性がある。それは言え」

 

「はい」

 

大統領は台湾海峡を見る。

 

「時間を買う船だ」

 

誰も否定しなかった。

 

午後0時02分

兵庫県神戸市

海成丸

 

高瀬修司は、船長室の時計が正午を過ぎるのを見ていた。

 

本来なら、この時間で中国軍の演習は終わるはずだった。

 

ところが2時間前に、中国側は演習延長を発表した。

 

しかも終了日は示されていない。

 

機関長が船長室へ入ってくる。

 

「正午ですね」

 

高瀬は窓の外を見たまま答えた。

 

「そうだな」

 

「本当なら終わってた」

 

「そうだな」

 

「全然終わってませんね」

 

「むしろ、こっちの仕事が増えた」

 

港ではトラックが動き続けている。

 

機関長が嫌そうな顔をした。

 

「政府の人、また来てます」

 

「分かった。入ってもらって」

 

数分後。

 

国土交通省関係者。

 

防衛省関係者。

 

船会社担当者。

 

昨日より人数が増えていた。

 

高瀬は相手の顔を見る。

 

「話、変わりました?」

 

防衛省関係者が答える。

 

「変わりました」

 

高瀬の表情から、わずかに残っていた笑みが消えた。

 

「何を積む」

 

「人道支援物資に加えて、米国から台湾へ供与される防衛装備を積載したいと考えています」

 

高瀬は少し間を置いた。

 

「防衛装備って、兵器ですか」

 

「含まれます」

 

「弾薬も?」

 

「はい」

 

横にいた機関長が小さく息を吐いた。

 

高瀬は防衛省関係者を見る。

 

「昨日、『可能性がある』って言ってましたね」

 

「はい」

 

「今日は決まった」

 

「はい」

 

「しかも、演習が終わるはずだった日に」

 

「はい」

 

高瀬は椅子にもたれた。

 

「随分分かりやすくなりましたね」

 

誰も笑わなかった。

 

高瀬は机の上の積荷予定表を見る。

 

「何を積むか、私は全部知れる?」

 

防衛省関係者は慎重に答える。

 

「詳細な性能や数量について制限がかかるものもあります。ただし、危険物として必要な情報は船長と安全管理担当者へ説明します」

 

「それでいい」

 

「港湾側との危険物取扱い調整も進めています」

 

高瀬が聞いた。

 

「乗員には?」

 

「防衛装備が含まれることを説明する予定です」

 

高瀬はすぐに聞き返した。

 

「防衛装備って言い方で?」

 

相手が少し黙った。

 

「兵器だと説明します」

 

「弾薬も積むと?」

 

「はい」

 

高瀬は頷いた。

 

「そこはぼかさないでください」

 

「承知しました」

 

「船に乗ってから『実は武器でした』は絶対にやめてください。乗るか降りるかを決める材料なんだから」

 

「はい」

 

機関長が聞く。

 

「船長、積むんですか」

 

高瀬は窓の外を見る。

 

今もトラックが港へ入ってきている。

 

「出ると決まってから積んでいたら間に合わない」

 

防衛省関係者が静かに頷いた。

 

「その通りです」

 

高瀬はしばらく考えてから立ち上がった。

 

「じゃあ積みましょう」

 

機関長が少し驚いて見る。

 

高瀬は続ける。

 

「ただし、出るかどうかはまだ別です」

 

「分かっています」

 

「積むことに同意したからって、出港まで同意したことにはしないでください」

 

「承知しています」

 

高瀬は積荷予定表を持ち上げた。

 

「乗員への説明は私からやります」

 

「政府側も同席できます」

 

「最初は私が話します」

 

防衛省関係者は頷いた。

 

「分かりました」

 

高瀬はもう一度窓の外を見る。

 

「本当に、出ると決まってから兵器積んでたら間に合わないな」

 

機関長が小さく言った。

 

「船長、言いながら自分で納得してません?」

 

