昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「か……完成したーー!!」
魔女の帽子のようにうねった屋根。どこか歪ながらも、崩れることなく建つ『元』廃屋を前に、ライザやレントが目を輝かせながら振り返る。
「見てヨル兄!!私たちの隠れ家だよ!」
「どーだヨル兄!立派なもんだな!!」
「なんでお前ら俺に言うんだ……」
ライザはぴょんぴょんと跳ね、レントが興奮しながらヨルの背中を叩く。その熱量にうんざりした様子のヨルがため息混じりにこぼした。
「ヨル兄さんは素直じゃないね、さっき小さく『おー』って言ってたのに」
「素直じゃない、だとぉ……?」
「よーしお前ら、そこにしゃがめ」と足元を指さす。
ライザやレント、タオが困惑するが、ヨルが「オラさっさと並べよ」と足で小突く。
そして、その風景を呆れた様子で眺めるボオスも手招きする。
「なんで俺までしゃがまなきゃならねーんだ」
「ほーらいい子でちゅね〜。つべこべ言わずにしゃがめやボオス」
無理矢理しゃがまされ、「また何を始めるつもりだよ……」と呆れた様子のボオスに、ヨルが腕を組みながら「よし」と、口角を上げる。
そして、少し離れた場所で成り行きを見守るクラウディアにも目を向けた。
「……何やってんだクラウディア。お前もこいよ。」
「え?私も?」
「当たり前だろ。1人だけ見逃すなんてしないぞ。」
「な、なにするの?」と恐る恐るボオスの隣にクラウディアがしゃがむと、おもむろに2人の頭をわしゃわしゃと撫で始める。
「な、何やってんだてめぇ!」
「え、えーと、ヨル?」
ボオスが心なしか、頬をうっすら赤らめながら手を払い除けようとするが、その手を器用に避けながら撫で続ける。
クラウディアはというと、まさか猫のような少年に頭を撫でられると思わず、恥ずかしそうに頬を緩ませる。
「よし。次。」
髪の毛を鳥の巣のようにぐちゃぐちゃにされたボオスの睨みも、クラウディアの照れくさそうな様子もどこ吹く風。
レントとタオの前に立つと、「おいおい、まさか……」と呆れた様子の2人もまた、もちろん容赦なくぐしゃぐしゃと撫で回される。
「あー、ヨル兄?なにやってんだ……?」
「素直に褒めてやってんだろ?嬉しい、だろ?」
「嬉しくないって言ったら嘘になるけど、やっぱり素直じゃないんじゃ……」
「……よし。最後だな。」
「……へ!?」
生意気に分析したようなことを言うタオの頭を小突きながら、ライザの前に立つ。
まるで順番に刑かなにかを執行されていく様子を、まじまじと眺めていたライザが、目の前に立つヨルに硬直する。
「あ、あたしはその、大丈夫っていうか……!」
「いらないのか?遠慮するなよ」
しどろもどろのライザの帽子をパッと取り上げられ、帽子の中にまとめられていた茶髪が垂れ下がる。
ふん。と鼻を鳴らしながら取り上げた帽子を、麦わら帽子の上から自分の頭に乗せると、両手をライザの頭に伸ばす。
そして、「あ……!?」と顔を赤くしながら固まるライザの頭を、わしゃわしゃと撫で始めた。
「あわわわわわわ!」
「ははは!ライザのやつまるで犬みたいじゃねえか!」
「よかったねぇ、ライザ」
そんな様子を笑いながら指差すボオスと、微笑ましく眺めるクラウディア。
そして、ひとしきり撫でて満足したのか、ヨルがふんと鼻を鳴らした。
「———で、この隠れ家、名前はどうするんだ?」
「名前?」
隠れ家を眺めながら、ボオスが何気なくつぶやく。
「たしかに、名前もないってのは締まらねーか」とレントが腕を組む。
「ライザ、ボオスがこの家の名前をご所望らしいぜ。」
「言い方ってもんがあるだろうが、バカが。」
ドスっと、ボオスがレントの肩を小突く。
何やら顔を赤くしながらヨルの頭から帽子を剥ぎ取ろうとしているライザが、「名前?」と振り返り、みんなで立て直した家を見上げる。
「……アトリエ。ライザのアトリエでどうかな」
「はは!まあ確かに設計図やらなにやらはお前の発案だしな。」
ボオスが笑いながら、「異論はない。」と続ける。レントやクラウディアもまた、名前のついた隠れ家に、満足げな表情を見せる。
「いいんじゃない?飾り気のなさも家主にはピッタリだしね」
「ひと言余計よ。ったく……んえ」
ボスっと、なぜか麦わら帽子の方をライザに被せながら、ライザの帽子を斜めにかぶったヨルが赤い瞳で隠れ家———『ライザのアトリエ』を見上げる。
「いい出来なんじゃないか。少なくとも寝心地はよさそうだ。」
「……まったくもう。寝ることばかりなんだから」
ライザが呆れるようにため息をつき、ヨルの袖を摘む。
そして、袖を引きながら『ライザのアトリエ』の扉を潜った。