「遅い遅い遅い!!!お前ら全員遅すぎるわ!!!!」
糸目で汚い金髪の性格悪そうな奴がそう言いながら加速していく。恐らくは火属性の『身体活性』と闇属性の『加速付与』で速度を出しているのだろう。周囲を取り囲んでいる生徒(多分)を文字通り目にも止まらない速度で連続で沈めていっている。俺もまた飛行速度が音速を越えてくる竜種との戦いをしたことがなければ目で追うのは難しかっただろう。
「今何したのアイツ。なんかみんなお尻を抑えて蹲ってるんだけど……?」
「簡単だ。奴は身体を強化した上であの速度に到達し、一瞬で全員の背後に回った。そしてそのままの勢いで全員の尻に千年殺し(意味深)をしたんだ。あまりにも速い浣腸、俺じゃなきゃ見逃してるね」
「あの速度でやることが浣腸……?」
リリィが絶句しているがまぁ分からなくもない。正直宝の持ち腐れというかアレが出来るならもっとスマートな方法があるとも思う。でも尻ってあんま鍛えてないのが多いから多分全員に共通で効きそうなのがアレだと思うんだよな。
「俺の闇の翼はお前には捕らえられねぇよ」
「あ、また別なのが出てきた……。今度は黒い羽生やしてる……」
「すげぇな。どうやって飛んでるのかまるで分かんねぇ」
あまりの速度にこれは糸目生徒の一人勝ちかと思えば囲っていた集団から一人離れていたイケメンだけど女を殴ってそうな感じの雰囲気の生徒が翼を生やしそのまま空に飛び立った。凄く絵になる感じだがあれは狙ってやっているのだろうか。
「カカカ!!あれはのう、土属性の『形態変化』で周囲の土で翼を作り闇属性の『浮力付与』にさらに自らが風属性の魔法で無理矢理空を飛んでおるんじゃ」
「うわっ!?びっくりした!!」
「えっ、急になにこの人こわっ!!」
暴れている生徒達(未定)から距離を取って隠れていた俺達の背後にいつの間にか青年が立っていた。こんなにも気配を察知できなかったのはルーマ姉に風呂場に侵入された時以来である。だが目の前の男からは一瞬でも目を逸らしたら見えなくなるのではないかと思わせるほどに存在感がない。狩りの時に存在感を消すモンスターもいるがそれでも若干の違和感は残りそこから居場所を突き止めたりできるのだが、この男はまるで空気と同化しているようだ。
恐ろしいと素直に思う程にその眼光は鋭く、警戒心を湧き立てさせる。リリィなどは恐怖のあまり俺の腕に縋りついてきて僅かなふくらみが腕に当たりとても柔らかくてこの状況を生み出してくれたことに感謝の念を抱いて思わず拝み倒したくなった。
「ありがたやありがたや……」
「こっちは急に拝みだしたしやっぱり怖い!!」
「カカカ!!やっぱりあの村出身故かまいぺーすだわいのう。見てて飽きんわい」
「えっ、うちの村知ってるの?というか微かな恵みを与えてくださった貴方様は一体……?」
「儂はこの闇寮の一年担当教師のグルサックよ。今年は色々と面白いのが入ってくると聞いてのう、わざわざ担当候補を殴り倒してゲフン。頼み倒して交代してもらったが普段は闇寮全体の寮監督教師じゃ」
「いまなぐりたおしたっていった」
男が教師というのも驚きだ。なんせ俺達よりは年齢が明らかに上だが20を過ぎて少し程度にしか見えない。だけど普段は寮監督教師だと言った。つまり普段と言えるくらいこの学園にいるということだ。
あとリリィが常識外の存在を見たせいで正気を失いかけてる。殴り倒したって言葉を受け入れることが出来てなさそうだ。でもあそこで今もやり合ってる生徒の教師だと思えば非常に納得出来るのではなかろうか。
「ちなみに今年で儂、127歳よ。純人種でエルフでも何でもないがのう」
「ジジイじゃん!!!」
「127歳でこの若さ……?えぇ……」
流石に驚く。ダークエルフに囲まれたせいで色々と感覚がズレてる自覚はあるけど流石に人間がその年齢まで生きた上に物凄く若々しいのは驚愕だ。リリィは自分の常識から外れた物を立て続けに見ているせいで放心してる。
「だがまぁ、やはり今年は逸材ばかりよのう。叩きがいのあるクソガキばかりだわい。惚れ見てみい、また一人潰されたぞ。こんなハイペースで決着がつきそうなのは早々ないわいのう」
「えっ、これって毎年やってるの!?何の為に!?」
「闇寮一年の代表は一番強い奴なって言えば毎年ここのガキ共はああなるわい」
「えぇ……理解できないわ……」
