騎士団を追放になったので、やる事を探します   作:fumiy

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第五話②『君の名は』

 合成魔物(キメラ)の少女がいる近くに着き、魔術を解除して裏路地(うらろじ)に入ると、建物の隙間(すきま)へ消えていく長い髪が見えた。

 

「本当に敵意(てきい)が無いんだな……」

 

 遠くへ行ってしまう前に包みの封(ふう)を開ける。

 

「結構うまそうだし、匂いもいいな」

 

 魔術の風を包(つつ)みの上に発生させ、少女が消えた隙間に運び入れる。

 薄く焼かれた生地(きじ)の間には液(えき)に漬(つ)け込んだ肉と、細かく刻(きざ)まれた野菜が挟(はさ)み込まれている。

 口に近づける程に香草(こうそう)と香辛料(こうしんりょう)の香(かお)りが嗅覚(きゅうかく)を刺激(しげき)してくる、それは向こうも同様らしく。

 

「……」

 

 二つの緑が建物の隙間から覗(のぞ)いていた。

 

「食べるか?」

 

 黒く伸びた髪に緑の瞳、見た目はカルドリクの描いた絵の通りだが、今の所は普通の人間にしか見えない。

 

「…………」

 

 少女は無表情のまま無言で見つめてくる。

 

「毒なら入ってないぞ、ほら」

 

 一口齧(かじ)って安全な事を証明する、といっても人間と同じものが食べられるかは分からないが。

 

「うまいなこれ」

 

 香辛料を使ってるから辛い物だと思ってたが、むしろ甘味が強くとしょっぱさが加わった年齢関係なく楽しめそうな味だ。

 

「……くんくん」

 

 キメラの少女はゆっくりと一歩を踏(ふ)み出し匂いを嗅(か)ぐ、その間も目を逸(そ)らさずにいるのは野生故(やせいゆえ)か。

 少女はゆっくりと口を開け、はみ出した肉だけを器用(きよう)に齧(かじ)り取った。

 

「どうだ美味(うま)いか、アパテって言うらしいぞ」

 

「うまい……、アパテ……」

 

 意味を理解してるのかは分からないが、人の言葉を操(あや)れるらしい。

 

「ほら、野菜も食いな」

 

「やさい……」

 

 手を動かして野菜が正面になるように動かすが、露骨(ろこつ)に嫌そうな顔をして口を閉ざしてしまう。

 これは肉食だからなのか、単に野菜が嫌いなだけなのか。

 

「肉しか食べないと身体が臭(くさ)くなるぞ」

 

「くさい……」

 

 やはり言葉を理解してるように感じる、だが野菜だけは意地でも食べようとしない。

 暫(しば)らく食事の行く末(すえ)を見守っていると、少女の影(かげ)から目の無い竜の首が表れ残った生地と野菜を丸ごと呑(の)み込んだ。

 

「嫌いなもんでもそれで食えるってのは便利だな」

 

 肉体同士を合成し繋(つな)ぎ合わせる事で、奇跡的《きせきてき》に人型になったと考えていたが、実際はそうじゃないのかもしれない。

 

「まだあるぞ、好きなだけ食べな」

 

「……!」

 

 合成少女は器用に肉だけを食べては、残った物を全部竜に処理(しょり)させていく。

 腕輪から比較的小さな外套(がいとう)を召喚し、食事に夢中になっている少女の肩から羽織(はお)らせる。

 これでもぶかぶかなくらいだが今までよりはずっとマシだろう。キメラは確かに肉体は強いが意思(いし)の疎通(そつう)は出来ないし、作られた目的を予想するとしたら指令役(しれいやく)って所か。

 

「……指令役立ててどうするかって話だよな」

 

「……?」

 

 合成少女が首を傾(かし)げると長い黒髪が流れ、その隙間から淡(あわ)く光る紋様(もんよう)が覗(のぞ)く。

 

「なんだ、もう全部食べたのか」

 

「お腹、空いた……」

 

 俺でも三つ食べたら腹いっぱいになるようなものを、五個消費してもまだ足りないと来たか。

 

「じゃあこれ食うか?甘いぞ」

 

「あまい?」

 

