夜の雨   作:Humanity

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名前: 暗夜(あんや) 律(りつ)

個性: 『投影(プラネタリウム)』/『剣』/『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
他のものに何らかの事象を映すことができ、体を剣で覆うことができる。なお剣は取り出すことができる。一度取り出した剣を戻すことは個性発動中以外できない。また剣の大きさによっては身体的苦痛を伴う場合がある。
[ヒーロー公安委員会]:情報秘匿 権限がありません。
所属: ⬛︎⬛︎市立中学校 3年5組 3月10日付で卒業
誕生日: 不明 プロヒーロー『カリゴ』により4月18日と登録
身長: 158cm
血液型: AB
好きなもの: 睡眠



第二話 火を喚ぶ獣

優しく抱き留められることは、“彼ら”にとって初めての経験であった。

 

ざあざあという激しく打ち付ける音に耳を覆われるような豪雨の夜だったと“彼ら”は記憶している。そして“彼ら”は確かに「夜に触れた」。冷たい夜の雨に体温を奪われていく寒さを感じさせない、腕の中の暖かさに“彼ら”は夜(・)を見出したのだ。

 

他と姿が異なるからと蔑まれ、「特別」扱いとして分け隔てられ、その異形のために母に抱かれなかった“彼ら”を三本腕の“彼”はただ抱きしめた。炎に灼かれるのも気にせず“彼ら”が奪い取った剣を取り返すでも咎めるでもなく。

 

あれは同じ異形としての同情だったのだろうか、そういう考えがふと“彼ら”の脳裏をよぎることがある。長らく群れというべき仲間に迎え入れられることがなかったからこそ得た自分たちがもつ疑いの目。人との関わりを避け身を守ってきたその術を、それでも否定する。

 

たとえあれが嘘だったとしても、僕(・)た(・)ち(・)は信じる。“彼”がわ(・)た(・)し(・)達(・)の前に来た最初のヒーローだから——

 

——そして再び並び立つために、ここに来た。

 

送迎のバスを降り、試験会場の門前。自らの奇形に好奇心の目を向けられるのを感じる。それらが肉を刺すようだが、それでも“彼ら”はようやく辿り着いた“彼”の三本腕の背中を直近に幻視して息を整える。

同じ時を“彼”も別の場所で今まさに過ごしている。そう知っていることで周囲の目もまた試練に向かう脚も幾分と軽く思考も透き通っていく。そんな心持ちであった。

 

あの雨の日に“彼”から奪い取りそして譲り受けた大剣が背中でガチャリと鳴った。“彼ら”の力を最大限活かすために、“彼”によって鍛え直された剣身は表面を常にほんのりと赤熱させ燻(くすぶ)りを帯びている。それは“彼ら”自身の体に同じ。この剣もまた四(・)人(・)目(・)の(・)兄(・)弟(・)であり剣そのものが“彼”でもある。故にこそこの剣をその身に帯びれば孤独感はずっと忘れられた。

 

やがて背負ってきた大剣を右(・)手(・)側(・)の(・)首(・)の(・)口(・)に(・)咥(・)え(・)る(・)。駆け出した素足が地を踏み締めると共にアスファルトすら砕く爪は剥き出しになった。四本の腕は剣を咥えたことで前に寄った重心を支える様に地を駆ける四つ脚となり、蒼天に高く二つ頭が吠えた。

 

『——ハイ、スタート』

 

なんの気もない率直な声で告げられた行ってよしの合図を聞いてか聞かずか、会場に響いた音とまったく同時にその異形は地を踏み切った。

三つの首と三つの尾。四つの前足と二つの後ろ足。三(・)人(・)でありながらしかし一(・)人(・)である“彼ら”は、三つ首の獣。

燻りと共に人型から獣型へ変じ、先ほどまで身につけていた衣服は火の粉と消えていた。そしてそれすらも残像に帰して目の前の戦場へいの一番に飛び出していく。

 

「うわっやっぱ燃やしちゃったよ。昨日急いでユニクロ行ってよかった、さすが姉さん」

 

左手側の首がそう言うと、剣を咥えている右手側の首も——柄(ヒルト)の位置をずらして何か言葉を発そうとしたようだったが諦めて——コクリと小さく頷いた。

 

「そんなこと言ってないで集中して!せっかくここにきたんだからっ、三時方向!」

 

