あなたのデッキからカードを1枚選ぶ。それ以外をすべて墓地に置く 作:北間 ユウリ
荒い呼吸を落ち着かせて、そして立ち上がる。
とても現実とは思えない事がいくつも起きて、正直混乱しているけど、それでもちゃんと整理しようと思って。
『大丈夫? ホムラ』
「うん。えっと……」
『グレン』
「ありがと、グレン」
『それならいい』
短く、そう言い残して。
グレン――アタシの「運命のカード」らしいひと? は姿を消してしまった。近くに気配は感じられるから、たぶん姿を隠しただけなのだとは思う。
周囲を見回して、ちゃんと
ついさっきまで、アタシはディストーション・ゲーム……現実を歪め合う殺し合い、というものをやっていた。
ボードゲームじゃないのに、アタシの呪文からは炎が出て、相手のユニットは実体化して。そして、その影響がはっきりと残って。……何とか勝ったけど、グレンが居なかったら、あの大きなドラゴンの攻撃で再起不能になっていたかもしれない。
勝負の最中も非現実感は強かったけど、対戦相手もすごくて……緑色の触手? 蔦? みたいなのでできた化け物が相手で。それなりにジュエルバトルで遊んできたけど、人じゃない相手は初めてだったし。
それに、バトルの後に倒れた化け物をグレンが燃やしたかと思えば、中から小さい女の子が出てきて……って
「そうだ、女の子! きみ、大丈夫!?」
さっきまで化け物が居た場所。そこに倒れている、裸の女の子に駆け寄る。身体が痛いけど、今は我慢!
「きみ、きみ! 大丈夫!?」
耳元で声を掛けながら、仰向けにしてあげて、肩を叩く。学校で習った方法だけど、女の子が反応する気配はない。呼吸はしているから生きているとは思うけど……
取り敢えず、身体を隠すためにアウターを掛けてあげて。そして、運ぶために背負おうとして。
『何をしてる?』
「わっ! びっくりしたぁ……あれ、どこにいるの?」
『姿を隠しても会話はできる。それで、何をしてるの』
脳内に直接聞こえたようなグレンの声にびっくりして。そして、今は一刻を争う事態だということを思い出して。
女の子をなるべく揺らさないように気を付けながら、背に背負って、立ち上がる。
「病院に連れて行くの。何が何だか、よく分からないけど……倒れてるんだし、脳の検査とかした方がいいでしょ」
『でも、さっきまで殺し合いをしていた相手』
「それは、そうだけど……」
確かに、アタシはさっきのジュエルバトルで、この子……この子が中にいた化け物と、お互いを傷付けあった。
骨が折れたんじゃないかってくらい痛いし、ちゃんと見てないけど頬とか足とか、血が出てると思う。
それはこの子も同じで、アタシの呪文で炎を何度も浴びせたし、グレンが化け物を燃やした時に、たぶん火傷を負ったかもしれない。
それでも。
「――でも、アタシはこのまま放っておくのは嫌」
ここでこの子を見捨ててしまうと、きっとアタシはヒカリちゃんの目を見ることができなくなると思う。
だって、ヒカリちゃんなら、この子を見捨てることはしないから。
正直、今すぐ帰ってベッドに横になりたい。でも、アタシはヒカリちゃんに誇れる自分でいたいから。
『そう。……なら、一つだけ』
「なに?」
『病院はダメ』
「えっ、なんで?」
『どうやって説明するの』
「それは、えっと……」
そういえば、どうやって説明すればいいんだろう? 風邪を引いた妹を連れてきました? この子の名前も知らないし、あとこの子全裸だしツッコミどころが多すぎる。正直に路地裏で全裸の女の子を見つけましたって言う? なんかまずい気がする!
どうしようと考えて、わたわたしていると。小さく、グレンがため息をついた。
『その子はただ気を失っているだけ。しばらくしたら目を覚ます』
「そうなの?」
『そう。だから、どこかで寝かせておけばいい』
「どこか、ってどこ!?」
『……ホムラの家は?』
グレンに言われて思い出す。確かに、アタシの家なら丁度いい。親もいないから、説明とかの面倒もないし!
