暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

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第十二話 憧憬の剣

 

 

 

「…………」

 

 夜。

 

 アルルカント・アカデミー。

 

 研究室。

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 自分の机。

 

 端末。

 

「…………」

 

 映像。

 

 再生。

 

 剣。

 

 一閃。

 

「…………」

 

 停止。

 

 巻き戻す。

 

 再生。

 

「…………」

 

 もう一度。

 

 停止。

 

「そこ」

 

 小さく。

 

 呟く。

 

「前と違う」

 

 画面。

 

 天霧綾斗。

 

 踏み込み。

 

 斬撃。

 

 回避。

 

 再び。

 

 剣。

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 身を乗り出す。

 

「この時」

 

 一拍。

 

「重心変えた?」

 

「変えてるね」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 ゆっくり。

 

 横。

 

 見る。

 

「何でいる」

 

 エルネスタ。

 

 隣。

 

 同じ画面。

 

 覗き込んでいた。

 

「いつから?」

 

「三分くらい前」

 

「声かけろよ!」

 

「集中してたから」

 

「…………」

 

「邪魔しちゃ悪いかなって」

 

「今邪魔したけどな」

 

「ごめんごめん」

 

 全く。

 

 悪びれていない。

 

「で」

 

 エルネスタ。

 

 椅子。

 

 引く。

 

「何回目?」

 

「何が」

 

「この試合見るの」

 

「…………」

 

「十回?」

 

「…………」

 

「二十?」

 

「…………」

 

「三十?」

 

「数えてない」

 

「それ」

 

 一拍。

 

「ファンの答えだよ」

 

「違う」

 

「何が?」

 

「剣が好きなだけ」

 

「はいはい」

 

「本当に」

 

「分かってるって」

 

「…………」

 

「綾斗くん本人じゃなくて」

 

 一拍。

 

「綾斗くんの剣が好き」

 

「そう」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 少し。

 

 笑う。

 

「それ」

 

「?」

 

「本人に言ったら」

 

 一拍。

 

「結構喜ぶと思うけどなぁ」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 止まる。

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

「?」

 

「別に」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 にや。

 

「会いたくない?」

 

「…………」

 

「綾斗くん」

 

「…………」

 

「…………」

 

「今はいい」

 

「何で?」

 

「何でもいいだろ」

 

「へぇー?」

 

「その顔やめろ」

 

     ◇

 

「何を見ている?」

 

 翌日。

 

 昼。

 

 カミラ。

 

 ハイセの端末。

 

 見る。

 

「……また天霧綾斗か」

 

「ああ」

 

「昨日も見ていただろう」

 

「見た」

 

「一昨日も」

 

「…………」

 

「その前も」

 

「…………」

 

「ハイセ」

 

「何」

 

「エルネスタの言う通り」

 

 一拍。

 

「かなり気に入っているんだな」

 

「だから」

 

 ハイセ。

 

「剣が」

 

「分かっている」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 映像。

 

 見る。

 

「それで」

 

「?」

 

「今日は何を調べている」

 

「調べてるっていうか」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 考える。

 

「違い」

 

「違い?」

 

「ああ」

 

「どの試合でも」

 

 一拍。

 

「同じ剣じゃない」

 

「…………」

 

「相手」

 

「……」

 

「武器」

 

「……」

 

「間合い」

 

「……」

 

「状況」

 

「…………」

 

「全部」

 

 一拍。

 

「変えてる」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

「当然ではないのか?」

 

「そうだけど」

 

 ハイセ。

 

 巻き戻す。

 

「普通」

 

 一拍。

 

「得意な型」

 

「……」

 

「あるだろ」

 

「……」

 

「でもこいつ」

 

 一拍。

 

「型に相手を合わせるんじゃなくて」

 

「……」

 

「相手に」

 

 一拍。

 

「自分を合わせてる」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 少し。

 

 目。

 

 細める。

 

「なるほど」

 

「だから」

 

 ハイセ。

 

 画面。

 

「綺麗なんだと思う」

 

「…………」

 

「力押しじゃない」

 

「……」

 

「速いからでもない」

 

「……」

 

「武器が強いからでもない」

 