「闇属性適正を持つ者は少ないからのう。利便性でも高い性能を誇るそれを持って幼い頃から優秀であれば自分が同年代で一番と思い込むのも分からんでもないわい。少々焚きつければ乗ってくるのもガキで笑えてくるが」
今更だけど生徒が戦っている姿を笑って見ている辺りこの若作りジジイ教師もまともではないのでは?そりゃあの案内書を書いた人も闇寮は変人変態の巣窟って断言するよ。
「ま、誰しもそういう時期があるわいのう。闇属性はそれを患いやすくなるのよ」
「なんか自分のことを「闇の皇子」とか言ってる奴がいたり、翼作った奴が「堕天使」を名乗ってるのもそういう時期って奴なのか?」
「クカカカッ!!後年頭を抱えてる様子が目に浮かぶわいのう!!!」
いずれ見る醜態を楽しみにして笑っているこの教師は本気で性格悪いなと思いました。もしかしなくてもこの教師がルーマ姉が言っていた魔拳と呼んでいた人物なんだろうな。カスだのクズだのぼろくそに言っていたが、出会ったばかりではあるが納得しそうだ。
「ヤバい連中しかいないの……?闇寮に来たの後悔しそうなんだけどぉ……」
「お前さんのように隠れている者も少なくないがのう」
そう言いながら指差しする方を見れば確かに茂みの中に俺達と同じように巻き込まれないように隠れている生徒も見える。だけど騙されてはいけない。あれは隠れ潜んで隙を見て他の生徒を狩ろうとしている奴の目だ。リリィは救いを見たような感じで目尻に涙を浮かべていた。
「よかった、私以外にもまともなのはいたのね……」
「その言い方だと俺はまともじゃないように聞こえるんだけど」
「モンスターの後ろを取って首をへし折る奴は普通じゃないのよ」
解せぬ。俺はただ後々見つかったら間違いなく襲い掛かってくるモンスターを先手必勝で狩って後で売ろうと思っているだけなのに。ちなみに獲物の多くは影の中に収納している。生き物は入れられないが死体や物なら好きなだけ入れられるので便利である。
「しかしまぁ、お前達二人はあの獣道を歩いてくるとはなぁ。あの道は一年の訓練で使う用だったんじゃがなぁ」
「やっぱりあの道滅茶苦茶危険だったんじゃない……!!」
うん、そりゃ校舎の近くにモンスターが跋扈している森なんて作るはずもないよね。なんであの魔導車の運転手はあそこで俺達を降ろしたんだよ。リリィだけだったら危なかった、俺がいたから無傷で済んだが。
「ま、この森一帯程度なら儂が常に生物の動きを把握出来ておるから死にかけたら迎えに行ってやったが。ちなみにこの闇寮の保有しておる土地の八割はモンスターゾーンじゃ」
「もうやだお家帰る」
「リリィが壊れちゃった……」
常識を持っていたが故のショックだろう。本気で泣きだしそうになってしまったその頭を撫でながらここでの生活は故郷とあまり変わらないんじゃないかと思う。邪神のせいで厄ネタまで見せられるしでより忙しくなる未来しか見えない。いやでもリリィみたいな美少女と出会える環境というのは酷く得難いのではなかろうか?
「ちなみに今年は各属性の完全適合者が入ってくる黄金期になっている。まぁ厄ネタの宝庫だろと絶叫している者もいたが儂からしたら楽しみそのものよ。闇属性の完全適合者何ぞ、育て甲斐があるわいのう……!!」
なんかヤバい目つきでヤバいことを言っている。ここで俺がその適合者ですなんて言いたくはないけど後でバレた時が一番怖い。このジジイは何をしてくるか分からない恐怖がある。
「闇の完全適合者なら俺のことだけど……」
「おーい貴様らぁー。ここに闇寮一年代表最有力候補がおるぞー!!!」
「ジジイテメェゴラァ!!!!」
ジジイの言葉に今殴り合っていた全員の目がこちらに向く。爛々と輝いているそれは新たな獲物を見つけた腹を減らしたモンスターよりも恐ろしく感じる。同時に跳びかかってきた奴らを迎え撃ちながら俺はこの性格の悪いジジイをいつかぶちのめすことを心に決める。
「上等だボケ共が!!!格の違いってもんを教えてやるよォ!!!!」
「ああ……ヨルもそっち側に行っちゃったわ……」
リリィを守る為に前に出て拳を構えて奇声を上げてくる馬鹿共を次々に沈めていく。結果から言うと最終的に立っていたのは俺だけだった。
闇寮の生徒(全員中二病)
なお闇寮一年生でぶっちぎりで最強なのはヨル君の模様。
闇神様と滅茶苦茶相性のいい戦闘経験豊富な化物だからね、仕方ないね。