あなたのデッキからカードを1枚選ぶ。それ以外をすべて墓地に置く 作:北間 ユウリ
「――ぁ、な、なんだぁ、たかがアタック2のユニットですかぁ?」
テーブルに出たユニットは、対戦相手もその効果や数値を確認することができる。
だから、実質0コストで出てきた〈侵蝕の令嬢アナンナ〉の数値を見た対戦相手は、僅かに声を震わせながら、そう言って。
「――この効果で〈侵蝕の令嬢アナンナ〉を出した時、私はライフを4点失う。――っ、……そして」
ライフが20点から16点へ。5分の1が失われる――それだけの激痛が、心臓に奔り。
その激痛が引くのを待たず、アナンナの効果の発動を、宣言する。
「……相手の手札を見て、その中から、1枚を相手の墓地に置く」
「っ、ほんっと、好きですねぇ、覗き見!」
「黒の専売特許だからね――〈
「――ちっ、分かりましたよぉ」
私が選んだカードが、墓地に落ちる。
〈
順調に進めば、次のターンに出ていたであろうユニット。
相手のテンポを崩すため――そして、もう一つの狙いがあって選んだカード。
「……それで? 私のカードの処理は終わり。あなたのターンだけど」
「いっちいち、癪に障りますねぇ? カルノに《瞬足》はありませんから、これでターンエンドです」
ターンエンドの宣言に合わせ、手札をに一瞬視線を向ける。
それを使えば、勝利に近付く。――けれどそれは、必殺ではない。
使う時は、確殺ラインの直前。それまでは、悟られてはいけない。
「それじゃ、私のターン。リファインフェイズ、ジュエルをすべて使用可能状態へ。ドローフェイズ、ドロー」
だから、ターンを回して。私はカードを引いて、手札に加え、順番を並び替える。
1コスト余らせたのは勿体なかったけれど、仕方ない。
「宝石箱からジュエルをコレクト――オニキス」
場に黒色の宝石が追加される。これで黒が3つ目。
――あと1つ。
息を吐く、思考を落ち着かせる。相手より先に冷静さを失わないよう、自分に言い聞かせる。
舞台にいるパートナーを、私の運命を見る――視線が合って、頷いた。
「メイン――何もせず、バトルへ。〈侵蝕の令嬢アナンナ〉でプレイヤーに攻撃」
「アハハ! たかがアタック2の攻撃なんて! 〈
黒槍を携え、颯爽と駆け出したアナンナに、菌糸の巨獣が立ち塞がり――その動きを止める。
「――ちっ、ライフで受けますよぉ」
『あら、残念』
ステップを踏むように、軽やかに駆け抜けて。
横に薙いだ槍が、対戦相手に振るわれ――その身を守るために展開された障壁を削る。
そして、障壁の破片が相手の肌を切り裂く――小さく、悲鳴が聞こえた。
――なるほど、慣れてないんだ。
『くすくす――痛そう、ね?』
「防御してもよかったのに」
「――っ! 馬鹿、言わないでくれますかぁ? 《道連》持ちでしょう、ソレ……カルノを失うくらいなら、2点くらい通したほうがマシです」
《道連》――戦闘によって破壊された場合、戦闘した相手ユニットを破壊する能力。
対象を取る効果ではないから、たとえ効果で選ばれない能力を持っていても貫通することができる。
カルノが持っているのは呪文に対する耐性だが、より上級の
そして。まだその判断ができる程度には、冷静なようだから。
「戦闘後、第二メイン。オニキス2個から黒色2点を抽出――」
手札のカードを、相手に提示する。
「2コスト、〈生命簒奪〉。対象1つを選び、その対象に2点のダメージを与える。その後、私は与えたダメージ分だけ、ライフを回復する。対象は対戦相手――つまり、キミ」
「ドレイン呪文……!」
ドレイン――ダメージを与え、同時にライフを回復する効果。コストに対するダメージ効率では、赤色の単なる火力呪文に劣ることが多い。そのように設計されている。