 甘いを知らないらしい、まあ碌(ろく)なもの与えられて無さそうだしな。

 串(くし)を一本取り出して刺さっている生地を一個齧(かじ)り取る。

 

「甘いと甘いと油が重なった感じだな、うん」

 

 甘く味付けした生地を油で揚(あ)げて砂糖をまぶしてたんだからそら甘いか、食べたら美味いが一本で十分と感じるぐらいの味だ。

 

「串の所は食べるなよ、口開けな」

 

「あー」

 

 大きく口を開けられた口の前に差し出すと、生地の表面が浅く齧(かじ)られた。

 

「むぐ……!」

 

 合成少女の表情が僅(わず)かに緩(ゆる)むと、瞳(ひとみ)を輝かせ物凄い勢いで串から減らしていく。

 

「それが甘いって味だ、気に入ったか?」

 

「もっと……!」

 

「ここにあるから食べな」

 

 残りの串が入った袋を差し出すと、それを受け取って貪(むさぼ)り食い始める。

 

「いったいどこに入ってんだか」

 

 一先ず餌付(えづ)けをして敵では無いと認識(にんしき)して貰えたみたいだが、これからどうしたもんかな。

 取り敢えずブライトには報告するとしてだ、このまま放置(ほうち)する訳にはいかないし、預けられるほど信頼できる奴も居ない。

 食べ終わるまで観察していると、最後の木串(きぐし)竜の口に放り込むと満足そうに腹を撫(な)でる。

 

「腹いっぱいになったか」

 

「はら……、いっぱい」

 

「そりゃいいな」

 

 全部食いつくすとは思わなかったが、よっぽど空腹だったのか、それともキメラ故の食欲なのか。

 

「自分の名前は分かるか?」

 

「『|司令塔型合成体試作第四号《しれいとうがたごうせいたいしさぐだいよんごう》アムリタ』、役割は合成体達の指令及(しれいおよ)び拠点(きょてん)の防衛(ぼうえい)」

 

 ただでさえ平坦だった口調がより無感情(むかんじょう)に、無機質(むきしつ)な物へと変わった。

 間違いなく対賊(たいぞく)や魔物を前提(ぜんてい)にした物じゃない。どっかに戦争を吹っ掛(か)けようとしてる勢力(せいりょく)にでも渡すつもりだったんだろう。

 

「長いしリタだな」

 

「リタ……?」

 

 リタが首を傾(かし)げると黒い髪が流れ、緑の瞳が輝く。

 

「短い方が呼びやすいだろ?」

 

 現状、リタの危険性(きけんせい)は未知数(みちすう)だ。普段の気性は穏やかというか大人しいようだが、名前を話す時の様子からして有事(ゆうじ)の時にはどうなるかが分からない。

 

「なあリタ」

 

 片膝(かたひざ)を付いて目線を合わせ、手を差し伸べる。

 

「俺と一緒に来ないか?」

 

「いっしょ……」

 

 リタの持ってる性質が分かった以上、少なくとも騎士団に引き渡す選択肢は無くなった。リタの身が渡(わた)れば殺されるか、残された寿命(じゅみょう)が実験体として消費される可能性がある。

 生態兵器(せいたいへいき)として勝手に作り出され、勝手な都合(つごう)で殺される末路(まつろ)を見逃(みのが)せるわけがない。

 

「いっしょ……、いっしょにいく」

 

「よし、俺はリュートだ、これからよろしくなリタ」

 

 それに近くにいる事で、キメラに対する反転魔術(はんてんまじゅつ)が作り出せるかもしれない。

 

「よろしく、リュート」

 

 ———

 

「まずは服と靴だな、その後は髪も切った方いい」

 

 リタは俺の外套(がいとう)を羽織(はお)ってはいるが、それ以外は素のままだ。流石にこの無防備(むぼうび)な状態(じょうたい)で連れ歩いてたら、騎士団の牢屋(ろうや)に連れ戻される。

 

「袖(そで)に腕を通して前を閉めな」

 

 街に来たことはあっても服屋巡(ふくやめぐ)りはしてないし、どうしたもんか。

 

「……」

 

「ブライトは来たばっかって言ってたし、同期(どうき)の誰かしらがここに配置(はいち)されてたら案内させるんだがな」

 

