あなたのデッキからカードを1枚選ぶ。それ以外をすべて墓地に置く   作:北間 ユウリ

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第三話 ユニット1体を対象とする。そのユニットに-1/-1修正を加える

 ジュエルバトルの形式は、三つに分類できる。

 

 一つは、テーブルゲーム。テーブル上で行える、ただカードを並べて戦うだけのスタンダードな形式。この世界でも最も行われているもので、そして、最も安全な「遊び方」。

 何しろ、カードの影響がほとんどない(・・・・・・)。ユニットは実体化せず、呪文によって現実は歪まず、――そして、ライフが0になることは、単なるゲームの敗北しか意味しない。

 故に、最もカジュアルに遊ばれ、最も遊びやすい形式。

 

 二つ目は、ボードゲーム。専用のボードを用いて行う、いわばフォーマルな形式のバトル。

 この形式の特徴は、カードがファイターに対して微小な影響を及ぼすということ。ユニットは半現実化し、呪文は幻想を見せる。

 だから、ショーとしての需要もあり、スポーツ同様にジュエルバトルの大会はテレビで放映されることが多い。プロツアーともなれば、世界を挙げて注目される興行になる。

 そして、このバトルの結果は、正式なものとして現実に刻まれる(・・・・・・・)

 故に、この形式は重要な物事の決定の際に用いられる。大会の決勝トーナメントはもちろん、カード専門の学校であれば、その入学試験や昇級試験。そして、場合によっては、契約にまで。

 その儀式性、そしてユニットと共に戦うというビジュアル性から、最も人気の高い形式。

 

 そして、最後の一つ。

 ほとんどのひとは、知らずに終えるもの。

 

 ディストーション・ゲーム。

「運命のカード」によって導かれる、互いの「運命」を賭けたバトル。

 

 一切の制限が排された、現実を歪め合う殺し合いだ。

 

 

◇ ◆ ◇

 

 

「テーブルゲーム……じゃ、ないよね」

「ええ、もちろんディストーション――殺し合いですよぉ!」

 

 暗緑色の少女が掲げたカードから、暗い光が放たれる。

 とっさに袖で目を庇い――光が収まると、そこは人通りのない路地裏ではなくなっていた。

 薄暗いのは同じ、けれど人工物は一切なく。日の光が届かないのは、ビルではなく、背の高い幾重にも絡み合った大樹が空を覆っているから。

 足元にはコンクリートではなく、緑が広がっている。パッと見たところ、苔や菌糸類などが多い。

 私が相手を視界から外さないまま軽く観察していると、横からふぅんと声が聞こえた。

 

『へぇ、ドラクスクの樹林……それも、かなりの深部ね』

「樹林? なら――」

「さぁ、デッキを構えてくださいねぇ? 不戦敗にはなりたくないでしょう?」

 

 私たちの会話を遮るように、少女が横に手を振る――半透明のテーブルがお互いの前に現れる。

 そして、少女はそこにデッキを置いた。

 

「アナ」

『ええ、――また後で、ね?』

 

 すぐ傍にあったアナの気配が薄くなる――カードの中へと戻っていく。

 鞄に入れたデッキケースから〈侵蝕の令嬢アナンナ〉のカードを取り出し、脚に付けていた別のデッキケースから取り出したデッキに混ぜ、シャッフルする。

 宝石箱のカードもシャッフルし、現れたテーブルへとセット。

 目を閉じて、一つ深呼吸――意識を切り替える。

 

「いつでもいいよ」

「んふふ、それではぁ……」

 

「「コレクト」ぉ!」

 

 重なる宣言の声。

 宝石箱からカードを引き、場にコレクトする――相手はエメラルド、基本の緑色。

 対して、私のジュエルはオニキス、黒色。

 ――キン、と高い音がして、私の頭上に光が灯る。

 

「先行は私――初期手札をドロー」

「運がいいですねぇ。あたしも、ドローぉ」

 

 デッキからカードを6枚引き、内容を確認する――なるほど。

 

「1枚をデッキの下へ」

「そうですねぇ……2枚をデッキの下へ、1枚ドローぉ」

 

