真王ガノンドロフ 作:ミスターソード
乾いた木を積み上げる音は、朝の冷えた空気の中でよく響いた。
荷車の上へ二人掛かりで渡された梁が、既に並べられていた材へぶつかり、乾いた木片を足元へ落とす。荷を預かる男はそれを靴先で脇へ寄せ、帳面に引かれた十一の線へもう一本を加えると、積み手が次の仕事へ移る前に、材木の端へ小さな印を付けた。
十二本。長さも太さも多少の違いはあったが、ゲルドから届いた注文には収まっている。床や戸板に使う薄い材は別の車へ、釘と金具、薬を納めた箱は雨を避けられる中央へ積ませ、最後に全てを覆う布の端を引いたところで、荷台の奥から転がり出した釘が一つ、男の靴先へ当たった。
箱を開け直してみれば袋の底に小さな穴があり、男は零れた分を拾わせている間に、その穴を針で塞いだ。道中で口を開くたび、底から減ってゆくようでは困る。届けるべき数を揃えるために、何処の倉からどれだけ回してもらったかは、自分が一番よく知っていた。
街道沿いでは未だ屋根の落ちた家が雨を受け、崩れた橋を渡れぬ村では、物を運ぶだけでも遠回りをせねばならない。今回の梁も、そのような場所へ送るはずであったものから、必要な寸法に収まる材を選び直してもらったのである。何れ届けると約束した相手へ、もう少し待ってくれと告げに行った時の顔を思えば、箱の隅へ転がった一本まで拾わせることが、細かすぎるとも思えなかった。
ゼルダ姫とゲルドの族長との間で、砂漠の復興へ手を貸す取り決めが交わされた。その知らせが届いてから、男の机には、それまで目にしたこともなかった品々の注文が並ぶようになっていた。
水を運ぶための金具一つを取っても、こちらで使うものとは形が違い、戸の部材には砂の入りにくいものを求められた。品を揃えた後も、谷を抜ける日数に合わせて馬と飼い葉を見直さねばならず、ようやく今朝になって荷を積み終えた時には、出発は予定より一日遅れていた。
それでも、もう一日待てとは言えなかった。朝方に届いた知らせでは、ゲルド側でも受け取りのための人と砂漠の足を用意しており、こちらの遅れに合わせて、それらをいつまでも留め置けるわけではないという。
閉じた帳面の向こうには、槍を立てて待つ護衛の兵と、三台の荷車が並んでいる。御者の一人は早くも欠伸を噛み殺していたが、馬の腹帯へ手を差し入れた時には眠気のない目をしており、その横顔を確かめてから、男はようやく自分の荷を肩へ掛けた。
向こうから歩いてきた係の者が、峡谷の北側は通れると告げた。崩れていた岩はリンクが退けたらしく、荷車でも道幅は足りるという。その名を聞いた御者が肩の力を抜いたので、男は、道が通れることと、荷を落としてよいことは別だと言い添え、荷台を固定する縄をもう一度確かめさせた。
車輪が動き始める頃には、積み場の影も短くなり始めていた。
軒先で届け先の控えを振る係へ手を上げ、最後尾の車へ乗り込むと、風に煽られた帳面の頁を押さえた。今回の受け取りを取り仕切る者の名と、ルージュの裁可を受けた旨が記されたその横には、街で用意しておく積み場の広さまで書き添えられている。
向こうでも既に、この木を使う者が待っているのであろう。十二本を括った縄が緩んでいないことをもう一度確かめると、男は帳面を服の内へ収め、車輪の揺れに合わせて腰を据え直した。
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草の生えた道を離れて二日目、車輪の軋む音に、細かな砂を踏む音が混じり始めた。
ゲルドへ至る峡谷は、見上げれば首の痛くなるような岩壁に挟まれ、曲がり角を一つ越えるだけで、陽の当たる場所と冷えた陰とが入れ替わる。雨の時には水が道を削り、乾けば崩れた石が残るため、ただ先を見て馬を進ませればよい土地ではなかった。
岩を退けたばかりの場所には新しい轍が残されていたが、道の細かな凹凸まで消えたわけではなく、男たちは幾度か荷を押さえるために車を止めた。そのたびに前方から戻ってくるのは、昨夕より一行の先に立っていたゲルドの案内役であり、砂漠へ入る前の引き継ぎ場所まで迎えに来たという女であった。