「?」

 

「どうした」

 

 リタは纏(まと)った外套(がいとう)を見下ろしたまま固まっているが、ひょっとして服の着方(きかた)すら分からないのか。

 

「腕をここに通して、反対側もな、んで前はこうやって閉めるんだ」

 

 騎士団辞めてから子守りばっかしてる気がするな。

 

「うごきづらい……」

 

 外套(がいとう)で足元まで隠(かく)れてるしそりゃ歩き辛いか、服(ふく)と靴(くつ)が揃(そろ)うまでは俺が運んでやろう。

 だがその前に。

 リタの額(ひたい)に人差し指を当て、浄化(じょうか)の魔術を起動する。

 

「?」

 

「大丈夫だ」

 

 指先から展開された魔法陣がリタの肩幅程(かたはばほど)に広がり、ゆっくりと全身を通過(つうか)していく。

 

「あったかい」

 

 魔法陣が通りすぎると広がっていた黒髪が艶(つや)を帯(お)び、肌に着いた砂埃(すなぼこり)が弾(はじ)け飛び、身体を洗ってない事によって放たれていた異臭(いしゅう)が消え去った。

 魔物相手にも何度も使った事はあるが、キメラに対しても問題なく効くらしい。

 

「それじゃ行くぞ」

 

 リタの背中と両膝の裏に腕を通し横に抱きかかえる。

 

「わ」

 

 素足で歩かせるのは流石に見た目がアレだからな、これも目立ちはするだろうが幾(いく)らかマシだ。

 

 裏路地(うらろじ)を抜けて大通りへ出て、適当な方向に歩き出す。

 

「良い感じの店は無いかなっと」

 

 余りまくった袖(そで)で頬(ほほ)を永遠と撫(な)でてくるリタを無視して歩いていると、服の上下が並(なら)べられた店を見つけた。

 

「あそこなら全部揃(そろ)いそうだな」

 

 早速(さっそく)向かおうとした所で、前方から騎士の一行(いっこう)が表れつい足を止める。

 

「人数からしてリタの捜索(そうさく)か?」

 

 取り敢(あ)えず知らない顔ですれ違おう。こういう時は、逆に堂々(どうどう)と行った方が怪(あや)しまれないもんだ。

 約一名が滅茶苦茶こっちを見ていたが、どうにか切り抜け目的の店に無事辿(たど)り着くことが出来た。

 

「いらっしゃい……ませ」

 

 困惑した様子の従業員に出迎えられた。

 まあ男が少女を抱えて入ってきたらそういう反応にもなるか

 

「妹の服を買いに来たんだけど、なんかおすすめあるか?」

 

「あ、妹さんでしたか……!ご希望の物があれば幾(いく)つか選んで参(まい)りますが」

 

 ごり押せば意外となんとかなるもんだ。

 

「取り敢えず上下の服三着づつと、下着と動きやすい靴を見繕(みつく)ろって貰えないか?予算は気にしなくていいから」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

 リタを椅子に座らせ、その隣に座り従業員を待つ。

 男が俺一人しか居ないのもあって微妙(びみょう)に居づらいが、一先ずここは我慢(がまん)だ。

 

「リュート、やっぱりリュートじゃない……!」

 

「ん?」

 

 聞き覚えのある呼び声の方向を見ると、さっきすれ違った女騎士が立っていた。

 

「……」

 

 明るい青髪に青い瞳、髪と同じ色のペンダントを身に着けている。

 

「ちょ、ちょっと!私のこと覚えて無いの……!?」

 

 条件が大体一致した知り合いはいるが、それでいいんだろうか。

 

「もしかしてセシリアか?」

 

「そうよ……!はあ、同期を忘れるなんて……」

 

 俺の記憶のセシリアは腰まで髪を伸ばしてたし、久々に会って首元まで短くなっている状態だと流石に気付けなかった。

 

「悪い悪い、髪短くしたんだな」

 

「まあ、ね……、やっぱり長いと動き辛いでしょ?」

 

 その間(ま)からして、何かあったんだろう。

 

「短いのも似合ってるな」

 

「は、はあ!?別にアンタに褒(ほ)められても嬉しくないわよ……!」

 