高瀬は彼を見る。

 

「うるさい」

 

ほんの一瞬だけ室内に笑いが起こった。

 

それもすぐ消えた。

 

午後1時17分

兵庫県神戸市

港湾地区

 

米軍側が手配した最初の貨物車両が港へ入ってきた。

 

先頭には日本側の警備車両。

 

後ろには大型コンテナを載せたトラック。

 

木箱。

 

密閉されたパレット。

 

昨日まで積まれていた非常食や医薬品とは明らかに雰囲気が違っていた。

 

港湾作業員の一人が木箱の英語表記を見る。

 

「これ、アメリカの?」

 

隣の作業員が答える。

 

「勝手に開けるなって言われた」

 

「開けるわけないだろ」

 

「じゃあ聞くな」

 

「気になるだろ」

 

「気になるけど、知ったら余計嫌になるかもしれんぞ」

 

フォークリフトが木箱を持ち上げる。

 

その先には海成丸のランプウェイ。

 

日本側と米側の担当者が積載表を照合していた。

 

航空機用交換部品。

 

通信装備。

 

医療機材。

 

弾薬。

 

防空関連装備。

 

すべてが無造作に積まれているわけではない。

 

重量。

 

危険物区分。

 

火災時の隔離。

 

船体の重心。

 

荷役順。

 

緊急時に取り出す必要のある物資。

 

それらを考慮して積載位置が決められていた。

 

米側担当者が日本側へ言う。

 

「このパレットは優先度Aです」

 

日本側担当者が確認する。

 

「台湾到着後、最優先で卸す?」

 

「はい」

 

「航空機部品?」

 

「その分類で扱ってください」

 

近くにいた作業員が同僚へ小声で言った。

 

「分類って何だよ」

 

同僚も小声で答える。

 

「聞こえるって」

 

2人とも口を閉じた。

 

海成丸の船内へ、貨物が一つずつ消えていく。

 

昨日まで、この船は「必要になったら使えるかもしれない船」だった。

 

今日、少しずつ意味が変わっていた。

 

午後2時06分

東京都千代田区・首相官邸

 

首相は、中国側が演習延長を発表してから約4時間で3回目の説明を受けていた。

 

「米側の評価は90」

 

黒田が答える。

 

「はい」

 

「日本側は」

 

「台湾に対する実際の軍事行動へ移行する可能性が極めて高い、まで引き上げました」

 

首相は資料を見る。

 

「ほぼ侵攻すると見てる」

 

「実質的には」

 

「でも確定とは書かない」

 

「まだ攻撃は始まっていません」

 

首相は小さく息を吐いた。

 

「そこは最後まで残るんだな」

 

「はい」

 

首相が資料をめくる。

 

「海成丸は?」

 

「米側供与の防衛装備の積載を開始しました」

 

首相が顔を上げた。

 

「もう?」

 

「時間がありません」

 

「何を積んでる」

 

防衛関係者が答える。

 

「航空機用交換部品、通信機材、防空関連弾薬、医療物資等です」

 

「武器を積んだな」

 

「はい」

 

首相はしばらく黙った。

 

「これで中国から見れば、人道支援船だけじゃなくなる」

 

「そう見られる可能性は高いです」

 

「昨日より危険になった」

 

「はい」

 

「それでも積む理由は」

 

黒田が答えた。

 

「台湾と日米に時間を与えるためです」

 

首相が黒田を見る。

 

「台湾と日米?」

 

「積荷そのものは台湾軍が使います。防空弾薬、航空機部品、通信機材。それが台湾軍の戦力維持時間を延ばす。その間に日米が準備を進められます」

 

「どれくらい」

 

「分かりません」

 

首相が苦い顔をする。

 

「そればっかりだな」

 

「申し訳ありません」

 

「いや、分からないのは分かってる」

 

少し間。

 

「届けば意味はある?」

 

「あります」

 