「…………」

 

「必要なものを」

 

 一拍。

 

「必要なだけ使う」

 

「…………」

 

「無駄がない」

 

 カミラ。

 

「まるで」

 

 一拍。

 

「汎用性の高い剣だと言いたげだな」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 驚く。

 

「……確かに」

 

「?」

 

「似てるかも」

 

「何が」

 

「アンタの研究と」

 

「…………」

 

「綾斗の剣」

 

 カミラ。

 

 瞬く。

 

「どういう意味だ?」

 

「何でも出来るから」

 

「……」

 

「じゃなくて」

 

「…………」

 

「状況に合わせて」

 

 一拍。

 

「必要な形になる」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 画面。

 

「だから」

 

 一拍。

 

「強い」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 しばらく。

 

 黙る。

 

「面白い見方だな」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

「ハイセ」

 

「ん?」

 

「やはり」

 

 一拍。

 

「本人に会ってみればいい」

 

「…………」

 

 沈黙。

 

「何故黙る」

 

「別に」

 

「嫌なのか?」

 

「嫌じゃない」

 

「なら」

 

「…………」

 

「会えばいいだろう」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 目。

 

 逸らす。

 

「そのうち」

 

「…………」

 

「何?」

 

「いや」

 

 カミラ。

 

 少し。

 

 笑う。

 

「意外だと思ってな」

 

「何が」

 

「君にも」

 

 一拍。

 

「躊躇することがあるんだな」

 

「あるわ!」

 

「強敵へ喧嘩を売るのは平気なのに」

 

「それとこれとは違う」

 

「何が違う?」

 

「…………」

 

「ハイセ?」

 

「うるせぇ」

 

     ◇

 

「結論」

 

 午後。

 

 エルネスタ。

 

「ハイセくんは」

 

 一拍。

 

「推しに会うのが恥ずかしい」

 

「違う」

 

「違わない」

 

「違う」

 

「じゃあ」

 

「?」

 

「今から天霧綾斗くんに連絡――」

 

「待て」

 

 ハイセ。

 

 速い。

 

 エルネスタの。

 

 手首。

 

 掴む。

 

「…………」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 にや。

 

「今の反応」

 

 一拍。

 

「実戦より速かったね」

 

「消せ」

 

「まだ送ってないよ?」

 

「連絡先消せ」

 

「無茶言うなぁ」

 

「エルネスタ」

 

 カミラ。

 

「勝手に連絡するな」

 

「カミラぁ」

 

「本人が」

 

 一拍。

 

「嫌がっている」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 カミラ。

 

 見る。

 

「…………」

 

「何だ」

 

「いや」

 

「?」

 

「助かった」

 

「当然だろう」

 

 カミラ。

 

「会うかどうかも」

 

 一拍。

 

「君が決めることだ」

 

「…………」

 

 また。

 

 それ。

 

「……ありがと」

 

「ああ」

 

 エルネスタ。

 

「じゃあ」

 

「?」

 

「会いたいって言った瞬間」

 

 一拍。

 

「即連絡するね!」

 

「それもやめろ」

 

     ◇

 

 その日の。

 

 研究。

 

「ハイセ」

 

「何」

 

「試作機だ」

 

「また?」

 

「ああ」

 

 新しい。

 

 煌式武装。

 

 受け取る。

 

「前回から」

 

 カミラ。

 

「使用者学習機能の」

 

 一拍。

 

「基礎部分だけを」

 

「……」

 

「実装した」

 

「もう?」

 

「まだ」

 

 一拍。

 

「限定的だ」

 

「…………」

 

「使用頻度」

 

「……」

 

「重心設定」

 

「……」

 

「出力傾向」

 

「…………」

 

「その程度を」

 

 一拍。

 

「記録するだけだ」

 

「でも」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 笑う。

 

「覚えるんだろ」

 

「ああ」

 

「武器が」

 

「ああ」

 

「…………」

 

「何だ」

 

「いや」

 

 一拍。

 

「面白い」

 

「…………」

 

「じゃ」

 

 起動。

 

 剣。

 

「試す」

 

     ◇

 

 一時間。

 

 二時間。

 

