平成ホラーって容赦ないよね   作:ホほ保

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さんわめ

 

中原真斗は、その落書きの存在を知らない。

 

それを最初に見つけたのは、高瀬悠真だった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

「なあ、これ、昨日もあったか?」

 

登校途中、悠真が道の端で足を止めた。

 

そこは住宅街の間を通る細い道路だった。

 

車一台がどうにか通れる程度の幅しかなく、片側には古びたブロック塀、反対側には雑草の生えた空き地が続いている。

 

悠真が指さした先には、白い文字が書かれていた。

 

こんにちは

 

学校で使う白いチョークで、道路へ直接書いたような文字だった。

 

丸みを帯びた、子どもらしい字。

 

「落書きじゃない?」

 

森下美桜が、特に気にした様子もなく答える。

 

「それは見れば分かるけどさ。誰が書いたんだろうな」

 

「近所の子じゃないの?」

 

白石栞は眼鏡の位置を直すと、その場にしゃがみ込んだ。

 

文字の近くに、折れたチョークや足跡は見当たらない。

 

周囲を見回しても、人影はなかった。

 

「学校に遅れるわよ」

 

「分かってるって」

 

栞に急かされ、悠真は立ち上がる。

 

三人はそれ以上気にすることなく、学校へ向かった。

 

その日の帰り。

 

同じ道を通った三人は、朝に見た落書きが消えていることに気づいた。

 

誰かが水で流した様子はない。

 

白い粉さえ残さず、きれいに消えていた。

 

「やっぱり、誰かのいたずらだったのかな?」

 

「消すくらいなら、最初から書かなきゃいいのにね」

 

美桜の言葉に、悠真は首をかしげた。

 

気にはなったものの、この時点ではそれだけだった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

次の朝。

 

同じ場所に、新しい文字が書かれていた。

 

あしたは あめ

 

「今日じゃなくて、明日なんだ」

 

美桜が楽しそうに笑った。

 

見上げた空は青く、雲もほとんどない。

 

朝の天気予報でも、明日は一日中晴れると言っていた。

 

「外れたら、書いた人の負けね」

 

「何の勝負だよ」

 

そう言いながらも、悠真もどこか楽しそうだった。

 

翌日。

 

午前中は、天気予報どおり晴れていた。

 

やはり、ただの落書きだったのだろう。

 

三人とも、昼休みにはその存在を忘れかけていた。

 

ところが、五時間目が始まるころ。

 

晴れていたはずの空が急に暗くなり、大粒の雨が降り始めた。

 

天気雨というには激しすぎる雨だった。

 

窓へ打ちつける雨粒を見ながら、美桜が小さく声を上げる。

 

「あ……」

 

悠真と栞も、同じものを思い出したらしい。

 

三人は教室の中で顔を見合わせた。

 

次の日の朝。

 

例の場所には、また別の言葉が書かれていた。

 

あしたのきゅうしょく

プリンがひとつあまる

 

「今度はプリンだって」

 

美桜が声を弾ませた。

 

「余ったら、じゃんけんだな」

 

「予言が当たったことより、そっちが大事なの?」

 

「プリンだぞ?」

 

「高瀬くん、甘いもの好きだものね」

 

栞は呆れたように言ったあと、鞄から小さな手帳を取り出した。

 

「何してるんだ?」

 

「昨日の落書き、本当に当たったでしょう。今度は忘れないように書いておこうと思って」

 

栞は日付とともに、落書きの内容を書き留めた。

 

そして翌日。

 

給食の時間になると、一人の児童が体調を崩して早退したため、プリンが一つ余った。

 

余ったプリンはじゃんけんになり、美桜が勝ち取った。

 

「俺が見つけた落書きなのに……」

 

「予言とプリンは関係ないでしょ」

 

悔しがる悠真の前で、美桜はおいしそうにプリンを食べる。

 

栞も、口元にわずかな笑みを浮かべていた。

 

それから三人は、毎朝その道を通るようになった。

 

