卍解までは転生者の嗜み。 作:点差惨敗
死なば命は泥に同じ なれば泥とは命の礎
謳えや謳えや泥の唄 叫べ叫べや命の頌歌
進め泥舟冥河を渡れ 進め泥舟屍山を昇れ
何れ我らも泥なれば 蓮華蔵にて眠るのみ
現世でまた、戦争があったらしい。それで虚が増えたとか。
その名も元寇。……オオ、って感じ。七年後も来るから気を付けなよぉ。
これが最初ではないはずだけど、これからは日本のどこかで死した日本人以外が増えてきて……原作みたいな、日本人多目だけど明らかにそうじゃない人もいる、って感じになっていくんだろうなぁ。
日本人多目……まぁ、多目、か。ウン。
戦争で死んだ魂が
……あんまり言いたくないけど、第一次世界大戦とかどうなっちゃうんだろうね。まだまだ大分先とはいえ。というか丁度魂魄消失事件のあたりじゃないか??
とまぁそういうことで、今慌ただしく……護廷がバタバタしている時期である。
普段いる場所が移されたこともあって、仲良くなりかけていた一番隊隊士の子達とも疎遠になったこともあって、最近は仲良くなる・ならないで悩まなくなってきたなぁ──とか。
「滑川、いるな」
「あ、はぁい。どうしましたかぁ山本総隊長」
「ついてこい」
……早速お呼び出しである。またぞろ『全力部屋』かな? と思ってついていけば、やはり『全力部屋』。
今度はどんな新技開発したんですか、なんて部屋に入ると。
「グワハハハハハ! オレ様が善定寺有嬪サマだぁああ! 偽物はとっとと倒れろぉおお!」
「グワハハハハハ! 何を言うかオレ様が善定寺有嬪サマだ! そちらこそ倒れろ偽ものめ!!」
なんて同じように笑いながら、同じような攻撃をしあっている大男。
両目と口元にかけてU字型のペイントが入っているその人は、十二番隊隊長・善定寺有嬪さんである。
「なんですかぁ、あれ」
「わからぬ。儂に報告があると儂を呼び出し、その先にて、東から右の善定寺が、西から左の善定寺が来た」
「いえあのぉ、取っ組み合いになっていて、左右はころころ変わるんですがぁ」
……ふむ。
霊力・霊圧共に同じ。転神体とか? あれ斬魄刀用だけど。
うーん、山本総隊長を呼び出して暗殺しようとしたけど、本物が来ちゃったから偽物も本物のフリをすることにした、という感じかなぁ。
──しょうみ。
この人微妙に……信用しきれないんだよな。マッドの親玉な感じがする。根拠なしの偏見というか……なんだろう、同族の匂いというか。
「よぉ、来たぜ、山本。何用……ってんだ、アリャ」
「来たか、四楓院」
「ああ、ちょっとお久しぶりですねぇ、四楓院
「オウ。引き継ぎでどたばたしてたからな、久しぶりだ平良」
四楓院さん。彼はもう隊長じゃない。十九代目四楓院家当主の人と代替わりしている。
新しい人もまた野生児、って感じの人だけど、今は刑軍やら二番隊やらでかなり忙しいみたいなので、無駄にコンタクトを取るつもりは無い。
四楓院さんは隊長ではなくなったものの、そのノウハウや技術は現役そのもの。でもやっぱり左腕が上手く──彼基準──動かせないんだそうだ。だから護廷は辞めずに他の隊へ移るんだとか。
何がだから、なのかは知らない。副隊長になればいいじゃんとか思ったけど、どうも無理らしい。というか今の副隊長の位置にいる人を四楓院さんが気に入っているので、落してしまいたくないんだとか。
「どこの隊に行くとかは、決まったんですかぁ?」
「んー、どこも面白そうだが、一般隊士からやり直してぇって言ってもどこも受け入れてくれねーんだよな」
「当然じゃろうに……」
「いやいや、左手は上手く使えねえわ基礎的な心得もねーわ。ホントは統学院からやり直そうとしたんだけどな。入学すら断られた。ちぇ、なんでだよ。条件満たしてるってのによー」
教えることないからだよ。
でもまぁ気持ちはわかる。学生気分でもう百年くらいいたかった僕も。……そういう話じゃない?
「このままだと一番隊かねー」
「はぁ、隊士たちが無駄に鼓舞されそうじゃの……というか、今の問題に目を向けてくれぬか?」
「いやぁ……オレの手にも余るよアレは」
さっきから霊子的調査してるけど、動かれると……あと引っ付かれるとよくわかんないんだよなー。
これは。
「四楓院さん、とりあえずどっちも気絶させるってできますかぁ?」
「よし来た!」
待ってましたと言わんばかりに拳を手のひらへと打ち付ける四楓院さん。あれ、山本総隊長が「あちゃ~」みたいな感じで額に手を当てている。
「──っしゃあ! 来た来た来た! 合法的に隊長格と本気でやり合えて、特に誰にも迷惑をかけない展開!! おら! 二人の善定寺、とことんやろうぜ! 浮浪一般隊士ことこの四楓院千日さまがお相手だ!」
「あ」
「グワハハハハハ! おお! 四楓院じゃねえか、左腕千切れたって聞いたぞ! なんだそりゃあ粘土細工か!」
「グワハハハハハ! 流石は偽物! 情報が古いな!! 隊長辞めたらしいじゃねえかなんだ十二番隊に来るか! 新入りとしてこき使ってやるぞ!!」
「うっせ、どっちもぶっ殺す!! 行くぜ、初手! ──卍解!!」
うわあ。
そうか……そういえばそうだったなぁ。
……けど、ちょっと情報落ちたな。多分偽物は情報が古い方だろう。
察するに、いずれかの時点の瀞霊廷をセーブしていて、その時以降の情報が無い、とかじゃないかなぁ。
「ああ……小蠅が入ったせいで狙い撃つのが難しくなったの」
「申し訳ないですぅ……」
「おぬしのせいではなく、一般隊士気取りの阿呆のせいじゃ。……まぁ、良いか。巻き込んでも。──万象一切灰燼と為せ」
あっ、あっ、だめですお客様。
山本総隊長まで脳筋思考になったら止められる方がいません!
