え、何この能力 作:闇次元の解放
「レイジングボルト!!」
直後、上空から俺の頭上を目掛けて、天地を揺るがす巨大な雷撃が落とされた。
凄まじい衝撃波と爆風が周囲の樹木を吹き飛ばし、森の一角が焼け野原と化す。
しかし、立ち込める黒煙と火花の中から、俺はびくともせずに歩み出た。
「チッ……まだくたばらねえだと……!?」
全身を覆う赤黒いベエルゼの外骨格を見つめ、ラクサスが苛立ちを隠し切れない様子で吐き捨てる。
「へっ、気味悪い身体にしやがって……!」
「気味悪い……? 無視出来ないぜ……!!」
俺は重音の響く声で言い返すと同時に、足元の地面を爆破するように蹴り上げ、上空のラクサス目掛けて肉迫した。
赤黒い巨大な爪を振り抜く。だが——ラクサスは身体を眩い雷へと変え、一瞬で俺の視界からかき消えた。
「甘いぜ!」
背後へ回り込んだラクサスの強烈な蹴りが、俺の頭部に叩きつけられる。衝撃で空中で体勢を崩されるが、ベエルゼの外骨格で防御した俺には実質ノーダメージだった。
ドシッと完璧に地面に着地し、再びラクサスを見上げる。
やはり、奴の最大の強みは『雷化』による圧倒的なスピードだ。この外骨格の防御力をもってしても、攻撃が当たらなければ意味がない。
「チッ……ムシケラの分際で、調子に乗りやがって……!」
攻撃が通らない苛立ちから、ラクサスは空中での体勢を整え、両手の中に膨大な雷の魔力を練り上げた。巨大な魔法陣が頭上に展開される。
「消し飛びやがれ!! 『雷竜方天戟』!!」
雷の魔力が伝説の武器の形を成し、巨大な雷の槍となって俺目掛けて音速で投擲された。滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)の極大火力。
来たか……!
俺は攻撃が迫るコンマ一秒の間に、あえてベエルゼの外骨格を『解除』した。
生身の肉体に、雷の槍が突き刺さる。
「ガァッ……ッ!!」
恐ろしいほどの激痛と破壊力が全身を駆け巡る。生半可な魔道士なら跡形もなく消し飛んでいたであろう絶大なダメージ。視界が真っ赤に染まり、膝が折れそうになる。
だが——これこそが俺の狙いだ。
ベエルゼの闇は、己が受けた苦痛とダメージをそのまま『爆発的な攻撃力』へと変換する。
「な……!? 直撃だと……!?」
大技を叩き込み、油断から一瞬硬直したラクサス。
俺はその隙を見逃さず、限界まで引きあがった殺意のカウンターを一撃叩き込んだ。
「ガハッ……!?」
肉を断たれる重い手応え。吹き飛ぶラクサスが体勢を立て直そうと雷化を試みた瞬間、俺はあらかじめ足元に展開しておいた陣を起動させた。
「——セットしていた魔法陣を発動……『闇の呪縛』!!」
地面から溢れ出た大量の漆黒の鎖が、生き物のようにラクサスの四肢に絡みつく。
「なっ……!? があぁっ!?」
闇の属性が雷の魔力を力ずくで押さえ込み、絶大な封印力でラクサスの『雷化』すらも完全に封殺した。宙吊りのまま拘束され、激しく動揺するラクサス。
俺は血を流しながらもゆっくりと歩み寄り、奴を見上げた。
「……俺をムシケラと言ったこと……後悔させてやる」
ドクン、と胸の奥でベエルゼの心臓が不気味に跳ね上がった。
解除していた外骨格が、先ほど受けた極大ダメージを吸収し、さらに凶悪な形態となって全身を包み込んでいく。
ダメージ還元による攻撃力上昇——+3000。
漆黒と赤黒い生体鎧を纏い、覚醒した俺の爪が、動けないラクサスの喉元へ向けて静かに持ち上げられた。
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ギルドの裏手に広がる森が、さっきから異様なほど騒がしかった。
バリバリと空気を引き裂く重雷の衝撃音。間違いなくラクサスの魔力だ。
私の知らない何かの件でイライラしていたとはいえ、あんな森の中で本気の魔力を撒き散らすなんて、一体何と戦っているの……?
