ゾンビさんは、攻略できない上位存在たちを堕としたい! 作:霧夢龍人
「笑えねぇよ」
表情筋的にもメンタル的にも笑えない状況だが、ログアウト出来ないならさっさとメイン目標をクリアするしかない。しかし、このメイン目標すらもプレイしていた時とは全く違う内容になっている。
《めのまえの あかごを たおせ!》
みたいな巫山戯た文章じゃないのが唯一の救いだが、『黒山羊』『生命源』『渾沌』『全一』は“攻略”出来ないボスとして有名だ。
そもそもの話この四体は、普通のモンスターとは根本的に違う。どれだけ攻撃力を上げようが、どれだけ強力な技能を手に入れようが、どれだけ装備を整えようが、最終的には勝てない。
正確には、倒すことが出来ない。HPを削っても再生するだとか、一定時間が経つと全回復するだとか、そういう生易しい話ではない。
ゲームのシステムそのものが、こいつらの討伐を許していないのだ。だからプレイヤーの間では、四体をまとめて──『攻略不能四天王』なんて呼んでいた。
「え、オレ詰みじゃん。
イヤだよ、こんなぐちゅぐちゅの身体でアイツら倒すの。走っただけで身体中の肉滑り落ちてスケルトンになっちゃいそうなのに、いったいどうしろと?」
文句を言っても仕方がないが、クリアするためにはやるしかない。ひとまずゾンビの《技能》を発動するべく、俺は傍らに並んだ骨の山を手に取った。
スライムの《技能》は粘液。相手を捕縛して、自分の有利に進めやすくする能力だ。
ゴブリンの《技能》は群れ。一時的に味方を増員して、DPSを高められる点が非常に強い。
ならゾンビの《技能》は何が強いのかと言えば──それは『捕食』だ。自分の欠けた肉片を埋めるように、他者の肉や骨を喰らうことによってソイツの持っている《技能》を会得することが出来る。
「先人たちの犠牲は無駄にしない……いただきます!」
肉片のへばりついた頭蓋骨を手に取って、そのまま齧り付いた。腐った肉のえも言われぬ不味さが、ほぼ千切れかかっている舌の上を滑って胃の中に落ちていく。
……吐きそう。ゲームとはいえ、ここまで再現するか普通?
気持ち悪さに支配されながら食べ続けること数分、何とか胃の中に収めたオレはウキウキしながらメニューを表示して、新しく獲得した《技能》を探してみるが……見つからない。
そりゃそうだ。だってゾンビが『捕食』によって新たな《技能》を獲得できる可能性は〇.一パーセントにも満たない。バランス調整(できてない)だと思うが、ソシャゲなら消費者庁案件だぞ。
とは言え、吐きそうになりながらこの量の骸を平らげるのは些かやりたいとは言いづらい。別の方法で《技能》の獲得を考えるべきか?
なんて考えていたところ、ピコンッという音と共に目の前にメニューが表示された。
《めのまえの しにくを たいらげろ!》
……まじで言ってんのかコイツ?
心做しか煽られている気分だ。さっき俺が食べ終えた骨の山の周囲には、まだいくらか肉片が残っているが、もう食べたくはないぞ。
《めのまえの しにくを たいらげろ!》
「……わかったよ。食えばいいんだろ食えば!!!」
埒が明かないので、疎らに落ちていた肉片を手に取ってそのまま口に咥えた。嚥下するのも躊躇する味わいの癖して、妙にリアルなのがマジで腹が立つ。酔っ払いでももっと融通は聞くぞ。
どれくらい時間が掛かったのか分からないが、軽く二桁は嘔吐しかけながら根性で胃の中にぶち込んでやった。ログアウトしたら運営に文句を言ってやる決心を固め、メニューを表示させると──。
──《種族》徘徊型腐敗死体:ゾンビ
進化段階:未定
所持技能:『噛み付き』
……一つだけ新たに習得していた。
相手に与える噛み付きの威力が上がるといった《技能》であり、ゾンビらしさは出ているだろう。動きの遅いゾンビじゃなければ有用だし、攻撃力の低いゾンビじゃなければ強いと思う。
うん、えっと……それだけです。
危うく泣いて暴れるところだった。アラサーのガチ暴れは怖いぞ。暴力とかそういうのじゃなくて、絵面が怖い。《技能》に追加されたら溜まったもんじゃないからやらんけどな。あと肉が削げ落ちそう。
SAN値が削られつつ、他に食べれるものがないか散策するしかなさそうだ。
───☆
突然だが、リバースの四大最弱ボスを知っているだろうか。
プレイヤー側の操作するモンスターで最弱なのはゾンビだが、PvEが主体のこの作品において、初心者でも易々狩れるボスというのが存在する。
その一つが、ゾンビの肉が全て消失し骨だけになった存在である、スケルトンだ。
オレがリバースをプレイしていた頃、スケルトンは初心者が戦闘の練習をするためのボスとして有名だった。攻撃力は低く、動きも遅い。耐久力だけはあるが、技能を持っていないのだ。
ゾンビですら『捕食』があるのに、なんとも報われないボスである。
「……で、なんでそのスケルトンさんが群れてるんですかねぇ?」
洞窟内を彷徨って多分二日くらい経った時だ。落ちている肉片をガジガジ食べて飢えを凌いでいたオレの目の前に、例のスケルトンさんがいたのである。
しかも一体じゃなく三体もいた。
狩猟ゲーではあらぬモンスターが乱入したり、あるいは同時に狩猟したりする作品もあるが、リバースでそういうクエストは存在しない。
勿論、遭遇しては堪らないと尻尾を巻いて逃げようとしたのだが、ここで忌々しいピコンッという音が聞こえてきたのだ。
《スケルトンを さんたい たおせ!!!》
オレもうブチ切れていい?いいよね?