ハイラルの兵よりも頭一つ高い彼女は、男が額の汗を拭う間にも馬の足元を確かめ、少し先の岩陰までならば車を寄せられると、御者へ道を示していた。
次の休み場へ向かうことになった時、彼女は荷台に並ぶ材を暫く眺め、男へ向かって掌を差し出した。
「縄か、布は余っているか」
男は、荷を括る分ならば足りていると答えた。
女はそうではないと言い、次の休み場に残すものを探しているのだと付け加えたが、男には、その言葉の方が余程分からなかった。
その場所へ着いたのは、それから暫く歩いた後のことである。
岩壁の窪みを広げ、手前へ低い石の壁を積んだだけの小さな建物であった。裏側は崖へ食い込み、道へ面した開口の上には、色も太さも異なる木を継いだ庇が張り出している。寝泊まりをするには狭いが、馬を陰へ入れ、人が腰を下ろすだけならば困らない。
管理をする者の姿はなく、奥には蓋をした水甕と、壁へ吊るされた幾つかの袋があった。女は袋を一つ外して使いかけの縄を引き出し、毛羽立った端を指で捻ってから元へ収めると、自分の荷から塩の包みを出して、その横へ置いた。
濡れぬよう何重にも包まれ、口には新しい紐が結ばれていた。落とし物ではないと分かる置き方に、男は水を飲もうとしていた手を止めた。
「誰へ渡すんだ」
「要る者が持っていく」
水甕の蓋の下にも砂を避ける布が挟まれ、柄杓を伏せておくための小さな石が、口の脇へ二つ並べられている。塩の包みだけでなく、それらにも持ち主を示す札はなく、男は腰の水袋を引き寄せたまま、女が再び袋を吊るすのを見ていた。
御者の一人は、かつて別の道でも似たような場所を見たと言った。ただ、その時には袋の中に石と虫しか入っておらず、馬の水は次の井戸まで持たせたのだという。
女はその話に驚きもせず、空であることもあると認め、壁の奥へ嵌め込まれた四角い石を指した。縁の欠けた表面には溝が幾つも走っていたが、男には傷と文字の区別も付かず、彼女も今使っているものとは違うと言って、古い文字の下へ指を移す。
そこには、後の者が書き添えたらしい短い言葉が、男にも読める綴りで刻まれていた。
贈らず。乞わず。互いに返す。
読み終えた後も、その意味を確かめるために暫く石を見ていたが、積んでいる荷の中から何かを置いてゆく気にはなれなかった。自分の財であればともかく、届け先の決まったものを減らせば、帰った時には使い道を説明せねばならない。誰が取るかも分からぬ袋を指して、それで納得してもらえるであろうか。
案内役は返事を促すこともなく、水甕の蓋を確かめて外へ出ていった。男も自分の水袋の口を閉じ、庇の下から出された馬の後へ続くと、手綱を取った御者へ出発の合図を送った。
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峡谷を抜けた先で待っていたのは、底を長く伸ばした三台の橇と、それを引くスナザラシであった。馬と荷車を御者の一人へ預け、残る者で荷を移し始めると、ゲルドの運び手は、男たちが揃えた梁の端を少しずつ前へ押し出してゆく。
初めは数を確かめた束まで動かされることに閉口したが、材の重い方を寄せ直しているのだと気づいてからは、彼女の指す場所へ下ろさせることにした。車輪の上では傾かなかった荷も、そのまま砂の上へ移せるわけではない。積み終えるまでに随分と陽は傾いたが、試しに引かせた橇が横へ流れずに進むのを見て、男は口元まで上がっていた催促を呑み込んだ。
カラカラバザールで一夜を過ごし、翌朝は空が白み始める前に出た。
砂漠の昼の暑さは聞いていたが、息を吐いた時に口元へ触れる空気の冷たさまでは考えていなかった。首へ巻いた布を鼻まで引き上げ、橇の縁へ膝を押し付けている間に、前をゆくスナザラシの背が少しずつ金色を帯びてゆく。