胸を騒がせる嫌な予感に耐えきれず、私は仕事を置いてギルドの外へ飛び出した。
「なんなの……この魔力……!」
森の奥へ足を踏み入れるにつれ、肌を刺すような刺々しい空気が強くなっていく。
ラクサスの激しい雷の気配。そして——それを力ずくで塗り潰そうとする、ドロリとした重く凶々しい『闇』の魔力。
木々をかき分け、開けた場所へ躍り出た瞬間、私は息を呑んで立ちすくんだ。
「……嘘……でしょ……!?」
空中で四肢を太い漆黒の鎖で縛り上げられ、動けなくなっているのは、あのギルド最強の一角であるラクサスだった。
そして、その下でフラリと地上に立ち尽くしていたのは——ハルト君だった。
大量の血を流し、息を荒らげながらも、彼の全身から湧き立つ無数の漆黒の瘴気。服を破って蠢く赤黒い外骨格が、彼の腕を禍々しい凶器の爪へと変貌させていく。
あんなに静かで大人しかった子が、目の前で化け物のような『闇』の魔力を纏っている。その異常な異彩と圧倒的な圧迫感に、体の芯がガタガタと震えた。
ハルト君は歪んだ笑みを浮かべ、動けないラクサスへ向けてその悪魔のような爪を振りかざした。
「ハルト君……!! なんで……なんで貴方がラクサスと戦ってるの……!?」
私の叫び声が森に響き渡る。
だが、暗闇の中で禍々しい黄色に光る彼の瞳は、もう誰の声も届かない狂気に満ちていた。
「ハルト君……」
私は呆然と、その名を呼ぶことしかできなかった。
ハルト君はこちらをちらりと振り返った。だが、その瞳に宿っていたのは、私に向けられた敵意ではなく……見ていられないほど深い辛さと苦しみ、そして滲み出るような悲しみと憎悪だった。
「なんで……そんな力を……」
私が震える声で尋ねると、彼は視線を落とし、ぽつりと落とした。
「強くなりたい……」
悲痛な呟きが、静まり返った森に響く。
「ナツがラクサスに相手にされなくて悔しがって、S級クエストに行ったみたいに……俺も、ナツやルーシィにチームに誘ってもらえずに仲間外れにされて……そしてラクサスやフリードに、ギルドを出ていけと言われて悔しかったんだ」
「ハルト君……」
胸が強く締め付けられた。
ラクサス……貴方、そんな酷いことを言っていたのね。それにナツとルーシィも……。
……もちろん、ハルト君が今まで魔法を使えないと思われていたから、仕方のない面もあったかもしれない。けれど……
「けど、俺は力を手に入れたんだ。誰にも見下されない力をな」
「ハルト君……!?」
「この……ムシケラ如きに……っ!」
縛られたままのラクサスがバチバチと全身から雷を放ち、強引に抜け出そうともがく。だが、闇の鎖はビクともしない。
ハルト君は静かにそちらへ視線を戻した。
「ミラさんだって……本当は俺の事、弱く見てるんだろ……」
「違う……! 私は、貴方のことが心配で……!」
「取り繕うなんてしなくて良いです。ムシズが走るんだ……!」
「――ッ!?」
ドオオオオオオッ
その瞬間、ハルト君の全身から凄まじい密度の闇の瘴気が溢れ出た。
視界が一瞬で黒く染まり、夜の森がさらに深い暗黒へと呑み込まれていく。
彼の身体を覆う赤黒い外骨格が収縮と巨大化を繰り返し、悪魔のような異形の容姿へと変貌を遂げていく。あまりの圧迫感に、呼吸することすら危うい。
「くっ……ムシケラが……!」
「今度はお前が、大ダメージを受ける番だ」
ハルト君は鎖で宙吊りになったラクサスへ向け、凶悪な巨大な爪を振りかざした。
「ふん、てめえの生ぬるい攻撃なんて、俺には通用しな――」
ドバァッ!!!
強烈な肉裂音が響き渡る。
ラクサスの雷の防壁すら無意味と言わんばかりに、巨大な爪がその身体を深く切り裂いた。さらに息つく暇もなく、禍々しい闇の衝撃波が追撃として叩き込まれる。
ズオオオオオオッ
「がああああ!!!????」
あの、ギルド最強の一角であるラクサスが、見たこともない血反吐を吐きながら吹き飛んでいく。
「がはっ……!?」
何本もの大木を薙ぎ倒し、奥の巨大な岩盤へと凄まじい音を立てて叩きつけられた。同時に闇の鎖が弾け飛び、ラクサスは泥の中に崩れ落ちる。
そんな……あのラクサスが、あんな大ダメージを受けるなんて……!