中央の首の号令に従って大剣を咥えた右手側の首が大剣を振るいその力のまま振り向いた左手側の首がその口から炎を吐いて薙ぎ払う。そうして捩った体の慣性を利用して続け様に右の首が再び大剣を振り被った。その身と同じく僅かに燻りを帯びた大剣が風と、吐き出され空中に旗めく注ぎ火(そそぎび)に熾(おこ)され炎を纏う大剣となってロボット達に襲いかかる。

 

「「『炎撃』!!」」

 

路地裏に配置され大通りへ出ようと犇(ひしめ)いていたロボット達が、その炎を纏い熱風を伴う斬撃に反撃できるはずもなく。狭い路地に吹き込まれた熱が一挙にその空間を灼き斬った。

 

一瞬の出来事である。焔の尾を引き、スタート地点から即座に次の獲物へと陽炎に消えたその後ろでその一部始終を見ていた一人がこれを追って一歩踏み出し試験会場へと飛び出した。

 

『——イイね!ヒーロー志望はそうじゃなきゃな!他の連中も走れ走れ走れ!カウントダウンなんかイージーなもんねェんだよ!』

 

そう嗾(けしか)ける試験監督——プレゼント・マイクの言葉を聴き、ようやくこの会場へ集められた他の受験生たちも気がついたようだった。大きく出遅れたのだと。三つ首の獣とそれを追うも(・)う(・)一(・)人(・)の背中と奇異なるものを見る視線を送っていたがために踏み出さなかった一歩が、その差を歴然たるものにしていたことに。

 

さて、三つ首の獣を追いかけて飛び出した少年に目を移す。

 

「なっなんだアレ…——

 

——ケモ度が…変わった…!?」

 

その少年の普段はそこまで優れているとも言い難い耳が、この時ばかりはねずみの足音も聞き逃さんばかりに鋭く冴え渡る。それは炎の燃え盛る轟音やロボット達の破砕音に紛れ込む、三つ首の獣たちの話し声さえも。

 

「しかも『姉さん』!?ケモ度4が5をすっ飛ばして一気に10くらいに変わってたよな!?!?邪魔だこのクソロボットオラァ!——ケモ度高めだから胸あるように見えるだけなのかと思って目線外してたけどそうじゃなかったって!?」

 

もはや遥か遠くなった三つ首の獣の背中を追いかけて二番手にスタートラインを踏み越えたブドウのような頭の少年——峰田 実は、正面で疾走しつつ大技を放ち続ける獣の撃ち漏らしを——もはやそれ自体がついでと化しているが——排除しつつ前進を止めない。反射的にノールックで投擲された紫色の球体、もぎもぎは的確に2ポイントロボットの関節部を固めて行動不能に陥れた。

 

「くっそぉ!オイラがそんな凡ミスかますなんてよぉ!」

 

側から見れば、大技を繰り出して大挙したロボット達を一掃する者とその撃ち漏らしを潰しつつ追従するチームワーク——と見えないこともないだろうか。表向きには撃破数を競わせる採点方法であり、他の受験生に対する救助行動も審査員による採点方式で加点対象とする試験方法である以上こうした立ち回りも十分に点をとりやすい。特に大技を連続で放つような戦い方をする者の側でその向きを制御するように敵を減らす動きは、直接そうでなくとも結果的に他の受験生を救っている。

教員達の中に混ざり込む寝袋から大層大きな舌打ちが聞こえてくるようだ。

 

視点を試験会場に戻す。

炎の燻りを残した赤々と光る斬撃の跡が、三つ首の獣を追う峰田の視界には徐々に数と密度を増やして来ている。それだけロボット達がこの炎を観測し周囲に集結しているのか、あるいは三つ首の獣側に何か意図があるのかこの時はまだ不明だった。しかし確かなことは、“彼ら”が試験会場の中央まで突出してからその場に留まって狩りをしているらしいということだ。大剣を用いている都合上足回りには不安が残るのかもしれない。

 

試験が始まってすぐでは視界に捉えることもできなかった猛々しい毛並みが、ここまでくるとようやく目に入るようになって来た。体を覆う燻りが艶のある長い毛を浮かせ靡かせている。そしてその毛がふわりと剣戟に乗せられると焚き火に息を吹き込んだように火の粉が散る。

 

その様をうっとりと横目に眺める峰田は、試験開始前の“彼ら”の様子を思い返していた。それは三つの首を安物の白いシャツに通して異形用にゆったりとした袖から四本の腕を出し、それとショート丈のパンツだけ身につけて布で背中に大剣を固定する姿だった。

全身が赤っぽい毛に覆われていて髪の毛と体の毛などの区別はあまりつかず、それ故にか胸元の膨らみを合わせて見ても中性的な印象があった。

 