 この反応も懐かしい。訓練生時代は直ぐ顔が赤くなるのが面白くて、よく褒(ほ)めてた思い出がある。

 

「そりゃ残念、んでなんでここに来たんだ?」

 

「それはこっちの台詞よ。アンタここの配属じゃないわよね、もしかして移動になった?」

 

 そういやセシリアの配属先はここだったったか、あんまりその辺りの話はしてなかったな。

 

「俺は今仕事探し中だよ」

 

「はあ?アンタなに言ってんの?」

 

 真顔で返されてしまった。

 

 まったく嘘(うそ)は付いてないんだが、そこまで信用ないのか。

 

「ていうかこの子どちら様なの?さっき抱えて歩いてたわよね」

 

「娘だよ」

 

「……え?」

 

 セシリアが驚愕(きょうがく)の表情をしたまま固まってしまった。

 

「……ふ、ふーん!相手は誰なの?いや、全然興味(きょうみ)なんてないけどね!」

 

「まあ嘘だけどな」

 

「……この!」

 

 相変わらず反応の面白い奴だな。

 

「本当は妹だよ」

 

「い、妹?でもアンタ家族は居ないって」

 

「義理(ぎり)のな」

 

「それってどかに婿入(むこい)りしたって事じゃないの!」

 

「俺が迎え入れられる方なのかよ」

 

 いや迎える家も無いんだけども。

 

「……それで相手は誰なのよ、私も知ってる人なの?」

 

「義理の妹ってのも嘘なんだけどな」

 

「……っ!」

 

「いって」

 

 心臓(しんぞう)の位置を強めに殴られてしまった。頼みたい事もあるし、揶揄(からか)うのもこれくらいにしてやるか。

 

「真面目に言うと保護(ほご)してんだ」

 

 リタの頭の上に手を乗せると、前髪の分け目の間からこっちを見上げてくる。

 

「保護(ほご)……」

 

「あと最初に言った俺が仕事探し中ってのも本当だぞ」

 

「さっきも言ったけど嘘にしては面白くないわよ」

 

「本当だっての、ブライトに聞いてみな」

 

「あの……」

 

「ん?ああ悪いな」

 

 従業員が申し訳なさそうに立っていた。

 

「いえ、衣服の準備が出来ましたので」

 

「試着って出来るか?」

 

「ええ、もちろん出来ますよ、こちらの方へどうぞ」

 

 セシリアもいる事だし丁度いいな。

 

「リタ行くぞ、セシリアもちょっと来てくれ」

 

「わ、私も?」

 

 幕(まく)で仕切られた箱の前に案内された。

 

「今回用意させていただいたのは動きやすさを重視した二組と、お洒落な場に適したドレスでございます」

 

 ドレスの方はともかく他二組は街の外でも問題なく動けるだろう、後でリタ用の外套(がいとう)でも買ってやればいい感じになりそうだ。

 

「いいな、んでセシリアに頼みなんだが」

 

「何?お金は今あまり持ってないわよ?」

 

「奢(おご)って欲しくて連れてきたわけじゃない、金ならある」

 

 セシリアの耳元に顔を寄せる。

 

「ちょ、近い……!」

 

「リタに服の着方を教えてやって欲しいんだ」

 

 リタがキメラとはいえ見た目は少女そのものだ、公の場で俺が服を着させる訳にはいかないだろう。

 

「……どういう事?服の着方が分からないの?」

 

「後で説明する、頼めるか?」

 

「分かったわ」

 

 リタの背中を押してセシリアの傍(そば)まで行かせて、箱から少し距離を取る。

 従業員が何やってんだこいつらって目をしていたが気にしないでおく。

 

「よろしくな」

 

「ええ」

 

 リタと共に更衣室(こういしつ)に入っていくのを見送ってから、適当(てきとう)な椅子(いす)に座り魔法陣を展開する。

 『合成魔術』自体は特に珍しくはない、魔道具や薬品の作成にもよく使われている。それが対生物になると話は別だ、まず市販の魔導書(まどうしょ)なんかには載(の)って無いし、どこで学ぶってのもまったく不明だ。普通に生きてたらまず出会う事は無いだろう。

 

「ちょっと……!」

 