「申し訳ありません、かなり遅れてしまいました。……と。……滑川七席、この状況は?」
「総隊長曰く、善定寺隊長が増えたそうで。だからここに連れてきたと。霊子測定をしたいので二人を気絶させてほしいという余計なことを僕が言ってしまったせいで、四楓院さんが有頂天。卍解。偽物が情報を零したにもかかわらず四楓院さんがいて狙い撃つができないことに業を煮やした山本総隊長が始解、ですねぇ」
「簡潔でよろしい。これ、持っていていただけますか」
渡されるのはメガネ。
まさか……此奴は技術開発局の連中に造らせたメガネ型の化けモン……!?
あるいは超重眼鏡……!
ということはないらしい。
「汚したくないだけなので、おかしな勘繰りはしないように」
「あっ、はぁい」
「では。──
厳原さんの始解。
それにより消失する厳原さんの斬魄刀の刀身と。
「──総隊長含め、状況決定能力を有さない隊士に無駄に心労をかけたこと、反省するように」
上空に出現した──五柱鉄貫さえ真っ青な質量の、巨大な岩。
「どわっ、厳原怒ってんじゃんかーえろ」
「む。……ちと大きすぎぬか。本物の善定寺まで潰れかねん。……が、まぁ良いか此奴なら」
「おおおおい!? 元柳斎! 四楓院!! オレ様を助けろ!!」
「グワハハハ!! 出たな土石系最強の斬魄刀石宝殿! どれ! オレ様が食らい尽くしてやろう!! 這い
僕たちのところへ戻ってきた山本総隊長、四楓院、そして僕が「おや?」となる。
情報の更新が無かった方……偽物っぽいとされた方は、こっちを向いて助けろ助けろと喚いていて。
最新の情報を得ていた方は己の斬魄刀を始解し、彼の操る……まぁ、あんまり想像するとグロテスクなモノを落ちる岩にぶつけている。
おや。
「妙じゃな。あそこまで勇敢な善定寺など見たことがない」
「人間と虚以外にゃ強く出ないよなアイツ。魂魄が見えないと気色悪いとか言ってさ」
「とするとぉ、情報が遅い方が本物、ってことですかぁ?」
「おおい! 薄情者どもめ!! というか良いから早く助けろ死ぬ死ぬ死んじゃうーっ!!」
一瞬で四楓院さんが消える。かと思えば喚いている善定寺さんの隣に現れ、その足を足払いで蹴って、こっちへ持ってきた時には縄でぐるぐる巻きにしていた。
はんや。
「ちぇ。やっぱまだ左腕が上手くうごかねーんだよなー。上手く結べなかった」
「おおおおあああ流石だぜ四楓院お前にはこの善定寺有嬪様から謝礼金をはずんでやる! 二番隊に入金でいいか!!」
勇ましくも落石に立ち向かった方は……落石を半分ほど削り食ったあたりで、その下敷きになった。
……ど……どうするの、これであっちが本物だったら。
と。
僕がびくびくしていたら……急に、潰れた方の善定寺さんの霊圧が変化していくではないか。
これは。
「四楓院縄ぁ解いてくれ! さっきまでは未知数すぎて嫌だったが、この気配ならブチ殺せる!!」
「あー、だからオマエ始解もしねーで……」
「だって気持ち悪いだろう!? 鬼道っぽい気配なのにオレ様の顔してたんだ、早くも逃げたかった!! だが、あの気配! 間違いない!!」
厳原さんの岩が跳ね飛ばされる。それが落下して来る前に岩は消されたけど、跳ね飛ばしたのは。
「オオオオ!!」
「……虚だな。しかし、どうやって」
「グワハハハハハ! 正体が! 虚とわかりゃぁ、こっちのもの!!」
大虚とか破面とかじゃない──当然だけど──普通に虚。一応
でっかいだけのその虚は。
「ぅおおおおらあああああ!!」
斬魄刀も使わず、善定寺さんの腕力だけでミンチになりましたとさ。
コワ~。
話を聞くに。
「オレ様も詳しいことはわからねぇが、現世でよ、虚の隣に人影を見た、ってのが、下級隊士の中で噂になってんだ」
その話は、山本総隊長へと善定寺さんが持ってきた話。つまり暗殺を企てたとかではなく、話があること自体は事実だった、と。
「人影、ですか。容姿などは?」
「真っ白い人影だそうだぜ。白と聞いて滅却師かとも思ったが、あいつらが虚と行動を共にするはずがねぇしな」
確かに。滅却師とはそもそもが虚に耐性を持たない人間の集まりだ。
だし、表側にいる滅却師にはもうそんな力は残っていないと思う。
「考えられるのは、虚を用い、見た目を変更する、というような斬魄刀で悪さをしている者がいる、ということですか」
「だけどよ、さっきの善定寺はまるで本人だったぜ。霊圧も霊力も。つかなんで偽物の方が情報通なんだよ」
「そりゃおまえ、オレ様は普段例の場所に潜ってるからだよ」
例の場所。
隊長格は全員知っているみたいだけど、故意に僕にだけ聞かせないようにしているから、多分マユリんや千手丸のいた技術開発局の前身、元々のマッド集団のことなんだろう。
多分だけど、僕と引き合わせるのはよくない、みたいな話になっている。実際そうだし。僕にそういう……設置系の技術力が加わったら何をしでかすかわからない。しないけどね。
「検査、終わりましたぁ。霊子異常はなさそうですねぇ」
「そうか、世話をかけたな」
