ケイちゃんが生えて来たためプロットが崩壊した小説の供養です。
1話だけの短編の形にして放流します。

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かろうじて生きてます。


愛してるゲーム

 明星ヒマリは真剣勝負の最中だった。

 

 カタカタとキーボードを叩く音と、PCのファンの音だけが響く特異現象捜査部の部室にて、乙女の尊厳を賭けた大勝負の最中だった。

 

 ふぅと小さく息を吐き、ギュッと瞑っていた目を開いて、目の前に座る男子生徒と視線を合わせる。高鳴る鼓動を抑えるように、自然と右手は胸の前へ。

 

 自他共に認める自信家の彼女。自身は超天才清楚系病弱美少女ハッカーで、性格は澄み切った純正のミネラルウォーターの様に綺麗で、その容姿は万年雪の結晶の様に可憐で。そして何より『全知』である。

 己をキヴォトスが産んだ奇跡の超スーパー完璧JKだと信じて止まない彼女だが、今この瞬間だけは、流石に不安で押しつぶされてしまいそうになっていた。

 

 ジッと彼を見つめる。丸くて人懐っこい瞳と目が合って、ヒマリの白い頬に朱が差す。心臓がさらに跳ねる。緊張から瞳に涙がたまり、口が乾く。

 

「……っ 、あの、兄さん」

 

 つっかえながらも彼を呼べば、彼は「何?」と首を傾げてお揃いの白髪が揺れた。

 自然と胸を握る手に力が入る。心臓の鼓動なんてもう痛いぐらい鳴り響いている。ヒマリの耳には自身の心音と、彼の声以外には何も聞こえていない。

 

 きっとチャンスは一回。この一回で墜としてみせる。

 だから確実に彼の心を掴む一言をその聡明な頭で考える。

 

 彼との思い出を振り返りながら、溢れる気持ちの一つ一つを選び、纏めて、紡ぐ。

 出来上がった言葉はとてもシンプルなものだった。

 

 どうしようもないほどの熱い衝動に身を任せ、堪らず彼の胸に飛び込むヒマリ。

 ギュと背中に手を回し、彼の体温に包まれながら、彼女は彼だけに聞こえる様に呟いた。

 

「私は、貴方を……スズラン兄さんを、愛してます」

 

 ヒマリ、一世一代の愛の告白。

 

 そんな幼い頃からずっと一緒にいた、大切な女の子からの告白に、彼こと、雨谷スズランは一言こう答えた。

 

「おう、サンキュ」

 

 その表情は至って平常。狼狽えるどころか、まるで幼子を見守る親の様な慈愛の表情。

 

 つまり、照れの色は一切ナシ。

 

 沈黙が流れる。耐えきれずにヒマリは口を開いた。

 

「……え? それだけですか?」

 

「うん」

 

「照れていない?」

 

「照れてないけど?」

 

「私の割と真剣な告白を受けて!?」

 

「びっくりはしたぞ? 演技上手いな。流石ヒマリ」

 

「なっ……ば……馬鹿な……!?」

 

 この超絶可愛いくて、泣けるほどに健気な私からの告白を、サンキュの一言で済ませるなんてありえない、考えられない。

 先程までの完璧な演技を止めて狼狽えるヒマリ。彼なら抱き着いて告白すれば簡単に照れるだろうと思ってたのに! まさか無反応だなんてとショックを受けていた。

 

 乙女のプライドが砕け散ったヒマリの様子とは裏腹に、スズランは満足気にニコリと笑う。

 

「じゃ次は僕の番だな」

 

「え、ちょっ!? 待ってまだ心の準備が!」

 

「しーらね」

 

 そう言ってスズランは、ヒマリをギュウッと抱きしめ返し。彼女の耳元でぽしょりと呟いた。

 

「好きだよ、結婚しよっか?」

 

「ッ──!!」

 

 スズラン、渾身のイケボだった。

 ヒマリは耐えられず、先程の演技以上の赤面と、声にならない悲鳴を上げる。

 