「かなり?」

 

「台湾側が必要としている物資を優先しています。戦況次第では、数日単位で影響する可能性があります」

 

首相が静かに頷く。

 

「数日」

 

「はい」

 

「米軍が欲しいのも数日」

 

「そうです」

 

「台湾が失いたくないのも数日」

 

「はい」

 

首相は机に手を置いた。

 

「船一隻で時間を運ぶ、か」

 

黒田が首相を見る。

 

「そういうことになります」

 

「出港は」

 

「まだです」

 

「船長は?」

 

「積載には同意。出港判断は留保しています」

 

首相はすぐに頷いた。

 

「当然だ」

 

「はい」

 

「政府から圧力はかけるな」

 

「承知しています」

 

「必要になった時に必要性を説明する。それでも乗員が足りない、船長が危険すぎると判断したら出せない」

 

「はい」

 

「民間人だからな」

 

「はい」

 

首相は少し考えた。

 

「昨日言ったことは変わらない。船を政治の道具にするな」

 

黒田が頷く。

 

「承知しています」

 

首相はテレビ画面を見る。

 

中国国防部の午前10時の会見が繰り返し流れている。

 

「演習が延びただけで、ここまで来たか」

 

黒田は静かに答えた。

 

「演習が延びただけではありません」

 

首相が見る。

 

「何だ」

 

「正午で帰る可能性を、中国自身が消したんです」

 

首相は何も言わなかった。

 

午後3時11分

台湾・新北市

 

スーパーの飲料水売り場は、ほとんど空になっていた。

 

昨日はまだ棚の半分ほど残っていた。

 

今日は数本しかない。

 

怡君が棚を見る。

 

「ないね」

 

俊偉が隣で言った。

 

「朝はあったらしいよ」

 

「誰がそんなに買うの」

 

俊偉が怡君を見る。

 

「俺らも昨日2ケース買ったじゃん」

 

怡君は少し黙った。

 

「そうだった」

 

水だけではない。

 

カップ麺。

 

缶詰。

 

乾電池。

 

簡易ガス。

 

トイレットペーパー。

 

数日前まで普通に並んでいた商品が目に見えて減っている。

 

店内放送が流れた。

 

「飲料水は、お一人様2ケースまでとさせていただいております」

 

俊偉が言う。

 

「もう2ケースないけどね」

 

「昨日買っといてよかった」

 

「姉ちゃん、昨日は買いすぎって言ってたじゃん」

 

「言ってない」

 

「言った」

 

「言ってない」

 

「言ったって」

 

怡君はスマートフォンを取り出して話を変えた。

 

総統府からの新しい声明。

 

中国軍演習延長。

 

台湾軍警戒態勢の引き上げ。

 

予備役の一部招集拡大。

 

俊偉も画面を見る。

 

「俺、呼ばれるかな」

 

怡君が顔を上げた。

 

「何で」

 

「一応、兵役終わってるから」

 

怡君はすぐに答えられなかった。

 

「まだでしょ」

 

「まだ」

 

俊偉は少し笑おうとした。

 

「大丈夫だよ」

 

怡君が彼を見る。

 

「そういうの、今言わないで」

 

俊偉の笑顔が止まる。

 

「何が」

 

「大丈夫って」

 

「何で」

 

怡君は空になった棚を見る。

 

「最近、信用できない」

 

俊偉も棚を見る。

 

数秒後。

 

「じゃあ、何て言えばいい」

 

怡君は少し考えた。

 

「分からないって言って」

 

俊偉は小さく笑った。

 

「それも嫌だけど」

 

「でも嘘じゃない」

 

2人は結局、水を追加で買わずに店を出た。

 

午後4時28分

中国・福建省福州市

東部戦区指揮施設

 

「日本船への積載物が変わりました」

 

情報参謀の言葉に、周啓明中将が顔を上げた。

 

「何が入った」

 

