田舎少年が行く学園青春狂騒曲 厄ネタを添えて 作:ビスマルク
馬鹿のような乱闘騒ぎが終わり全員が教室の中に入った。もっともその教室の壁には大穴が空いており清々しい風が入り込んでいるのだが。隣に座っているリリィはもう既に現実から目を逸らすことに集中しているようでずっと真顔だ。
「おーし、闇寮に入学した一年生が全員集まっとるようだしホームルームを始めるとするかのう。いやー今年も活きがいいのが集まったわい」
「先生、その活きのいい奴の大半の息の根が止まっている気がするんですけど」
「天井と壁に頭突っ込んでるだけで生きてるから平気だわい。こういう野性世界で生きてるような奴らを統率する最高率方法は力の差を理解させることだわいのう」
「ここは野生の世界とは真逆の学びの園のはずなんですがそれは」
「知らん。ここでは儂がルールよ」
リリィの言葉に理不尽極まりない言葉が返ってきて両手で顔を覆ってしまった。彼女の頭を撫でながら慰めつつ、天井や壁に頭を突っ込ませている生徒達のオブジェを作り上げた教師を見た。
言ってることはヤバいが間違いなくこの若作りのジジイがこの教室で最強である。というより今まで俺が見てきた全生物で最強だ。俺が倒してきた竜種なんてこのジジイ教師の前では間違いなくただの餌にしかならない。その上でこの性格なんだからルーマ姉があそこまで言うのも分かる。
「すみません先生、もう正座やめたいんですけど。正座のし過ぎで足の感覚ないんですけど」
「なんじゃと?それは大変だわい。仕方ないから逆立ちしてホームルーム受けてもいいぞ」
「すみません大人しく正座してます」
愉快なオブジェになるのを辛うじて避けることが出来ていたあの魔法で羽を作って空を飛んでいたイケメンがそのまま正座し続ける。先程まで俺と戦っていた時の生き生きとした表情はなく、その目は既に諦観で死んでいる。時間になったという理由で一瞬でジジイ教師に叩きのめされて目が覚めたのかもしれない。世の中上には上がいると。
「さて、まずは儂の自己紹介からするぞ。儂はこの一年の学年担当兼闇寮監督教師ルグ・ヴェロニカよ。この闇寮においては強さこそ正義、故に儂が言う事は絶対。これだけは覚えておけ」
((((((清々しいほどに暴君だ……)))))
新一年生全員の気持ちが一致した瞬間である。しかしやはりというかなんというか、こう言うという事はこの闇寮においてこのジジイが最強なのだろう。俺も闇生物を出す前に気絶させられたが、文字通り目にもとまらぬ速さを出していた。その強さには憧れるものがある。それはそれとして被害者である俺を殴り倒したので後で闇討ちしに行こうと思う。恨みはらさで置くべきか。
「やり過ぎと判断されたら光寮の聖女もどきが襲ってくるから死にはせん程度にはしといてやるわい。生死の境は彷徨ってもらうがのう」
「それをやり過ぎと言わない辺り判断力ガバガバやないかい」
光寮は闇寮よりましなのか、頼むから正反対の属性ということでこの理不尽さを矯正できる漢字であってほしい。いやでもこの教師見かけじゃわからないけどジジイになるまでこの性格なんだよな……ほな無理か……。
「自分が外れた人間だと思いあがっていた……。目の前に本物の狂人がいる……」
「確信できる、僕達は一致団結して立ち向かわないとヤバいことになると……!!」
「おかしい……ワイはただ青春しに来ただけやのに……。強くてカッコよくて素敵―って叫ばれるために来たはずやのに……」
「もうかえりたい」
俺以外のクラスメイト達も目の前のジジイの行動と言動を見て我が身を省みている。これが反面教師という奴か。ああ、だから一度暴れさせたのか。自分の力に酔ってるところに冷や水を浴びせた上で自分が最強だと思い続けた末路を見せて正気に戻すと。なるほどよく考えられてる。そうじゃなきゃこんな不良教師が先生をやっているわけもない。
「そんじゃ顔合わせも済ませたし序列も叩き込んだし儂はもう飽きた。後は副担任に色々と聞け」
「アダダダダダ!!!?!!?俺の頭をアイアンクローで潰そうとするんじゃねぇ!!?いだだだだ!!!割れる割れる!!!?」
「ええ、あとは僕がやりますからその手を離してください。アンタマジでスイカとか片手で豆腐握るように潰すんだから頭蓋骨われちまうだろ横暴ジジイ」
心を読んだのか俺の頭にお仕置きをした後投げ捨てたクソジジイは欠伸をしながらそのまま出て行った。あのジジイ絶対にしばき倒してやる。
副担任と呼ばれた苦労人そうな眼鏡をかけた痩せているように見える教師は心配しながらもいつもの光景を見ているように慣れている光景を目にしているようだった。ちなみに副担任になれるだけあってその身体は間違いなく鍛え上げられている。俺には分かる。
「僕はジョージ・ダール、闇寮一年生の副担任です。えー、皆さんご入学おめでとうございます。あとあの種族人間の癖に寿命を超越しているクソジジイの試練ご苦労様。いや本当あのジジイ死ぬところ想像できないね。僕が寿命で死んでもまだ元気でクカカカ言ってんじゃない?」
真面目そうに見えたが一瞬で本性が見えてきた。ジジイ教師よりはまともそうだけどやはり闇寮の教師だからだろうか。ヤバい奴しかいないとかマジ???
