10秒で泣ける天才子役は2周目の人生では泣かない 作:M1tarash1
アクアから向けられた鋭い疑念の視線を、私はのらりくらりとかわし続けた。
あいつは頭が良いから、下手に嘘をつけばボロが出る。だから私は「何も知らない、ただの可愛いロリ先輩」の仮面を被り、徹底的にすっとぼけてやった。
アクアが私の正体を暴こうと裏で調べ回っている間にも、未来のタイムラインは容赦なく進んでいく。
今ガチが放送終了し、次はいよいよ新生B小町の三人目のメンバー――「MEMちょ」をスカウトする番だ。
「ねえ、ロリ先輩! お兄ちゃんが番組で共演したMEMちょさんを、B小町に誘いたいって言ってるの!」
事務所のソファーでゴロゴロしていた私に、ルビーが嬉しそうに報告してきた。
知っている。彼女が実は年齢をサバを読んでいて、本当はアイドルになりたかったことも、すべて。
「いいじゃない。実績のあるインフルエンサーだし、うちとしても願ったり叶ったりよ」
「でしょ!? じゃあ、お兄ちゃんと一緒にこれから会いに行ってくるね!」
「待ちなさい、ルビー。私も行くわ」
私は立ち上がり、上着を羽織った。
1周目の時は、アクアとルビーが二人でMEMちょの面談に行き、そこで彼女の「年齢の秘密」を知ることになった。だけど今回は、私がその場に同席する。
なぜなら、MEMちょという最強の広報担当を、より確実に、そして1周目以上に爆発的なスピードでB小町に馴染ませるためだ。待ち合わせのカフェ。
現れたMEMちょは、画面の向こうと同じように明るい笑顔を見せていたけれど、アイドルへの勧誘を前に、どこか不安げな影を落としていた。
「いやー、本当に私なんかでいいの? ほら、私って色々と……ねえ?」
言葉を濁す彼女の意図を、アクアはまだ掴めていない。
あいつはまだ、彼女が「20代半ば」であるという決定的な事実に気づいていないのだ。
私は、あらかじめ用意しておいた苺プロの「特製契約書」をテーブルに滑らせた。
「いいのよ、MEMちょ…年齢をサバ読んでることでしょ?」
「――っ!?」
MEMちょが飛び上がるほど驚いて固まった。
「この10年、伊達に芸能界で大人の人脈作ってないわよ。あんたが家庭の事情でアイドルの夢を一度諦めたことも、本当の年齢が二十五歳だってことも、全部知ってる」
「なっ……!?」
アクアが絶句した。ルビーは「えっ、二十五!?」と目を丸くしている。
MEMちょは完全に顔を青ざめさせ、今にも泣き出しそうな顔で俯いてしまった。
「……ごめん、なさい。騙すつもりじゃなくて……でも、やっぱり私みたいなババアじゃ、アイドルなんて……」
「誰がババアよ、失礼なこと言わないで」
私はMEMちょの前に身を乗り出し、その震える手をぎゅっと握りしめた。
「年齢が何よ。あんたがこれまで、自分の力だけでどれだけのファンを掴んできたと思ってるの? その登録者数も、知名度も、全部あんたの血の滲むような努力の結晶でしょ。二十五歳、最高じゃない。ネットの扱いなら私やルビーの百倍上手いでしょ。私はあんたのその『才能』が欲しいの」
「有馬、ちゃん……」
「一緒にやりましょう、MEMちょ。あんたの諦めかけた夢、この新生B小町で、私が絶対に叶えさせてあげるから!」
私の真っ直ぐな言葉に、MEMちょの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……うん。私、やる。やるよ……っ!」
こうして、1周目よりも遥かに強い絆で、MEMちょがB小町に電撃加入した。
年齢の壁を、最初から「強み」として受け入れた彼女のモチベーションは最高潮だ。
これから始まるグループの宣伝活動は、1周目を遥かに凌ぐスピードで進むことになる。
「……有馬」
帰り道。ルビーとMEMちょが前を歩くなか、後ろからアクアが私の腕を掴んだ。
その顔は、恐怖すら混じった本気の警戒に満ちていた。
「お前、本当に何者だ。宮崎の件だけじゃない。MEMの家庭環境も、あのタイミングで一番刺さる言葉も……まるで、これから起こることを最初から知っているみたいだ」
私の顔のすぐ近くまで、アクアの顔が迫る。
その心臓の鼓動が、私にまで伝わってくるようだった。
「言ったでしょ、アクア」
私はあいつのネクタイをぐいっと引っ張り、耳元で小さく、けれど絶対に聞き逃せない声で囁いた。
「アンタの思い通りにならない未来が、もう始まってるの。……一人で死ねると思ったら、大間違いだからね」
アクアの息が、完全に止まった。さあ、あいつの冷徹な仮面が、少しずつ剥がれていく。
別作で【推しの子】×【約束のネバーランド】のクロスオーバーサスペンス連載も始めました!
アイがママ(飼育官)で、アクアやあかね達が命がけの嘘で脱獄に挑むお話です。よろしければこちらもぜひ!
↓
https://syosetu.org/novel/425927/
※キャラの性格や印象が原作とかなり違います