しかし、ライフを回復するという追加効果が、ライフレースの差を広げる点でドレイン呪文の立場を火力呪文にも劣らないものにしている。むしろ、ライフを0にすることが勝利条件の一つであるジュエルバトルにおいて、ライフを回復することは、敗北を遠ざけるという意味を持つ。
特に、相手がらライフを
――闇が相手を包み込み、その生命力を奪い去る。
痛みは無い、だが身体に気怠さを残す。〈生命簒奪〉は、その名の通り、相手の生命力を奪い去る。
アナンナの攻撃、そして〈生命簒奪〉によるダメージによって、相手のライフは16点まで減少し。
私のライフは、2点回復することで18点となる――心臓の痛みが、僅かに楽になる。
「これで、私はターンエンド」
「――は、ぁ……ほんっと、うにぃ、嫌らしい戦い方をしますねぇ? うざったいったらありゃしないですねぇ」
「お褒めにあずかりどうも。でも黒ってそういう色だから」
すべてがそうではないけれど。けれど、黒色の戦い方とはそういうものだ。時間を稼ぎ、細かなリソース差を積み上げ、自由を奪って勝利する。
「ほんっとうにぃ、鬱陶しぃ……だからぁ! 一気に蹴散らしてやりますよぉ!」
相手の気配が変わる――強くなる。
樹林がざわめく。風もなく、地面が揺れているわけでもなく、木々が自ら揺れている。
足のない彼らが、現れようとしているソレから逃げるかのように。
『用心しなさい、仕掛けてくるわ』
「……みたいだね」
「あたしのターン……ドローぉ!!」
――相手がカードを引く。加えたカードはそのまま手札に。順番を入れ替えていない。すぐに使用するつもりだろうか。
流れ、というものがある。勢い、波とも言い換えられるもの。
オカルトなようであって、けれど確かにあると思わされるような、それ。
こと、ディストーション・ゲームでは。「運命のカード」と深く繋がる「プレイヤー」であれば、強い意志が引き寄せ、それに運命が応えることなど珍しくもない。
「宝石箱からジュエルをコレクトぉ、――アハハ、エメラルド!」
相手の場にはエメラルドが3個。そして、舞台にはコスト4のカルノ。
《捕食》と合わせれば、コスト7まで出てくる。
今引いたのは、ギガノト同様の、上級の
「そしてぇ、バトルへ!」
「……何もない、どうぞ」
《捕食》には、墓地に送るユニットは行動済み状態でも問題がない――つまり、攻撃した後でもいい。
場に出てすぐに攻撃等の行動ができる《瞬足》持ちでもなければ、バトルを行った後に墓地に送るのが、効率がいい。
だから、疑わず、バトルへの移行を許して。
「あたしはぁ、カルノであなたへ攻撃――」
迫りくる巨体から受けるだろう衝撃に備え、防御姿勢を取る――だから、不意を打たれた。
「――する時にィ! 私は手札から効果を発動!」
「――は?」
『! 気を緩めないで!』
緑色は、実直な性質だ。だから、搦手はないと、そう考えていた――思い込んでいた。
「《暴食》! 場のカルノを喰らい、
初めて知る能力――未知のカード。
地面が揺れる。ごきり、と音がして、ひとの背丈を大きく超えたカルノの首が容易くへし折られる。
陽の光を遮る樹冠――それすら見えなくなるほどに、巨大な翼を持つ巨躯。分厚い鱗に覆われた体表。ひとの身を容易く引き避けるであろう鋭利な爪。
――大樹のように太い脚が、地を蹴った。その一動作で、命がいくつも失われる。
「合計で、10コスト! 〈暴緑の爵竜グリードリヒ〉を、
「……っ、それがキミの「運命のカード」……!」
『トバリっ!!』
「喰らい尽くしなさい、グリードリヒ!!」
歯の一本一本が鮮明に見えるほど、近くで開かれた顎。
咄嗟に、頭を庇い、衝撃に備え――
破砕音、浮遊感、悲鳴、激痛。