地平へ光が広がると、風に流された砂が、地面の上でもう一つの薄い地面を作り始めた。最初は朝陽を受けて綺麗なものだと思っていたが、前をゆく橇の跡が見る間に薄れ、遠くの岩山まで根元から霞み始めた頃、案内役が先頭を止めた。
運び手たちの間で短い言葉が交わされ、一人が南側へ腕を伸ばす。男には低く盛り上がった砂の稜線しか見えなかったが、戻るよりも次の中継所が近いと告げられると、胸元の帳面を押し込み、橇の脇へ括られた縄を掴んだ。
ほどなく砂が頬へ当たり始めた。粒の一つずつを数えられた痛みは、やがて顔の片側を纏めて擦られるような感触へ変わり、目を細めているだけでは前を見ることも難しくなる。
前方の人影を見失うまいと身を乗り出したところで橇が傾き、男は肘を梁へ打ち付けながら荷の間へ倒れ込んだ。同じ橇の前方にいた案内役に肩を掴まれ、外へ降りるなという声をようやく耳元で聞き取ったが、後ろからも響いていたはずの声は、既に風と区別が付かなくなっていた。
それからは、頭のすぐ上で鳴る布を押さえ、留め紐が緩むたびに荷へ身を寄せているだけで、何処へ向かっているのかを確かめる余裕もなかった。砂に逆らって進むスナザラシの手綱が案内役の腕を幾度も引き、その背中さえ遠く感じ始めた頃、不意に石の壁が目前へ現れた。
ぶつかると思って縮めた足を伸ばす間もなく、橇は壁の脇へ回って止まった。腕を引かれるままに降り、砂へ埋まりかけた入口を潜ると、ようやく靴の下へ硬い床の感触が戻ってくる。
峡谷で見たものよりも大きく、奥へ掘り下げられた床の周りを、厚い石壁が囲んでいる。入口には扉の代わりに重い布が吊られていたが、その下からも白い筋となって砂が入り、壁際には既に幾つもの小さな山を作っていた。
荷まで全て中へ入れる広さはなく、橇を外壁へ繋ぐために、手持ちの縄は短いものまで使うことになった。男は戸口から声を掛け合い、三台とも留め終えたことを確かめてから、スナザラシを囲いへ入れに行った案内役を待とうとしたが、天井から落ちた砂が肩を打ち、顔を上げたところで動きを止めた。
梁が、下がっている。
目を擦って見直しても同じであった。屋根を支える横木の一本が、壁へ差し込まれた根元から裂け、その下に後から添えられた細い柱も、斜めに傾いている。風が屋根を叩くごとに継ぎ目が開き、そこから落ちた砂が、床に細い線を引いていた。
手近な兵を壁際へ退かせ、自分も入口側へ戻ったが、持ち上げた布の外には砂が渦を巻いているだけで、次の建物はおろか、いま橇で通ってきた道さえ残ってはいなかった。
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運び手の一人が傷んだ木の下へ肩を入れようとしたので、その腕を引いて止めた。幾ら彼女たちの背が高くとも、風が収まるまで屋根を背負えるわけではない。足元の砂を払うと、古い支柱は下端から腐り始めており、男が指で押しただけでも、脆い木屑が爪の間へ入り込んだ。
戸口の布が膨らむたび、その隙間から外の橇が見えた。長い材を取りに戻れば、この横木を支えることはできるはずであったが、あの高さへ収めるためには、揃えたばかりの端を鋸で落とさねばならない。
ゲルドで必要だと言われた寸法は、帳面を開かずとも思い出せた。最初に回してもらったものは僅かに短く、別の場所へ送る材と交換してもらったのである。それを今度は、自分の手で短く切る。
天井の継ぎ目から木片が落ち、兵の足元で跳ねた。男は兵を下がらせると、膨らんだ布を押し上げ、外へ声を掛けた。
「梁を二本、中へ入れてくれ。長い方からだ」
案内役が振り向き、彼の顔を一度見た。聞き返すことはなく、すぐにもう一人の運び手を呼んで縄へ手を掛ける。
持ち込まれた二本を床へ置かせ、腰の道具袋から鋸を取り出した。荷車を直すために持ってきた細い刃が木へ食い込むと、切り落とす側の端に、積み場で自分が付けた小さな印が見えた。男は材を押さえる手をずらし、刃を往復させる間も木が転がらぬよう、膝を寄せた。
