あなたのデッキからカードを1枚選ぶ。それ以外をすべて墓地に置く 作:北間 ユウリ
人生の中で一度だけ、ひとは必ず「運命のカード」と出会う。
例えば、買ったパックから引き当てたり。
あるいは、道端で偶然落ちているものを拾ったり。
もしくは、誰かから譲り受けたり。
シチュエーションも、方法も、その時期も様々――けれど、絶対に。
この世に生まれ落ちたその瞬間に、その者のデッキが現れるのと同様に、この世界の絶対のルール。
ひとは、自身の運命と出会う。
出会ってしまうのだ。
死ぬまでに、必ず。
「アタシのターン! ドロー! 宝石箱からジュエルをコレクト!」
対戦相手の舞台に、ジュエルが追加される。真紅色に輝くルビー。これでルビーが6つ。
相手の手の動きを見る。たった今、デッキから引いたカードをそのまま手札の右端に加えた。これで手札は5枚。
「アタシは、あっ! メインフェイズに入ってもいいですか!?」
デッキのように、まっすぐで素直な子だ、と思う。
初期ターン、私がフェイズ進行を止めてカードの使用を宣言してから、思い出した時にはこちらにフェイズ進行の可否を訊ねてくれる。
私のデッキを相手にして、そんな対応をしてくれるひとは、そう多くはない。
だから、ポーカーフェイスを崩して、微笑みと共に返答する。
「うん、いいよ」
「ありがとうございます! それじゃあ、ルビー1つから赤色を抽出! 〈火の粉〉をお姉さんに! 2点ダメージです!」
「考えます」
7枚の手札で口元を隠し、考える。
この〈火の粉〉は、
この子は、手札の順番を一切入れ替えていなかった。だから、見たカードの位置は覚えている。それに、右端から使ったものではないから、今引いたものでもない。
初手と今までのプレイから、デッキのタイプはおそらくルビーバーン。パッと見の性格から最短で使ってくると思ったけれど、予想に反して今まで温存していたカード。
自分のライフは13点。〈火の粉〉と、残り4枚の手札、相手の舞台のユニットは〈マッチ振りの少女〉と〈ロウソク灯し〉――十分に、
相手は私のデッキに打ち消し呪文が入っていることを知っている。相手が私なら、止めたいと考えるはず。
――思考は纏まった。
「通します、どうぞ」
「えっ!? あっ、なら2点ダメージ! そして〈ロウソク灯し〉の効果が発動! お姉さんに1点ダメージです!」
「ライフは残り10点です」
「そして、〈マッチ振りの少女〉の効果も発動! アタックが1点上昇します!」
〈マッチ振りの少女〉のアタックが4になる。これで〈ロウソク灯し〉のアタックと合わせて5点。手札は残り4枚、その中に3点火力呪文が1枚でもあれば、私のライフは0になる。
「バトルに入ります! アタシは〈マッチ振りの少女〉と〈ロウソク灯し〉でお姉さんに攻撃!」
「攻撃ユニット指定後、カードを使用します。サファイア1個から青色を1点、オニキス2個で黒色を2点抽出。3コスト、〈押し流し〉を使用」
「えっ!? こ、効果は!?」
「攻撃に参加しているユニットをすべて手札に戻します」
「そ、それなら! アタシは〈炎の投げ矢〉をお姉さんに! ルビー3個から色を抽出!」
「対応します、サファイア1個から青色を1点抽出。1コストで〈不可〉を使用。〈炎の投げ矢〉の使用を打ち消します」
それ以上、対戦相手からの対応はなく、使われたカードの処理が始まる。
打ち消されたことで、〈炎の投げ矢〉は不発になり、私はダメージを受けない。ダメージが発生しなかったので、〈ロウソク灯し〉と〈マッチ振りの少女〉の効果も誘発せず。
そして、〈押し流し〉によって、相手の盤面にいた2体のユニットが手札に戻っていく。
私の残りライフは10点のまま。残りはオニキスの黒色が1点。対して相手のライフは20点、残りはルビーの赤色が2点。
「そ、そんな~! あと少しだったのに~!」
「攻撃可能ユニットがいなくなったため、バトルは終了します。ごめんね、このターンで仕掛けてくるだろうと思ってたから、対策はずっと持ってたの」
「て、てごわい……! あ、アタシは……ルビー2個から赤色を抽出して、〈マッチ振りの少女〉を出します! これでターン終了です!」
残ったルビーで、〈マッチ振りの少女〉を出し直した。次のターンのための立て直し。
20点のライフがあれば負けない、と考えてるんだろう。10点のライフも、きっと削り切れる算段がある。