「米側から台湾へ供与される防衛装備です。弾薬を含みます」

 

作戦参謀がすぐに反応した。

 

「確認できたのか」

 

「港湾の車両、警備態勢、米側関係者の動き、貨物形状などを合わせ、高い確度です」

 

「種類は」

 

「航空機用部品、通信装備、防空関連弾薬などと推定しています」

 

作戦参謀が周を見る。

 

「これでも攻撃対象にしない?」

 

周は答えなかった。

 

大型画面に神戸港の衛星画像が表示される。

 

海成丸。

 

ランプウェイ。

 

周囲の車両。

 

貨物。

 

作戦参謀が続ける。

 

「台湾の継戦能力を直接支援します」

 

「分かっている」

 

「放置すれば我々の作戦に影響する」

 

「分かっている」

 

「なら」

 

周が彼を見る。

 

「出港したのか」

 

「まだです」

 

「台湾へ向かっているのか」

 

「まだ」

 

「護衛艦は」

 

「現時点で海成丸に付いていません」

 

周は画面へ視線を戻した。

 

「なら、まだ決めるな」

 

作戦参謀が食い下がる。

 

「出港した時点では遅い可能性があります」

 

周の声が少し低くなった。

 

「何が遅い」

 

「阻止判断です」

 

「違う」

 

作戦参謀が黙る。

 

周は日本列島を表示させた。

 

「一隻の船を止めることと、日本を戦争に入れることを同じ机で計算しろ」

 

「しかし、日本政府は今日、自国民が乗る民間船に米国の兵器を積みました」

 

「そうだ」

 

「それでも日本は参戦していない」

 

「そこが重要なんだ」

 

情報参謀が周を見る。

 

周は続ける。

 

「日本は軍事的にはこちらを敵と見始めている。自衛隊も米軍もこちらの初撃を想定して動いている。それでも政治的には、まだ一線を越えていない」

 

「その船が台湾へ向かえば?」

 

「一線に近づく」

 

「なら、その前に止めるべきでは」

 

周は少し黙った。

 

「止め方による」

 

作戦参謀が聞く。

 

「拿捕?」

 

「いきなり軍艦を横付けして兵士を送り込むつもりか」

 

「では」

 

「まず海警だ」

 

「軍ではなく?」

 

「そうだ」

 

情報参謀が聞いた。

 

「停船要求?」

 

「当然」

 

「航行妨害」

 

「準備しておけ」

 

「臨検要求」

 

「それも選択肢だ」

 

作戦参謀が聞く。

 

「発砲は」

 

周は即答した。

 

「許可しない」

 

「武器を運んでいても?」

 

「今はな」

 

作戦参謀は不満そうだった。

 

「軍事物資を運ぶ船ですよ」

 

「知っている」

 

「台湾空軍がその部品で飛び、防空部隊がその弾薬を撃つ」

 

「それも知っている」

 

「なら、なぜ」

 

周は海成丸の衛星画像を見る。

 

「この船は厄介だ」

 

情報参謀が聞く。

 

「物資量ですか」

 

周は首を横に振った。

 

「それだけじゃない」

 

誰も続けない。

 

周は言った。

 

「止めれば、日本を動かす」

 

少し間を置く。

 

「通せば、台湾に時間を与える」

 

会議室が静かになった。

 

作戦参謀が小さく息を吐く。

 

「どちらも悪い」

 

「そうだ」

 

周は海成丸の画像を見たまま言った。

 

「嫌な船だ」

 

それは、周が初めて口にした言葉だった。

 

午後6時02分

兵庫県神戸市

海成丸

 

乗員が船内の会議スペースに集められていた。

 

高瀬船長。

 

機関長。

 

航海士。

 

甲板員。

 

機関員。

 

調理担当。

 

全員が同じ部屋に入ると、普段より狭く感じる。

 

高瀬は前に立った。

 

「説明します」

 

誰も話さなかった。

 