「オウ、おめぇが滑川七席か。噂は聞いてるぜ」
「それはぁ、どうもぉ。ちなみに誰から、どんなぁ?」
「斎藤から、この世ってモンを味が出なくなるまで舐めしゃぶりつくした大馬鹿野郎だとよ! グワハハハハハ! オレ様の仲間だな!!」
「むう。一概に否定できん……」
え、そうなの。
善定寺さんもスーパー舐め腐り男なの。
「ここに同席を許されている時点で信用して良いんだな」
「そも、ここを作ったのが滑川じゃ」
「おお! そうだったのか! そりゃあ元柳斎が信を置くわけだ。……改めて。オレ様は善定寺有嬪! 貴族じゃあねえが、善定寺家の名は聞いたことあるだろ!?」
「いえぇ……残念ながらぁ……」
「えぇ……。……そうかぁ。……結構頑張ってんだけどな。オレ様っていう広告塔もあって……ちっとは名前も売れたもんかと……」
おっと打たれ弱いタイプ。
……顔のペイントやさっきの始解からして、マユりんや駄菓子屋店長と気の合うタイプかと思ってたけど……そうでもないのかなぁ。
「ああでも、善定寺隊長のことなら、勿論知っていますよぉ。"九番隊に聞いた優しい隊長
「なんで九番隊に聞くんだよ……ちょっと嬉しいけど」
「えーなんだそれ。オレは? まだ代わったばっかだからあるだろ?」
「四楓院さんは十一位でしたねぇ。見た目通り怖い、速すぎて怖い、ガツガツ来るのが怖いという意見ばかりで」
「なんだそりゃ! ちぇ、九番隊はナシだな」
瀞霊廷通信じゃないけど、こういうのは既に下地が出来上がりつつある。みんな気になるんだろうね、隊長格の内部事情というか、印象とかそういうの。
ちなみに一位は鹿取抜雲斎隊長だった。八番隊の隊長だ。
最下位は執行乃武綱隊長。まぁ、見た目が怖いからね……。
「っと、そろそろ元柳斎に怒られそうだから話を戻すぜ。えーと、そう、十二番隊の隊長だ。普段は瀞霊廷の限られた場所にしかいねえが、まぁ、この事件くらいはよろしくしてくれや」
「ええ、僕は滑川平良と言いますよぉ。一番隊第七席でぇす」
「オウ。……しっかしすげぇな、流石一番隊。この規模の空間を作れるやつが第七席とは! 人材の宝庫ってか! クゥ、羨ましい!」
「そこについては同感ですが、そろそろ話を進めましょう。総隊長、この件についての公開範囲ですが」
「みだりに公開すれば、混乱のもとじゃろうな。背を預け合う相手が虚であることを疑わねばならぬ、など」
んー。……すわオサレの伝道師が予定より早く生まれたのかな、とか思っていたけど……違う、っぽいか?
単純にその斬魄刀の持ち主が虚を捕獲して、そいつに皮を被せているものとして。
どうして情報に齟齬が起きる。もしや情報源は常に最新しか用意できなくて、どこかに返ったタイミングでその偽死神たちは情報を更新している。偽死神たちの情報源は同一であり、個々人にある人格というフレームが別人に見せかけているだけ、みたいな単純な話であれば。
「犯人を見つける手段は今のところありませんが、偽物を見つける方法ならありますよぉ」
「滑川おぬし、そういうのは苦手なんじゃなかったかの」
「この空間であればこそですよぉ。外ではご勘弁」
言いながら手に出現させるもの。それは。
「……黒痰咳か」
「ほう。なんとなく察しはついていましたが、報告書の鬼道協力者というのはそういうことでしたか」
「グワハハ、なんだそりゃ。鬼道か? おっとオレ様に近付けんな。オレ様は鬼道が嫌いなんだ」
さらに反対の手に、真っ白なこれを取り出す。
「これは、何年か前の黒痰咳から
「それができるとなんだ。……いやそうか! 奴らの見てくれの霊圧が死神と完全に同一だってんなら、霊圧から入り込んで、虚にだけ出る症状、みてぇなのを付与できるわけだ。中身が虚なら!」
「はぁい。もしくは人間だけが罹る病でもいいですけどぉ、それはまぁ、利敵行為になりかねませんからねぇ」
ワクワクしている善定寺隊長とは裏腹に、浮かない顔の山本総隊長。
まぁ、あんまり使ってほしくないんだろう。事が露見すれば、僕が捕まってしまいかねない。
「考えるだけで面白そうだが──ナシだな!」
「えぇ?」
「グワハハハハハ! そいつは確かに地道な調査や多大に起こる混乱から脱し得る最大限の最適解なのやもしれねぇが、そこで得られる利益と、何もかもが露見した場合の損失の釣り合いが取れちゃいねぇ。元柳斎、この坊主はおめぇの懐刀ってやつだろう。切れ味が良いことは良いが、今の内に立派な鞘でもこさえてやれよ!」
「うむ。やはり善定寺はそういう意見か」
「基本慎重派だよなー善定寺って。見た目こんななのに」
「グワハハ、顔のこれは勘弁してくれと前に言っただろう四楓院。ガキの頃に負った火傷が見るに堪えねえんだ、誰も彼もが不快になるくらいならいっそのこと奇妙な見た目にしちまった方が良い。ま、最近は新顔と会う機会も減ってたんでどうでもいいものになりつつあったが、今日の初対面はやっぱり良かったって言えるだろう!」
……あの飲みの席にもいなかったし、確かに、なのか?