「ありがと、グレン! さっそく……あっ」
アタシの家に向けて歩き出そうとして、とても大切なことを思い出す。
女の子を背負ったまま、地面に散らばったその子たちを、片手で一枚ずつ、集めていく。
『……何をしてるの』
「この子のデッキを拾ってるの」
『何故?』
「なぜ、って……」
グレンは、ユニット? だからあんまり馴染みとかないのかな。こっちの事情に疎いのかも。病院とかは知ってるみたいだけど……そういうこともあるのかな。
集めたカードの束、この子のデッキ。メインデッキ40枚、宝石箱のカードが10枚。しっかり枚数を数えて、とりあえずアタシのポケットに入れておく。
どんなことがあっても、デッキは大事にしないといけない。だって――
「――デッキは大事だから。命よりも、ずっと」
アタシたちが生まれた時からそばにあって、死んでからもこの世に残り続ける、アタシたちの生きた証。アタシたちの人生そのもの。それがデッキだから。
『そう……集めたのなら、急いで。人が来る』
「わかった!」
『……声が大きい』
グレンの言葉を聞き流しながら、アタシは今度こそ、自分の家へと歩き出す。
背負った女の子は、ヒカリちゃんよりもずっと軽くて、ちょっと心配になった。
「この辺りかしら」
『はい、マスター。確かに、「プレイヤー」の気配はこちらから感じます』
脳内に聞こえる、ワタシの「運命のカード」の声。最初は幻覚だと思ったけれど、そうではないことをついさっきの「殺し合い」で理解した。
今も痛む、ハンカチで止血をした左腕を抑える。この痛みが、どうしようもなく現実だと訴えていた。
『しかし、良いのですか、マスター。連戦は、マスターの体に負担が――』
「ワタシはまだ戦える。さっきは初めてだから動揺したけれど、もう慣れたわ」
『しかし……』
「いいから、案内しなさい。……ディストーション・ゲームに参加するヤツを、一人でも多く減らすために」
『……はい、マスター』
「運命のカード」を手に入れたすべての人が参加するわけではないと、分かっている。もしそうだとしたら、ディストーション・ゲームの存在はもっと広く知られているはずだから。
しかし、「運命のカード」を手に入れたひとは、参加の可能性があるのだから。
「……ホムラを、この戦いに巻き込むわけにはいかない」
話に聞いて、実際に戦って、理解した。このゲームは、戦いは、危険すぎる。
強い願いを持つ者が選ばれるのだと聞いた。他人を蹴落としてまで自分の願いに執着する人間が、どうしてまともな人間だと言えるのだろうか。
そんな奴らと、ホムラを戦わせるなんて、させたくない。
だから、あの子が巻き込まれるより前に、より多くの脅威を排除する。
「運命のカード」を手に、決意を固める。
ホムラを守る、そのためにも、ワタシは。
「もっと、強くなる――強く、ならないといけない」
誰にも負けないくらいに。
……結局、相手の気配を追えなくなって、この日は戦うことはなかったのだけれど。
「うーん……やっぱりグレンを使うなら、デッキは変えたほうがいいよね」
女の子を背負って、家まで何とか誰にも見られずに帰って。そして、女の子をアタシのベッドに寝かせて。
アタシの「運命のカード」であるグレン――〈灼命の術士グレン〉のカードと、そして今まで使っていたデッキをテーブルに並べて、眺めながら考えていた。
『そう?』
「うん。今までのアタシのデッキって、こう……たくさんの火力呪文を溜め込んで、一気にバーン! って感じに攻めてくデッキなんだけど」
〈火の粉〉、〈マッチ振りの少女〉、〈ロウソク灯し〉……そして、〈成長する火花〉。
ダメージを与えることで、アタックが1点ずつ成長していく〈マッチ振りの少女〉や、ダメージを与えると追加で1点のダメージを与える〈ロウソク灯し〉を舞台に出しながら〈火の粉〉のような火力呪文を手札に抱えつつ、小出しにして圧を掛けて。
そして、相手のライフを0点以下にできるターンが来たら、一気に吐き出して
そういうデッキを作って、今まで遊んできたんだけど。
「でも、グレンは、ユニットで戦っていくのが合うんだよね」
『そうなんだ』
「あれ? グレン自身のことだよね?」
『カードのことはよく分からないから』
そういうこともあるんだ、と思いながら、それじゃ、とグレンの効果をもう一度読み返す。
「攻撃する時に手札を1枚捨てて、そのコストによって使える効果が変わる。4コスト以下なら2枚カードを引く。5以上ならアタックを2点上昇させる。この使い分けで戦う、んだけど……」
『けど?』
「アタシのバーンデッキって、ほとんど……というか、ほぼ全部4コスト以下のカードなんだよね。だから、グレンのアタックを上昇させる効果が使えないの」
1ターンで複数枚の呪文を使う想定だから、低いコストのカードが大半。グレン自身も3コストだから、やっぱり高いコストのカードは少ない。