「政府から、台湾向け緊急輸送に備えるよう要請を受けています。これは昨日も説明した通りです」

 

何人かが頷く。

 

「今朝、中国軍が演習延長を発表しました。本来なら今日の正午で終わる予定でしたが、終了時期は未定になりました」

 

誰かが小さく息を吐いた。

 

高瀬は続ける。

 

「それに伴って、今日から積荷の内容も変わりました」

 

一等航海士が聞いた。

 

「何が入ったんです」

 

高瀬は回りくどく言わなかった。

 

「米国から台湾へ提供される防衛装備です」

 

少しざわつく。

 

後ろから声が出た。

 

「武器?」

 

高瀬は頷いた。

 

「含まれる」

 

「弾薬も?」

 

「含まれる」

 

今度こそ室内が完全に静まり返った。

 

高瀬は一人ずつ顔を見る。

 

「細かい種類や数量は、私も全部知っているわけではありません。ただ、これはもう食料と医薬品だけを運ぶ船ではない」

 

機関員の一人が言った。

 

「中国から見たら、軍事輸送船ですか」

 

高瀬は少し考えた。

 

「そう見る可能性はある」

 

「攻撃される可能性も?」

 

その質問には、さらに少し長く間を置いた。

 

「ある」

 

誰かが座り直す音がした。

 

高瀬は続ける。

 

「そこを誤魔化すつもりはない。政府からも危険を隠して乗せろとは言われてない」

 

若い甲板員が聞く。

 

「護衛は付くんですか」

 

「まだ最終決定じゃない」

 

「出港も?」

 

「まだ決まってない」

 

「じゃあ今は?」

 

高瀬は答えた。

 

「積む」

 

若い甲板員が少し困った顔をした。

 

「出るか分からないのに?」

 

「出ろと言われた時に、出られるようにするためだ」

 

「もし出なかったら」

 

「積んだだけで終わる」

 

「無駄じゃないですか」

 

高瀬は首を横に振った。

 

「無駄で済んだなら、それが一番いい」

 

一瞬、誰も言葉を返せなかった。

 

機関長が腕を組む。

 

「降りたい人は?」

 

高瀬は全員を見る。

 

「降りていい」

 

何人かが顔を上げた。

 

「本当に?」

 

「当然だ」

 

高瀬は少し声を強めた。

 

「これは自衛隊じゃない。命令で乗せるつもりはない」

 

その言葉に、室内の空気が少し変わった。

 

「今日降りても、誰も責めない。会社にもそう伝えてある。家族と相談したいなら相談していい」

 

別の乗員が聞いた。

 

「降りる人が多かったら?」

 

「船は出せない」

 

「政府から出せって言われても?」

 

「乗員が揃わなければ出せない」

 

高瀬ははっきり言った。

 

「それだけだ」

 

若い甲板員がまた聞く。

 

「船長は?」

 

高瀬が彼を見る。

 

「何が」

 

「行くんですか」

 

「私はまだ決めてない」

 

「でも兵器積んでるじゃないですか」

 

高瀬は頷いた。

 

「積まないと、その時に選べなくなる」

 

「選べなくなる?」

 

「台湾が攻撃された。今すぐ届けてくれって言われた。その時になって『今から弾薬積みます』じゃ間に合わないだろ」

 

「じゃあ今は」

 

高瀬は乗員全員を見る。

 

「今は、選択肢を残してる」

 

機関長が静かに言った。

 

「出る選択肢と、出ない選択肢の両方を」

 

「そうだ」

 

高瀬は少し間を置いた。

 

「明日の朝までに決めてくれ」

 

「何を?」

 

「残るか、降りるか」

 

室内の空気がさらに重くなる。

 

高瀬は続けた。

 

「家族がいる奴は話せ。怖いなら怖いでいい。俺も怖い」

 

若い甲板員が少し驚いた。

 

「船長も?」

 