「話を戻しますけどぉ、これを使わないとしたらぁ、どうするんですかぁ?」
「こういうことこそ刑軍の出番だろうよ、なぁ! 素行調査はお手の物だろう!?」
「流石に人手が足りねえよ。通常業務もあるんだぞ。……それよか、隊ごとに何か合言葉以外の符牒を決めておくべきだな。それを使えば」
「失念したものは即処刑、ですか? 敵が我々の口調や言動を模倣し、始解まで模倣できている以上は得策であるようには思えませんね」
「善定寺、偽物の方は、斬拳走鬼のどれが自分より劣っていそう、とかあったか?」
「あー、無かったように思うぜ。銅鏡みてぇにオレ様と同一だった」
鏡。……いや鏡花水月のことではなく。
鏡、良いんじゃないか? この尸魂界にある鏡って霊子が作る光をちゃんと反射するから……伝道師に睨まれることはないだろう。あれは認識を弄るモノなれば、鏡に映って見えるモノだってちゃんと変わって見えるはずだし。ちょっと面倒がられるやもしれないけど。
とすると……必要なのは虚の霊子振動数だな。
「山本総隊長ぉ、ちょっと思いついたことがあるんですけどぉ」
「なんじゃ、言うてみよ」
「これ、どうですかぁ? ──縛道の十一・
下番さながら、これは単純に目の前に鏡の役割をするものを作って敵を混乱させ、その内に逃げる、という赤煙遁亜種だ。
「
「これを装置化したものをぉ、『姿見』という名で瀞霊廷の各所に設置しまぁす。普通の死神にとってはぁ、これは水鏡や銅鏡以上と同程度か少し便利な程度ですねぇ。今日の自身の見た目を確認することができる、程度の代物ですぅ。けど、これってぇ光を反射しているのではなくぅ、光と同等の振る舞いをする霊子を反射しているわけでぇ。ちょっと弄ってあげればぁ、"映った存在の中身が虚であった場合だけその人を映さない"みたいな操作が可能なわけですねぇ?」
江戸時代になって初めて導入された姿見というもの。今の時代にはオーパーツなんだけど、まぁ縛道が元になっているし良いでしょう。
そして発想元は吸血鬼だ。鏡に映らない、ってやつね。プラスしてまぁ、真実の口みたいな。
「そ、そりゃあちょいと怖いな。こいつ疑わしいなぁって水鏡衛をチラっと見たら、そこにはオレ様しか映ってなくて……ってことがあり得るわけだろう?」
「というか、それが使い方ですねぇ。純死神なら消える、ということがあり得ないわけですからぁ」
……虚化イッチーは映らないだろうけど、平常時イッチーは映るかな。
未来の話をすると虚が笑うよ~。
「ふむ。……すぐに用意できるのは、何台ほどじゃ」
「大鬼道長と要相談ですけどぉ、少なくとも十三個は絶対大丈夫ですよぉ」
「成程、隊長室にでも置いておけばいいな。あるいは宿舎の入り口にでも置くか?」
「効果が露見すると故意にそこを避ける虚も増えそうですね。どこまで知恵があるのかはわかりませんが」
「避けたらわかりやすくていーじゃねーか」
「気分で避けたのか嫌がって避けたのかわからないでしょう。やはり自身が映っていないことには気付かせないで全員を確認する、という方が効率的に思えます。……ところで、そろそろ地上に戻るべきではないでしょうか」
「ん、なんでだ厳原」
「いえ、普通に、今頃地上では本物と偽物が争い合って、大変な事態になっていそうだな、と」
確かに。
っていうか。
「山本総隊長の偽物が出ていた場合が……まずいですねぇ」
「……ふむ。滑川、装置化せずとも良い。おぬし個人が出す鬼道の形でまず大鬼道長と副鬼道長の本物を確認し、ここに招待。そののち、おぬしらで必要分の『姿見』を作り上げよ。次に儂らと会う時にはまずそれによって真贋を見極めることじゃ」
「はぁい」
「なぁ、模倣って卍解まで模倣されんのかな。つか始解だけでも模倣されている意味がわからねえんだけどよ」
「模倣できたとは言いますが、善定寺隊長の全力であれば、あのような大きいだけの岩はどうとでもなったでしょう」
「あー、まぁ、確かに」
「そう考えると、あの偽物は始解をそのままぶつけるに終わりました。つまり技量も質も足りていない。もう少し数を見ないとわかりませんが、似たことができる虚を捕まえて、その能力を使っている、という印象を受けましたよ」
「決めつけは早計じゃろう」
「ああ待った待った。つまりオレが言いたいのは、平良を模倣できるかって話なんだよ」
それは……ふむ。
状態異常の無効化自体は……曲光と同じ理屈で、霊圧のカーテンを……着ぐるみを被っている、みたいな状態だから大丈夫そうだけど、卍解まで真似できていたらフツーにヤバいな。
……いや、さっきの状況でも善定寺さんの卍解をすればよかっただけだから、できないんじゃないかな。厳原さんの言う通りだとすれば、僕や山本総隊長みたいに特化型の斬魄刀には模倣がいない可能性もある。
