暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ 作:カミッシー
王竜星武祭――リンドヴルム決勝戦。
大型モニターへ二人の名前が並んだ瞬間、それまで騒然としていた会場の熱気が、一段階上へ跳ね上がった。
片方は、これまで数々の星武祭でその名を轟かせてきた世界最高峰の歌姫、シルヴィア・リューネハイム。
もう片方は、今大会で突然姿を現し、僅か数試合の間に既存の評価基準を破壊してきた新鋭――ハイセ・ササキ。
【暗律の戦乙女(ヤミキューレ)】。
Yami_Q_ray。
歌を媒介とした現象干渉能力を持つ二人が、最後の一席を争う。
それだけでも十分すぎるほど話題性のある対戦だった。
だが。
ハイセが入場通路からアリーナへ姿を現した直後、その足が完全に止まった。
「…………」
反対側から歩いてくるシルヴィアを見たまま、動かない。
「どうしたの?」
シルヴィアはいつもの笑顔を浮かべている。
問題は、その身体を覆っているものだった。
白と金を基調とし、光を受けるたびに薄い虹色の粒子を散らすバトルスーツ。ステージ衣装と戦闘装備を無理矢理一つにまとめたような、大胆すぎるデザインだった。
そして何より。
見覚えがある。
「……それ」
「うん?」
「何で持ってるの?」
シルヴィアが、自分の衣装へ視線を落とす。
「《女神の羽衣(フレイア=プロト)》?」
「やっぱりフレイアじゃん!」
ハイセが思わず声を上げた。
観客には何の話か分からない。
しかしアルルカント関係者席では、カミラが既に片手で顔を覆っていた。
「エルネスタ」
「なぁに?」
「説明しろ」
「ハイセ君と昔作った試作品だよ?」
「それは知っている! 何故シルヴィアが着ている!」
カミラが怒鳴ると、隣のヒルダが愉快そうに笑った。
「本人が欲しがったからだ」
「お前に聞いていない!」
「ちなみに【雛形】のコピーも搭載済みだ」
「聞いていないと言っているだろうが!!」
「未完成版だとも」
「そういう問題ではない!!」
そのやり取りを遠目に見ながら、ハイセは嫌な顔をした。
「……なくしたと思ってた」
「カミラが回収してたみたいよ」
シルヴィアが笑顔で答える。
「何で渡したの?」
視線が。
カミラへ向く。
「こっちを見るな!」
即座に返事が飛んできた。
「色々あったんだ!!」
「色々って?」
「知らなくていい!」
するとシルヴィアが、何気なく付け加えた。
「ヒルダさんの生体データの件を水に流す代わりに――」
「シルヴィア!」
カミラの悲鳴が響いた。
ハイセは数秒黙ったあと、全てを察したように頷いた。
「……脅されたんだ」
「交渉よ」
「脅迫だろ」
「交渉よ?」
「はい」
ハイセはそれ以上追及しなかった。
何故か。
今のシルヴィアには。
逆らわない方がいい気がした。
◇
「それ、ちゃんと使えるの?」
開始位置へ向かいながら、ハイセが尋ねた。
「試運転はしたわ」
「代償は?」
「ないわよ」
「適合条件は?」
「そこは面白かったわね」
シルヴィアは軽く腕を広げる。
「この子、使い手の自己認識が不安定だと出力まで崩れるみたい」
「ああ……」
ハイセは少し遠い目をした。
「エルネスタがそんなこと言ってた気がする」
「覚えてないの?」
「作ったあと無くしたから」
「自分で作った純星煌式武装をなくす人、初めて見たわ」
「俺も初めて」
「あなたのことよ」
シルヴィアが吹き出す。
だが次の瞬間、彼女の周囲を漂う雰囲気が変わった。
《フレイア=プロト》が微かに発光する。
シルヴィア自身のプラーナ。
感情。
能力。
そして「自分は何者なのか」という揺るぎない自己像へ反応し、装備全体が彼女の身体の延長のように同期し始める。
「……すごいな」
ハイセが素直に呟いた。
「自分で作ったんでしょう?」
「俺が使った時より似合ってる」
「使ったことあるの?」
「一回だけ」
「どうだった?」
「合わなかった」
「どうして?」
「そこまで自分のこと好きじゃなかったからかな」
軽く言ったその言葉に。
シルヴィアは少しだけ。