 まあ怒るよなそりゃ、最初からあの状態だったし文句はカルドリクに言って欲しいが。

 一度魔法陣を消して、更衣室(こういしつ)の傍(そば)まで歩いて行く。

 

「この子下に何も着て無いんだけど……!」

 

「それも後で纏(まと)めて説明する」

 

 セシリアの額を押して更衣室の中に押し戻す。

 

「あ、ちょっと!」

 

 さて、そんな謎だらけの魔術をカルドリクはどこで知ったのか、現状(げんじょう)だと証拠(しょうこ)が無さすぎてさっぱり分からない。周辺国のどっかか、名も知らぬ魔導士(まどうし)か……。

 

「わあ!とてもお似合いです……!」

 

 従業員の声で魔法陣を消す、どうやら着替えが終わったらしい。

 白を基調としたシャツに髪と同じ色をしたスカート、白い靴下(くつした)に焦げた茶色の靴。

 

「へえ、似合ってるな」

 

 長い黒髪は高い位置で二つに纏(まと)められているが、それでも膝下までの長さがある。

 

「次は髪をどうにかしなきゃな、幾らだ?」

 

「お会計ですね、他二組もご購入されますか?」

 

「ああ、残りは一組ずつで袋に詰めといてくれ」

 

「かしこまりました、そうしますと合わせて五十二万ガリアでございます」

 

 どうやら高級店に入ってしまったらしい。

 

「五十二万ね、んじゃ丁度で」

 

 腕輪から召喚した札束(さつたば)を従業員に手渡す。

 

「はい、五十二万ガリア確かにお預かりしました」

 

 薬草の取引で手に入った金が全部吹っ飛んだが、必需品(ひつじゅひん)だしまあ良いか。

 

「こちらお品物でございます」

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございました、またお越しくださいませ」

 

 袋ごと腕輪(うでわ)に収納(しゅうのう)し、リタの手を引いて店の外に出る。

 

「躊躇(ためら)うかと思ったけど、気前が良いのね」

 

「せっかくのもんだしな」

 

 本音を言えばここまでの物を買うつもりは無かったが、他に金を使う事も無いし別にいいだろう。

 

「髪切ってくれる店とか知ってるか?」

 

「ええ知ってるわ、案内するから付いて来て」

 

「流石、リタ行くぞ」

 

 道行く人々を眺(なが)めるリタを引き、先を行くセシリアの隣に並ぶ。

 

「随分(ずいぶん)かわいがってるじゃない、アンタ子供好きなの?」

 

「嫌いでは無いんじゃねえかな」

 

 ライルもリタも素直だし少なくとも嫌う要素は無い。

 

「ふーん……」

 

 他愛(たあい)のない会話をしながら街中を歩いていると、建物の前で不意(ふい)にセシリアが立ち止まる。

 

「ついたわよ」

 

「洒落(しゃれ)てる店だな、流石(さすが)はセシリア」

 

「なによそれ」

 

 敢(あ)えて黒く焦がした木材を使った建築は、何度か見た事がある。確か火が付きにくくなって、火災を若干(じゃっかん)防(ふせ)げるんだったか。木だけあって完全にってのは無理だろうが、遅くなるならそれで十分(じゅうぶん)だ。

 窓は様々な色の硝子(がらす)を、一枚にして枠に嵌(は)め込んだ物だ。この規模の建物で使われてるのは初めて見る、店主は随分(ずいぶん)と洒落(しゃれ)た人間らしい。

 扉を開けて中に入っていくセシリアに続き入店すると、片耳(かたみみ)に青い花を模(も)した耳飾(みみかざり)りを着けた女性に出迎えられた。

 

「いらっしゃいませ、あら、お友達?」

 

「大体(だいたい)そんなところよ」

 

「リュートだ、よろしくな」

 

「マナレアよ」

 

 マナレアと握手(あくしゅ)をしてから、リタの背を押して前に行かせる。

 

「早速だけど、髪切って貰えるか」

 

「可愛らしいお客様ね、そこに座って待ってて、すぐに準備するから」

 

 マナレアはリタの前で屈(かが)み微笑(ほほえ)んでから店の裏へと下がり、沢山の道具が差さった前掛(まえか)けを身に着けて戻って来た。

 