「さて、まずこの闇寮近辺についてはなしておこうとおもいます。ここに来るまでの間に角うさぎを始めとした比較的安全なモンスターを見てきたと思いますが、あれはあのクソジジイが放し飼いにしている訓練用のモンスターです。一番危険な道以外では入学当初の一年生でも対処できるようなモンスターばかりですが、万が一のことがないようにこちらでも動向を確認しているので死の間際まで追い込まれても安心してくださいね」
「ごめんなさい!!安心できる要素がないんですが!!!!」
「大丈夫大丈夫。その内慣れて財布にしか見えなくなるから」
「それは大丈夫とは言いませぇん!!!」
ツインテールにしている茶髪の少女が叫んでいる。もう既に涙目だ。というかこの闇寮、女子生徒の姿が異様に少ない。男子30人に対して女子5人くらいしかいない。まぁその5人みんな美少女なのだが。
「ジョージせんせーい、あのキチg……クソジジイ先生がただ放し飼いにしてるとは思えないんですけどもしかしてなんか他に目的とかあるんですか?」
「おお、そこに気付くとは……闇寮の素質がありますねヨル君」
「名誉毀損ってどこに訴えればいいんですか???」
「簡単に言うと闇寮敷地内にいるモンスターを狩ると学園全体で使える通貨を得られるよ。素材を集めて売れば更にその分もね。あとあのクソジジイが言っていた通り強さが闇寮では重要だからいい修行にもなる。奥の方に行くと竜種とかもいるよ。二年三年に進級すると校舎も奥に移動するから頑張って強くなろうね」
無視して進めていきやがった。この先生も所詮は闇寮の教師という事か。こんなのしかいないんだったらそりゃ案内書にも変人変態しかいないって書かれるわ。
「通貨に関してだけど学園内でだけ使える奴だから気前よく使ってください。まぁ学園外に出る時とか外の通貨と交換してくれるから貯めておくのもいいけどね。色んなお店があるから試しに見に行ったらいいとおもうよ」
「モンスター討伐か、ありがちだが分かりやすいよな」
「故郷でうさぎ狩りの名で呼ばれた俺の魔法が火を噴くな!!」
「金を貯めて女を侍らせてやるぜ!!」
「ジョージ先生ー。もうマッスルディアとかオクトパスベアとか狩ってきてるんですけどこれどうすればいいですか?」
影の中にしまっておいた獲物達を引っ張り上げるとクラスメイト全員がぎょっとしていた。待て、何故おかしい物を見るような目で見る。俺よりもよっぽどヤバい頭おかしいジジイはそういうもんだと受け入れてただろお前ら!!
「なんて奴だ……」
「見ろよあの筋肉……あれはやるかもしれねぇ」
「まて、そういえばあの腐れ爺教師が奴を代表にするって言っていたが……」
「成程、闇の完全適合者は今この時点でけた違いってことか。実力も頭の螺子の外れ具合も」
「物凄く不本意な形で認められたんだけど。あと俺まだ代表やるなんて言ってないんだけど」
クラスメイト全員の評価が上がった。上がってはいけないものも上がった気がする。リリィに助けを求める視線を送ってみるが即座に目を逸らされた。
どうにも居心地の悪い空間だと思っていたところに肩に手を乗せられる。先程まで正座させられていたイケメンが優しそうな目で俺を見ている。
「誇れ代表、お前がナンバーワンだ」
「なりたくねぇ」
闇寮の代表とか絶対苦労させられる。教室に空いた大穴を見ても教師も生徒も何も言わない辺りそう断言出来る。そんなものに進んでなる為に俺はこの学園に来たわけじゃない。あの邪神のお告げという名の呪いを何とかする為に……それはそれでムカつくな……。
「じゃあワイらの代表はヨル氏ということで」
「「「「「「異議なし!!!」」」」」
「不当判決には断固講義すんぞ屑共!!!!」
クラスメイト達は「代表になったら面倒なことになる」と察したのか全員で結託して俺に押し付けてくる。コイツらもう一回ぶちのめしてやろうか。ジョージ先生は微笑ましい物を見るような、明日買われることになる家畜を見るような目で見てくる。その視線が両立することあるんだ。
「別に反抗するのはいいけど、これルぐ先生の決定だから……。それはつまりあのルグ先生に喧嘩を売ることになるから素直に引き受けた方がいいよ」
「これが、この学園の闇……!!!」
学校ってもっとこう、キラキラした青春を送る場じゃなかったのか……?なにこの厄介ごとの押し付け合い。だけどあのジジイに喧嘩売ることになるのは……。
「でも俺こういう事勝手に決められるの死ぬほど嫌いだからあのクソジジイ殴りに行くわ!!!」
「えっ」
「えっ」
「「「「「えっ」」」」
俺はなぁ、なんでもかんでも勝手にやられるのが死ぬほど嫌いなんだよ!!!強制させられるくらいなら殴りこむ!!!!ここのルールに則った上で潰してやらぁ!!!!
「…………あの思考即行動の早さは流石闇の完全適合者だね」
ぼそりと呟いたジョージ先生の言葉に対する返答は全員の首肯だったとさ。