ハイセを見る目を変えた。
「今は?」
「今?」
ハイセは自分の身体へ目を落とす。
暗紫色の髪。
女性型へ作り替えられた身体。
新しい声。
以前とは異なる星辰力経路。
そこへ。
少しだけ。
笑う。
「嫌いじゃないよ」
「そう」
シルヴィアも笑った。
「それなら十分ね」
◇
試合開始まで。
残り十秒。
ハイセはウォーレ=ザインへ手を添える。
シルヴィアは《フレイア=プロト》の出力を上げる。
両者とも。
最初から。
歌うつもりだった。
三。
二。
一。
開始音。
そして。
二つの歌声が。
同時に。
アリーナへ響いた。
◇
最初に世界を染めたのは、シルヴィアだった。
『破滅の純情』。
強く。
激しく。
それでいて。
どこまでも彼女自身の存在感を失わない歌声が、一瞬で観客の意識を掴んだ。
その歌へ《フレイア=プロト》が反応する。
発光。
増幅。
現象干渉。
シルヴィアが一音を発するたびに、周囲のプラーナが彼女の意思に同調していく。
「っ……!」
ハイセの足元が爆ぜた。
見えない衝撃が。
横から襲う。
ウォーレ=ザインを抜き、一閃。
空間を断つ。
衝撃そのものが。
途中で。
二つに分かれた。
それでも。
シルヴィアの歌は止まらない。
次の現象。
次の現象。
炎ではない。
雷でもない。
単一の魔法では。
説明出来ない。
彼女が歌の中で描いた世界そのものが、現実へ次々と姿を現していく。
「……やっぱり」
ハイセは歌いながら笑った。
強い。
そして。
楽しい。
◇
ハイセも『Perfect Showdown!』を歌う。
以前とは。
もう。
違っていた。
初戦では。
プラーナを増幅するために歌った。
二戦目では。
高出力攻撃を成立させるために。
三戦目では。
オーフェリアが作った世界へ。
自分の法則を侵入させるために。
しかし。
今は。
何かを。
発動するためではない。
歌うことそのものが。
戦っている。
【武器マスター】も。
当然のように。
反応していた。
歌を。
声を。
呼吸を。
身体を。
プラーナを。
全て。
ハイセが扱う一つの武器として。
理解する。
◇
「性能差が縮まってる」
エルネスタが計測値を追う。
「どっちが?」
綾斗が尋ねる。
「両方」
「両方?」
「フレイア側の【雛形】がハイセ君の戦い方を学習して、シルヴィアに合わせて出力制御を変えてる。でも」
画面を切り替える。
「ハイセ君も、それを見て戦い方を変えてる」
シルヴィアが適応する。
ハイセが適応する。
未完成【雛形】が学習する。
その結果へ。
ハイセがまた適応する。
再び。
【雛形】が。
学習する。
「……終わらないじゃん」
「そうだ」
カミラの顔が引きつっている。
「互いが互いの教師データになっている」
ヒルダが隣で。
大変楽しそうに。
笑った。
「キヒヒヒヒ!」
「笑っている場合か!」
「最高の学習環境ではないか!」
「決勝戦を研究環境として評価するな!」
「だが事実だ!」
エルネスタが画面を見たまま付け加える。
「ちなみに地下の本体にも同期されてるよ」
「切れ!」
「無理」
「何故!?」
「もう始まってるから」
カミラは。
椅子の背もたれへ。
頭を預けた。
「……未来の私に謝っておこう」
◇
戦況は。
シルヴィア優勢だった。
単純な歌唱能力。
現象干渉の経験。
その二つだけなら。
当然。
彼女の方が上。
さらに《フレイア=プロト》が。
その差を。
増幅する。
シルヴィアの周囲では。
歌そのものが。
世界の法則になり始めている。
ハイセはウォーレ=ザインで。
何度も。
その支配領域を断った。
しかし。
一度切れば。
次は。
同じ形では。
来ない。
「……厄介!」
ハイセが笑う。
シルヴィアも。
歌の合間に。
少しだけ。
笑った。
まるで。
返事をするように。
次の干渉が。
襲う。
上。
斬る。
左。
避ける。
後ろ。
振り向かない。
ウォーレ=ザインを。
逆手に。
滑らせる。
青い軌跡が。
背後の空間を。
切り裂いた。
◇
ハイセは。
違和感を覚えた。
遅い。
違う。
自分が。
まだ。