背後では、荷の縄へ手を裂いた御者を兵が座らせ、壁の袋から出した布を広げていた。洗って畳まれた布には古い縫い跡が幾つもあったが、包みの内側は砂を被らずに済んでおり、薬を出し終えた兵は、その端を裂いて包帯にし始めた。
細い鋸の音は風に掻き消され、白い木粉だけが男の膝へ溜まっていった。切り終えた材を立て、端材を床との隙間へ噛ませた時には、力を込めていた腕が震え、頭上で木が鳴る音に、肩を竦めることしかできなかった。
横木は落ちなかった。二本目を収める間も支えは動かず、腐った古い柱から手を離した運び手が、初めて長い息を吐く。ただ、立てた材を横へ繋ぐ縄は、荷と橇を留めるために使い切っており、外の結び目を減らすわけにもいかなかった。
男が道具袋の底まで探っていると、兵が壁の袋から太い縄を引き出した。新しい撚りと古く色の変わった撚りとが入り交じり、片端には馬具に使うものらしい革の輪まで残っている。男は案内役と両端を持って引き合い、傷みの少ない箇所を選ぶと、ほどけかけた端を内へ巻き込みながら柱を繋いだ。
結び終えても屋根は風に鳴り続けたが、裂け目から落ちる砂は細くなり、入口の方から名を呼ばれて、ようやく梁へ掛けていた手を下ろすことができた。
外へ残した荷の見回りは、入口の留め縄から手を離さず、二人一組で行うことになった。男も一度出て、自分の付けた印の幾つかが砂に削られているのを確かめ、戻った時には、口の中の唾まで砂を噛んでいた。
喉へ水を通した後、帳面を開こうとして指が思うように曲がらぬことへ気づいた。鋸を握り続けた掌の皮は赤くなり、木粉の入り込んだ爪の縁へ服が触れるだけでも痛む。横へ座った案内役が水袋を差し出したので、自分の分はあると言い掛けたが、開いた口を掌の上へ向けられ、ようやく喉のための水ではないと分かった。
壁際の甕から汲んだものだという。運び手が先に蓋と中身を確かめて使っていたが、誰が運び込んだかまでは知らぬらしく、男が礼を言うと、案内役は袋を受け取り、濡れた手を拭く布を探してよこした。
足元には、白い木粉の混じった水が小さな染みを作っていた。落としきれなかった砂は指を曲げるたびに擦れたが、鋸を袋へ戻せるほどには痛みが引き、男は壁へ背を預けて、ようやく膝の上へ帳面を広げた。
御者は包帯を巻かれた手を載せたまま、引き継ぎ場所へ置いてきた馬を心配していた。飼い葉も残してきたのだから、向こうで食わせているだろうと兵に言われ、分かっていると返す。その声が離れた壁際から届くことに、男は暫くしてから気づいた。道の上では、肩を掴んでもらわねば人の言葉も聞き取れなかったのである。
戸口から射していた白い明かりがいつしか鈍くなり、運び手が壁の窪みから灯りの壺を取り出す頃、男は帳面の隅へ二本と記した。風は少しも衰えず、灯りの当たらぬ屋根の奥から木の軋む音がするたび、筆を止めて、立てた柱の根元を確かめた。
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朝になっても、すぐに出発することはできなかった。
砂嵐は夜のうちに弱まっていたが、橇の片側は荷台の縁まで埋まり、入口へ張られた布も、下半分が押し寄せた砂へ呑まれている。先に外へ出た運び手が周囲を歩いて地面を確かめ、それから一人ずつ呼ばれるままに、男たちは橇の掘り出しへ取り掛かった。
スナザラシは囲いの窪みで身を寄せ、運び手が手綱を外すと、大きく背を伸ばしていた。男も屈めた腰を伸ばしたが、こちらはすぐに痛みが走り、橇の縁へ片手を置いたまま、もう片方の手で荷の覆いを捲らねばならなかった。
布は破れ、端の薄板が一枚割れていたものの、飛ばされた品はなかった。砂を被った箱を払い、十本残った梁を数え終える頃、案内役が掘り出しの手を止めて、砂丘の向こうへ腕を上げた。
現れた橇には皮袋と鉱石の包みが積まれ、こちらとは逆の方角へ進もうとしていた。もっと南側の中継所で嵐をやり過ごしたという女たちは、互いの顔を確かめてから荷の列を寄せ、一番後ろの橇へ座っていた者を二人掛かりで下ろした。