高瀬は彼を見る。

 

「怖くないと思ってたのか」

 

「元海自だから」

 

「元海自だから余計に分かるんだよ。危険な海で何が起きるか分からないってことが」

 

誰も笑わなかった。

 

「明日の朝までだ。答えは一人ずつ聞く。人の答えを見て決める必要もない」

 

高瀬は最後に言った。

 

「これは仕事だ。でも、命まで会社に預けた覚えはないだろ」

 

その言葉を最後に、説明は終わった。

 

午後7時31分

東京都千代田区・首相官邸

 

テレビ各局では、中国軍の演習延長が繰り返し報じられていた。

 

衛星写真。

 

台湾周辺の中国艦艇。

 

沿岸部の航空基地。

 

ロケット軍。

 

どの番組も同じような図を使いながら、「軍事的緊張が一段と高まった」と説明している。

 

黒田がタブレットを見る。

 

「世論の危機感は急上昇しています」

 

首相が聞いた。

 

「参戦は?」

 

黒田はすぐに答える。

 

「別です」

 

首相は小さく頷いた。

 

「やっぱりそこは動かないか」

 

「台湾への人道・物資支援への賛成は増えています。経済制裁や米国との連携にも理解が広がっています。ただ、自衛隊による直接の戦闘参加となると意見は割れています」

 

「当然だな」

 

首相はテレビを見る。

 

台湾周辺に展開する中国海軍艦艇。

 

「中国が台湾を攻撃したら」

 

黒田が首相を見る。

 

「危機感はさらに強くなると思います」

 

「それでも、日本が中国と戦うところまでは?」

 

「すぐには行かないと思います」

 

「台湾が攻撃されたのに?」

 

「台湾が攻撃されることと、日本が攻撃されることは、国民から見れば同じではありません」

 

首相は椅子にもたれた。

 

「時間がないのに、政治は遅い」

 

「はい」

 

「自衛隊の準備より遅い」

 

「そうなる可能性が高いです」

 

首相が聞く。

 

「海成丸は?」

 

「積載継続中です」

 

「米側の兵器も」

 

「はい」

 

「中国に見えてると思うか」

 

「見えている前提で考えるべきです」

 

首相は少し黙った。

 

「海成丸が出たら、政治的意味は大きいな」

 

「中国にも、日本にも」

 

「乗員は?」

 

「高瀬船長が説明し、明朝まで意思確認を取ります」

 

「降りたい人は降ろす?」

 

「はい」

 

「それで人が足りなくなったら?」

 

黒田は答える。

 

「出せません」

 

首相はすぐに頷いた。

 

「それでいい」

 

「はい」

 

「無理に作った船じゃ意味がない。民間人を政府の都合で乗せるな」

 

「承知しています」

 

首相はテレビを見る。

 

「でも、もし台湾が本当に攻撃されたら」

 

黒田が待つ。

 

「この船が必要になる」

 

「そう思います」

 

「なのに、必要にならない方がいい」

 

「はい」

 

首相は小さく息を吐いた。

 

「嫌な準備だな」

 

黒田は答えなかった。

 

午後9時14分

ワシントンD.C.

ホワイトハウス

 

「中国の演習延長発表から約11時間。撤収兆候は依然としてありません」

 

国家安全保障担当補佐官の説明を聞き、大統領は戦況表示を見た。

 

「評価は?」

 

「90パーセント」

 

「これ以上は?」

 

情報機関責任者が答えた。

 

「侵攻開始に直接結びつく具体的兆候が必要です」

 

「具体的って何だ」

 

「攻撃命令の伝達、最終武装、ロケット軍の発射前手順、指揮通信パターンの変化、航空部隊の搭乗開始などです」

 

「それが出たら?」

 

「侵攻ほぼ確実と判断します」

 

大統領は頷いた。

 

「海成丸は?」

 

国防長官が答える。

 

「積載中です」

 

