『The Mechanic’s Legacy(メカニックの遺産)』 作:吉宗
【後編】『The Answer of Hope(希望の回答)』
第一章:置かれていく者たち
戦場へと向かうアベンジャーズの漆黒のクインジェット(輸送機)。
その格納庫で、出撃前の緊張感が漂う中、キャプテン・アメリカ(サム・ウィルソン)は静かに装備の点検を行っていた。
その傍らへ、同じく前線へ向かうアントマン(スコット・ラング)やウォーマシン(ジェームズ・ローズ)らが歩み寄る。残されたヤング・アベンジャーズの子供たちのことが、どうしても胸に引っかかっていた。
「……本当にいいのか、サム? ビリーもケイトも、能力は申し分ない。あの子たちの力を借りれば、戦力は確実に増すぞ」
スコットの問いかけに、サムはバイザー越しに遠くを見つめ、重く首を振った。
「ダメだ。相手はドゥームと、科学と魔術を極限まで歪ませたアイアンハートだ。生きて戻れる保証すらない戦場に、あの子たちを連れていくわけにはいかない」
「……子どもを守るのが、大人の、そしてヒーローの仕事だからな」
ローズが深く頷き、鉄の義足を叩く。サムは二人を見つめ、決意を込めた強い眼差しで言葉を続けた。
「それだけじゃない。……もし、俺たちが倒れた時のためだ」
「……!」
「俺たちが全滅した時、世界には次の『光』が必要になる。あの子たちはただの子供じゃない。俺たちの背中を見て、絶望の中でも立ち上がれる『本物のヒーロー』たちだ。だからこそ……万が一の時、最後のバトンを託し、事を成し遂げてもらうために、あの子たちをここに残す」
自分たちが生きて戻れなかった時、世界の未来を全てあの子たちに託す。
大人のヒーローたちが交わした、悲壮なまでの覚悟と誓い。
そしてサムは、待機室に(半ば閉じ込めた状態に)いる若者たちに向かって、あえて冷徹に、けれど万感の想いを込めて通信を開いた。
「絶対に来るな。これは君たちの手には余る戦いだ」
——パツン、と通信が切れる。
キャプテン・アメリカ——サム・ウィルソンのその一言を残し、アベンジャーズの主力たちは前線へ向かった。
残された秘密基地の一室。沈黙を破ったのは、激しい不満と焦燥が入り混じった溜息だった。
「また子ども扱い……! 魔法も、弓も、格闘も、私たちがどれだけ血の滲むような思いで鍛えてきたと思ってるの!?」
ケイト・ビショップが愛用の弓を、棚に叩きつけるように置く。
溢れ出す涙を誤魔化すように、拳を固く握りしめた。
ウィッカ(ビリー)もまた、自身の掌に浮かぶ青い魔術の光を悔しそうに握りつぶす。世界が滅びかねない危機の中で、「戦力外」として蚊帳の外に置かれた自尊心の傷は深かった。
「僕たちは……ただ大人たちの後ろをついて歩くだけの、ごっこ遊びのヒーローじゃないはずだ……!」
ドクター・ドゥーム。そして、彼の傘下に降り、科学と魔術を融合させた悪魔のアーマーを纏うアイアンハート(リリ・ウィリアムズ)。
人類史上最大の危機において、ヒーローになったハズなのに、命をかける資格すら与えられず、ただ「留守番」を命じられた現実。
「自分の無力が嫌になる……」
誰もが膝を折り、打ちひしがれる若者たち。
その沈黙の背後で、ロックされたいはずの重い金属の扉が開く。
そして、工具箱が床に置かれる乾いた音が響いた。
「それじゃ、代わりにボクの手伝いをしてくれないかな?」
そこにはミリタリー調のジャケットを着た一人の青年が立っていた。
雪の降る町ローズヒルで、かつて傷ついたトニー・スタークの傍らに立ち、彼を「メカニック」として再起させた正真正銘の相棒——大人になったハーリー・キーナーだ。
彼が背後の自動追走コンテナを開くと、そこには重厚な金属の鈍い光を放つパワードスーツが鎮座していた。トニーの初期型『マーク1』を思わせる無骨で武骨なフォルム。けれど、関節の1つ1つにまで注ぎ込まれた技術と愛が伝わってくる、自作のアイアンマンスーツだった。
「ドゥームとリリの科学センサーなら、ボクが組んだ波形キャンセラーで完全に欺ける。でも……あいつらの『魔術』の感知網だけは、ボクの科学じゃ突破できない」
ハーリーはまっすぐに若者たちの目を見つめた。
「君たちの力が要る。大人たちのガチガチな頭じゃ逆立ちしても思いつかない“抜け道”をぶち破るんだ。科学の反応も、生命の反応も、そして魔法の反応すら完全にゼロにする——完璧な『無』の結界を, このスーツの回路に刻み込んでほしい」
若きヒーローたちの瞳に、一瞬で熱い炎が宿った。
自分たちを「必要だ」と言ってくれた青年と、大人たちを見返すための切り札。
「……大人たちが気づかない最高の”抜け道”を!作ってやろうじゃないの!ねぇ、みんな!」
第二章:焦土の叫びと「ポテト弾」
そこは、まさに地獄の焦土だった。
なぎ倒されたドゥームボットの胴体が幾重にも重なり合い、火花とオイルを撒き散らしている。その傍らには、銀河の覇者たるクリー帝国の巨大機甲兵器(セントリー)の巨躯が半壊した状態で沈黙し、黒煙が天を突いていた。
打ち倒されたアベンジャーズのヒーローたち、そして残骸と化した宇宙規模の兵器群。
その絶望の頂点で、完全無欠の力を手に入れたアイアンハート(リリ)は、周囲の屍を見下ろしながら狂喜の声をあげる。
「ははは! 見たか! ついに……ついにアイアンマンも、ドクター・ドゥームすら! 私はすべてを越えたぞ!!」
その瞬間——科学センサーにも、高位魔術探知にも一切引っかからない「完全な無」の中で、運命の引き金が引かれた。
——ズドン!!