実際、私のデッキでは、20点のライフを削り切ることはできない。今の状況からは勝ち切ることも難しい。
けれど、負けないようにすることはできる。
「ターン終了時、オニキス1個から黒色を1点抽出。1コスト、〈記憶の添削〉を使用します」
「きおくの、てんさく?」
「効果を説明します。デッキの上から3枚を見て、その内の1枚を相手に公開してから手札に加え、残りを墓地に置きます」
「
「対応なければ、効果を処理します」
デッキの上から3枚をめくる――来てくれた。
「私は〈侵蝕の令嬢アナンナ〉を手札に加え、残りの2枚を墓地に置きます」
相手の反応を見る、ジュエルは使い切っているから対応はないはずだが、
だが、相手はこちらの様子を伺うように見ているだけで、手札に手が伸びることもない。
「では、何もなければ私のターンに入ります」
「……あの、大丈夫ですか?」
ゲームの流れとはあまり関係のない質問。手を止める。
一つ、呼吸。
「大丈夫だよ」
「でも」
「これは、テーブルゲーム。キミの〈火の粉〉で実際に火が出てないように、カードの影響は反映されない。だから、大丈夫」
まっすぐで素直なうえに、優しい子だ。
正気を疑うのではなく、純粋な心配を、私に向けている。
だから私も、あまり不快感はない。
でも、これはゲームだ。
年下の、好感の持てる少女相手でも、手を抜かない。
それが礼儀だ。
「それでは、私のターン。リファインフェイズ、すべてのジュエルを使用可能に。ドローフェイズ、カードを引きます」
ジュエルをすべて起こし、使用可能に。デッキから引いたカードを手札に加え、軽く順番を入れ替える。
6枚の手札を見て、プランを再確認する――問題ない。
「宝石箱からジュエルをコレクト、パール。基本ジュエルなので、使用可能状態のままセット」
「えっ、パール? 白色……?」
「サファイア2個から青色を2点、オニキス2個から黒色を2点。4コスト」
手札に加えたカードを見る、――目が合った。
「〈侵蝕の令嬢アナンナ〉を舞台へ」
テーブルゲームでは、カードの影響は反映されない。だから、ユニットも実際に現れることはない。
けれど、そのカードを舞台に置いた、その瞬間から。
確かな”重み”が、私の両肩に、背中に感じられた。
彼女は、ずっとそうしていたのだろう。私の背から手を回して、その骨のように固い人形の腕で、ずっと、ずっと私を抱擁していた。
今まで、デッキの中に依り代があったから、気付かなかっただけで。
カードが舞台に出たから、現実と少しだけ近くなって、感じ取れるようになった。
けれど、それだけ。
私と深く通じ合っている
ましてや、対戦相手である少女には、存在を感じ取ることも「ひっ」?
「どうしたの?」
「い、いえ……なんか、寒気が」
「……大丈夫? 冷房が強くなったのかな。席、移る?」
「だ、大丈夫です、たぶん気のせいですから」
そういう割には、顔色は少し悪いけれど。
いざとなったらジャッジを呼べるよう、意識の片隅に置いて。
効果の処理に入る。
「では、〈侵蝕の令嬢アナンナ〉が舞台に出た時の能力が誘発します。相手の手札を見て、その中から1枚を相手の墓地に置きます。その後、そのカードが呪文だった場合、そのカードをコストを支払わずに使用してもよい」
「え、……はっ!? えっ!?」
「対応なければ、手札を見せてください」
「うぅ……どうぞ……」
広げられた手札を見る。〈ロウソク灯し〉〈火の粉〉〈火吹き〉〈闘志〉――ユニットが1体、火力呪文が2枚、アタック増強呪文が1枚。
前のターンで〈火の粉〉〈火吹き〉と火力呪文を散らされていたらちょっと面倒だったな、と考えながら、カードを指定する。
「〈火の粉〉を対象にします。そのカードを墓地に置いてください。そして〈火の粉〉は呪文のため、コストを支払わずに使用」
「ま、まだアタシのライフは20点あります! 2点のダメージなら全然――」
「対象は〈マッチ振りの少女〉。ディフェンスは2点ですので、ちょうど倒せます」
「あ、わ、わぁ……」
育っていない〈マッチ振りの少女〉が舞台から退場し、墓地へ置かれる。
カードを悲し気な鳴き声を出しながら墓地に置いた対戦相手。申し訳ない気持ちがほんの少し湧きながら、次の呪文に手を伸ばす。
――クスクス、と耳元で笑い声が聞こえた。