落書きが現れる日は決まっていなかった。

 

二日続けて書かれていることもあれば、三日ほど何も現れないこともある。

 

書かれる内容も、初めのうちは他愛のないものばかりだった。

 

あした こうちょうせんせいがころぶ

 

翌日、校長先生が朝礼台へ上がる途中でつまずいた。

 

あした みおはわすれものをする

 

翌朝、美桜は音楽の教科書を家に忘れた。

 

「ちょっと、何で私のこと知ってるの?」

 

そう言いながらも、美桜は笑っていた。

 

悠真は、早起きして落書きを書いている人物を捕まえようと言いだした。

 

栞は、これまでの文章と結果を細かく手帳へ記録していった。

 

不気味ではある。

 

けれど、自分たちだけが知っている秘密のようで、三人は次第に落書きを楽しみにするようになっていた。

 

次は何が書かれているのだろう。

 

今度も本当に当たるのだろうか。

 

そんな気持ちで、毎朝その道をのぞいていた。

 

だからその朝も、三人はいつもと同じように落書きを囲んだ。

 

しかし、その日書かれていた言葉を見て、誰も笑うことができなかった。

 

あした

さとうけんたが ほねをおる

 

「……これ、よくないよね」

 

美桜が呟く。

 

佐藤健太は、三人と同じクラスの男子だった。

 

特別親しいわけではないが、休み時間になれば悠真と一緒にサッカーをすることもある。

 

「佐藤に教えよう」

 

悠真が迷わず言った。

 

「でも、落書きのことを話して信じてもらえるかしら」

 

「信じなくても、気をつけろとは言えるだろ」

 

その日のうちに、三人は佐藤へ事情を話した。

 

当然ながら、佐藤はまともに取り合わなかった。

 

「骨折するって、誰が?」

 

「佐藤が」

 

「俺が? なんで?」

 

佐藤は笑いながら、自分の腕を曲げて力こぶを作ってみせた。

 

「昨日もサッカーしてただろ。どこも痛くないって」

 

「明日の話なの」

 

栞がそう付け加えても、佐藤は冗談だと思っているらしい。

 

むしろ面白がって、周りの友達へ落書きの話をしようとした。

 

三人は慌てて口止めし、その場はそれで終わった。

 

翌日。

 

何事も起こらないまま、午前中の授業が終わった。

 

給食が終わり、昼休みになっても佐藤は元気だった。

 

「ほら、何も起きないだろ」

 

そう笑った佐藤は、友達に呼ばれて校庭へ走っていった。

 

三人も少し安心していた。

 

これまでの落書きは、偶然当たっていただけなのかもしれない。

 

骨折の予言だけは外れてほしい。

 

そう思っていた。

 

昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴る直前、校庭から悲鳴が聞こえた。

 

佐藤が、鉄棒の下で倒れていた。

 

着地に失敗したらしく、右腕を押さえたまま動けずにいる。

 

腕は、見ただけでも分かるほど不自然な方向へ曲がっていた。

 

病院へ運ばれた佐藤が骨折していたと知らされたのは、その日の帰りの会だった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

三人は無言で、例の道を歩いていた。

 

朝にあった落書きは、いつものように消えている。

 

「もう、この道を通るのやめない?」

 

美桜が口を開いた。

 

「でも、見なかったら次に何が起きるか分からないだろ」

 

悠真が答える。

 

その声に、以前のような楽しげな響きはなかった。

 

「分かったところで、止められなかった」

 

栞が手帳を胸元で握り締める。

 

三人が注意していたにもかかわらず、佐藤は骨折した。

 

落書きが未来を言い当てたのか。

 

それとも、落書きに書かれたから骨折したのか。

 

確かめる方法はなかった。

 

それでも翌朝、三人は同じ道へ向かった。

 

何も書かれていないことを願いながら。

 

しかし、白い文字はあった。

 

あした

たなべゆいが しぬ

 