見なかったフリしてメニューを閉じても、気づいた時には文字が浮かび上がって倒せ倒せと煩い。なおも無視していると、傷口に塩をまぶされたような激痛か全身に走るのである。
結果、諦めてボスと戦いに来た訳だ。
最弱vs最弱とかいう誰も嬉しくない対戦カードが成立してしまったのである。
「『噛み付き』で奇襲して一体処理、その後は逃げながら一体ずつ倒していけばいけるか?」
この二日間で獲得できた《技能》は『噛み付き』のみ。なんなら身体から肉がボロボロ腐り落ちていくため、見た目はあまりスケルトンと変わらないレベルまで劣化してしまった。
……賭けるしかない。『噛み付き』の無限の可能性に。
『ゲギャキャ』
『オギャキャ』
『ギャッキャ』
三者三様の鳴き声をあげるスケルトンのうち、一体がはぐれるのを待つ。なかなか離れる気配がなかったので不安だったが、暫く辛抱していると一体だけ図体の小さな個体があらぬ方向に歩いていった。
ここしかない。
「オラァッ!『噛み付き』ィ!」
『ギャギャっ!?』
完全に不意を突いた一撃。バックアタックボーナスを加味すれば、今の俺でもかなりのダメージを与えられるはずだ。
一縷の望みを賭け、バキッという何かが砕ける音を耳にしたオレが、次の瞬間目撃したのは──砕けたオレの歯が、ポロッと地面に落ちる姿だった。
「はっ?お、まっ……ジィィザスッ!!!」
渾身の『噛み付き』を回避された訳じゃない。むしろ背後からモロに喰らっといて、攻撃した側のオレが逆にダメージを受けるってどういうことだよ!
スケルトンは「今なにかしたか?」みたいな感じで首を傾けてるし、はっきり言って弱すぎる。かつてゾンビで攻略してるユーザーを馬鹿にしていたオレだが、そのツケがまさかここで支払われる羽目になると思わなかった。
「あ、あはは……ちょっと俺トイレ」
『グギャギャア!』
怒り出したスケルトンさんに背を向けて、全速力で駆け出した。もう肉が削げようと関係ない。しかし、スケルトンさんはオレとあまり変わらない速度で追従して来やがった。
なんでだよ、走る筋肉があるゾンビの方が普通早いはずだろ!?
なんて言うツッコミは届くことなく、とうとう洞窟の奥深くにある崖にまで追い詰められてしまう。このままデスしてリスポーンするのも考えたが、ログアウト出来ない状態で死ねばどうなるか分からない。
最悪、死んだショックによって現実世界のオレがショック死する可能性だってあるわけだ。ジリジリ滲み寄って来るスケルトンさんを尻目に、追い詰められたオレが取れる手段。
『グギャギャアア!!!!』
「オラァアアア!!!」
それは、環境キルだ。
背後の崖は見たところ結構深い。スケルトンさんの防御力は、骨粗鬆症の爺ちゃんよりもスカスカなので、『噛み付き』による物理ダメージよりも崖から突き落とした落下ダメージの方が強い!……はずである。
襲い来るスケルトンさんを最速(当社比)で避けつつ、オレはそのまま奴の背後に回り込んだ。
そして……思い切り殴るッ!
「君がっ!落ちるまでっ!殴るのをっ!やめないっ!」
『グギャギャア!?』
某奇妙な冒険をしそうな主人公のように腐った拳のラッシュを叩き込むと、スケルトンさんは悲鳴をあげて崖から落ちていった。
……やったか?
恐る恐る下を覗き込めば、バラバラになった状態で地面に叩き付けられたスケルトンさんの姿がある。どうやらしっかりと環境キル出来たようだ。
崖をおっかなびっくり降りてしっかりと確認すると、息の根(元々息はしていないが)は止まっていた。返事がない、ただの屍のようだ。
ピコンッ。
《スケルトンを いったい たおした!》
「……よっしゃあああああ!!!」
思わず両手を突き上げる。
あの『リバース』において、初心者が戦闘の練習に使うようなクソ雑魚ボス相手とはいえ、今のオレにとっては紛れもない強敵だった。
ま、まぁ?全て作戦通りではあるんだけどな?
「さて、お楽しみの時間と行こうか」
疎らに落ちている骨を拾い上げ、いざ口の中へ放り込む──前に、膝を伸び縮みさせる。俗に言う屈伸運動だ。カクッカクッと立て付けの悪いドアのような音を立てながら、何度も屈伸を繰り返し続けるオレ。傍から見れば不審者なのは間違いない。
何をしてるのかって?──乱数調整だよ。