田舎少年が行く学園青春狂騒曲 厄ネタを添えて 作:ビスマルク
この世界では魔法が生活にも根付いている。料理や掃除といった身近な家事から物の流通にまで幅広く使用されている魔道具。モンスター、魔族といった人間にとっての天敵との戦闘に使われる魔法。それらを発展させる施設は世界中、各国でも作られて来た。
「ガングロが、ガングロが迫ってくる……」
『ノウブル魔法学園』はそんな施設の一つであり、ここに通うこと自体が魔法の才能に溢れていることの証明である。新たな魔道具の制作をしている『雷寮』の敷地はまさに別世界と言っても過言ではない発展性を見せている。
「痛みが心地よくなってきた……」
この学園を卒業後の進路は個人によって当然違うが、それでもこの学園を卒業できた者に無能は存在せず、その全員がそれぞれの道で活躍している。
「ワァ、お空綺麗……」
そう、当然この闇寮にいる俺達もまたエリートの一員なのである。俺達の未来は輝かしい物に違いない!!
なお現状俺の周囲にいる奴は壁にめり込んでる奴と頭が天井に突き刺さってて見えない奴と自己防衛からか恍惚の表情を浮かべてる奴などしかいない。多種多様な様相を見せる地獄である。
「お前ら囮になれ……!!俺は逃げる……!!逃げて体勢を立て直してあのクソジジイをぶっ殺す……!!!」
この全てが担任であるルグと名乗る狂人教師の仕業である。許せねぇ、俺達はただこの一週間で叩きのめされたことと連日寝込みを襲われて夜中サバイバルをさせられたことに対する復讐で襲い掛かっただけなのにこんなことにするなんて。女子生徒にサバイバルをやらせなかった事だけは評価するがそれはそれとして復讐してやる。
俺は倒れ伏しながら匍匐前進の要領で身体を引きずりつつこの場から離れようとするもしその足を誰かに掴まれた。この闇寮一年における女を捨てそうなイケメンランキングナンバーワンの正座キング、テニア・ラニアックである。
「ふざけんなテメェ代表だろうが……!!代表なら俺達全員の為にあのヤベェのの獲物になりやがれ……!!」
「この一週間襲い続けて理解したんだよボケが!!あのクソジジイ教師寝てるところ襲っても反射的に反撃して殺しにかかってくるんだよ!!囮がいないと話にすらならねぇんだ!!!だから俺の足を引っ張ってんじゃねぇ!!!物理的な意味でもな!!!!」
足を掴んで止めてくる奴に対して蹴りをかますもそれを防御してテニアは時間を稼ぐ。その稼がれた時間で亡者のように闇寮一年が群がってくるのだ。こいつら全員耐久力がおかしい。だけどその耐久力の活かし方が他人を道連れに使う感じなので屑としか言いようがない。
「醜い争いだわ……。私、男じゃなくてよかった……」
「最初の日に格付け済んだはずなのに変わらず全員で襲い掛かるのはバイタリティ凄いよね。連日連夜繰り返してるのはダチョウヘッドドラゴン並みに記憶力がないからかもしれないけど」
リリィとその友人になった闇寮一年女子であるユウキが俺達を見ながら呆れた様子で呟いている。だがその顔には初日あった恐怖はなく既に慣れている物を見ている目だった。まぁ入学から一週間授業前にジジイ教師をクラスの男子全員で殴りかかっているのを見たら慣れもするだろう。一応暴れる時は魔法禁止のルールがあるので全員ステゴロだ。そのおかげで教室の破壊痕もあまりない。
「襲われてる本人は疲れるどころかニコニコしてるし」
「心なしか肌艶も好さそうよね。どんな精神構造してるのかしら」
二人の視線は移動し教壇に立つ教師に向けられる。そこには肉弾戦一つで俺達全員を10秒足らずで殲滅した若作りジジイがいる。俺達を叩きのめしその醜態を見ることをこれ以上ない喜びとして見てる性格の悪すぎるガングロ野郎だ。