「どちらにせよ、あるという前提で動いた方が良かろう。その上で……滑川。これから向かう鬼道衆以外のことで、此度の事件が終わるまで、ここを出入りすることの一切を禁じよう」
「あぁ……僕を最終手段に隔離しておく、ってことですねぇ?」
「うむ。おぬしが暗殺される、あるいは無力化されることが現状一番痛いのでな」
「おうおう、この坊主はそんなに凄いのか? 鬼道に関しちゃ、その発想力こそ類まれなるものやもしれねぇが、腕っぷしって点ではさすがに大鬼道長や副鬼道長が勝るだろうよ!」
アイコンタクト。山本総隊長と四楓院さんと僕と……厳原さん。
ん。
「待て、厳原おぬし、なぜ知っておる」
「知っているわけではないですよ、ただ」
「おう滑川! 早速出番だ! こいつが偽物か調べてくれ!!」
……まぁ、一応やっておいた方がいいだろう。
話しながら考えていたプロトタイプの派生水鏡衛-姿見を作り上げ、厳原さんに向ければ。
フツーに映る厳原さん。
「いいや! ちょいと虚持ってくる!! 虚が映らないかどうかはまだ実験してねーわけで!!」
「だよな! だよな!! あぶねーよな!!!」
「──二人とも、それ以上ふざけるようでしたら、こちらもやることをやりますよ」
一瞬でしゅんとなる二人。な、なんだろうやること、って。
こういう落ち着いた人が結局一番怖いんだよね……。
「私は知っているわけではありません。今の会話の流れや、普段の言動、そしてこの部屋の性質から察しただけです」
「察せてしまうのはぁ、良くないですねえ。厳原隊長だからいいですけどぉ、ここに呼ぶ人数をみだりに増やすのはやめた方がよさそうですねぇ、山本総隊長」
「うむ。此度の善定寺が特例じゃ。あまりにも奇妙な状態だったゆえな。すまぬ。加えて大鬼道長と副鬼道長にも露見してしまう可能性があるが……」
「流石にそれは必要なことですからねぇ、大丈夫ですよぉ」
「待て待て、おめぇら、オレ様にもわかる言葉で話せ。オレ様だけわかってねぇよ。結局この坊主の何が凄いんだ」
「ま、善定寺はこの見てくれとこの言動ながら、フツーに信用できるやつだと思うぜ。口は死ぬほど堅いし良識あるし。偶さか斬魄刀の能力が奇怪なだけだ」
「いえ、ですが、斬魄刀というのは持ち主の心を映すものなれば、やはり信用するべきでは……」
「ああ! 厳原おめぇ、さっき自分がやられたからって! 今この場であんまりふざけるべきじゃねえってのは、元柳斎の湯立ち加減でわかるだろぅ!?」
「でしたら先程の時点でやるべきではなかったですね。……方針は決まりました。行動しましょう。そこそこ程度には時間も惜しい」
「いやだから! オレ様に教えろって!!」
山本総隊長を見る。
頷く彼に、本当に信用できる人なんだな、なんて失礼な感想を抱きつつ。
「──卍解。彼方此方能面野箆坊」
「どわ、ばばば、卍解!? ア!? こいつ七席とか言ってなかったか!? まさか一連の流れが全部嘘っぱちで、こいつこそ偽物!?」
「アホか。……んで、善定寺。始解してみな」
「言われなくともそうするわ!! 這い蹲れ、
「やはり、そういう能力ですか。鬼札として……これ以上のものは無いですね。一応私も、匡せ、石宝殿。……反応しませんか」
というわけで卍解を解除し、説明する。
説明していくうちに、顔を青くしたかと思えば、段々と目を輝かせていく善定寺さん。この人も斬り合い至上主義か、と思ったら。
「おおお!! そりゃ最高だ!! つまり鬼道全部殺すってことだろ! グワハハハハハ! おい滑川、オレ様の隊に来い! 元柳斎のせいだな、七席は! 可哀想だ! オレ様なら副隊長にしてやる!! オレ様と一緒に働こう!!」
「ならぬわ莫迦者が」
「痛゛っ」
調子に乗った善定寺さんの頭蓋に拳骨が落ち、地に沈む彼。い、痛そう。
「うし、馬鹿は放っておいて、そろそろ行くか。元柳斎、速度と危険性を鑑みて、オレが平良を鬼道衆のところまで連れていく。お前ら三人は全員ここを速やかに出ろ。残っていたら偽物と判断し、卍解で仕留めにかかるぜ」
「それくらいの覚悟は必要でしょうね。それと、これは後からでも良いのですが、装置化した水鏡衛の鬼道を大衆化することも視野に入れてください。装置に頼らずとも確認できる、というのは心強いので」
「はぁい」
「つーわけだ。いくぜ、平良。今のオレに出せる最高速度だ。酔って胃の中のモン吐き出すんじゃねーぞ」
「大丈夫ですよぉ。普段からぐでんぐでん動いていますから、ね」
卍解の能力は知らせたけれど、敢えて始解の能力は言っていない。
そっちも鬼札と言えば鬼札だ。山本総隊長と四楓院さん以外の誰がどこまで察しているか、というのはわからないけど、明言しなくていいことも世の中にはある。
「山本。偽物を見つけた場合は、即断処刑か。それとも拘束か?」
「拘束を受け入れる場合は拘束するべきじゃな。要らぬ騒ぎを起こす必要はない。おぬしが殺人の罪に問われたら目も当てられぬ」
