あなたのデッキからカードを1枚選ぶ。それ以外をすべて墓地に置く 作:北間 ユウリ
ジュエルバトルの形式は、三つに分類できる。
一つは、テーブルゲーム。テーブル上で行える、ただカードを並べて戦うだけのスタンダードな形式。この世界でも最も行われているもので、そして、最も安全な「遊び方」。
何しろ、カードの影響が
故に、最もカジュアルに遊ばれ、最も遊びやすい形式。
二つ目は、ボードゲーム。専用のボードを用いて行う、いわばフォーマルな形式のバトル。
この形式の特徴は、カードがファイターに対して微小な影響を及ぼすということ。ユニットは半現実化し、呪文は幻想を見せる。
だから、ショーとしての需要もあり、スポーツ同様にジュエルバトルの大会はテレビで放映されることが多い。プロツアーともなれば、世界を挙げて注目される興行になる。
そして、このバトルの結果は、正式なものとして
故に、この形式は重要な物事の決定の際に用いられる。大会の決勝トーナメントはもちろん、カード専門の学校であれば、その入学試験や昇級試験。そして、場合によっては、契約にまで。
その儀式性、そしてユニットと共に戦うというビジュアル性から、最も人気の高い形式。
そして、最後の一つ。
ほとんどのひとは、知らずに終えるもの。
ディストーション・ゲーム。
「運命のカード」によって導かれる、互いの「運命」を賭けたバトル。
一切の制限が排された、現実を歪め合う殺し合いだ。
「テーブルゲーム……じゃ、ないよね」
「ええ、もちろんディストーション――殺し合いですよぉ!」
暗緑色の少女が掲げたカードから、暗い光が放たれる。
とっさに袖で目を庇い――光が収まると、そこは人通りのない路地裏ではなくなっていた。
薄暗いのは同じ、けれど人工物は一切なく。日の光が届かないのは、ビルではなく、背の高い幾重にも絡み合った大樹が空を覆っているから。
足元にはコンクリートではなく、緑が広がっている。パッと見たところ、苔や菌糸類などが多い。
私が相手を視界から外さないまま軽く観察していると、横からふぅんと声が聞こえた。
『へぇ、ドラクスクの樹林……それも、かなりの深部ね』
「樹林? なら――」
「さぁ、デッキを構えてくださいねぇ? 不戦敗にはなりたくないでしょう?」
私たちの会話を遮るように、少女が横に手を振る――半透明のテーブルがお互いの前に現れる。
そして、少女はそこにデッキを置いた。
「アナ」
『ええ、――また後で、ね?』
すぐ傍にあったアナの気配が薄くなる――カードの中へと戻っていく。
鞄に入れたデッキケースから〈侵蝕の令嬢アナンナ〉のカードを取り出し、脚に付けていた別のデッキケースから取り出したデッキに混ぜ、シャッフルする。
宝石箱のカードもシャッフルし、現れたテーブルへとセット。
目を閉じて、一つ深呼吸――意識を切り替える。
「いつでもいいよ」
「んふふ、それではぁ……」
「「コレクト」ぉ!」
重なる宣言の声。
宝石箱からカードを引き、場にコレクトする――相手はエメラルド、基本の緑色。
対して、私のジュエルはオニキス、黒色。
――キン、と高い音がして、私の頭上に光が灯る。
「先行は私――初期手札をドロー」
「運がいいですねぇ。あたしも、ドローぉ」
デッキからカードを6枚引き、内容を確認する――なるほど。
「1枚をデッキの下へ」
「そうですねぇ……2枚をデッキの下へ、1枚ドローぉ」
初手が良くなかったのか、或いはデッキに送りたかったのか。緑色のデッキならば、後者の可能性もある。
そして、お互いの手札が5枚になり。
「私のターン」
――ジュエルバトルが開始される。
「リファインフェイズ、ジュエルを使用可能に。先行1ターン目はドローはない。コレクトもなし。何もなければメインに移ります」
「丁寧にどうもぉ? あたしのこと、初心者だと思ってますぅ?」
「まさか。そう侮っているって勘違いしてくれたらやりやすいけどね――メイン」
手札を見る。相手の見えた色、6枚の内から選んだ5枚。
順番を入れ替えて、そして。
「何もしない。ターンエンド」
「あらぁ? 手札事故ですかぁ?」
「好きに考えればいいよ。何もなければそっちのターン」
「それではありがたくいただきますねぇ? あたしのターン、ドローぉ!」
相手がカードを引く。手札に加え、軽く順番を入れ替えた。
「あたしはエメラルドから緑色を抽出、そしてこの子を出しますよぉ。来なさい、〈魂結の胞子纏い〉!」
テーブルにカードが置かれ、ユニットが舞台に出る。
その瞬間、現実に存在が一つ増える。
背丈はひとの半分ほど。小さな体躯の、ローブを纏った人型の茸。
1コストの、行動済状態にすることで緑色を抽出できる軽量ユニット。
「これであたしはターンエン――」
「――エンドフェイズに入る前、オニキス1個から黒色を1点抽出。1コスト、〈蝕み〉を使用」
ターン終了宣言に割り込み、カードの使用を宣言する。タイミングは適正だからルールが止めてくれるけれど、それでも相手の流れを崩す意味も込めて。