落書きを見つめたまま、美桜が息を呑む。

 

「田辺さんって……あそこの?」

 

道の先に、古い平屋が建っている。

 

そこに一人で暮らしている田辺ユイという老女は、登校中の三人を見かけるたびに声をかけてくれていた。

 

庭の花をくれたり、夏には冷たい麦茶をごちそうしてくれたりしたこともある。

 

「同じ名字の別人かもしれない」

 

悠真はそう言ったが、自分でも信じていないことが声から伝わった。

 

三人は学校が終わると、田辺の家を訪ねた。

 

本人へ「明日死ぬと書かれていた」とは、どうしても言えなかった。

 

代わりに、体調が悪くないか、明日は家族に来てもらえないかと何度も確認した。

 

「三人とも、今日は随分と心配性だねえ」

 

田辺は困ったように笑った。

 

体調は悪くない。

 

明日はどこへも出かけない。

 

そう聞かされ、三人は少しだけ安心して家へ帰った。

 

翌朝。

 

田辺の家の前に、救急車が停まっていた。

 

担架が運び込まれていくのを、三人は道の反対側から見ていることしかできなかった。

 

田辺が夜のうちに眠ったまま亡くなっていたと知ったのは、その日の放課後だった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

その日の帰り道。

 

三人は、落書きのある道を避けようとした。

 

もう見ない方がいい。

 

見たところで、自分たちには何もできない。

 

そう考えて、大通りを通って帰ろうとした。

 

それでも、分かれ道を前にして足が止まった。

 

もし、次も誰かの名前が書かれていたら。

 

知らないまま、その人が死んだら。

 

三人は結局、いつもの道へ足を踏み入れた。

 

白い文字は、すでに書かれていた。

 

あした

なかはらまとが しぬ

 

しばらくの間、誰も声を出せなかった。

 

最初に動いたのは悠真だった。

 

「中原に知らせる」

 

「待って」

 

栞がその腕を掴む。

 

「佐藤くんにも、田辺さんにも知らせた。でも、結果は変わらなかった」

 

「だからって、黙って見てろっていうのか?」

 

「そうじゃない。でも……本人に知らせることで、何が変わるのかも分からない」

 

落書きのことを知った人間が、予言を避けようとする。

 

その行動まで含めて、書かれた未来へ続いているのかもしれない。

 

佐藤に警告しても、骨折は防げなかった。

 

田辺を心配して訪ねても、死を避けることはできなかった。

 

むしろ、余計なことをしたせいで予言を現実に近づけている可能性すらある。

 

「じゃあ、私たちで見張るのは?」

 

美桜が提案した。

 

「明日一日、中原くんについていくの。何か起きそうになったら、その前に止める」

 

悠真は納得していない様子だった。

 

それでも、落書きについて何も分かっていない以上、むやみに本人へ知らせる危険は無視できない。

 

三人は、翌日一日、真斗を見張ることに決めた。

 

    ◇ ◇ ◇

 

翌朝。

 

春も深まり、朝の空気は暖かいはずなのに、家を出た瞬間から妙な寒気がしていた。

 

風邪でも引いたのかと思ったが、身体が重いわけでも、喉が痛いわけでもない。

 

嫌な感じがする。

 

そう思いながら最初の角を曲がったところで、俺は三人の気配に気づいた。

 

電柱の陰に美桜。

 

少し離れた塀の裏に栞。

 

そして、隠れる気があるのか疑わしい位置に悠真。

 

三人揃って何をしているのだろう。

 

こちらを尾行しているつもりらしいが、小学生の尾行なんてそんなものである。

 

(……なんかしたっけ?)