「——…やっぱりさあ!変身系は服脱げるもんなんだよな!」

 

現実のヒーローだとあんまり見ないけどアニメなら定番だよな、と続けつつ邪魔しようとしてくるロボットへ必要最低限のもぎもぎを投げつける。すると脚部の関節や武器腕を固められて攻撃と移動の手段を奪われ、のたうち回るうちにこれまた最低限の斬撃で以て三つ首の獣に斬り伏せられる。

 

「いつもならもう血ィ出ちまってる頃だけど、今日——いや今のオイラは一味違うぜ!」

 

中央部で狩りが始まってからすぐこのループが完成したことで範囲攻撃の回数が減り周囲の受験生たちが火を恐れて行動を妨げられることは少なくなっていた。

 

「…あの人、ずっと僕たちを助けてくれてるけどスコア大丈夫なのかな?」

 

「さあ?余裕あるんじゃない?」

 

「…フン…」

 

そんなやりとりをする弟(・)達(・)を両脇にしつつ、先ほど剣を受け取っていた中央の首である姉(・)は件の少年から向けられる視線にこれと言って反応を返さないながらやや顔を顰めていた。

そんな会話——と姉(・)の感情はつゆ知らず、峰田はというと剣を咥えた中央の首(姉と呼ばれる個体)をそれまでの空間に穴が開くほど凝視していた。

 

「オイラ流石にケモの細かい見分けとかまだ身についてなかったけど、わかって来たわ…!これが『プルスウルトラ』*1!!」

 

峰田曰く右手側の首はのんびりして常に困り顔、引っ張られるとちょっと後ろを走るタイプ。左手側の首は元気で可愛い雰囲気のある顔、全力で尻尾振りそうなタイプ。そして中央の「姉」は二人の弟を纏めるためか凛々しい顔。とそんなふうに脳裏で分析する。それからまた再び思考は真ん中の首へ戻って、つい峰田の欲望が口をついて出た。

 

「炎を正面から嫌な顔して吐きかけられてェ!!!」

 

ピクリと中央の首の耳が動く。ちょうどその狼の口から炎を吐き出し、大剣で纏い斬りをしてからまた炎を吐きつける三連撃の真っ最中でありロボットの破砕音に紛れ込んでいたのだが。

 

「…は?」

 

明らかに呆れを通り越して怒気を帯びた声色に右手側の首が怯えたような声を出す。大剣を咥えていた左手側の首は大剣の柄の位置を器用に変えて言葉を発した。

 

「お姉ちゃん?急にどうしたの…?」

 

「姉さん、怖い声してるぞ」

 

それにハッとした中央の首が気を取り直した。

 

「あっ、大丈夫。ごめん」

 

そしてそんな時に試験は佳境に差し掛かった。

会場全体が大きく揺れ、街を割るようにして突如出現するロボット。履帯で以てアスファルトを踏み割りながら高層ビルにも勝るほどの巨体が受験生の悲鳴を踏み潰す勢いで大きな影を広げていく。

 

「でっかいな…あれがあの…」

 

「真面目メガネくんが質問してたやつ?」

 

「顔見知りでもないのに若干失礼なこと言わないの。——あれが例のお邪魔虫ね」

 

周囲の受験生たちが皆0ポイントロボットの落とす著大な影に狼狽え怯えて逃げ出す中、三つ首の獣は冷静に周囲を見渡す。背後には峰田がいるのだが、三つ首の獣を挟んだ向こう側に巨大ロボットが動き出しているのをわかってそこに留まっているのかどうかは不明なところであった。

 

「逃げ遅れは…いない。強いて言えば後ろの葡萄頭くんくらいかなぁ…」

 

「ぶっ 葡萄頭くん」

 

右の首が発した言葉に吹き出す左の首それぞれへやや呆れたような視線を送りつつ中央の首が気を取り直した。

 

「シンプルに失礼ね、それ。…それくらいならなんとでもなるわ。あのロボットが何かする前に行動不能にするよ」

 

試験会場の入り口方面へ走って逃げていく人の波を追うようにしかし悠然と歩いていく。対面する峰田はここにきて初めて三つ首の獣と正面から相対していた。揺らぐ炎のようなオレンジ色の瞳が六つ、彼を見つめている。

 

「えっ」

 

——逃げんなら早く逃げろよ

 

そう言外の圧を発する、大剣を咥えた左の首。しかし峰田は動かない、いや動けずにいた。三つ首の獣から発せられる——ごく物質的な——熱い視線を受けているためだった。

 