「――っ、覗き見ですかぁ?」
「そりゃ勿論、相手の手の内を知れば勝利に近付けるからね。嫌なら
そう言うが、私の知る限り、呪文を打ち消す効果を緑色は持たない。知らないカードでも、存在はしないはずだ。
だから当然、効果はそのまま処理され、相手の手札が公開される。
「――なるほど」
そういうデッキか、と心の中で呟く。
相手の手札を見て、5枚のうち、その4枚に共通する名称を見つけ、緑らしいデッキだ、と思った。
ほかの色は混じらない、純正の。
であれば、プランは一つだ。
「〈
「仕方ありませんねぇ……」
相手の墓地にユニットが落ちる。
〈
だから、これで相手のテンポは乱れた、はずだ。デッキのトップから引かれない限り。
「これで処理は終了。何もなければターンエンド、どうぞ?」
「手札見たから動けないの知ってるでしょう? ターンエンドです、ターンエンド」
「それじゃ、私のターン。リファインフェイズ、すべてのジュエルを使用可能に。ドローフェイズ、カードをドロー」
デッキからカードを引き、手札に加え、軽く順番を入れ替える。
「宝石箱からジュエルをコレクト、――」
引いたカードを見て、手を止め。
そして、場に揃えて置く。
「オニキス。使用可能状態のままセット」
「また黒色ですか、もしかして黒色しか入ってないんですかぁ?」
「さぁ、どうだろうね。メインフェイズ――」
手札のカードの1枚に手をかけ、一度呼吸。
「オニキス1個から黒色1点を抽出。1コスト」
そのカードを、使用する。
「〈記憶剥離〉――デッキからカードを1枚選び、墓地に置く」
デッキを見て、カードを選ぶ。墓地に置くカードは、決めている。
「私は、〈侵蝕の令嬢アナンナ〉を墓地に置く――、っ」
――クスクス、と耳元で笑い声が聞こえる。
後頭部、その内側を削られるような痛みが走り、――そして、消える。
今は、1枚。だから、影響も最小限。
「――、これで、私はターンエンド」
影響を悟られないよう、ポーカーフェイスに努めながら、ターン終了の宣言をして。
それと並行して、探る。
どれほど、消えたのか。
分からない。分かるはずがない。
失ったのだから、自覚できては意味がない。
ただ、アナのことは覚えている。
それなら、良い。
「それだけですかぁ? なら、あたしのターン、ドローぉ!」
相手のターンが始まる。意識を切り替えて、相手の一挙手一投足の観察に注力する。
「宝石箱からジュエルをコレクト。んふふ、出鼻は挫かれましたがぁ、たかが手札1枚奪われたくらいで止まる――なんて、甘いはずもないですよねぇ? 〈魂結の胞子纏い〉を行動済状態にして、緑色を抽出」
動いてくるか、と警戒する。さっき見た手札の中に、4コスト以下で動けるカードは無かった。だからこれは、今引いたカード。
おそらくは、ユニット。
「追加でぇ、エメラルド2個から緑色を抽出! そして、〈魂結の胞子纏い〉を《捕食》! 4コストで〈
〈魂結の胞子纏い〉が、突如現れたソレの口の中へと消えていく。ひとの背よりも高い、四足歩行の異形の獣。
その巨体を、菌糸に覆われ、その中枢はすでに肉体ではなく――その身に寄生した「獣」が奪っている。
より強い身体を求め、寄生を続ける菌糸の獣――それが、
「カルノはアタックが5、ディフェンスは4! そしてぇ、呪文の効果の対象にならない効果を持ちます! 黒の除去は呪文頼りですよねぇ? あなたに超えられますかぁ!?」
「さぁ、どうだろうね。――墓地のユニットの効果を発動」
「――は?」
「このユニットが墓地にある時、相手のカードが墓地に置かれたら、このユニットは舞台に戻る――さぁ、あなたの舞台を始めましょう、アナ」
『――ええ、ええ! 私の運命!』
墓地から、そのカードを舞台へ戻す。
湿った樹林に、彼女は降り立った。
ふわりと広がるレースのスカート。その裾が泥で汚れぬよう、カーテシーのように摘まむその手は、腕は、指先まで、人形のそれ。
陶磁器のように、白い肌。細い腕、――黒のレースを幾重にも重ねた、オフショルダーのドレスに身を包んだ淑女。
優雅に、優美に、華麗に礼をした彼女が、その面を上げる――陶磁の白い肌に映える、白く透き通った長い髪が揺れて、薄青の、怜悧な印象を与える瞳が相手を見据える。
――そして、頬に、露出した肩に、裸足の脚に。僅かに広がる罅割れ。その奥に広がるのは、空洞ですらない、覗き込めぬ闇。
その身の内側から闇に侵蝕されながら、なおも美しく在る、私の運命。
「――〈侵蝕の令嬢アナンナ〉を、舞台へ」
『さぁ、あなたが果てるまで、踊りましょう?』
そう言い放ち、アナは、アナンナは、美しく、勇ましく。傍らにある漆黒の槍、その切っ先を敵へと向ける。
――私は痛む胸の内を抑え、耐えながら。薄暗闇の中で輝く彼女を、見つめた。
〈記憶剥離〉
黒
【呪文】
《即応》
■あなたのデッキからカードを一枚選ぶ。そのカードを、あなたの墓地に置く。
その理由すら、もはやわからない。