 

俺は気づいていないふりをして、学校へ向かった。

 

声をかけるつもりはない。

 

あの三人が揃って妙な行動をしている時点で、嫌な予感しかしない。

 

関わらずに済むなら、それに越したことはなかった。

 

最初の異変は、大通りの交差点で起きた。

 

歩行者用の信号が青へ変わる。

 

横断歩道へ足を踏み出そうとした瞬間、頭の奥に鋭い痛みが走った。

 

危険察知。

 

俺は、とっさに足を止めた。

 

直後、信号を無視した乗用車が目の前を走り抜けた。

 

あと一歩進んでいれば、間違いなくはねられていた。

 

急ブレーキの音を響かせながら、車はそのまま遠ざかっていった。

 

心臓が激しく脈打っている。

 

ゆっくり息を吐き、後ろを振り返らずに横断歩道を渡る。

 

視界の端で、電柱の陰にいる三人が青ざめていた。

 

(何だ、今の……)

 

偶然にしては危なすぎる。

 

だが、危険察知の強い反応はすでに消えている。

 

朝から続いている寒気だけは、まだ身体にまとわりついていた。

 

俺は学校へ向かう足を速めた。

 

二度目の異変は、昼休みに起きた。

 

一階へ向かうため、階段を下りていたときだった。

 

背筋を強い怖気が駆け抜ける。

 

俺は反射的に手すりを掴み、身体を壁際へ寄せた。

 

直後、上の階から何かが落ちてきた。

 

大きな音を立てながら階段を転がり落ち、俺が立っていた場所へ激突する。

 

それは、木で作られた校舎の模型だった。

 

上の踊り場から、慌てた声が聞こえる。

 

どうやら六年生が郷土資料室から運び出している途中で、手を滑らせたらしい。

 

模型の角が階段へぶつかり、木片が飛び散った。

 

あれが頭へ直撃していたら、大怪我では済まなかったかもしれない。

 

「ご、ごめん! 大丈夫!?」

 

上の階から六年生が駆け下りてくる。

 

「大丈夫です。当たってないので」

 

そう答えながら廊下の端を見ると、曲がり角から三つの顔がこちらをのぞかせていた。

 

俺と目が合いそうになった瞬間、三人は同時に顔を引っ込める。

 

(うそだろ。絶対、何かに巻き込まれただろこれ)

 

朝から感じている寒気。

 

立て続けに起こる事故。

 

俺を尾行している定番トリオ。

 

偶然で片づけるには、さすがに材料が揃いすぎている。

 

三度目の異変は、放課後だった。

 

帰り道でも三人はついてきた。

 

朝よりは距離を取っているが、気配を消すのが下手なので丸分かりである。

 

俺はあえて振り返らず、人通りの多い道を選んで歩いた。

 

工事中の建物の前へ差しかかったとき、今日一番の悪寒が全身を貫いた。

 

考えるより先に、身体が後ろへ跳ぶ。

 

次の瞬間、頭上から金属の塊が落ちてきた。

 

激しい音とともに、細長い鉄骨が歩道へ叩きつけられる。

 

鉄骨の端が、つい先ほどまで俺の立っていた場所へ突き刺さった。

 

工事現場が騒然となる。

 

作業員が慌てて駆け寄ってきた。

 

「君、大丈夫か!?」

 

「はい。大丈夫です」

 

大丈夫ではない。

 

精神的には、まったく大丈夫ではない。

 

危険察知がなければ、今ごろどうなっていたか分からなかった。

 

(今日、世界が俺を殺そうとしてる?)

 

車。

 

階段。

 

鉄骨。

 

いくらこの世界でも、一日に続けて起こるのはおかしい。

 

そして、そのすべてを三人が見ていた。

 

工事現場の向こうで、美桜が両手で口元を覆っている。

 

栞は顔を真っ青にし、悠真は今にもこちらへ駆け寄ってきそうな姿勢を取っていた。

 

俺が見ると、悠真はその場で足を止めた。

 

何かを知っている。

 

間違いなく、三人は今日の異常について何か知っている。

 

だからといって、こちらから聞くつもりはなかった。

 

尋ねれば説明される。

 

説明されれば関係者になる。

 

それだけは避けたい。

 

工事現場の作業員から事情を聞かれたあと、俺は寄り道をせず家へ帰った。

 