「我々の装備も?」

 

「はい」

 

「日本は受けた?」

 

「はい」

 

大統領は少し考えた。

 

「中国が止めに来る可能性は」

 

「高まっています」

 

「攻撃する?」

 

国防長官はすぐには答えなかった。

 

「合理的に考えれば、中国は日本を直接巻き込みたくないはずです」

 

大統領が嫌そうな顔をした。

 

「また『合理的には』か。昨日も聞いた」

 

「はい」

 

大統領は台湾を見る。

 

「中国が侵攻するのも、向こうなりには合理的なんだろうな」

 

誰も答えない。

 

「台湾が軍を動かすのも合理的」

 

「はい」

 

「我々が航空機を散らすのも合理的」

 

「はい」

 

「日本が船を準備するのも合理的」

 

「はい」

 

大統領は少し黙った。

 

「全部合理的なのに、どんどん戦争に近づいてる」

 

国防長官が答えた。

 

「安全保障のジレンマです」

 

大統領は少しだけ苦笑した。

 

「教科書で読む分には便利な言葉だな」

 

誰も笑わなかった。

 

「船は出せるようにしておけ」

 

「はい」

 

「でも日本にはまだ出ろとは言わない」

 

「了解」

 

「次に見るのは中国軍の最終準備だ」

 

「はい」

 

大統領はそこで言葉を止めた。

 

しばらく画面を見た後、言う。

 

「明日も嫌な日になりそうだな」

 

国防長官が静かに答えた。

 

「はい」

 

午後10時48分

中国・福建省福州市

東部戦区指揮施設

 

周啓明中将は、その日ほとんど席を離れていなかった。

 

情報参謀が近づく。

 

「海成丸、積載継続」

 

「何時まで」

 

「夜通しの予定です」

 

「乗員」

 

「一部で交代要員を探している動きがあります。詳細は不明」

 

作戦参謀が聞いた。

 

「海警側には?」

 

周は少し考えた。

 

「まだ具体命令は出していない」

 

「準備だけでもさせるべきです」

 

周は大型画面を見る。

 

「台湾北東方面で対応可能な海警部隊を選定しろ」

 

「拿捕部隊も?」

 

「まだだ」

 

「航行阻止は想定?」

 

「想定だけしておけ」

 

作戦参謀が頷く。

 

「発砲禁止は継続ですね」

 

「もちろんだ」

 

「軍艦が護衛した場合は?」

 

周は黙った。

 

作戦参謀が待つ。

 

「その場合は、私一人で決められる話ではない」

 

「中央判断」

 

「そうなる」

 

情報参謀が別の資料を出した。

 

「台湾軍は警戒態勢をさらに引き上げました。航空機分散、防空部隊の移動、予備役招集が拡大しています。米軍も同様です」

 

「日本は」

 

「慎重ですが、準備を進めています」

 

周は椅子にもたれた。

 

「今日で、かなり迷いを消してしまったな」

 

作戦参謀が聞く。

 

「演習延長で?」

 

「そうだ」

 

「なら、こちらの優位も減った?」

 

「減った」

 

作戦参謀は少し眉を寄せた。

 

「それでも予定どおり進める?」

 

周は少し考えた。

 

「もう、隠して時間を稼ぐ段階ではない」

 

「では?」

 

「相手が準備を終える前に、こちらが準備を完成させる段階だ」

 

作戦参謀が頷く。

 

「開始時刻は」

 

「まだ来ていない」

 

「いつ来ると思います」

 

周は時計を見る。

 

「それを知ってるなら、今頃寝てる」

 

作戦参謀が少しだけ笑った。

 

今度は周もほんの少し笑った。

 

「確かに」

 

その笑いもすぐ消えた。

 

情報参謀が聞く。

 

「海成丸について、中央へ上げますか」

 

周は少し考えた。

 

「上げろ」

 

「評価は?」

 

周は画面に映る日本列島と海成丸の位置を見る。

 