 勝ちを確信したスズランが念押しで「ヒマリ?」と名前を呼べば、もう色々いっぱいいっぱいな彼女は、呂律の回らぬ口で「ひゃ、ひゃい」と一言だけ返す。その様子は誰がどう見ても照れまくっていた。照れ照れだった。

 

 この勝負、雨谷スズランの完全勝利である。

 

「しゃあ! オラァ!! まずは僕の一勝!!」

 

「ず、ズルい! ズルいですよ兄さん!! 不意打ちは卑怯です!!」

 

「知りませぇん、ルール違反はしてないからね!」

 

「ノーカン! ノーカンです!!」

 

「…………」

 

 ガッツポーズで喜ぶスズランと、往生際悪く縋るヒマリ。

 そんな騒がしい二人の様子を、先程からずーっと部屋の片隅で見ていた和泉元エイミは、

 

「…………あの部長と副部長、そういうの家でやってくれない?」

 

 と、とても白けた目をして、そう吐き捨てた。

 

 

      ◇

 

 

 ことの発端は、遡ること数分前。

 

 キヴォトスが誇る『全知』、眼鏡が恐ろしく似合うインテリ美少女こと明星ヒマリは暇を持て余していた。

 

「……ハンドスピナーって……なんで流行ったんでしょうね」

 

 それはもう、かつて無い程に暇を持て余していた。

 

 大きめのソファにぐでぇと溶けながら、『全知』の文字がプリントされたアホっぽいアイマスクを額に着け、そんな中身と意味の無いことを零す。

 

 そんな彼女の徒然なるまま過ぎる独り言に、反応を示す者が一人。

 

「……さぁ、でもヒマリも持ってたよね」

 

 ヒマリと同じソファにだらしなく身を預ける、『全能』と書かれたバカっぽいアイマスクを額に着けた白髪の男、雨谷スズランもまた、暇人の一人だった。

 

「あれは確か、兄さんが買ってきたんじゃないですか」

 

「そうだっけ? でも結構遊んでなかった?」

 

「いえ? 暇潰しに回してただけですね」

 

「そっかぁ、今どこにあるの?」

 

「さぁ?」

 

「そっかぁ……」

 

 そして再び沈黙。毒にも薬にもならない無意味なやり取り、覇気どころか生気も無い。余りにも酷すぎる、絶対に他所様に見せられない姿である。

 

 一応これでもこの二人、ミレミアムの特務機関である特異現象捜査部の部長と副部長なのだが、そんな肩書は見る影も無し。

 これがツートップの部活の今後には憂いしか存在しないが、一応この二人がここまで溶けてしまっているのには理由があった。単純にする事がなさ過ぎるのだ。

 

 キヴォトスを守る件の戦いから早数ヶ月。キヴォトスが平和になった事で、各地で多発していた科学的に証明しがたい事象の数が激減。

 となると当然、その事象の追求と研究を主目的としていたこの部活が手持ち無沙汰になるのは必然である。

 

 その結果、

 

「……暇だねぇ、妹よ」

 

「……暇ですねぇ、兄さん」

 

 この様に口を揃えて暇だ暇だと宣う、まるで生ゴミの様な二人が完成。悲しい事にこれが現実だった。

 

「…………何か面白い事でもないかなぁ」

 

 自身の身体を枕代わりにして寝そべるヒマリの頭を撫でながらスズランは呟く。

 このままヒマリと一緒にダラダラと微睡むのも悪くない、むしろ最高だが、貴重な青春の一時をこの様にだらけて過ごしてしまうのは流石に如何なものだろうかとも思う。これがスズランの、根っからの引きこもり気質のヒマリとは違う所だった。

 

「面白い事ですか、例えば何かあります?」

 

 そうヒマリに聞かれて、少しだけ考えてみる。が、何も浮かばない。

 

「……またリオでも揶揄いに行く?」

 

 ようやく絞り出した答えはそんなろくでもない事だった。

 

「それ、昨日やりましたよ」

 

 そして実行済みだった。

 

「だよなぁ」

 

 スズランは2日連続は流石になぁと呟いて、昨日の暇潰しを思い出す。

 

 ──

 ────

 