動きすぎている。
シルヴィアの現象を。
見てから。
対応している。
切る。
避ける。
守る。
全て。
正しい。
だが。
余計だ。
「…………」
歌いながら。
綾斗との。
訓練を。
思い出す。
右肩。
視線。
重心。
攻撃の前に。
必ず。
何かがある。
武器も。
人間も。
世界も。
突然。
結果だけを。
生み出すわけではない。
結果へ至る。
過程がある。
なら。
そこを見る。
◇
一つ。
捨てる。
速度。
シルヴィアより。
先に動こうとする必要はない。
一つ。
捨てる。
力。
現象を。
全部切る必要はない。
一つ。
捨てる。
距離。
近づかなければ。
勝てないわけではない。
一つ。
また。
捨てる。
勝ちたいという。
焦り。
ウォーレ=ザインが。
澄んだ。
青い音を。
鳴らした。
◇
「……変わった」
綾斗が呟く。
「何が?」
シルヴィアの応援席にいた者が聞く。
「ハイセの動き」
少なくなった。
明らかに。
先ほどまでの。
半分以下。
それでも。
攻撃を。
受けない。
一歩。
一歩。
歩くだけで。
シルヴィアの。
現象干渉が。
身体の横を。
通り過ぎていく。
「避けてる……?」
「違う」
綾斗は。
目を細める。
「最初から、そこにいないんだ」
◇
ハイセ自身には。
特別なことをしている感覚はなかった。
見える。
それだけ。
シルヴィアの呼吸。
声帯の動き。
プラーナの流れ。
《フレイア=プロト》の感応。
【雛形】の補正。
現象が。
生まれる前。
世界の中に。
僅かな。
歪みが出来る。
そこから。
何が来るのか。
分かる。
いや。
分かるという表現も。
違った。
身体が。
もう。
知っている。
「…………」
これまで。
ハイセは。
武器を理解してきた。
だが。
今。
初めて。
理解する対象の中へ。
自分自身まで。
含まれた。
自分は。
何が出来る。
何が出来ない。
どこまで。
届く。
どこから先は。
届かない。
全部。
ありのまま。
そこにある。
◇
シルヴィアも。
気づいた。
「……そう」
歌いながら。
笑う。
ハイセが。
変わった。
強くなった。
そんな。
単純な話ではない。
むしろ。
余計なものを。
なくしている。
シルヴィアは。
《フレイア=プロト》の。
出力を。
さらに。
引き上げた。
感応増幅。
自身の歌。
自身の意思。
自身の存在。
全てが。
一気に。
現実へ。
広がる。
アリーナ全体が。
シルヴィア・リューネハイムという。
一人の歌姫の。
ステージへ。
塗り替えられていく。
◇
「うわ……」
エルネスタが。
初めて。
声を失った。
それほど。
圧倒的だった。
《フレイア=プロト》は。
シルヴィアのために。
作られた武器ではない。
にもかかわらず。
今。
その能力は。
まるで。
彼女へ出会うために。
存在していたかのように。
完全に。
噛み合っている。
「適合率は?」
カミラが尋ねる。
「理論値超えてる」
「どういう意味だ?」
「未完成【雛形】がフレイアの構造そのものを、シルヴィア向けに再調整し始めてる」
「…………」
「ねえカミラ」
「言うな」
「これさ」
「言うな!」
「完成版より――」
「言うなと言っている!!」
ヒルダが。
高らかに。
笑った。
「キヒヒヒヒ! 試作品が実戦で自己進化しているぞ!」
「お前が一番喜ぶな!!」
◇
シルヴィアの歌が。
会場を支配する。
ハイセの周囲。
逃げ道が。
消えていく。
前。
現象干渉。
後ろ。
同じ。
上空。
プラーナの奔流。
足元。
空間そのものが。
揺らぐ。
それでも。
ハイセは。
不思議なくらい。
静かだった。
ウォーレ=ザインを。
一度。
下ろす。
剣を。
構えない。
防御も。
しない。
ただ。
歌う。
シルヴィアが。
自分の世界を。
歌うなら。
自分も。
自分の世界を。
歌えばいい。
相手を。
塗り潰す必要など。
ない。
シルヴィアの歌が。
存在する。
自分の歌も。
存在する。
それでいい。
◇
その瞬間。
二つの現象支配領域が。
初めて。
衝突せず。
重なった。
「――!」