「あれ?…もしかして…オイラのコッ」

 

続きの言葉を言うまもなく三つ首の獣の姿がブレ、三つ首を上方から叩きつけるような姿勢を取ったのを見た瞬間に峰田は宙を舞った。

否、右の首の口に咥えられてひょいと背中へ放り投げられたのだ。

 

「ゴメン、葡萄頭くん…ちょっと熱いかもだけどしっかり捕まってて…!」

 

「うおぁっ」

 

何が何だかわからないまま背負われることとなった峰田は、だが炎のような揺らぎを持って靡いていた赤い毛に全身を埋めながらもぎもぎで張り付き前を見る。

 

峰田を掴み投げた動作で大きく踏み込みもはや三つ首の獣は試験会場の中央部から離れていた。そうとわかるのは、先ほどまで周囲を覆っていた夥しい量の斬撃の痕がその数を少なくしているためだ。そのことに意(・)外(・)にも峰田は気がついていた。

 

「…会場の外側近くまで来たっつってもなんか算段あンだろ?」

 

それに右の首が応える。

 

「…案外鋭いね。僕たちのとっておき、特別に特等席で見せてあげるよ…!」

 

そう言いながら右の首の口元から炎が溢れ出し始める。

 

「いくよー!」

 

そう言いながら横に広い大通りを目一杯に使って三つ首の獣は大きく回り助走を経て巨大ロボットと向き直る。もはやロボットの作る著大な影の下、0ポイントロボットの図体を鑑みればすでに射程に収まりつつ剣の長さでは到底届きえない間合いである。しかし三つ首の獣は止まらない。助走の勢いのままに地面に向けて剣を振り下ろした反動と踏み切った脚で三つ首の獣の体は宙に浮く。大きく跳躍し大剣が空中で半回転して鋒(きっさき)がアスファルトの路面に深く突き刺さった。

 

「…『狼の襲撃』!」

 

三つ首の獣は大剣の柄を左の首と中央の首でしっかりと咥え込み、右の首は口からその身に宿った余燼(よじん)を全て吐き出すように大剣に向けて炎を激しくぶつけた。そしてそのまま上へ斬り上げると大剣の鋭さに切り裂かれ悲鳴に近い音を響かせながら、アスファルトが捲れ上がる。斬撃が空中に赤い軌跡を描くのと呼応するように、周囲に刻みつけられた痕の残り火が次々と連鎖して波状に赤い炎をあげた。その勢いは凄まじく、アスファルトやコンクリートを下方から破砕しながら爆炎の大波となって0ポイントロボットに押し寄せる。

巨大なロボットに激突した爆炎の津波は瞬く間に巨体を覆い尽くすと、一際大きく眩い閃光を一瞬発してから周囲を薙ぎ払うような衝撃波を伴って火の手が大きく上がった。

 

「…はぁ、つかれたー…」

 

気の抜けるような声が一つ。

先の攻撃を放った三つ首の獣は勢いよく上へと振るわれた大剣ごとひらりと身をかわし、爆炎とその衝撃波を回避して少し離れた位置へ着地した。そして大剣を路面に屹立(きつりつ)させながら、三つ首の獣は白い煙に覆われてすぐ影が縮む。獣の影が人の大きさまで縮むと周囲に上がっていた火も一挙に終息しもはや一つの燻りも残すことはなかった。

 

『終了————ッ!!!』

 

実技試験の終わりが告げられた。残存したロボットたちの動きも、——ハナから三つ首の獣には聞こえてなどいなかったが——他の受験生たちの声も静まり荒い息遣いが静寂と共に残る。ただ白い煙だけがふと吹いた冷たい風に攫われ晴れる。

 

地に突き立て、柄に四つ腕を絡ませ鍔(ガード)に体の重さを少し預けて立つ三つ首の獣人が煙の中から現れた。炎の揺らぐようなオレンジ色の長い体毛が風にそよぎ、その下の火照った肌を鎮めている。

 

「ふぅ…お疲れ様。…でいつまで貼り付いてんのよ」

 

と、中央の首が身を少し捩り右の首が後ろを向く。背中には獣化していた時の名残で蝉のように貼り付いた峰田がいた。

 

「ホッァ…」

 

目を見開き白目をむいて硬直している。言葉にならない音を口から発しており、左の首はやや不安そうに声をかける。

 

「大丈夫な状態?それ」

 