「日本が武器輸送を準備中。ただし未出港。海警による非軍事的阻止手段を優先検討」

 

「非軍事的?」

 

作戦参謀が聞く。

 

周は彼を見る。

 

「少なくとも、日本側にそう見える余地を残す」

 

「海警も武装しています」

 

「分かってる」

 

「向こうも分かってる」

 

「それでも海軍よりは一段低い」

 

周は静かに続けた。

 

「その一段が、今は重要だ」

 

午後11時57分

東京都新宿区・防衛省

 

若い分析官が窓の外を見る。

 

東京の夜景はいつもと大きく変わらない。

 

「今日、長かったですね」

 

佐伯が画面を見たまま答える。

 

「まだ終わってない」

 

若い分析官が時計を見る。

 

「あと3分です」

 

「そういう意味じゃない」

 

「分かってます」

 

少しだけ笑う。

 

佐伯は中国軍の配置を見続けた。

 

本来なら正午で終わるはずだった演習は、午前10時に延長された。

 

帰投を待つ必要はもうない。

 

艦艇は配置を維持している。

 

航空機も前方基地に残っている。

 

ロケット軍も展開したまま。

 

支援部隊も動き続けている。

 

そして中国沿岸では、さらに何かが進んでいた。

 

若い分析官が聞く。

 

「米側、90ですよね」

 

「そうだな」

 

「佐伯さんは?」

 

佐伯は少し考えた。

 

昨日なら、答えを濁したかもしれない。

 

「もう侵攻すると思ってる」

 

若い分析官が黙った。

 

「公式評価じゃなく?」

 

「俺個人の話なら」

 

「いつですか」

 

「分からない」

 

「明日?」

 

「分からない」

 

「明後日?」

 

「分からない」

 

若い分析官が少し苛立ったように笑う。

 

「じゃあ何が分かるんです」

 

佐伯は中国沿岸のロケット軍展開地点を拡大する。

 

「もう、演習が終わるのを待つ必要はない」

 

「どういう意味です?」

 

「昨日までは、今日の正午になれば帰るかもしれないと思ってた」

 

「はい」

 

「今日、中国自身がそれを否定した」

 

若い分析官が画面を見る。

 

「次に見るのは?」

 

佐伯が答える。

 

「帰るかどうかじゃない」

 

「何を?」

 

「いつ撃てる状態になるかだ」

 

若い分析官の表情が変わった。

 

時計が午前0時を示す。

 

日付が変わった。

 

2030年8月23日。

 

この日、中国軍は正午で演習を終えなかった。

 

より正確には、終わらせないことを予定時刻の2時間前に世界へ告げた。

 

終了日は示されなかった。

 

弾道ミサイルはまだ飛んでいない。

 

台湾への攻撃も始まっていない。

 

誰も撃っていない。

 

それでも、日米台に残されていた最大の説明は、この日消えた。

 

**「正午になれば、中国軍は帰るかもしれない」**

 

台湾では、予備役への連絡が増えた。

 

米軍では、初撃を受けることを前提とした航空機と艦艇の分散が加速した。

 

日本でも、自衛隊の準備がさらに進んだ。

 

そして神戸では、海成丸の船倉へ、食料や医薬品だけでなく、米国が台湾へ送るために準備した航空機部品、通信機材、防空関連装備、そして弾薬が積み込まれていた。

 

昨日まで海成丸は、必要になれば使うかもしれない船だった。

 

今日、必要になる可能性が高いことを前提として準備される船へ変わった。

 

まだ出港命令はない。

 

まだ台湾は攻撃されていない。

 

まだ日本も米国も戦争には入っていない。

 

だが、もう昨日と同じ意味で「演習」という言葉を使う者はいなかった。

 

残る問題は、中国が攻撃するかどうかではなくなりつつあった。

 

いつ始まるのか。

 

それだけが、まだ分からなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。