シルヴィアの瞳が。
大きく。
開く。
これまで。
互いの歌は。
現実の主導権を。
奪い合っていた。
だが。
ハイセが。
争うことを。
やめた。
シルヴィアの歌を。
消さない。
拒否しない。
その世界の中に。
自分の歌を。
通す。
「……なるほど」
シルヴィアが。
微笑んだ。
「そう来るのね」
◇
ハイセの視界が。
澄む。
シルヴィア。
フレイア=プロト。
未完成【雛形】。
歌。
現象。
全て。
見えている。
だが。
狙うのは。
どれでもない。
勝つために。
シルヴィアの力を。
壊す必要はない。
フレイアも。
壊さない。
歌も。
止めない。
ただ。
一つ。
大会の。
勝利条件。
校章。
それだけ。
「…………」
ハイセの口元が。
僅かに。
上がった。
マディアスへ。
向けたのと。
同じ。
考え方。
全部。
倒す必要など。
ない。
勝利条件だけを。
取る。
◇
『Perfect Showdown!』が。
最後の。
サビへ入る。
ハイセは。
ウォーレ=ザインを。
ゆっくり。
構えた。
青い刀身が。
今までで。
最も静かな。
光を放つ。
その声も。
叫んでいない。
力んでいない。
ただ。
真っ直ぐ。
アリーナへ。
届く。
«使命を果たせ 今こそ 完璧な旋律で»
«どう足掻きもがこうと 無駄なことさ»
«恐れることはない 己の正しさを»
«最後の最後まで 貫くまで»
一歩。
ハイセが。
前へ出る。
シルヴィアの現象干渉が。
左右から。
襲う。
その間。
ほんの。
僅かな。
隙間。
ハイセは。
そこを。
歩く。
«Show down!»
«Show down!»
«轟かせろ!»
フレイア=プロトが。
最大出力へ。
到達する。
シルヴィアの歌声が。
ぶつかる。
彼女も。
退かない。
自分の歌を。
自分自身を。
最後まで。
貫く。
現象と。
現象。
歌と。
歌。
正面から。
重なる。
«Show down!»
«Show down!»
«勝利を我らの手に!!!»
ハイセの姿が。
消えた。
速くなったのではない。
必要な動きだけ。
残した。
踏み込み。
一つ。
剣閃。
一つ。
それだけ。
ウォーレ=ザインは。
シルヴィアを。
斬らない。
フレイア=プロトも。
斬らない。
現象干渉すら。
斬らない。
ただ。
世界の中にある。
一点。
校章へ。
届く。
«Show down!»
青い光が走る。
«Show down!»
シルヴィアが最後まで歌う。
«Show down!»
ハイセも。
止めない。
そして。
«さあ、フィナーレの時間だ!»
乾いた音が。
響いた。
シルヴィアの。
校章が。
真っ二つに。
割れた。
◇
歌が。
終わる。
誰も。
すぐには。
声を出せなかった。
ハイセも。
シルヴィアも。
その場に。
立っている。
怪我は。
ない。
フレイア=プロトも。
無傷。
ウォーレ=ザインも。
静かに。
青い光を。
放っている。
ただ。
勝利条件だけが。
満たされた。
大型モニターが。
切り替わる。
WINNER
HAISE SASAKI
【暗律の戦乙女(ヤミキューレ)】
Yami_Q_ray
一瞬の。
静寂。
その後。
リンドヴルム会場が。
爆発した。
◇
「……負けちゃった」
シルヴィアは割れた校章へ目を落としてから、ゆっくり顔を上げた。
「ギリギリだった」
ハイセが答える。
「本当に?」
「ああ。《フレイア=プロト》、あんな使い方出来ると思ってなかった」
「作った本人でしょう?」
「俺が使えなかったから」
「それはそうね」
二人とも。
少しだけ。
笑った。
シルヴィアは。
ハイセを。
しばらく見つめる。
そして。
「良かった」
「何が?」
「ちゃんと」
一度。
言葉を。
止める。
「私の歌じゃなかった」
「…………」
ハイセは。
少しだけ。
目を丸くした。
第24話。
シルヴィアから。
言われた。
自分の歌にしろ。
その約束を。
思い出す。
「当たり前だろ」
「ええ」
シルヴィアは。
嬉しそうに。
笑った。
「あなたの歌だった」
ハイセも。
笑う。
「ああ」
そして。
自分の胸へ。