「四十六室の偽物が出た場合が厄介ですが……まぁ、今は考えても仕方ありませんね。行動開始と行きましょう」
厳原さんの言葉の、その瞬間。
身体が掴まれて──かつてないレベルのGが身体にかかる。し、始解始解。
「一瞬だが……お、気は失ってねぇな。間に合ったか」
「えぇ、まぁ。……これだけ速く動けたら、楽しそうですねぇ」
「ハハッ、こればっかりは隠密機動の特権だな。つったって雷迅の天示郎とか、この世にゃ二番隊と特に関係ないくせにクソ速ぇやつもいるからな。……オレからしたら、そうも自在に鬼道を操れることや、回避の技術ってのも羨ましいさ。人間はどう頑張ったって万能には振り切れねえ。みんな何かが得意で、何かが苦手なもんだ」
「もしかして、励ましてくれてますかぁ?」
「オウ。辞めたとはいえ元二番隊隊長だからな。迷える隊士を導くくらいはする。それが……オマエみてーに、速さなんてもんに憧れる必要のない奴に対してなら、特に」
……逆骨さんが、僕の性質のことを色々言ってくれたけど。
大抵の人間はそういう性質を持っていると思う。迷っている人間は、誰か、初めましての人と出会うだけで、元の行き止まりではない道へと進めるものだ。
それこそが出会いという意味なのだから。
「おーし着いたぜ。鬼道の用意を頼む」
速っ。……一番隊から鬼道衆の本拠地までは確かにそこまで距離が無いとはいえ、それでも結構あるんだけどな……。
これで一般隊士は無理があるでしょ。
鬼道衆の本拠地、その門を定められた鬼道で開き、中へと入れば。
「ですから! ワタシが鋸歯文早蕨デスと! どーしてわからないのデスカ!!」
「そりゃあこっちの台詞だぜ、大鬼道長!! どーみてもワシが圓悠だろうが! こんだけ長年そばにいてわからねえとか、本気で言ってんのか!? アア!?」
「ですから! ワタシに言わせればこちらの圓悠君が、若干太っているあたり本物デスと言っているでしょう!!」
「そりゃあないぜ大鬼道長!! ワシは最近痩せたんだ! つかこんだけ長くいるんだからワシの痩せ太りの周期くらい把握しておけこのすっとこどっこい!!」
あーあー。
四人が……各自二人ずつが言い合いしてらぁ。
「とりあえず全員無力化するぜ」
「はぁい」
パチ、という音のあと──瞬きの間に四人ともお縄(物理)になっていた。
まだ違和感があるのか、左腕をぷらぷらさせている。
「痛い! ヒドイ!! 何事ですか四楓院隊長!」
「流石だ四楓院隊長! それはそれとしてなんでワシまで縛る!!」
「平良、頼む。こいつらうるせー」
「はぁい。縛道の十一-派生・水鏡衛-姿見」
映せば──お、仮で設定した虚の身体を作る霊子振動数がばっちしだ。やっぱ二年間の虚圏はありがたい資料だったなぁ。
そして──それを受け、四楓院さんの顔が邪悪に変わっていく。
「オオ! ナメカワ! 良い発想デス! というか類まれなる発想デス!!」
「……あークソ。これまたワシら舐められるじゃねーか。なんでこいつそうぽんぽんと新しい鬼道の使い方を思いつけんだよ。ワシらにもそれやらせろよー」
なんて本物がぼやいている間に、貫かれる偽物の腹。
その瞬間、虚の霊圧が漏れ出し──そのさらに瞬きのあと、頭蓋が斬り飛ばされた。
「ま、平良の鬼道がダメだった場合、首を斬り落として違いました、ってことがあり得なくもねぇからな。まず腹ァ貫いて確認させてもらうぜ。腹なら志島がなんとか治せんだろ」
「……こ、怖い。何かとんでもなく怖い事を言っているぞ彼」
「流石は"見た目よりずっと怖い隊長格"で毎度毎度三位以内が常連なだけあるな……」
「オイ平良。こっちの本物も痛めつけていーか?」
「いーですよぉ」
「良くないよ!? 良くないよおぉナメカワ! 擁護擁護! ワタシたち打たれ弱いんだからもう!」
「ワシは良くねえが、大鬼道長はいいぞ。打たれ強い。ワシの完全詠唱雷吼炮食らって傷一つ負わねえのはすっとこどっこいがすぎるからな」
すっとこどっこいがすぎるってなんだろう。
まぁ四楓院さんのそれは冗談なので、ようやく平静を取り戻して。
残していく鬼道衆のみんなにこの派生型水鏡衛のことを話せば、装置化に必要なものを用意するとのこと。まぁ元手がないと僕ら三人いても無理だからね。
しばらくしてとりあえず十三台分の材料が揃い、また派生型水鏡衛については習得を頑張ってみる、という健気な言葉を後にして、僕ら三人は四楓院さんに担がれて、『全力部屋』まで直行。先行すると言って『全力部屋』に入った四楓院さんだったけど、中に人はいなかったらしい。まぁここを見つけるのも至難だからね、実は。
「オオ。……以前ナメカワが特殊調合した壁面素材をタイリョウに購入しているのを見ていましたが、ナルホド」
「こいつは……クソ! おい滑川、オマエ一体何歩先にいやがる! つかやっぱオマエが副鬼道長でいいよもう! ワシの負けだよバーカバーカ!!」