『おーいリオ! ラップバトルでヒマリと勝負しよーぜ! ディスってみろ、これはフリースタイル!』

 

『な、何をいって……』

 

『では先攻、私から』

 

『ちょっと、待ちなさい』

 

『センスが変♪ 堅物出来ない臨機応変♪ 挙げ句コミュ障友達おらへん!』

 

 ブチッ(リオの血管が切れる音)

 

 ────

 ──

 

 『色彩』に打ち勝った後、再び失踪していたリオだったが、それに『何も引き継ぎせず姿を眩ませたアンポンタンをまた易々と逃がすわけ無いだろ、逃げる前に取るべき責任がある』と強い異議を唱えたスズランとヒマリの兄妹コンビ。

 

 絶対に捕まえてやると、暇潰しついでに考えたスズランの作戦の元、一ヶ月前にスーパーの安売り惣菜売り場にてリオを捕獲。

 それからというもの謹慎という体で地下都市で過ごすリオは、この様に時たま兄妹の暇潰しに付き合わされていた。これがセミナーの会長の末路である、お労しい。

 

「ラップへったくそだったなぁ、リオ」

 

「ですねぇ。それに比べて流石は私、天才美少女ハッカーは突然のラップバトルも完璧です」

 

「ライムが効いてたもんな、楽しかったか?」

 

「まぁまぁでしたね」

 

「まぁまぁか……」

 

 そして散々玩具にされた挙げ句この言い草である。流石にお労しいがすぎるリオだった。

 

「ほかには……シャーレにでも行く?」

 

「……多分、今行ったら怒られますよ?」

 

「だよなぁ……」

 

 再び回想。

 

 ──

 ────

 

『シャーレのパソコンをハッキングしました!』

 

『あはは! 何やってるんだよヒマリ!』

 

『先生の検索履歴、覗いちゃいましょー!』

 

『やっちゃいましょー!』

 

『あ……』

 

『あっ…………』

 

『『………………』』

 

『見なかった事にしよっか』

 

『そうですね、忘れましょう』

 

 ポーンッ

 

『『ビクッ!』』

 

『……モモトーク、先生からだけど』

 

『……無視しましょう』

 

『……うん。そうしよう、怒られたくないし』

 

 ────

 ──

 

 その場で何を見たかは先生の沽券に関わるため伏せさせて貰うが、ヒマリとスズランはその日初めてハッキングした事を反省した。そして先生が心配になった。

 数々の誘惑大変だと思いますが、ヴァルキューレのお世話にならない為にも、どうか耐えて下さいと切に願うばかりである。

 

 さて、となると困った。リオやシャーレが暇潰しに使えないとなると、いよいよスズランには何も暇潰しの案が浮かばない。

 ネルの猫耳加工写真をネットの海に広めることもやったし、謎の掛け声『はっちゃー』をどっかのスラム街の流行語にすることももうやった、ネタ切れだった。

 しょうがないため、ここは天才美少女ヒマリちゃんの素晴らしい知恵を借りる事にする。

 

「逆にヒマリ、なんか無いか?」

 

 かしこかわいい美少女ハッカーなら思いつくだろ? と匙を投げたスズランに、フムと思案顔になるヒマリ。親愛なる兄さんが頼ってくれるのなら、その期待に応えるのもやぶさかではないと、ちょっと真剣に考えてみる。

 

 そして超絶クールで冴えている、最高の暇潰しを提案する。

 

「そうですね……久しぶりに、私とゲームでもしましょうか兄さん」

 

 悪戯な笑みを浮かべてそう言うヒマリに、スズランは先程までの死んだ魚の様な目を引っ込め、少年の様なキラキラした表情を浮かべた。

 

「お! いいね、最後にやったのいつだっけ?」

 

「色々と忙しくて出来てませんでしたから、半年ぶりといったところでしょうか?」

 

「マジで久しぶりだな、いいじゃんいいじゃん! やろうよ」

 

 予想以上にノリノリな兄の様子に、ヒマリはしめたと内心でガッツポーズ。これで勝てばまた兄さんを好きに出来るとニヤリ笑う。

 