コスト毎に分けて並べ直したデッキを見ながら説明すると、すぐそばにグレンの気配を感じた。たぶん、私の横からテーブルを覗き込んでる気がする。
『手札が多いことは戦いに有利にはたらく。いいことじゃないの?』
「そうだけど、やっぱり……うーん、なんというか、もったいなくない?」
『勿体ない?』
「だってさ、せっかく選択肢があるのに、それを最初から切り捨てちゃうのは、それこそ
アタシのデッキを知らない相手なら、もしかしてを警戒してくれるかもしれない。でも、アタシのデッキを知っている相手や、カンの良い相手だったら――ヒカリちゃんや、ショップで戦ったトバリさんみたいな相手だったら、グレンの効果はただの攻撃時に2枚ドローするものだって看破されちゃう。それだと、あまり脅威にはならない。
「だから、グレンを強く使うために、デッキを組み替えようと思うの」
『そう。……強くなるなら、ホムラの判断に任せる』
「ありがと。でも方向性で悩んでてさー……ユニット主体の戦い方に変えたとしても、呪文とかで奇襲を仕掛けられるようにしたいし」
『……つまり?』
「やる気だけあって、具体的な案がないー……」
持っているカードをまとめた、バインダーとストレージを前に、腕を組んで悩む。
赤色が好きだから、メインは赤色で。色を混ぜるのはあまり考えてないけど、デッキ次第ではほかの色の採用も視野に。
ユニットメインで呪文も採用。その上で、考えるのはグレンを強く使うこと。グレンの手札を捨てる効果をうまく使えるデッキだと無駄もない。
「こっちのテーマは……うーん、ちょっと違う。こっちは……むむむ」
『……こっちのは、どう?』
「この子は……あー、コストの平均が低そう」
「ならぁ、こっちはどうですかぁ?」
「どれどれ……お、よさそう! 確かこのテーマのカードは集めてた気がする……」
整理していたストレージから、おすすめされたカードを探す。赤色単色で組まれた、とある御伽噺をコンセプトにしたテーマ。
メインはユニットでの攻撃。それを呪文でサポートしたりする、ちょっとだけトリッキーな戦い方。メインギミックも、手札を捨てる効果だからグレンと相性が良い。
「うんうん……よし! 方向性は決まった! ありがとー!」
「いえいえ~、お姉さまの力になれたのなら何よりですぅ」
「いやいやいや、……ん?」
探し出したカードを並べて眺めて、ふと違和感に気付いた。この場には、アタシとグレンだけ。
でも今、三つ目の声が聞こえた。
「えっ、今の誰!?」
『……ホムラ、今更?』
「んふふ、にぶちんなお姉さまもかわいいですねぇ」
声のした方を見る。アタシのぶかぶかな服を着た女の子がいた。緑色の長い髪の、ちょっと心配になるくらい軽い子。
その子が、いつの間にか起きていて。そして、いつの間にか、アタシたちの会話に交じっていたらしい。
……というか。
「お姉さまってなに?」
「それはもちろん、あたしの恩人ですからぁ。呼び方もそれに相応しいものにしませんとぉ」
「それでお姉さま? まぁ、いいけど……って、目が覚めたんだ!?」
「んふふ、今更ですねぇ。ええ、はい、おかげさまでぇ」
ほわほわと笑う女の子は、あの、化け物とは似ても似つかなくて。
いろいろと聞きたいことはあったけど、とりあえず、目が覚めて良かったと思った。
「あ、そういえば。アタシはホムラ。赤彩ホムラ。キミは?」
「これはどうもご丁寧にぃ。あたしはですねぇ――」
ぐぅー、と大きな音がした。アタシではなくて、グレンのほうを見たら、首を横に振っていて。
そして、この場にいる残りの一人。目の前の女の子を見たら、少しだけ恥ずかしそうに、笑っていて。
「んふふ、お恥ずかしいところをぉ」
「ご、ごめん、気が利かなくて! すぐ何か用意するね」
「お気持ちだけで……あ、いぇ……お言葉に甘えますねぇ」
急いで部屋を出ようとして、私の後ろからも足音が付いてくる。
振り向けば、女の子がそこにいて。
「待っててくれればいいのに」
「お手伝いくらいさせてくださぃー」
「うーん……それなら、ちょっとだけね。えっと……」
名前を呼ぼうとして、そういえばまだ聞いてなかったことを思い出す。
それを察したのか、女の子は、んふふと笑って。
「あたし、翡翠ハンモって言いますぅ。よろしくお願いしますねぇ、お姉さま」
そう言う女の子――ハンモちゃんは、手を合わせて、にこにこと。
その向こう側で、壁に寄り掛かるように立っていたホムラが、ハンモちゃんを――そして、アタシのことを、じっと見つめていた。
〈灼命の術士グレン〉
赤/赤/1
【ユニーク・ユニット】
ATK:2 DEF:2
《瞬足》
■このユニットが攻撃した時に発動できる。自分は手札を1枚墓地に置く。
■自分のカードが手札から墓地に置かれた時に発動できる。そのカードのコストによって、以下の効果を適用する。
・4以下:自分はデッキからカードを2枚引く。
・5以上:このユニットのアタックを2点上昇させる。
ただ一つの願いのために。
――〈灼命の術士グレン〉