その女は片腕を吊っていたが、立ってしまえば足取りはしっかりしており、反対の手で荷を下ろそうとしたところを仲間に止められていた。男が入口の箱を退かすと、彼女は礼を言って壁際へ座り、運ぶ荷を庇って岩へ腕を打ち付けたのだと、少しばつの悪そうな顔をした。
包帯を巻き直す間に見えた傷口には、男たちが運んでいるものと似た色の薬が塗られていた。壺は南の中継所に残されていたもので、結ばれた札にはハイラルの村の名が読めたという。
聞き覚えのある名であった。その村へは二度ほど荷を運び、帰りには怪我人を乗せるため、荷台へ藁を敷き直したこともある。薬を余らせておける場所ではなかったはずだが、札が何時付けられたものかも、どれだけの手を経て砂漠へ届いたのかも、彼女たちには分からなかった。
女は壺を返そうとしたものの、この先で使うこともあるからと仲間に持たされ、代わりに水と油を置いてきたと言った。話を聞いていた案内役が、自分たちの使った灯りの壺の蓋を開け、底へ僅かに残った油を傾けている。男はその手元を見てから立ち上がり、積み直しかけていた薄板の前で足を止めた。
割れた一枚を荷から抜き、無事な部分を切り分けて、戸口へ吊られた布の下端へ添えた。夜の間に破れ目が広がり、何度も人を座らせて押さえていた箇所である。手持ちの細い縫い糸を幾重にも通して板を留めると、男は外から布を押し、重みの増した裾が床へ戻ることを確かめた。
道具袋にはまだ糸が残っていた。針を通したままの糸巻きと、修繕用の小箱から取った釘を包んで壁の袋へ入れていると、御者がその隣へ、油紙で包み直した朝食の残りを置いた。包帯を巻かれた手では紐を結びにくそうにしていたので、男は包みを膝へ載せ、口を縛ってやった。
切り落とした木片を壁際へ寄せ終える頃には、後から来た女たちも出発の支度を整え始めていた。一人が柱の根元へしゃがみ、噛ませた端材を指で押して確かめている。男も傍らへ膝をつき、夕べから緩んでいないことを確かめてから、布を開けて彼女を通した。
太さも色も違う柱の間で、新しく立てた二本だけが白い木肌を晒していた。横を抜けるたびに誰かの荷が擦れ、足元にはもう砂が寄り始めている。案内役に呼ばれて外へ出る前に、男は入口の板をもう一度押さえ、風に引かれていた端を下ろしておいた。
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ゲルドの街を囲む外壁が見えたのは、その翌日のことであった。
砂の色ばかりを見てきた目には、壁の上へ覗く椰子の葉と、日陰へ干された布の色が随分と鮮やかに映った。男は喉へ巻いた布を緩め、長い材を下ろせるようにと、街の外へ設けられた積み場へ向かう。
男たちが門へ向かう必要はなく、受け取りを待っていたゲルドの働き手が橇を囲むと、積み込む時よりも余程速く縄が解かれていった。男は久しぶりに平らな台へ帳面を置き、薬や金具の箱が下ろされるのに合わせて印を付け、割れた板を中継所へ使ったことも伝えた後、最後に残った梁の前で、二本が足りないと申し出た。
受け取りを取り仕切る女は、既に積み場の十本を数え終えていたらしく、男の帳面へ視線を落とし、使用した場所を尋ねた。中継所の名が分からなかったので、案内役に道順を確かめてもらい、カラカラバザールを出た日の昼前に避難した場所であると答える。
女はその場所を聞くと、少し待つよう告げて積み場の奥へ向かった。下ろした梁のうち二本は既に運び出されようとしていたが、それより奥では、長さを測る縄を手にした働き手が、空になった橇を覗き込んでいる。
街で待っていた者にとっては、十二本が十本へ減ったことに変わりはない。男はその働き手へも事情を伝え、足りなくなった分の寸法を確かめていたが、戻ってきた受け取りの女は、新たな注文ではなく、薄い板で挟んだ書類を台へ置いた。
「道の屋根に使ったなら、こっちだ」
紙の下半分に後から添えられた字を追うと、道や井戸の補修に使った品は、届け荷と分けて記すよう定められていた。男が使った材とその場所を書き込むと、呼び戻された案内役は記載を確かめ、その傍らへ見届けの印を付けた。