 というものの、この二人の間で恒例となっている勝負事には、一つだけルールがあった。

 

 それは、勝者が敗者に何でも好きな命令が出来るというもの。

 

 当然の如く敗者に拒否権は無いし、可能な限り本当に何でも言うことを聞かないといけないというガチ過ぎる内容であるが、それは今まで一度たりとも変更されてない絶対的なものだった。

 

 つまり今回の勝負も、ヒマリには何かしらの企みがあるのである。

 

「決まりですね。ふふっ、今まで通算68戦36勝32敗で私の勝ち越しですけど、今回も勝たせてもらいますね?」

 

 スズランに命令する未来を想像して上機嫌なヒマリ。完全な取らぬ狸の皮算用ではあるのだが、自分を『全知』と声高々に主張する少女が、初めから負けを頭に入れて勝負に挑む訳も無く。自身の勝ちを信じて疑わないその姿勢は、相変わらずの自信家ヒマリちゃんだった。

 

「楽しみですねぇ、今回は何をお願いしましょうか」

 

 アレかな? コレかな? とヒマリはニコニコ笑う。もう勝った気でいる妹の様子に相変わらずだなぁと呆れつつ、スズランは不敵な笑みを浮かべた。

 

「油断してたら足元救われるぞ? いつもの事だけど僕、本気でやるからね?」

 

「もちろん、そうで無いと面白くありませんからね。ばっちこいですよ」

 

「いいね楽しくなってきた! それじゃ、何で勝負するか決めよっか!」

 

 わくわくが止まらずに身体をソワソワさせながら、スズランはヒマリにそう尋ねる。

 するとヒマリは既にあらかた何をするか決めていたのか、悩む間もなくこう提案した。

 

「ここはガチの一本真剣勝負でどうでしょうか?」

 

 その方が緊張感がありますしというヒマリ。特に問題も無さそうなので、それで良いよとスズランもその案に賛成する。

 

「良し! じゃあ早速やろうか。お題をヒマリさんどうぞ?」

 

「あら? よろしいのですか? 譲ってもらっても」

 

「良いよ、僕は兄貴だからね。これくらいのハンデはわけないさ」

 

 そう言って胸を張るスズラン。基本的に自分に甘い兄なら、そう提案するだろうと読んでいたヒマリは、内心で想定どおりとほくそ笑む。

 

 絶対的に私に有利なゲームを選択し続ければこの勝負、勝ったも当然!

 絶対に落とせない選択をヒマリは考える。兄さんと言えば? それは私。私と言えば? かわいい、美少女、完璧……つまり私が弱点!!

 

 この間約ニ秒。ヒマリは『全知』の優秀な頭脳をフル稼働させて、スズランに絶対に負けないと思うゲームを導き出した。

 

「……愛してるゲーム、なんてどうでしょう?」

 

 

      ◇

 

 

 そして冒頭に戻る。

 

「ノーカンッ! ノーカンッ!!」

 

 先程、勝ちを確信していたはずの自身が提案したゲームで返り討ちに会い、恐ろしくチョロいテレ顔を晒したヒマリ。足が不自由で無ければ地団駄を踏みそうな勢いで駄々をこねて騒いでいた。

 

 認められなかった。アフロディーテの生まれ変わりかと見紛う程の容姿を持つ自身の告白を、あろうこと「おう、サンキュ」の一言で軽く流されただなんて認められなかった。ちょっとギュッとされて耳元で囁かれただけで、あんなに腰砕けにされるだなんて認められなかった。

 

「私は照れてません! つまりドロー! 勝負は続行です」

 

「往生際がわるいぞヒマリー、テレテレだったろうが」

 

「照れてません!照れてないったら照れてませんとも! ねぇエイミ? 私照れてませんでしたよね!!」

 

 対面でスズランと言い合うのは流石に分が悪いと自覚しているヒマリは、先程からずっと呆れた顔をしている第三者に意見を求める。

 

 話を振られた和泉元エイミは、面倒くさそうな顔を隠す事もせずに、自身が見た光景を正直に話す。

 