また同時に右の首は峰田の運動着の首元を咥えて引き剥がそうとする。しかし峰田が自らの頭から取り出した紫色の球体——もぎもぎは峰田以外のものに強く粘着する性質だ。その上首元に靡く立て髪が巻き付き複雑に絡まっていてもぎもぎを綺麗に取り除くのは至難の業に見えた。

なお峰田自身にはくっつかない以上、彼は今自力で張り付いているわけだが…。

 

「…んぐぐっ 離れそうなんだけど毛引っ張られて痛い…やめとこ…」

 

「仕方ない…当人が目覚ますまではやめた方がよさそうね——」

 

中央の首が諦めるかに思われたとき、俄かにかの鼓膜を揺らす小さな音。

 

「——スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ——」

 

それは峰田から発せられる声。気絶であれば必要以上に深く息を吸うことはないはずである、ということに即座に考えが向いた中央の首が吠えた。

 

「おい!どうせ最初から気絶なんてしてなかっただろ!あと吸うな気色悪い…!」

 

対して峰田も負けんばかりの声色で吠え返した。

 

「…気絶はしてんだよ!!!今オイラが目覚めたってだけで!!!この前まで普通科の中学いってたやつがあんなの背負われて体験して無事で済むわけないだろ!!!火傷したわ身も心もよォ!!!」

 

と、そうこうしているうちに雄英の医療教諭がやって来て怪我の有無を確認していく。

 

「そこの狼の子、怪我はない?…大丈夫そうね。そっちの子は軽いやけど。このグループは回復系の子が居たみたいで怪我人が少なくて助かるよ。じゃあ次ね。」

 

三つ首の獣人の背中に張り付いたままになっている峰田へ医療教諭——リカバリーガールが治癒(ちゅー)を施してさっさと歩き去る。それから数瞬の後に峰田がどさっというやや鈍い音を立てて地面へ落ちた。

 

「イテッ」

 

未だ中央の首は低く唸っているが、地面へ滑り落ちた峰田へ右の首は向き直りぺこりと頭を下げて素直に謝罪する。

 

「…火傷、やっぱりしてたんだ。…ごめん…これでも前よりちょっとは良くなった方なんだけど…でもあの状況だと一番安全なのは背中しかなくて…」

 

「ハハ、まっ良いってことよオイラも別に損してないし」

 

未だなおグルグルと唸りをあげる中央の首を左の首はそっとしておきながら、峰田へ少し身を捩って立て髪を見せながら尋ねる。

 

「…で、このブドウみたいなボールって取れんの?」

 

「えっっっっおう」

 

峰田はそのボールを手に取るため近寄り、背後に回ってそれに触れる。

 

「オイラの個性もぎもぎはさ、くっつく時間結構長いんだ。でも乾燥によわいってとこあんだよな。んだからさ」

 

絡まった毛を少しほぐしてするりと抜き取ると、赤い毛の中からシワシワに萎み小さくなった元もぎもぎが姿を表す。それを三つ首にみせて言った。

 

「こんなふうになっちゃうんだよな。毛絡ませでもしないとオイラが落っこちちゃうし。」

 

ああ〜と揃って左右の首が相槌を打つ。峰田が引っ付けたもぎもぎを全て回収し終えると中央の首がため息がちにうんざりした様子で言った。

 

「済んだ?じゃあもう帰るから。」

 

それに続くように右と左の首も峰田へ別れを告げつつ大剣を路面から引き抜く。

 

「…試験、手伝ってくれてありがとう…またね」

 

「よろしくな葡萄頭。多分あんたも受かってるだろ。」

 

炎が消え燻りを残した大剣を四つ腕に抱えて、三つ首の獣は立ち去った。

 

「お、おぅ…」

 

その場に一人残された峰田は——頭を掻きむしりながら蹲り狼狽していた。脳裏に蘇るのは、試験中に追った赤い狼の後ろ姿。と、背中にしがみついて嗅ぎ取った猛々しい戦い方に反して獣臭さをほぼ感じさせないほのかに甘い香り。獣化を解いて身を捩って見せる時の腰つきと立て髪に隠れた胸部であった…。

 

「ヤベェ…ヤベェよオイラノーマルだったのに…!」

 

それから峰田はガバリと勢いよく上体を起こし天に叫んだ。

 

「オイラ、目覚め(プルスウルトラし)ちまったよ…!!」

 

ところ変わって雄英高校の教員たちによる合否判定会議。実技試験の判定作業と筆記を含めた総評とりまとめが済んだ頃合いである。映像による採点作業が終わったことからカーテンが開かれ暗くなっていた部屋は明るい陽光に照らされた。