玄関へ入る直前、道路の反対側を見る。

 

三人は電柱の陰へ隠れていた。

 

美桜のピンク色の髪が、半分ほどはみ出している。

 

(せめて髪は隠せよ)

 

俺が家へ入ると、三人はしばらく門の前を見張っていた。

 

それでも俺が外へ出てこないと分かると、ようやく帰っていった。

 

俺も今日は、もう自分の部屋から出ないことにした。

 

そう決めて、先に風呂を済ませる。

 

風呂から上がり、髪を乾かそうと洗面台に置かれたドライヤーへ手を伸ばした瞬間、危険察知が反応した。

 

慌てて手を引っ込める。

 

その直後。

 

ドライヤーの持ち手から、ぱちりと青白い火花が散った。

 

よく見ると、コードの根元が不自然に裂け、中の線が露出している。

 

「……勘弁してくれ」

 

俺はドライヤーへ触れないまま、父さんを呼んだ。

 

確認に来た父さんは故障だろうと言い、コンセントを抜いてくれた。

 

そのあとは早めに夕食を済ませ、自分の部屋へ戻った。

 

照明は消さない。

 

朝から続く寒気が、危険察知によるものだと分かってしまったからだ。

 

何かが起きる瞬間には反応が強くなり、危険が過ぎれば少し弱くなる。

 

それでも、完全には消えない。

 

まるで、今日という一日そのものが危険だと警告しているようだった。

 

深夜。

 

眠らないようベッドの上でゲームをしていた俺は、突然、強い怖気に襲われた。

 

今度は部屋の中ではない。

 

なぜか、もっと下の階から危険が迫っているように感じる。

 

俺は小さな懐中電灯を持ち、足音を立てないよう部屋を出た。

 

階段を下りるほど、怖気が強くなっていく。

 

たどり着いたのは台所だった。

 

誰もいない暗い台所で、ガスコンロの火だけが青く燃えていた。

 

上には鍋も何も置かれていない。

 

両親は、とっくに寝室で眠っている。

 

俺はすぐにコンロのつまみを回し、火を消した。

 

それから父さんと母さんを起こし、台所へ連れてくる。

 

「火、つけっぱなしだったよ」

 

「そんなはずないわ。寝る前に私が確認したもの」

 

母さんは青ざめながら、消えたコンロを見つめた。

 

父さんも台所やガス栓を確認したが、故障らしいものは見つからなかった。

 

念のため元栓を閉め、その晩は三人とも居間で休むことになった。

 

俺はソファへ横になり、時計を見つめ続けた。

 

午後十一時五十九分。

 

身体にまとわりついていた寒気は、まだ消えていない。

 

秒針が一周する。

 

日付が変わった瞬間。

 

朝からずっと続いていた悪寒が、嘘のように消えた。

 

静かになった危険察知を確かめながら、俺はようやく目を閉じた。

 

結局、何だったのだろう。

 

三人の尾行と、続けて起きた事故。

 

無関係とは思えない。

 

しかし、向こうから話してこないのなら、俺も聞かない。

 

知らなくていい怪異の事情を知って、得をした経験など一度もないからだ。

 

    ◇ ◇ ◇

 

翌朝。

 

悠真、美桜、栞の三人は、例の道へ向かった。

 

そこには何も書かれていなかった。

 

白い文字も、チョークの粉もない。

 

念のため、三人は翌日も、その次の日も道を確認した。

 

落書きは二度と現れなかった。

 

予言が外れたから消えたのか。

 

それとも、中原真斗を殺せなかったから消えたのか。

 

三人には分からない。

 

ただ一つ分かったのは、あれほど多くの事故に遭いながら、真斗がそのすべてを自力で避けたということだけだった。

 

そして真斗は最後まで、道路の落書きに自分の死が予言されていたことを知らなかった。

 

もっとも——。

 

あの日、自分を尾行していた三人が何かを隠していることには、しっかり気づいていたのだが。

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