 三時間。

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 試作機。

 

 振る。

 

「止め」

 

 カミラ。

 

「?」

 

「一度」

 

 一拍。

 

「設定を初期化する」

 

「何で?」

 

「比較だ」

 

「なるほど」

 

 初期化。

 

 再び。

 

 持つ。

 

「…………」

 

「どうだ?」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 振る。

 

「変」

 

「どこが」

 

「軽い」

 

「重量自体は同じだ」

 

「重心」

 

「…………」

 

「俺」

 

 一拍。

 

「いつも」

 

「……」

 

「先に寄せてたから」

 

「……」

 

「戻ると」

 

 一拍。

 

「変に感じる」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 画面。

 

「つまり」

 

 一拍。

 

「学習後の設定を」

 

「……」

 

「既に」

 

 一拍.

 

「自分の標準として認識し始めている」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

「これ」

 

 一拍。

 

「いいな」

 

「そうか」

 

「うん」

 

「何故?」

 

「使えば使うほど」

 

 一拍。

 

「自分の武器になっていく」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 少し。

 

 笑う。

 

「それが」

 

 一拍。

 

「狙いだ」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 試作機。

 

 見る。

 

「…………」

 

 ふと。

 

 頭。

 

 浮かぶ。

 

 天霧綾斗。

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「いや」

 

「?」

 

「綾斗だったら」

 

 一拍。

 

「どう設定するかなって」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 観測室。

 

 声。

 

「ほらファンじゃん!」

 

「うるせぇ!」

 

     ◇

 

「でも」

 

 エルネスタ。

 

 実験後。

 

「いい発想だよね」

 

「何が」

 

「同じ武器でも」

 

 一拍。

 

「綾斗くんが使うのと」

 

「……」

 

「ハイセくんが使うのじゃ」

 

「……」

 

「最後は別物になる」

 

「…………」

 

「それ」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 考える。

 

「そうだな」

 

「うん」

 

「…………」

 

「ハイセくん」

 

「?」

 

「綾斗くんの剣」

 

 一拍。

 

「自分で使いたくならない?」

 

「…………」

 

 以前も。

 

 聞かれた。

 

 答えは。

 

「…………」

 

「今は」

 

 一拍。

 

「ならない」

 

「やっぱり?」

 

「ああ」

 

「何で?」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 考える。

 

「だって」

 

 画面。

 

 天霧綾斗。

 

「それ」

 

 一拍。

 

「綾斗が作った剣だろ」

 

「…………」

 

「俺が」

 

 一拍。

 

「そのまま真似しても」

 

「……」

 

「綾斗にはならない」

 

「…………」

 

「それに」

 

 試作ルークス。

 

 見る。

 

「俺には」

 

 一拍。

 

「俺の戦い方がある」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 目。

 

 細める。

 

「へぇ」

 

「何」

 

「いいね」

 

「何が」

 

「そういうところ」

 

「…………」

 

「でも」

 

 一拍。

 

「もし」

 

「?」

 

「その技術を」

 

 一拍。

 

「丸ごとコピーするんじゃなくて」

 

「……」

 

「ハイセくんの戦い方へ」

 

 一拍。

 

「組み込めるとしたら?」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 止まる。

 

「エルネスタ」

 

 カミラ。

 

「…………」

 

「何?」

 

「今」

 

 一拍。

 

「また余計な種を撒いただろう」

 

「仮定だよ?」

 

「お前の仮定は」

 

 一拍。

 

「後で研究計画になる!」

 

「でも」

 

 エルネスタ。

 

「コピーじゃなくて」

 

「……」

 

「学習して」

 

「……」

 

「自分のものへ変える」

 

「…………」

 

「それなら」

 

 一拍。

 

「ちょっと面白くない?」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 黙る。

 

 天霧綾斗の剣。

 

 そのまま。

 

 欲しいわけではない。

 

 だが。

 

 もし。

 

 あの。

 

 美しい剣を。

 

 学んで。

 

 自分のものへ。

 

 出来るなら。

 

「…………」

 

「ハイセ」

 

 カミラ。

 

「考えるな」

 

「まだ何も言ってない」

 