気付けば私は地面を転がっていた。耳は高い異音をずっと流し続けている。アナの呼ぶ声がする。意識が定まらない。左手に持っていた手札は手放さなかった。
視界が半分赤い。頭を打ったか、目蓋を切ったか。確実なのは、血を流している。
ディストーション・ゲームは儀式としての側面が強い。だから、
けれど、痛みは、衝撃は、確かなものとして残る。四肢切断からは守られても、致命傷以外の傷はそのまま与えられる。
「アハ、アッハハハハ!! 無様ですねぇ! さっきまでの余裕はどうしたんですかぁ?」
『トバリっ、しっかりして!! 立ちなさい、立つの!!』
声が聞こえる。意識の混濁が収まりつつある。
幸い、手足の骨は折れていない。立てる、カードを振るえる。だから、戦える。
それに、この程度の痛みなら、慣れている。
「……聞こえてるよ、アナ」
身体が訴える悲鳴を無視し、立ち上がる。両足が折れてないから、まだやりやすい部類だ。そう、自分
「まだ立つんですかぁ? 無駄にしぶといですねぇ」
「何を言ってるの」
自分のライフを数える。
今の攻撃で、12点減った。残り6点。
想定より、減ってしまっている。
だけど。
「――まだライフは6点も残ってる。まだ、
『トバリ……』
私を見るアナンナに、頷いて応える。まだ私たちは戦えると。
ライフが1点でも残っていれば、デッキが1枚でもあれば、ゲームに負けることはない。
それは、基本的なジュエルバトルのルールだから。
だから、アナンナも、黒槍を持つ手に力を込めて、前を向く。相手を見据える。
「っ、強がって! ふらっふらじゃないですかぁ、そんな体たらくで何ができるんです!?」
「ジュエルバトルを続けられる。……で? そっちの舞台のユニットは攻撃が終わった、ジュエルもすべて使ってる。……そっちこそ、このターンであと何ができるの?」
「――――っ!! バトルは終了! あたしはこれでターンエン――」
息を吐く。詰めの時間だ。
「エンド前。オニキス1個から黒色1点を抽出、――さぁ、お互いに堕ちていこう」
手札に抱えていたカードのうちの、1枚を使用する。
このバトルの開始前、テーブルゲームに使用していたデッキとは、別のデッキに変えた理由。そのカードを、相手に提示する。
「1コスト、呪文。私は〈記憶両断〉を使用する――この呪文は、お互いのデッキの上から3枚を墓地に置かせる」
「――は、あ!? あたしのデッキを3枚もですかぁ!?」
「こっちだって3枚墓地に置いてる。ちゃんとデメリットもあるでしょ?」
当然、そんな
――しかし、一切の制限が排された、
「お互いにデッキの上からカードを墓地に置こうか。さぁ――」
私は、デッキのカードに手を添える。
ディストーション・ゲームのルールの強制力が、対戦相手にもそれを強制させる。
――この盤面を、待っていた。
舞台のユニットは行動済み状態で防御に参加できず、ジュエルは使い切っており、そして。
「――キミは、どれだけ自分を保てるかな」
相手のデッキが32枚以下となる盤面を。
〈暴緑の爵竜グリードリヒ〉
緑/緑/緑/7
【ユニーク・ユニット】
ATK:12 DEF:10
《有翼》《不壊》《暴威》
■《暴食》:攻撃に参加している舞台のユニット1体を墓地に置くことで、このユニットのコストをそのコスト分軽減する。自分のライフを7点まで支払うことで、このユニットのコストをその点数分軽減する。この効果で舞台に出たこのユニットは、攻撃に参加している状態で舞台に出る。
■このユニットが舞台にいる状態でジュエルから色を抽出する時、そのジュエルは色を1点ではなく3点抽出できる。この効果で色を抽出したジュエルを宝石箱に戻す。
■このユニットがどこからでも墓地に置かれた場合、このユニットを手札に戻す。
それが通った後には、何も残らない。