「照れてたよ」

 

「馬鹿な!」

 

 馬鹿はお前だ。スズランとエイミの思考は完全に一致した。これがミレミアムが誇る『全知』と思ったら悲しくなる。

 

「諦めろヒマリ、僕の勝ちだよ」

 

「認めません! 認めませんよ! そもそもなんで兄さんは微塵も照れてないんですか! おかしいでしょう!?」

 

「何がよ」

 

「この! キヴォトスが誇る美少女! 花も恥らう、ビーナスすら嫉妬する! 私からの告白ですよ!?」

 

「うん、そうだね」

 

「照れるでしょ普通!? 赤面するでしょ普通!? ただの告白じゃなくて、ギュッとハグまでしたんですよ!?」

 

 兄さんの感性は死んでるんですか!? と失礼極まりない事を抜かすヒマリ。

 まぁ言わんとする事は分かる。分かるが、スズランからすれば今更すぎる話なのだ。

 

「ハグって……思い出せ? ヒマリ、さっきまでお前どんな体制だった?」

 

 どんなと問われれば、一緒にソファでだらけながら……

 

「……兄さんを抱き枕にしてましたね」

 

 滅茶苦茶密着していた。

 

「でしょ? 今更じゃね?」

 

「た、確かに……け、けど普段から引っ付いているわけでは……」

 

「部長、普段も私がエアコンの温度下げると、すぐに副部長に引っ付いてるよね?」

 

「……でしたね。はい、確かに今更過ぎましたね。なるほど、私の作戦は失敗だったと言う事ですか」

 

 がっくしと項垂れるヒマリ。ようやく諦めたかな? と二人は思ったが、それは考えが甘い。ミレミアム随一の負けず嫌いの屁理屈は、ここから本番だった。

 

「……ですがそもそも、本当に私は照れてたのでしょうか? 兄さんは本当に微塵も照れてなかったのでしょうか?」

 

「そう言ってるじゃん? エイミも見てたわけだし」

 

「そこです、エイミはちゃんと見てたんですか?」

 

 なにか始まったぞ? と眉をあげて耳を向けるスズラン。エイミの眉間には更にシワが刻まれる。

 

「良いですか? エイミは先程までパソコンを触っていた。つまり私達の様子をしっかり見てはないのです」

 

「ふむ、で?」

 

「もしかしなくても、細部までよく見てないのでは?」

 

「うん、アレを全部見るのは色々とキツいし」

 

「つまり観測していない! 観測していないと言うことは可能性はフィフティ・フィフティ! これがシュレディンガーのテレ顔です!」

 

 スズランは正直に、めっちゃアホな論説だなぁと思った。

 

「めっちゃアホっぽい」

 

「エイミっ!?」

 

 そしてエイミはそれを隠さず口にした。

 

 可愛がってる(ヒマリ比)後輩の、歯に衣着せぬ物言いに驚愕をあらわにするヒマリ。スズランは何故そこまで驚けるのかが謎だった。

 

「だいたいエイミが見てなくてもさ、僕が見てるんだからその主張はおかしいでしょ? 何度も言うけど、ヒマリ滅茶苦茶照れてたよ?」

 

「それは兄さんの主観でしょう? それだと私が照れてなくても、兄さんが照れてると言えば良いだけになってしまいます。つまり客観的な視点がない時点でこの勝負は無効なのです!! ノーカンです!」

 

 再びノーカンッ! ノーカンッ! と拳を突き上げて滅茶苦茶な抗議を行うヒマリ。

 見苦しい部長の様子に、早くこの茶番が終わって欲しいエイミは、さっさとトドメを刺して引導を渡せと副部長に視線を向ける。するとそこには何やら思案顔のスズラン。まさかと、冷や汗がエイミの背を伝う。

 

「副部長?」

 

「んぁ? まぁ、一理あるかなって」

 

「嘘でしょ?」

 

 あのいちゃもんを通すの? この人どんだけ部長に甘いの? スズランのシスコン具合にエイミはドン引きしていた。

 

「もう一回! もう一回だけお願いします!」

 