「はいはい、二人とも、そんなに時間ないので作業に取り掛かりましょうねぇ。大鬼道長は派生型水鏡衛の安定化及び例外処理についてのあれそれを、副鬼道長は装置に込められた霊力で鬼道が発動するような調整を。僕はそれらの統合をやりますからねぇ」
「……前々から思っていたけれど、ナメカワって口調が間延びしているだけで、ジッサイは短気というか、効率的な人間デスヨネ」
「今更だろそんなもん。ワシらと初めて会った時からそのケはあったわ。……さて、腹を括ろうぜ、鋸歯文。ワシらの仕事ぶりが瀞霊廷の平穏と直結するのは久しぶりだ。腕が鳴る」
うん。二人とも実力は申し分ないんだから。
頼っている。全面的に。
「あ、それと四楓院さん」
「ん?」
「これ、道中で作ってみた手鏡型の同様の装置ですぅ。必要素材の関係で今は一つしか作れないのでぇ、四楓院さんが良いかな、って」
「おお、そりゃ助かる。……とはいえ、次に隊長格が入ってくるまで……本物が来るまではここにいさせてもらうぜ。隊長格の始解だけでも、劣化版だって模倣されたらオマエら全員殺されちまうかもしれねーし」
「それは……どうでしょうねぇ。僕は弱いけど……」
あの二人、あんな感じで普通に強いからなぁ。
「……へえ。山本と雀部以外にもそんな目向けるんだな。ちょっと安心したよ」
「え? なにかおかしかったですかぁ?」
「いや……オレは心配してたんだ。オマエ、最近特にだけど、ずっと気を張っててさ。……それが、思い出す限り、オレの傷に対して対処をした日を境にしている感じがして。……あんだけ言ったけどよ、オレのことが重荷になってんじゃねーか、って。色々考えたんだ。が、どうやら杞憂だったらしい。いや杞憂じゃねーかもしれねえが、オマエが懐いているやつが一番隊以外にいて良かった、っつーか。……上手く言えねえや。ハハ、こういうところも隊長の器じゃなかった、ってやつなんだろうな」
……。
まぁ、そうだね。
四楓院さんの一件で……少しだけスタンスが変わった。そしてその後から急激に交流も増えたように思う。
それが、ちょっと疲れてきていた、というのはあったんだろう。申し訳ない。気を遣わせちゃった。
「四楓院さんのことも頼っていますよぉ」
「オウ、全体重乗っけてきていいぞ。押し返してやるどころか持ち上げてやるし、持ち上げたまま虚の千匹や二千匹ぶっ殺してやる」
「頼もしいですねぇ」
さて、雑談はこれくらいにして、僕も集中しよう。
鬼道長たちの言う通り、僕らの仕事が瀞霊廷の平和と直結するなんて、そんなやりがいのあることもない。
……並列して大衆化と巨大化、隠密型、あとは儀式場にできるように、というのも考えよう。
にしても……虚を利用する死神、か。
そりゃそうだよね。伝道師が初ってわけじゃないか。そもそもそれ以前にアニオリとか結構あったわけだし。
*
そうして……瀞霊廷じゅうに『姿見』が設置されていく。
初期の頃に起きていたドッペルゲンガーによる混乱は急激な収縮を見せた。こういう事件はね、長引けば長引くほど厄介性が増すものだ。
だから、詰める時は一瞬でやらないといけない。
ちなみに偽死神は厳原さんの読み通り、始解の完璧な模倣すらできないらしく、善定寺さんのはたまたま虚の能力が上手く合致していた結果のようで。
捕らえられ、処刑され、その際に抵抗する虚もあれば、露見の瞬間に暴れ出すやつもいたけれど。
その駆逐作業が瀞霊廷じゅうで行われるようになってから、予め配置していた刑軍より報告があがった。
「善定寺の読み通りだ。外側を模倣していたとしても、隊長格規模の霊圧を模倣させた虚を野放しにするのは怖い。だから隊長格同士がかち合う、あるいは何かをさせようと向かわせた現場には、そこを一望できる位置に下手人がいるはずだ、ってな。──七つの隊における『魂魄模倣事件』において、近辺高所から現場を観察するように眺めていた、十番隊第二十席、三良坂大五郎。その場で捕らえるのはすまん、できなかった。偽死神が割って入ってきたんでな。そのまま奴は姿を晦ませたんで黒確定で良いだろう。指名手配にはしたが……さて」
全員の確認が取れているメンバーで、『全力部屋』にて行われるは、最後の詰めの会議。
「善定寺。オマエの慎重な意見は参考になる。このあと三良坂が逃げるとしたら、どこだ」
「グワハハハハハ! もしそいつがオレ様ほどに頭がいいなら、隊士に紛れるだろうな! なんせそいつは偽死神じゃない。『姿見』には映る!!」
「ま、だよな。オレもオマエ並みに頭が良いから同意見だ。鬼道衆、個人の霊圧を掴趾追雀で探るってのはいけるか?」
「フーム。その方の霊圧検体が手元にあれば。隊長格ならともかく、二十席の霊圧検体なんて」
「ありますよぉ」
「……どういうことデスカ、ナメカワ。まさか虚に被せられていた始解の能力からホンニンの霊圧を割り出した、とでも?」