「次に、オニキス1個から黒色を1点抽出。1コスト、〈蝕み〉を使用。相手の手札を見て、その中から1枚を相手の墓地に置きます」
「またぁ!?」
「手札の公開は省略して構いません。〈ロウソク灯し〉を墓地に置いてください」
「あ、アタシのユニットがぁ……」
〈火吹き〉は全体2点火力、〈闘志〉はユニットが居なければ意味がない。
残したパール――白色1点と、手札の1枚の呪文を見る。
相手の引き次第だが、負けはない。
「バトルフェイズは行わず、そのままエンドフェイズ。ターンを終了します」
「うぐぐ……ここで、逆転のカードを引けば!」
ぺしょぺしょになっていた少女の瞳に光が戻る。
デッキの上に指を置く――、一瞬、炎が見えた。
「アタシの、ターン! ドロー! ……っ、やった、これなら!」
「ふむ……」
カードを勢いよく引いた少女が、そのカードを見た途端に笑顔になる。
アナンナを超えて、私のライフを詰めることができるカード。3点や4点の火力呪文以外であれば、高いアタックと瞬速を持つユニットか、もしくは――
「宝石箱からジェムをコレクト! そして、ルビー7個から赤色を抽出!」
7コスト……ではなく、1点と、6点の追加コストか。
「アタシは〈成長する火花〉を6点の追加コストで使う! これは、追加コストの2倍のダメージを与える呪文だよ! これで12点をお姉さんに!」
「対応します。パール1個から白色を1点抽出」
「ダメージ軽減効果だとしても、2点くらいなら――」
「1コストに、追加コストでライフ半分――5点支払います。〈吸収のヴェール〉を、対象を私で使用」
「はえ?」
少女の目が丸くなった。
「効果を説明します。次に対象が受けるダメージ分だけ、その対象のライフを回復し、ダメージを無効化します」
「……えっと、つまり?」
「私はライフを12点回復します」
コストを支払った後の、5点まで減ったライフが17点まで回復する。
小さな火力呪文に対してはあまり効果的ではないが、それこそ追加コストを注ぎ込んだ〈成長する火花〉のような、高火力呪文に対しては絶大な効果を発揮する、火力対策の呪文。
私のデッキに搭載されている、延命手段の一つ。
「が、頑張って減らしたのにぃ……」
「私のデッキは、ロングゲームになりがちだから。それこそキミのデッキみたいな、瞬間火力で戦うデッキとはあまり相性が良くなくてね。だから、こういうカードも入れてるの」
「そうなんだ……」
「さて、私のターンかな?」
「あ、はい。これ以上は何もないので、ターンエンドです」
「ありがとう。それじゃ、私のターン」
ジュエルを起こして、デッキからカードを引いて。
手札から、カードを使用する。
「オニキス2個で黒色を2点、サファイア1個から青色を1点抽出。3コスト〈侵蝕の囁き〉を使用」
「その色、なんか嫌な予感がするんですけど」
「その直感は正しいよ。相手は手札を2枚選んで墓地に置いてください。私はカードを1枚、デッキから引きます」
「アタシの手札2枚しかないんですけど!?」
「呪文が2枚墓地に置かれたので、〈侵蝕の令嬢アナンナ〉の効果が2回誘発します。〈火吹き〉は使用しません。〈闘志〉を使用、対象はアナンナ」
「ほかのカードで墓地に置かれても使えるんですか!?」
「うん」
このゲームは、ジュエルバトルは、ドロー効果を使わなければ、1ターンに1枚しか手札が増えない。
そして、その手札を墓地に置かせたり、打ち消したりしていれば、あとはアタックが低いユニットでも攻撃し続けるだけで相手のライフは0になるので。
「それでは、〈侵蝕の令嬢アナンナ〉で攻撃。対戦相手へ」
「うぎゃーーー!!」
そういうわけで、私が勝つのだ。
――クスクスと、嬉しそうな笑い声が聞こえた。
〈侵蝕の令嬢アナンナ〉
青/黒/2
ATK:2 DEF:4
《防衛》《道連》
■このユニットが舞台に登場した時に発動する。対戦相手1人の手札を見る。その中からカードを1枚選び、オーナーの墓地に置く。
■呪文が対戦相手の墓地に置かれた時に発動できる。その呪文をコストを支払わずに使用する。
■このユニットが墓地にある状態で、対戦相手のカードが墓地に置かれた場合に発動する。このユニットを舞台に戻す。その後、自分はライフを4点失う。
いつまでも一緒にいるわ。だから、いつまでも一緒にいてね?
――〈侵蝕の令嬢アナンナ〉