 初手が良くなかったのか、或いはデッキに送りたかったのか。緑色のデッキならば、後者の可能性もある。

 そして、お互いの手札が5枚になり。

 

「私のターン」

 

 ――ジュエルバトルが開始される。

 

「リファインフェイズ、ジュエルを使用可能に。先行1ターン目はドローはない。コレクトもなし。何もなければメインに移ります」

「丁寧にどうもぉ? あたしのこと、初心者だと思ってますぅ?」

「まさか。そう侮っているって勘違いしてくれたらやりやすいけどね――メイン」

 

 手札を見る。相手の見えた色、6枚の内から選んだ5枚。

 順番を入れ替えて、そして。

 

「何もしない。ターンエンド」

「あらぁ? 手札事故ですかぁ?」

「好きに考えればいいよ。何もなければそっちのターン」

「それではありがたくいただきますねぇ? あたしのターン、ドローぉ!」

 

 相手がカードを引く。手札に加え、軽く順番を入れ替えた。

 

「あたしはエメラルドから緑色を抽出、そしてこの子を出しますよぉ。来なさい、〈魂結の胞子纏い〉!」

 

 テーブルにカードが置かれ、ユニットが舞台に出る。

 その瞬間、現実に存在が一つ増える。

 背丈はひとの半分ほど。小さな体躯の、ローブを纏った人型の茸。

 1コストの、行動済状態にすることで緑色を抽出できる軽量ユニット。

 

「これであたしはターンエン――」

「――エンドフェイズに入る前、オニキス1個から黒色を1点抽出。1コスト、〈蝕み〉を使用」

 

 ターン終了宣言に割り込み、カードの使用を宣言する。タイミングは適正だからルールが止めてくれるけれど、それでも相手の流れを崩す意味も込めて。

 

「――っ、覗き見ですかぁ?」

「そりゃ勿論、相手の手の内を知れば勝利に近付けるからね。嫌なら拒否(打ち消し)すれば?」

 

 そう言うが、私の知る限り、呪文を打ち消す効果を緑色は持たない。知らないカードでも、存在はしないはずだ。

 緑色には、その役割はないから(・・・・・・・・・・・・・・)

 だから当然、効果はそのまま処理され、相手の手札が公開される。

 

「――なるほど」

 

 そういうデッキか、と心の中で呟く。

 相手の手札を見て、5枚のうち、その4枚に共通する名称を見つけ、緑らしいデッキだ、と思った。

 ほかの色は混じらない、純正の。

 であれば、プランは一つだ。

 

「〈菌糸獣(ファンガロス)デイノ〉を墓地へ置いてください」

「仕方ありませんねぇ……」

 

 相手の墓地にユニットが落ちる。

 菌糸獣(ファンガロス)は1体の最下級ユニットを除き、共通してすでに場にいるユニットを墓地に置く――捕食することで、舞台に出す際のコストをそのコスト分軽減できる効果を持つ。

菌糸獣(ファンガロス)デイノ〉はその中でも中継――より大きなユニットへと繋ぐための役割を持っている。今の盤面であれば、次のターンには出てきただろう。

 だから、これで相手のテンポは乱れた、はずだ。デッキのトップから引かれない限り。

 

「これで処理は終了。何もなければターンエンド、どうぞ?」

「手札見たから動けないの知ってるでしょう? ターンエンドです、ターンエンド」

「それじゃ、私のターン。リファインフェイズ、すべてのジュエルを使用可能に。ドローフェイズ、カードをドロー」

 

 デッキからカードを引き、手札に加え、軽く順番を入れ替える。

 

「宝石箱からジュエルをコレクト、――」

 

 引いたカードを見て、手を止め。

 そして、場に揃えて置く。

 

「オニキス。使用可能状態のままセット」

「また黒色ですか、もしかして黒色しか入ってないんですかぁ?」

「さぁ、どうだろうね。メインフェイズ――」

 

 手札のカードの1枚に手をかけ、一度呼吸。

 

「オニキス1個から黒色1点を抽出。1コスト」

 

