ψ(Pusai) / Evangelion:R:A 作:AllZ:M
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英数と記号の羅列が流れ落ちる最中に、一行のみが記述の途中で、別の
入れ替わった行は、直下の行。
更に其の下の行が同じ要領で、上から下へと一行ずつ。
「…未登録記述の混入を確認。
「
古傷の男が、顎に嗄れた手を添えながら思案する。
「…待て、コイツは此方側、●対の
「…少なくとも…ほら、此処です」
砂蕗之が指を指したのは、今現在において改竄されていく数列其のものではなく、裏で演算されている
「戴天遣に取り付いてからのコンマ数秒の間に、既にOSが約数万回、●対の安全制御システムから抜け出してるんです」
其の下方にあったのは、数十万、更に数百万と記述され続ける、ジェイルブレイクの実行例。
然して、其れと同じ数の
「ログの記述行が八桁の閾値を越えようとしたところで、
「目標を此の世界に"はいどうぞ"させる為だけに、組織の
筋自体は、墨流れの装甲を直線には進まない。
埋め込まれた結晶の粒を、一粒、また一粒と辿りながら、其の粉々を吸い込むように
「侵蝕線!? …あんなもの、我々は仕組んでいない!」
砂蕗之の声色が、がなりを含んだ荒々しいものに変わる。
古傷の男は、其れ以上は何も口にしなかった。
――何より、"其れ"が内部構造に組み込まれている以上、常態ならざるものの発生は想定の範疇。
だが、古傷の男は、其れを砂蕗之自身に最後まで伝えることが出来ずにいた。
"其れ"は、古来より続く、秘匿された
真実を当事者以外に伝えることは、其れこそ"彼ら"への謀叛になると。
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主画面の中央では、
右下の崩れた箇所から、記号が一つ、また一つと赤い文字に置き換わり、欠落は輪郭の内側へゆっくりと広がっていく。
艦橋の隅にて、若い通信士が小さく息を詰める。
「土着要項自体も、まだ完全ではありません。恐らく、先の噴火事象も無因果ではないですから」
「見えてる」
古傷の男の返答は、平坦であった。
「最期まで戦い抜いた奴の"遺志"が完全に欠落した時にだけ、落胆と死は赦されるってもんだ」
「…目標から
砂蕗之が、冷や汗を散らしながら端末から目を上げた。
「…間違いない、侵されていますっ! 我々の物質と同じ質の物質を同じ質量の物質に、物理的な物質がっ、いままさに物理的に伝っている!」
「砂蕗之さんよ、掌中の珠の成長に感激する気持ちは汲むが、語彙を固める前に発言するなね」
「あ、あッ」
男の諭しに、砂蕗之は反射的に額を拭った。
「…っ、ですが、先の線流による外殻熱の損傷とは、明らかに性質が異なります」
観測員の声が、其処へ重なった。
「噴出柱地点、隆起継続。縁部より発光を確認。噴煙は確認できません」
「火砕流もなし…下手すりゃ噴火じゃないのか」
「はい、発光のみとのことです」
古傷の男の指が、再び上衣の内側へ伸びる。
「…
呟きは、砂蕗之にだけ届いた。
砂蕗之は、一度だけ古傷の男の顔を一瞥したが、其れから視線を端末へ戻し、結局は何も訊かず。
嘗て、此の世界には大災が振りまかれた。
――箱ノ根岳は、嘗て起きた"天変地異"の元凶が
■ ◆
根元から無惨に引き千切られるようにして地に伏した倒木が、行く手を塞いでいた。
根ごと剥がれた杉が、斜面を横倒しに折り重なり、勝手知ったる筈の獣道は跡形もない。
ハルは、手探りで幹を跨ぎ、枝を払いながら進んでいく。
頼れる明かりは、木々の隙間から漏れる赤黒い耀りだけ。
其の耀りは、強く、弱く、強く。
一定の間隔を保った輝きが、夜の山肌を照らしている。
銀膜の裾が、枝に引っ掛かる音がした。
「…あ、ごめん! 其処が引っ掛かって──」
言い終える前に、ハルの右足が浮き上がった根の下へ潜った。
「わ、と、とっ!?」
身体が前へ傾ぐ。
咄嗟に、繋いだ手へ体重を預けてしまう。
引かれたのは、ハルの方であった。
細い腕が、傾いた身体を其の儘に引き戻す。
骨の形が掌に伝わる程の薄い手であるのに。
其の力は、ハルが予期していたよりも、遥かに確かなものだった。
「…つよい、ね」
「…ん」
ミデンは其れだけを返して、前方を向いた。
以後、何時の間にか、ミデンが先陣を切って歩を進めるようになっていた。
彼女は、
小石も割れた枝も、躊躇なく踏む足取りには、躊躇いが無い。
倒木の幹の、苔の薄い場所へ足を掛けて、根の浮いていない地面へと次の足を置いた。
「…足、痛くないの?」
ハルの問いに、少女は少し間を置いた。
「…いた、い…は、まだ…っ、ない」
「…そっか」
■ ◆
焚火の焔が途絶し、二人が徐に駆け出してから、十数分が経過していた。
背後からミデンの足運びを見ていて、ハルは胸の奥に、小さな引っ掛かりを覚えた。
山岳登山の心得は、人並み以上には知っていると自負していた。
だが、先程の正八面体による倒木や土砂崩れで、嘗ての登山路は完全に失われており、先程までは数分おきに脚がもつれ、幾度も転倒しそうになっていた。
にも拘わらず、彼女に手を引かれている間だけは、一度も足を取られなかったのだ。
「…道、分かるの?」
問いに、少女は、暫し黙した。
「…わからない」
歩みは、止まるところを知らない。
「でも、あっち、だけ…わかる」
ハルは頷く。
訊いたとしても、彼女自身が未だ答えを持っていないのだということは、既にわかっていた。
■ ◆
――ごう、と、足許がまた低く唸った。
ハルはふと、鼻腔に届く匂いに、硫黄による独特の異臭が無いことに気付く。
火の山が鳴動する夜の筈なのに、灰の一片も降ってこない。
空気は冷えたまま。
耀りが近づくに従って色が濃くなる中で、肌に触れる風だけが、少しずつ凪いでいく。
懐の紙片に、指先で触れる。
油紙越しに伝わる、端の毛羽立ち。
母は、此の夜の道を、毎年、独りで歩いていたのだろうか。
答える者はおらず、二人の繋いだ手だけが、前へ、前へと引いていた。
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