「はぁ……一回だけだからな?」

 

「いえすっ! 流石兄さん! 大好きです!!」

 

 そしてあろう事か、エイミの予想通りヒマリの主張を認めたシスコン。エイミは頭が痛くなってきた。

 

「それじゃあ、もう一回始めるからな。じゃあエイミ、審判よろしく」

 

「えぇ……私も巻き込まれるの? さっきも言ったけど家でやってほしいんですけど」

 

「さっさとやって終わらした方が賢いと思うぞ? じゃないと終わらないし」 

 

「……わかった」

 

 肩を落として諦めたエイミは、口を挟んだ時点で失敗だった、無視するべきだったなと自分の行動を反省する。

 その様子にスズランが「ヒマリが我儘言ってごめんな」と謝れば、エイミは「もう慣れました」とため息を吐いた。

 

「あの、その様子だとまるで、私が聞き分けのない駄々っ子みたいじゃないですか?」

 

 みたいじゃ無く、先程までの彼女はまごうこと無き駄々っ子。完全に幼児だったが、それは話が長くなるため指摘しない。英断だった。

 

「じゃあ、改めて私からですね!」

 

 スズランとエイミの呆れた視線を無視し、ヒマリは再び必殺の台詞を考える。

 さっきはストレートで駄目だった、つまりは変化球に勝機ありと予想する。コホンと息を整えて再びスズランと向かい合った。

 

 覚悟してください兄さん、これが究極妹系美少女ハッカーの本気です!

 

 再びギュッとハグ、さっきよりも力強くぎゅうっと。そして頬を胸につけたまま上目遣い、ここが一番のポイント、そして特段と甘い声でヒマリは告げる。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん、ヒマリね? お兄ちゃんの事、だ~いすき!!」

 

「お、あざといな。そういうのも出来るんだ」

 

「………………兄さん、照れてます?」

 

「いや、別に?」

 

「なんでですか!?」

 

 恥すらかなぐり捨てて、可愛いに全ぶりしたというのに、スズランの反応は相変わらず素っ気ない。心做しかさっきよりも淡白な気すらする。

 まるで大昔の少女漫画みたく、白目を見開いて驚愕を顕にするヒマリだった。

 

「エイミ、ジャッジ」

 

「副部長、照れ無し。部長ノーポイント」

 

 ヒマリの甘々な媚ボイスに、部長キツいなぁと思いながらエイミは無慈悲にジャッジを下す。

 

「あ、ありえない……世界一可愛い妹の全力の甘え声に……あんな、あざといだなんて……」

 

「事実でしょ? そもそもヒマリさ、出会ってから一度も僕の事お兄ちゃんとか言ったことないじゃん。違和感パなかった」

 

「……くっ! ギャップ萌を狙ったのが、裏目に出ましたか」

 

 絶対にそういう事じゃ無いと思う。初戦で大きく空振りした結果完全に迷走していた。キャラ崩壊がえげつなかった。

 

 なにはともあれ次はスズランのターン、過ぎたことはこの際いいとヒマリは意識を切り替える。

 なに、次で仕留めれば良いのだ。その為にはここをしっかり耐えないといけない。

 

 さっきは不意打ちでしてやられましたが、ちゃんと覚悟して挑めば私が照れる訳無いんですよ。私はポーカーフェイスも完璧なのです、兄さんの告白なんかで照れるものですか。

 そんな事を、脳内でつらつらと語るヒマリ。

 

 人はコレを、フラグと呼ぶ。

 

「んじゃ、僕の番ね」

 

「えぇ、どうぞ?」

 

 ヒマリからそう言われて、ふぅと息を吐く。そして普段の穏和な表情と打って変わって真剣な表情を見せた。その珍しい真面目な表情にヒマリの心臓が跳ねる。

 

 「ヒマリ」

 

 と短く名を呼ばれれば、スズランから目が離せなくなる。

 スズランに釘付けなヒマリの頬には、気がつけばスズランの手が添えられていた。

 

「嫌なら、避けな」

 