「今に見てろよジジイ……!!絶対そのにやけ面をぶっ潰してやる……!!」
「クカカカッ!!!活きがいいわいのう!!!大抵は初日で諦めるもんじゃが、教師というのも続けて見るもんだわい!!」
今は届かない。奇襲を仕掛けても平気で対応されるしこちらを見ることなく反射のみで撃退されるレベルだ。だがいつか必ずその顔面に一発をぶち込むことを心に決める。
「ふぅ、笑った笑った。まったく楽しませてくれるわい。おかげで若返った気分よ」
「それ以上若返りが進んで精子にまで戻れよアンタ」
「そうなったら世界一強い精子がお前らをボコるぞ?」
精子の時点で俺達より強いとでもいうつもりかこのジジイは。いやでも否定できないところがあるというか、このジジイならやりかねないというすごみがある。
「さて。とりあえず貴様ら一年生だがこの闇寮での流儀も理解したことだろうし放課後は自由にすることを許可するぞ。モンスター狩りだろうが自己鍛錬だろうが好きにせい。ただし他寮の敷地に向かう時は必ず書類申請するように。本校敷地は全寮の交流場ゆえに好きにすればいいがのう」
その言葉に闇寮一年全員が沸き立つ。それはこの地獄の一週間を潜り抜けたご褒美として全員が強く望んでいたことだから仕方ない。
「ようやくこの土地に縛り付けられた上でのサバイバル訓練は終わりか……」
「自室で寝てる時に不規則ランダムに襲撃かけてくるとかさぁ」
「女子にシャワーを浴びせる時間を用意したのは評価しよう。俺達は川で水浴びだったが」
「闇属性は夜目が利くとはいえ深夜にモンスター狩らされるとかさぁ。それでもクソ教師に襲われるよりかは楽なのおかしくない???」
言ってることがおかしく聞こえるかもしれないがこの闇寮の生徒の多くはモンスター狩りのプロだとか特殊任務に就くエージェントとかになるのでこの教育方針は間違っていないとはジョージ先生の話だ。ここで三年間生き延びればそれはもうどんな無茶ぶりでも突破する最高クラスのエージェントになれると各国からお墨付きを得ているらしい。少なくてもバイタリティは鍛えられる。
「もう闇の皇子だとかどうでもいい。というかこの教師とクラスメイトと同じ属性なのが嫌になってきた。僕は正気に戻ったぞ」
「ワイ以外のクラスメイト全員屑やもんな。人をモンスターの囮にして背後から襲うとか繰り返しとったし」
「そういうお前も一瞬で俺の事縄で縛って引きずり倒すの繰り返してモンスターの餌にしただろ。絶対に忘れねぇからな」
互いに遠慮のないクラスメイト達。なんと心が温まる光景だろう。今も言い合いが発展して殴り合いになっている所をジジイ先生に一瞬で鎮圧されたが。学ばねぇ馬鹿共だぜ。
「人間極限状態に追い込まれてそこから解放されると色々と冷静になるよな。力の差とか黒歴史とかそんなの吹き飛んだわ。いやクラスメイトという名の屑共には負けたくねぇけど」
この中でも俺を除き最も実力のあるテニアが呟く。俺でさえも数の暴力の前では沈むのでこいつも全員から襲われたら抵抗の余地もなくなるのだ。
「さ、最初に比べたらみんな落ち着いてくれましたね……!!キャラが濃すぎる人ばっかりで、私みたいな普通の子は埋もれちゃいます」
「闇寮に、普通……?」
「ふ、普通ですよぅ!!!!」
これを落ち着いていると言っている辺り順調に毒されている。だがそんなツッコミを入れることもせず俺はジジイ先生の背後に回り音を立てないように忍び寄る。
(隙ありィ!!死ねぇい!!!)
理不尽の権化であるこの教師の背後から俺は拳を握り締めて襲い掛かった。