とここでそのに二対の白い翼膜を備えた長い白髪の女性ヒーロー、カリゴが口を開く。

 

「今年はヒーロー科もずいぶん豊作ね。」

 

それにスーツを着こなした白いネズミもとい根津校長が頷きをもって答えた。

 

「本当にその通りです、カリゴ先生。個性が複雑化し進化を遂げて来ているのを感じるところです。…そして何より今年は異形型の入学志願者が多いこと多いこと。例年よりも割増に感じますね」

 

簡単に突破されるようになってはヒーローの名の重さに関わる、と黄色い寝袋からため息混じりに声がする。イレイザーヘッドだ。

カリゴが顎に手を当てて少し黙る。その間にげっそりとした姿の男性ヒーロー、オールマイトが補足した。

 

「あっ最近ではカリゴ先生に加えてフルゴールくんもヒーローチャートの上位層に食い込んで来ましたからね。彼の躍進も止まるところを知らない、心強い異形系個性を有したヒーローが人気と強さをもっと持ってくれば今後も幅広く雄英へ入りたいと願う生徒が増えることでしょう。」

 

「…そうだね…私は番付外なようだけど…」

 

やや残念そうな声色で呟くカリゴにオールマイトは慌てて補足する。

 

「いっいやいや、カリゴ先生貴女の場合殿堂入りのようなものなので…!」

 

そんなカリゴの隣に席をとっていた、珍しく厚手の上着を羽織った女性ヒーローミッドナイトが困ったような笑みを浮かべつつイレイザーヘッドのあげた話題へ付け加える。

 

「…ヒーロー志願者が相応の強さと意思でここへ来ることはとってもアツいことだし否定しないけど、確かに問題性はあるわよね。定員より少ないくらいの人数を合格にして来たとはいえ今年も昨年度に対して少し多く採ることになったわけですから…」

 

「ですからもっと幅広くというならもっと実戦的な物にすべきです、校長。腕っぷしの強さに自信のある中坊しか入れないというようではヒーローの登竜門など名前負けも甚だしい。」

 

そう口にするイレイザーヘッドの手元には先ほどまでこの部屋で最後の順へ回されて採点が進められていた少女の映像が映されている。

空を海にように揺蕩う少女だ。深い眠りに誘う個性はロボットに効き目がなく、それを早々に察した少女が合格を諦めながら戦闘に倒れた面々を眠りに落として入口の方へ集めるという救助活動を行っていた。自身の身も顧みず突っ込むばかりの受験生の中では特に彼の琴線へ触れたらしい。

 

「最後に回した彼女の件もそうです。目先の戦闘成績に引っ張られて判断する順序を後回しにした。だが彼女は諦めたとはいえ放棄はせずやれることをやれる限りに出来る、最善の卵でしょう。推薦枠なんかにいたら取り逃がしていたに違いない。」

 

それに対し根津校長は一つ咳払いをしてから明るく応えた。

 

「ご指摘はごもっともだね。…それはもう考えてあることだけど、とりあえず今年も粒揃いのヒーローの卵たちが入って来てくれたのさ。まずはそれを祝福しようじゃないか!」

 

そう言ってオールマイトへ合格者名簿を手渡す。やや分厚いそれは合格者ごとに試験の成績と教員の講評がまとめられており、嬉しいながらもげんなりした様子でオールマイトはそれを受け取っていた。

 

 

…雄英高校入学式の日。

新しい制服の袖を通した元気のいい新入生たちの姿もまだまばらなヒーロー科1年のクラスの一つのドアが勢いよく開け放たれた。

赤く燃えるような長い毛が少し舞って戸口に現れたのは三つ首の姿。六つある狼の耳を教室の中へ向け、爛と輝く瞳が一点を撃ち抜いた。

 

「おはよう、今日から同じクラスだよね夜(・)!!!」

 

*1:
絶対違う




鉄は熱いうちに打て、と言いますようにノっているうちに筆を取った次第です(と言いつつかなり時間がかかったのですがそれはご愛嬌ということで…)。

なおナイトレインの前提知識が必要という書き方は行わずヒロアカ側の論理に沿って説明を心掛けますので、ナイトレインを詳しくはご存知でないヒロアカファンの皆様もどうかご安心ください。

あと私はかなり峰田が好きです。

以下のうちから最も当てはまるものをお選びください。

  • ヒロアカ知ってる/ナイトレイン知らない
  • ヒロアカ知らない/ナイトレイン知ってる
  • 百智卿
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