10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
「ねえ、ロリ先輩! ニュース見た!?」
楽屋に飛び込んできたルビーが、いつも通り私をからかうようなあだ名で呼びながら、スマホを突きつけてきた。
「お兄ちゃんのスマホに、なんか宮崎の警察から連絡が来たらしくて……お兄ちゃん、今すごい変な顔して部屋にこもってるの!」
「……へえ、そうなの」
私は鏡越しにリップを塗り直しながら、極めて冷静に生返事をした。
内心では、完璧に計算通りだとほくそ笑んでいる。
アクアにしてみれば、前世の遺体が、なぜか突然、ただの警察の捜索によってあっけなく発見されたのだ。
しかも、身元まで即座に特定されて。
あいつの、世界を冷徹に見据えていたはずの計算は、私の見えない手によって今、根底からひっくり返っている。
(ざまあみろ、星野アクア。アンタが一人で世界の闇と戦ってると思ったら大間違いよ)
これであいつが独りで抱え込んでいた呪縛の、最初の一個を解いた。
ルビーが宮崎で闇堕ちする未来も、これで完全に消滅した。
だけど、私の2周目の仕事はここからだ。
アクアが出演している恋愛リアリティショー(今ガチ)は、今まさに佳境を迎えている。
黒川あかねの炎上事件を、アクアは持ち前の機転と、出演者全員で協力した「あの動画」の制作によって乗り越えようとしていた。
1周目の時、私はただの嫉妬混じりの複雑な気持ちであいつらの番組を見ていただけだった。
だけど、今の私にはわかる。あの動画を作るために、アクアがどれほど寝る間も惜しんで泥泥のように働いて、自分をすり減らしていたか。
(今ガチの炎上自体は、アクアがあかねを救うために必要なプロセスよ。……でも、あいつにそこまで無理をさせる必要はないわ)
私はレッスン着に着替えながら、この10年で築き上げた「業界の人脈」をもう一枚切ることにした。
動画の編集に慣れた有能な若手クリエイターや、融通の利く映像機材のレンタル業者。
私は彼らに、かつてお世話になったプロデューサーのツテをたどって裏から匿名で連絡を入れ、アクアたちの元へ「格安の助っ人」として派遣されるよう手を回した。
結果、アクアの動画制作は1周目よりも遥かにスムーズに進み、あかねの救出劇も見事に成功を収めた。
そして、今ガチの全収録が終わったある日の夜。苺プロダクションの事務所の廊下で、私はフードを深く被ったアクアと鉢合わせた。
今ガチを終え、あかねという強力な才能を手に入れたはずのあいつは、なぜかちっとも嬉しそうな顔をしていなかった。宮崎の事件の動揺を引きずったまま、生気のない目で、じっと私を凝視してくる。
「……有馬」
「なによ。番組、大盛況で終わってよかったじゃない。あかねちゃんとも良い雰囲気だし?」
あえてトゲのある言い方をする私に、アクアは一歩、距離を詰めてきた。
その瞳の奥にあるのは、冷徹なまでの『疑念』だ。
「お前ボイスチェンジャーを持っていたな」
「持ってるわ。それが何だって言うの?」
「宮崎の、雨宮ゴローの遺体発見のニュース……あれが流れた直後、警察の内部に不自然なタレコミがあったらしい。発信源は巧妙に偽装されていたが、使われたボイスチェンジャーの波形データ、それと動画編集機材の匿名手配のルート……。……お前、一体何を知っている?」
私の仕込みの優秀さに、あいつの探偵並みの頭脳が、ついに違和感を抱き始めたのだ。
私は逃げずに、アクアのその昏い瞳を真っ真っ直ぐに見つめ返した。
(気づいた? アクア。アンタの思い通りにならない未来が、もう始まってるのよ)
「さあね。何のことかしら」
私が不敵に微笑んでみせると、アクアの息がわずかに詰まった。
私の、あんたの運命をひっくり返す2周目の知略戦が、いよいよ本格的に動き出す。
別作で【推しの子】×【約束のネバーランド】のクロスオーバーサスペンス連載も始めました!
アイがママ(飼育官)で、アクアやあかね達が命がけの嘘で脱獄に挑むお話です。よろしければこちらもぜひ!
↓
https://syosetu.org/novel/425927/
※キャラの性格や印象が原作とかなり違います