「無理だな。虚と模倣霊圧の板挟みで変質してやがる。こいつを本人扱いはできねぇ」
「いえいえぇ、第一次黒腔恒常開放定着化実験の時、十番隊は全隊士が参加していましたよねぇ。僕、他人の霊圧を覚えるのは得意なのでぇ、三良坂さん? 以外の霊圧を確認すればぁ、抜けている霊圧から探したい霊圧を絞り込めますよぉ」
生き死にの激しい全隊を覚えておく、というのは無理だけど、最近あったあれについては覚えている。
今まで出会った霊圧全部覚えている、みたいな怪物じゃあない。あくまで必要だと思ったから覚えているだけだ。
「……」
「今はそれだけで充分です。すぐに十番隊を招集しましょう。派生型水鏡衛で本人確認をしたのち、滑川君に霊圧を確認してもらい、掴趾追雀により三良坂の位置を把握する。よろしいですね?」
「ワタシと圓悠君……副鬼道長で、瀞霊廷をハンブンずつ覆う掴趾追雀を発動しましょう。必ず見つけ出してみせますよ」
「オウ。滑川だけに良いところ持っていかれてたまるかってんだ!」
若干。
四楓院さんと善定寺さん、そして山本総隊長から……何か言いたげな雰囲気が見受けられたけど、厳原さんが遮ってくれた。
時と場合、ってやつだねぇ。
──かくして。
霊圧が割れ、二人の鬼道の達人によって位置まで割り出された三良坂何某は捕まる。「包み込んだものを別のものに見せかける」という能力の始解。それと幾つかの鬼道を組み合わせ、此度の事件を起こしたという彼。
しかし、どのようにしてあの大量の虚を仕入れたのか、というのは終ぞ語らぬまま──獄中にて、他殺されることになる。
要するに、事件は続く、ということだ。
そしてもう一つ。
「成程の。……鬼道倫理規範の制定か」
「はぁい。鬼道の習得難度が下がったことも今回の事件の一因だったようなのでぇ」
というのも、十番隊に聞くところによると、三良坂大五郎は昔は鬼道が苦手な人間だったらしいのだ。しかし習得難度が下がったことで此度の事件を思いつき、引き起こした。無論虚を提供した何者かの存在はあるのだけど、それでもやっぱり鬼道リテラシーとでもいうべきものが曖昧だからこそ起きたことなんじゃないかと思えてしまう。
インターネットやプログラミング技術に関するハードルが下がったことで、罪の意識の無いままにクラッキング事件を起こしてしまう子供達、みたいな。三良坂何某も二十代前半みたいな見た目の──それでも百歳とからしいけど──人だったから、余計に。
鬼道は面白い。霊子操作は面白いけど……霊力のある存在なら誰でもアクセスし得る、それでいて破壊力を伴うこの力には、相応の良識や規範が必要だ。
それを霊術院で教えるべきだ、という進言をしているところ。
「うむ、良い意見じゃ。嫌がられるではあろうが、既に十三隊に入っておる隊士にも読ませるべきじゃろうな」
「そうですねぇ。それで……おかしな事件が減ってくれたらいいのですけどぉ」
「大人の場合は最早鬼道があろうとなかろうといつか起こしていた事件、というようにも思えるが、それは諦めじゃろう。……手配はこちらでしておく。が。……おぬしは今回の功も鑑みて、そろそろ長めの休暇を取るべきじゃな」
「え。……僕、何かしましたかぁ?」
「罰則としてではない。功労讃えて、じゃ。おぬしは不要だと言うやもしれぬが、明らかに働きすぎである。四楓院が暇をしておるし、護衛も兼ねて、あやつと現世にでも行ってくるとよい」
え。
それは──是非。現世に行ってやってみたい実験が無数に──。
「良いかの。即ち四楓院が監視じゃ。休んでおらぬようであれば、暴力も許可すると言い含める」
「ひどぉい」
「ふん。こうでもしなければおぬしは休まぬ。……現世の戦争気配が収まり次第になるがの」
あ、それだと七年以内にするべきかもです。
色々危ないですからねぇ。……なんて言った日には、だけど。
「心配せぬとも、虚の供給元など、おぬしが帰ってくる頃にはすべて解決しておこう」
「はぁい、頑張ってくださいねぇ」
それについては是非も無し。
僕がいないと回らない組織ってわけでもないんだ、特になんの憂いもなく研究生活に戻れるならそれが一番、ってね。
ということで滑川平良第七席、長期休暇をもらうことになりました。
付録
九番隊に聞いた優しい隊長
1位 鹿取抜雲斎(八番隊隊長)
2位 善定寺有嬪(十二番隊隊長)
3位 志島知霧(四番隊隊長)
4位 久面井煙鉄(九番隊隊長)
5位 尾花弾児郎(五番隊隊長)
6位 厳原金勒(三番隊隊長)
7位 山本元柳斎重國(一番隊隊長)
8位 斎藤不老不死(六番隊隊長)
9位 王途川雨緒紀(十番隊隊長)
10位 逆骨才蔵(十三番隊隊長)
11位 四楓院千日(二番隊隊長)※1
12位 卯ノ花八千流(十一番隊隊長)※2
13位 執行乃武綱(七番隊隊長)
※1、※2現在は隊長ではありませんが、集計当時の記録です。