 そのカードを、使用する。

 

「〈記憶剥離〉――デッキからカードを1枚選び、墓地に置く」

 

 デッキを見て、カードを選ぶ。墓地に置くカードは、決めている。

 

「私は、〈侵蝕の令嬢アナンナ〉を墓地に置く――、っ」

 

 ――クスクス、と耳元で笑い声が聞こえる。

 後頭部、その内側を削られるような痛みが走り、――そして、消える。

 今は、1枚。だから、影響も最小限。

 

「――、これで、私はターンエンド」

 

 影響を悟られないよう、ポーカーフェイスに努めながら、ターン終了の宣言をして。

 それと並行して、探る。

 どれほど、消えたのか。

 分からない。分かるはずがない。

 失ったのだから、自覚できては意味がない。

 

 ただ、アナのことは覚えている。

 それなら、良い。

 

「それだけですかぁ? なら、あたしのターン、ドローぉ!」

 

 相手のターンが始まる。意識を切り替えて、相手の一挙手一投足の観察に注力する。

 

「宝石箱からジュエルをコレクト。んふふ、出鼻は挫かれましたがぁ、たかが手札1枚奪われたくらいで止まる――なんて、甘いはずもないですよねぇ? 〈魂結の胞子纏い〉を行動済状態にして、緑色を抽出」

 

 動いてくるか、と警戒する。さっき見た手札の中に、4コスト以下で動けるカードは無かった。だからこれは、今引いたカード。

 おそらくは、ユニット。

 

「追加でぇ、エメラルド2個から緑色を抽出! そして、〈魂結の胞子纏い〉を《捕食》! 4コストで〈菌糸獣(ファンガロス)カルノ〉を場に!」

 

〈魂結の胞子纏い〉が、突如現れたソレの口の中へと消えていく。ひとの背よりも高い、四足歩行の異形の獣。

 その巨体を、菌糸に覆われ、その中枢はすでに肉体ではなく――その身に寄生した「獣」が奪っている。

 より強い身体を求め、寄生を続ける菌糸の獣――それが、菌糸獣(ファンガロス)

 

「カルノはアタックが5、ディフェンスは4! そしてぇ、呪文の効果の対象にならない効果を持ちます! 黒の除去は呪文頼りですよねぇ? あなたに超えられますかぁ!?」

「さぁ、どうだろうね。――墓地のユニットの効果を発動」

「――は?」

「このユニットが墓地にある時、相手のカードが墓地に置かれたら、このユニットは舞台に戻る――さぁ、あなたの舞台を始めましょう、アナ」

『――ええ、ええ! 私の運命!』

 

 墓地から、そのカードを舞台へ戻す。

 

 湿った樹林に、彼女は降り立った。

 ふわりと広がるレースのスカート。その裾が泥で汚れぬよう、カーテシーのように摘まむその手は、腕は、指先まで、人形のそれ。

 陶磁器のように、白い肌。細い腕、――黒のレースを幾重にも重ねた、オフショルダーのドレスに身を包んだ淑女。

 優雅に、優美に、華麗に礼をした彼女が、その面を上げる――陶磁の白い肌に映える、白く透き通った長い髪が揺れて、薄青の、怜悧な印象を与える瞳が相手を見据える。

 ――そして、頬に、露出した肩に、裸足の脚に。僅かに広がる罅割れ。その奥に広がるのは、空洞ですらない、覗き込めぬ闇。

 その身の内側から闇に侵蝕されながら、なおも美しく在る、私の運命。

 

「――〈侵蝕の令嬢アナンナ〉を、舞台へ」

『さぁ、あなたが果てるまで、踊りましょう?』

 

 そう言い放ち、アナは、アナンナは、美しく、勇ましく。傍らにある漆黒の槍、その切っ先を敵へと向ける。

 

 ――私は痛む胸の内を抑え、耐えながら。薄暗闇の中で輝く彼女を、見つめた。




〈記憶剥離〉

【呪文】
《即応》
■あなたのデッキからカードを一枚選ぶ。そのカードを、あなたの墓地に置く。

その理由すら、もはやわからない。
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