「髪型に注文はあるかしら」

 

「似合(にあ)う感じのやつにしてやってくれ、あと生活に不便(ふべん)が無い感じに」

 

 リタの好みは分からないが、その道の玄人(くろうと)に任せておけば大丈夫(だいじょうぶ)だろう。

 

「なるほどね、解(ほど)いてから決めましょうか」

 

 髪を纏(まと)めていた紐(ひも)が解かれると、長い黒髪にリタの身体が隠されてしまった。

 

「綺麗(きれい)な黒髪ね、指通りも良いし切るのが勿体(もったい)ないくらい」

 

 マナレアは髪を指で梳(す)いてから、大きめの布を取り出しリタの首から下を覆(おお)う。

 

「まずは腰まで落としちゃって……、前は揃(そろ)えちゃいましょうか」

 

 マナリアはリタの後ろ髪に触(ふ)れ少しずつ束(たば)を作り、少しづつ切り落としていく。

 

「……」

 

 不意に足元へ飛んできた髪を拾い上げ、分析用(ぶんせきよう)の魔法陣を起動する。

 

 やはり構成する成分は人間となんら変わらない、つまりは肉体を合成した訳では無いのだろうか。

 

「……アンタ、なにしてんの?」

 

 セシリアがドン引きした表情で見ていた。

 確かに今の俺は少女の切り落とされた髪を観察している不審者(ふしんしゃ)だ、そんな表情になるのも分かる。

 

「後で説明する」

 

「アンタさっきからそればっかりじゃないの!」

 

「表で話せるような事じゃ無いんだって」

 

 髪を床に戻してリタの方に目をやると、マナレアが笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

「貴方達って仲良しなのね」

 

「はー!?だ、誰がこんなのと仲良しなのよ!」

 

 こんなのって凄い言い方だな、揶揄(からか)い過ぎてるから仕方ないが。

 

「訓練生時代(くんれんせいじだい)の同期(どうき)でな、まあ比較的仲が良い方なんじゃないか?」

 

「同期?つまり貴方って騎士様なのね」

 

「元だけどな、最近は個人で護衛(ごえい)なんかをやってるよ」

 

「あら、それって誰でも守ってもらえるのかしら」

 

「俺が嫌な奴じゃなかったらな、アンタなら今のところは大歓迎(だいかんげい)だ」

 

 俺も聖人(せいじん)じゃない、ムカつく奴とかの依頼(いらい)は金を貰っても受けるのはごめんだ。

 

「じゃあ家まで護(まも)って貰っちゃおうかしら?」

 

「何言ってるのマナレア!あんた十分強いんだから護衛なんていらないでしょ!」

 

 相変わらず照れたり落ち込んだり怒ったり忙しい奴だ、そこが面白くはあるんだが。

 

「怒られちゃった」

 

 マナレアが悪戯(いたずら)っぽく笑う。

 どうやら彼女もセシリア揶揄(からか)うのが好きらしい、結構気が合いそうだ。

 

「さ、終わったわよ」

 

 マナリアがリタの髪を櫛(くし)で整えると、首から下げた布を外し椅子をこちらに向ける。

 

「どうかしら?」

 

 リタの顔を隠す程の前髪は眉(まゆ)の辺りで切り揃(そろ)えられ、綺麗な緑色の瞳がはっきりと見えるようになっていた。

 

「かわいい……!」

 

 セシリアにも好評(こうひょう)らしく、口元を両手で覆(おお)い熱い視線を送っていた。

 

「リタちゃんの大きな目を生かすならこの辺りだと思ったの、正解みたいね」

 

 リタは新鮮そう前髪を揺(ゆ)らしているが、いつも視界を占領(せんりょう)していた物が無くなって面白いんだろうか。

 

「似合ってるな、気に入ったか?」

 

「きにいった」

 

「そりゃ何より、いくらだ?」

 

「今回は無料でいいわよ、その代わりまた来てね」

 

「そうか、じゃあその時はよろしくな」

 

「ええ、リタちゃんもまたね」

 

 マナレアが手を振(ふ)ると、少し間が空いてからリタが同じように手を振った。

 

「またね」

 

 

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