受け取りの女はそれを別の紙へ写し、次の便で屋根の残る箇所も確かめさせると言って、積み場の働き手へ渡している。先ほどまで残りの梁を数えていた者が、今度はその紙を持ち、短い材を積んだ場所へ歩いてゆく。その間、台に残された書面の上半分を、男は初めてゆっくりと見ることができた。
上端には二つの紋が並び、一方は今回の控えにもあるゲルドの印であったが、隣の意匠には見覚えがなかった。紙を寄せてもらい、木粉の残る指で触れぬよう、両手を台の縁へ置いて覗き込む。
羽を広げたような形はハイラルのものと似ていたが、中央へ重ねられた印も、周りの線の繋がりも異なっている。受け取りの女によれば、古い時代のハイラル王家の紋であるという。ただ、何時の誰が使ったものかと尋ねると、そこまでは知らぬと首を振り、紙の端にある日付を示した。
それは写しを作った年月であった。元の書面が傷むたびに書き直され、その時々に読めた言葉には注が添えられたが、分からぬ部分は綴りと紋の形だけを残したのだという。今の受け取りの手順も、そこから使える箇所を拾って改めたものであり、女は古い字の列ではなく、その下の追記へ指を置いていた。
男も読める箇所から辿ってみたが、本文は所々で意味が途切れ、書き添えた者によって、同じものの呼び方さえ違っていた。それでも水と道の修繕について、双方が出す品を決めていることは分かる。上端へ同じ高さで並ぶ二つの紋を見直すと、使い慣れた受領の控えよりも、ずっと広い範囲のことを書いているように思われた。
隣では、案内役が橇の底板へ新しい釘を打ち始めていた。こちらの話が終わるまでに緩んだ箇所を直すつもりなのであろう、足で木を押さえたまま、時折、積み場を通る者のために身体を避けている。男は彼女の仕事が終わる前にと、受け取りの女へ書類を示した。
「この写しを、一枚もらえないか」
受け取りの女は訝しげな顔をしたが、今後も荷を運ぶならば、こちらで手順を知っておきたいと告げると、それならば下の部分も一緒に写せと言い、紙を綴じた紐を解いてくれた。
何枚かは積み場で使い古した紙であり、他の品を書いた裏を用いたものもあった。男は自分の荷から白い紙を出し、次の便までに渡せるよう頼むと、古い紋のある頁へ折り目を付けぬよう、小さな木片を挟んだ。
古い印や文字を見つけた時には、形を残して知らせるようにと、復興の仕事へはプルアからも触れが回っていた。石から写したものでなくとも、紙に残っているならば役に立つかもしれない。何より、次に来る者へは、道で使う品のことも予め伝えておきたかった。
受け取りが済み、残る梁も街の門へ向かって運び出されると、積み場には解かれた縄と空の橇が残った。男は机へ置いていた自分の帳面を引き寄せ、十二と書いた数字の横に付けていた不足の印を消すと、中継所で付けた控えを確かめながら、二本の使い道を書き直した。
街道の中継所。屋根の支えに使用。
その横へ、次の便で中継所へ送る材の寸法も添えた。帰りにバザールへ寄れば、使った分の縄と、置いてきた針や糸も買い足せるであろう。今度は持ってゆく物を減らさぬよう、余白へ忘れずに書き付けると、閉じた帳面から砂が落ち、空けたばかりの机へ薄く広がった。
街の方から、木を叩く音が聞こえていた。案内役の釘を打つ音は既に止んでおり、彼女の待つ橇へ向かう間も、門の向こうの音は幾度も続いていた。
数日後、ハイラルへ戻る荷の間へ、一組の書類が加えられた。資材の受領書と街道補修の控え、その下に、二つの紋を写した薄い紙が挟まれている。宛先は復興の荷を取り纏める係であったが、紙の端には、古い取り決めの写しをゼルダ姫へ回してほしい旨が、小さな字で書き添えられていた。
その紙を積んだ橇は、北へ向かう途中で一度だけ中継所へ寄った。
新しい柱の脇には、男たちのものではない水袋が二つ置かれ、入口の布の下には、切り分けられた板がまだ残っていた。