全身の血が凍りつくのを感じた。
なんて……なんて恐ろしくて、凶々しい魔法なの……!!
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ドシッと地面に降り立ち、解けた闇の煙の中から歩み出る。
「ハルト君、駄目……! それは使っちゃいけない力なの! 駄目よ! 貴方が悪くなるわ!」
ミラが悲鳴のような声を上げて駆け寄ってくる。俺を拒絶するのではなく、本気で案じ、制止しようとしてくるその瞳。……フン、相変わらずおめでたい女だ。だが、俺は冷徹に首を振った。
「使ってはいけない? そんな力なんてこの世にありません。全ての魔法は、使われるためにあるのですから」
「ハルト君……」
ガラガラと激しい音を立て、崩れた岩盤を押しのけてラクサスが立ち上がった。全身血だらけになりながらも、その目には凶暴な殺意が滾っている。
「クズ以下のムシケラが……認めてやる、てめえは化け物だ。だがギルド最強はこの俺だ! てめえを叩き潰して、俺が新しいマスターになるんだからな!」
ラクサスが身体から凄まじい雷を溢れさせる。俺はそのままミラの前に一歩踏み出した。
「下がっていてください。これは俺の命運を賭けた勝負なのです……俺が、このギルドに居続けるために」
「ハルト君、馬鹿な真似はやめて!!」
背後からのミラの制止を突っぱね、俺は真っ直ぐにラクサスを見据えた。
「勝たなければならない……これは俺のためなんです。俺はもっと強くなる。そして……できるなら、ミラさんみたいな素敵な人と普通に話せるくらいの魔道士になりたいです」
「え……?」
不意に突いた言葉に、ミラが毒気を抜かれたように息を呑むのが分かった。何を言っているのか分からない、といった様子の彼女を後ろにかばい、俺は静かに構える。
……フッ、これくらい言っておけば都合よく毒気も抜けるだろう。扱いやすい女だ……
直後、空中へ跳び上がったラクサスが、その全魔力を拳に収束させた。
「見せてやるぞ……フェアリーテイル最強の力を!!」
「滅竜奥義——『鳴御雷(ナルミカヅチ)』!!」
突き出された拳から、至近距離で解き放たれる一撃必殺の超大放電。天を刺すような爆音と共に、世界が真っ白に染まる。
ドガガガガガッ!!
俺は逃げず、ミラの前に立ちはだかったまま、すべての威力を正面から受け止めた。ベエルゼの外骨格を透過して、生身の肉体と神経を焼く強烈な激痛。
「ハルト君ッ!?」
ミラの悲鳴が響く。強烈な痺れと激痛で全身がブルブルと震え、膝が折れそうになる。だが、俺は泥を踏みしめ、踏みとどまった。
「……平気です……ギルドに、居たいから……っ」
激痛の果てに、ベエルゼの真価が暴威を振るう。全身を駆け巡る雷のダメージが、そのまま絶大な破壊力へと変換されていく。
……クククッ、効くなあラクサス……最高の『餌』だぞ……!!
「俺は……破壊されない……!! そして受けたダメージの分だけ、攻撃力を上げる……!! 俺の痛みは、全て力に変わる……!!」
「くっ……!?」
ラクサスが息を呑む。俺の腕を覆うベエルゼの外骨格が膨張し、禍々しく巨大化していく。
「さらに……『魔界の足枷』を発動!! ラクサスの動きを封じ、火力を下げる!!」
地面から現れた漆黒の足枷がラクサスの両足を完璧に砕き、その威勢と魔力を力づくで削ぎ落とした。動けないラクサスを眼前に捉え、俺の内に溜まった確かな力が腕へと集束していく。
「俺のターンだ……」
闇の瘴気が重く、深く増幅する。跳ね上がった威力を解き放ち、この生意気な男を叩き潰そうと握り拳を叩きつけようとした——その瞬間。
「——そこまでじゃ!!!」
森全体を揺るがす厳格な一喝が響き渡り、空間の空気が一瞬で凍りついた。
視線の先には、怒りを露わにしたマスター・マカロフが立っていた。