軽く。
手を置いた。
「俺の歌だ」
◇
アルルカント関係者席では、綾斗が静かに拍手をしていた。
「綾斗」
ハイセが気づき。
少し照れたように。
視線を逸らす。
綾斗は。
笑った。
「おめでとう」
「……ありがとう」
その一言だけは。
妙に。
嬉しそうだった。
シルヴィアが。
隣で。
気づく。
「やっぱり綾斗に褒められると顔に出るのね」
「今それ言う?」
「決勝で負けたんだから、これくらい言わせて」
「八つ当たりじゃん」
「そうかも」
◇
「……終わった」
カミラは椅子へ深く腰を下ろした。
ようやく。
全部。
終わった。
遥は自由になった。
綾斗は自分の意思で盤上を降りた。
ハイセは、自分で選んでリンドヴルムへ入り。
そして。
優勝した。
マディアス・メサが作ろうとしていた盤面は。
もう。
何処にも。
存在しない。
「カミラ」
エルネスタが。
横から呼ぶ。
「……今だけは休ませてくれ」
「【雛形】のログなんだけど」
「後にしろ」
「すごいことになってる」
「聞きたくない」
「ハイセ君の最終戦闘モデルとシルヴィアのフレイア適応データが――」
「聞きたくないと言っている!」
ヒルダが。
画面を見ながら。
笑い出した。
「キヒヒヒヒヒ……!」
カミラの。
顔が。
引きつる。
「……何だ」
「新しいモデルが生成された」
「消せ」
「まだ何も言っていないぞ?」
「お前が笑っている時点でろくなものではない!」
エルネスタまで。
画面を覗き込む。
「わぁ」
「何だ!」
「戦闘技術の個人最適化モデル」
「…………」
「ハイセ君が最後にやった、“余計な動きを削る”やつまで学習してる」
カミラは。
静かに。
両手で。
顔を覆った。
「……終わってない」
「何が?」
「何も終わってない……」
◇
別の場所。
マディアス・メサは。
決勝戦の映像を。
無言で見ていた。
天霧綾斗。
いない。
天霧遥。
自由。
自分が必要としていた条件。
崩壊。
そこへ。
本来。
存在しなかった。
異世界人が。
割り込んだ。
その人間は。
リンドヴルムで。
優勝した。
しかも。
自分の計画など。
何一つ。
意識していないように。
「…………」
マディアスは。
ようやく。
理解した。
自分は。
負けたのではない。
戦う機会すら。
与えられなかった。
ハイセ・ササキは。
自分を。
倒しに来たのではない。
自分が作った。
勝利条件を。
一つずつ。
消した。
結果。
自分の計画だけが。
盤上から。
消えた。
「……ふざけるな」
初めて。
声に。
感情が。
混じった。
だが。
もう。
遅い。
◇
表彰式。
ハイセは。
リンドヴルムの。
頂点へ。
立った。
歓声が。
降り注ぐ。
名前を。
呼ばれる。
【Yami_Q_ray】。
【暗律の戦乙女】。
新しい。
二つ名。
新しい。
身体。
新しい。
声。
しかし。
その中にいるのは。
最初から。
最後まで。
一人。
ハイセ・ササキだった。
カミラから。
選択肢を。
学んだ。
綾斗から。
剣を。
学んだ。
シルヴィアから。
歌を。
学んだ。
ヒルダと。
エルネスタから。
変化することを。
学んだ。
そのどれも。
自分ではない。
そして。
その全てが。
今の自分を。
作っている。
「…………」
ハイセは。
遠く。
空を。
見上げた。
異世界。
帰るべき。
自分の世界。
そこには。
まだ。
何も。
変わっていない。
弱い者が。
弱いという理由で。
捨てられる。
強くなった者だけが。
認められる。
あの世界。
なら。
持って帰ろう。
武器だけではない。
強さだけでもない。
ここで。
知った。
別の。
考え方を。
誰かが。
道を。
閉じる前に。
自分で。
選べる。
そんな。
仕組みを。
「……カミラ」
表彰台から。
小さく。
呼ぶ。
届く距離では。
ない。
それでも。
笑った。
「まだ」
この世界で。
やりたいことが。
増えた。
「終わってないな」
王竜星武祭は。
終わった。
しかし。
ハイセ・ササキの。
物語は。
ここから。
さらに。
大きく。
世界を。
変え始める。