「顔で分かる!」

 

「…………」

 

「……少し」

 

「考えるな!」

 

「少しだけ!」

 

「駄目だ!」

 

     ◇

 

 夜。

 

 研究室。

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 再び。

 

 戦闘ログ。

 

「また見てる」

 

「うわっ!」

 

 今度。

 

 カミラ。

 

「アンタまで気配消すな!」

 

「普通に歩いてきた」

 

「…………」

 

「集中しすぎだ」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

 カミラ。

 

 隣。

 

 立つ。

 

「天霧綾斗」

 

「ああ」

 

「…………」

 

「何?」

 

「いや」

 

 一拍。

 

「好きなものが」

 

「?」

 

「見つかって良かったな」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 固まる。

 

「何だよ急に」

 

「悪いか?」

 

「悪くないけど」

 

「…………」

 

「……変な感じ」

 

「何故」

 

「誰かに」

 

 一拍。

 

「好きなもの」

 

「……」

 

「良かったなって」

 

 一拍。

 

「言われるの」

 

「…………」

 

「あんまないから」

 

 カミラ。

 

 少し。

 

 表情。

 

 変わる。

 

「そうか」

 

「うん」

 

「なら」

 

 一拍。

 

「何度でも言えばいい」

 

「…………」

 

「好きなものがあることは」

 

 一拍。

 

「悪いことではない」

 

「…………」

 

「それを」

 

 一拍.

 

「どうするかは」

 

「……」

 

「君が決めればいい」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 画面。

 

 見る。

 

 剣。

 

 綾斗。

 

「……うん」

 

     ◇

 

「じゃあ」

 

 カミラ。

 

「帰るぞ」

 

「え?」

 

「もう遅い」

 

「もうちょい」

 

「駄目だ」

 

「あと一試合」

 

「昨日も同じことを言った」

 

「今日は違う試合」

 

「意味は同じだ」

 

「…………」

 

「ハイセ」

 

「何」

 

「帰るぞ」

 

「…………」

 

「……はい」

 

 二人。

 

 研究室。

 

 出る。

 

「カミラ」

 

「何だ」

 

「綾斗に」

 

「?」

 

「いつか」

 

 一拍。

 

「会ってみようかな」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 少し。

 

 笑う。

 

「そうか」

 

「うん」

 

「なら」

 

 一拍.

 

「その時は」

 

「?」

 

「自分で会いに行け」

 

「…………」

 

「エルネスタに」

 

 一拍.

 

「勝手に連絡される前にな」

 

「…………」

 

「それは」

 

 一拍。

 

「確かに」

 

     ◇

 

 一方。

 

 少し。

 

 離れた場所。

 

「くしゅん」

 

「綾斗?」

 

「……何でもないよ」

 

 星導館学園。

 

 一人の少年。

 

 天霧綾斗。

 

「風邪?」

 

「多分違うと思う」

 

 本人は。

 

 まだ。

 

 知らない。

 

 アルルカントに。

 

 自分の剣を。

 

 何十回も。

 

 繰り返し見る。

 

 奇妙な転校生が。

 

 存在することを。

 

 まして。

 

 その男が。

 

 やがて。

 

 自分の剣を。

 

 心から。

 

 美しいと認め。

 

 その技術を。

 

 自らの未来の一部として。

 

 選ぶことになるなど。

 

 知るはずもなかった。

 

     ◇

 

 そして。

 

 ハイセも。

 

 まだ。

 

 知らない。

 

 憧れ。

 

 という。

 

 たった一つの。

 

 感情が。

 

 いつか。

 

 命を懸けた。

 

 選択を。

 

 支えることになる。

 

 今は。

 

 ただ。

 

「…………」

 

 翌日も。

 

 端末。

 

 開く。

 

 天霧綾斗。

 

 戦闘記録。

 

「……やっぱ」

 

 一拍。

 

「綺麗だな」

 

「また見てるー!」

 

「エルネスタ!」

 

「今日は何周目?」

 

「数えてねぇ!」

 

「絶対ファン!」

 

「剣のな!!」

 

 研究室。

 

 朝から。

 

 いつもの。

 

 声。

 

 響く。

 

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