「がはっ……!? なん、だと……!?」
衝撃は彼女の真正面から叩き込まれた。
全エネルギーが集中する胸のリアクターを正確に撃ち抜いたのは、魔法の結界を帯びた特製の高圧バレイショ弾(ポテト弾)。
どれほど最新のハイテクと魔術を詰め込もうと、目の前に迫るまで認識すらできなかった「ただのジャガイモ」による超局所的な衝撃。
紫色の魔術光が爆発的に散り失せ、回路が一瞬でショートする。胸のリアクターから完全に光が消えると同時に、圧倒的な重量を誇る最新鋭アーマーは動力を失い、ただの巨大な金属の塊——内部のリリを閉じ込める逃げ場のない「拘束器具」へと変貌した。
「な……うそ……身体が……動か……っ!?」
混乱し、バイザーの隙間から目を凝らすリリ。
科学センサーの反応は「ゼロ」。魔術探知も「ゼロ」。
だが、開いたバイザー越しに目視でようやく、真正面の空間に浮く「黒い銃口」の先端だけが捉えられた。
呪文を唱えようと喉を震わせるリリに対し、姿なき脅威は一切喋らず、冷徹かつ機械的に仕事を遂行する。
カチッ!
空間から伸びた見えない腕が、ギャグボール状の抑制器を素早く口元に装着。発声と自害の可能性をシャットアウト。
続けて、古代の魔導陣が刻まれた特殊な眼帯アイテムで目元を覆い尽くし、視界を介した魔術の発動すら完全に遮断。
喋ることも、見ることも、指一本動かすこともできない。
完全無欠を誇ったアイアンハートは、僅か数秒で「何もできない完全な人形」へと成り下がった。
空間に向けて、カチリと指をさす気配。
——アイアンハートの完全無力化を、指さし確認。
そこまで完了して初めて、歪む空気とともにステルス機能が解除され、ハーリー・キーナーの自作スーツが徐々にその姿を現した。
静まり返る焦土。
息をのむような沈黙の中、少し離れた瓦礫の陰で倒れていたキャプテン・アメリカ(サム・ウィルソン)が、重い身体を起こしながら、驚愕の眼差しでその謎のスーツを見上げる。
「……あいつのセンサーと魔術を、完全に無効化しただと……? 頼む、教えてくれ……君は一体……何者なんだ……!?」
ハーリーはゆっくりとマスクを跳ね上げ、素顔を見せた。
動けないリリを見下ろし、そして駆け寄ろうとするヒーローたちへ振り返ると、手に持ったポテトガンをクルリと回して不敵に笑う。
「通りすがりのメカニックさ。雪の上で、かつてトニー・スタークの相棒をしてたこともあってね。」
第三章:I am Iron Man
戦いは終わった。
倒れたリリの身柄が拘束され、駆けつけたヤング・アベンジャーズの仲間たちと勝利を分かち合うハーリー。
歩み寄ってきたキャプテン・アメリカは、ハーリーの手作りスーツと胸のリアクターを見つめ、静かに問いかけた。
「世界はこれから先も、勇気と志を持った『英雄』を必要とするだろう。……君は何者で、何になるつもりなんだ?ハーリー・キーナー?」
静まり返る戦場。
風が吹き抜ける中、ハーリーはかつてトニーが自分に見せてくれた、あの少し不敵で温かい笑みを浮かべた。
トニーから受け継いだ本物のメカニック魂を胸に抱いて。
「I am Iron Man.(私がアイアンマンだ)」
——画面が暗転。
(重厚なエレキギターのイントロと共に、AC/DCの「Back In Black」が爆音で響き渡り、エンドロールへ!)