 そう小さく呟いて、スズランの顔が近づいてくる。この状況はまさか、そう気がついたヒマリの脳内はもうパニックだった。

 

 ちょ! 待ってください兄さん!? まさか今ここでするんですか? いや、もうちょっとその心の準備と言うかムードというか? いや、嫌ではないんですよ? むしろその……いやこれは流石に駄目……あ、顔近い、カッコいい……え? 待ってください、避けなければ、けど……うぅう……

 

 こんな状況でポーカーフェイスなんてできる訳もなく、しかし逃げることもせず、ただ真っ赤な顔でギュッと目を瞑るヒマリ。

 唇への温もりに備えていると、やって来たのは額へのペシンと言う衝撃。

 

「あいたっ」

 

 衝撃で目を見開けば、楽しそうに笑う兄の姿。その姿が何故かとても色っぽくて、揶揄われた事を自覚して、ヒマリの頬は更に熱っぽくなる。

 

「ヒマリのえっち、期待したんだ」

 

「ち、ちがっ!」

 

「そんなに欲しいならいいよ? してあげる。だって僕も……」

 

 そこで言葉を切ったスズラン、ぐいっと腕を引かれ、ヒマリはソファに押し倒された。

 高鳴る鼓動が五月蝿い、恥ずかしくて逃げたくても、こうもしっかり押し倒されては逃げ場がない。

 いや、そもそも端からヒマリは逃げる気なんて無かった、ただスズランにされるがまま、全てを受け入れていた。

 

「……兄さん?」

 

 少しの不安の期待を込めて、スズランを呼ぶ。熱に侵された身体が熱い。スズランと触れている場所からとけてしまいそうだ。

 

 ヒマリを拘束したまま、スズランは蠱惑的に告げる。

  

「好きだよヒマリ……改めて、キス……していい?」

 

「ふぁ、ふぁい……」

 

 トドメだった。

 

「…………エイミ、ジャッジ」

 

「誰がどう見ても照れてるでしょ。副部長、えぐいね」

 

「はい! 僕の勝ちぃ! どうだヒマリ、ギャップ萌えってのはこうやるんだよ?」

 

「……………………はっ!」

 

 ぱっとヒマリから離れてガッツポーズをするスズラン、少し遅れてぽーっと惚けていたヒマリもなんとか再起動。

 

「ズルい! ズルいですよ兄さん! ズルすぎます!」

 

「ルールは違反してないよ?」

 

「あんなの駄目に決まってるでしょう!? 馬鹿なんですか!? これも無効です!」

 

 ガバっと身を起こして、ヒマリはこれもノーカンだと訴える。

 ヒマリからすれば、槍や剣で戦っていた所に急に核弾頭を落とされたに等しい、キスはレギュレーション違反過ぎると主張した。

 

「もう一度です! もう一度やりましょう! キス無しで!!」

 

 ごねるヒマリ。しかしそうは問屋が卸さない、今回はしっかり審判がいるからだ。

 

「と、申しておりますが。審判、どうですか?」

 

「副部長はキスしてません。なので部長の主張は認められません。勝者、副部長」

 

「VAR! VARを要求します!!」

 

「そんな制度ないだろ」

 

「そもそもVARしたところで、部長のメス顔が丁寧にリプレイされるだけだよ。諦めようよ」

 

「誰がメス顔ですか!?」

 

 うがぁ! と頭を抱えて叫ぶヒマリ。これが『全知』(以下略)

 

 なにはともあれコレで勝敗は決した。

 

「また僕の勝ちだね、ヒマリ」

 

「うぅ、絶対に次は私が勝つんですからね!」

 

 分かりやすいスズランの煽りに、ヒマリは涙目になりながらそう負け惜しみを叫ぶ。

 しかし、誰が見てもスズランの完全勝利。後日、勝者の命令で際どいバニー姿で愛でられるヒマリの姿がミレミアムで目撃されたらしい。

 

 

      ◇

 

 

「本気で最後まで何を見せられたんだろうね。家でやれよ」

 

 なお、一番の被害者がエイミなのは、言うまでもなかった。





ここまで読んでくださりありがとうございます。
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