暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

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第48話 会話は、消えない

 

 

 ヒジリとの決闘が終わった日の夕方。

 

 サーシャは王都へ戻ってからも、どうにも納得がいかなかった。敗北したことそのものではない。ヒジリは強かったし、戦いながらさらに強くなっていった。だから結果には文句がない。

 

 問題は、最後までヒジリが身につけていた黒銀の籠手だった。

 

「……やっぱり妙だ」

 

「何が?」

 

 宿の共有スペースでレイノルドが聞くと、サーシャは腕を組んだ。

 

「ヒジリの籠手だ。序盤と終盤で、明らかに性能が変わっていた」

 

「ヒジリ本人も『何か硬くなった』とか言ってたな」

 

「そうなんだよ」

 

 サーシャはそこが気になっていた。

 

 武器の性能を隠している人間の反応ではなかった。ヒジリ本人まで、戦闘中に自分の装備へ驚いていたのである。

 

「つまり、ヒジリも全部は知らなかった?」

 

 ピアソラが尋ねる。

 

「少なくとも、あの場で起きていたことを完全には理解していなかったと思う」

 

「じゃあ誰が理解してたのよ」

 

 その瞬間。

 

 一同の視線が、自然と一方向へ向いた。

 

「……ハイセ」

 

 サーシャの声が低くなる。

 

「いやいや、まだ決めつけるのは早いだろ」

 

 レイノルドが一応止める。

 

「最近のあいつを見て言ってる?」

 

 ピアソラが真顔で返した。

 

「…………」

 

「何で黙るのよ」

 

「擁護材料がなかった」

 

 

 翌日。

 

 ヒジリ本人も呼ばれた。

 

「これ?」

 

 王城の一室で、ヒジリが【ジークフリート】を机へ置く。

 

「ハイセ達から借りたんだよ。正確には、ディルクとヒルダって奴らから話が来たんだけどさ」

 

「……達?」

 

 サーシャが引っ掛かった。

 

「ハイセも関わってるのか?」

 

「たぶんね。アタシ、『これ付けてアンタと戦えばデータ取れる』くらいしか聞いてないし」

 

「…………」

 

 空気が変わった。

 

 ヒジリが首を傾げる。

 

「何、その顔」

 

「私との戦闘が試験だったとは聞いてない」

 

「え?」

 

「私は何も聞いてない」

 

「…………」

 

 今度はヒジリの方が黙った。

 

「マジ?」

 

「ああ」

 

「それ、アタシ悪くないよね?」

 

「お前には怒ってない」

 

「よかったぁ……」

 

 ヒジリは露骨に胸を撫で下ろした。

 

 直後。

 

「じゃあハイセが悪いじゃん」

 

「まだ確定ではない」

 

「いや、ほぼ確定じゃない?」

 

 ピアソラが冷静に刺した。

 

 

「調べれば分かる」

 

 そこで声を上げたのが、タイクーンだった。

 

「どうやって?」

 

「この籠手を貸してくれ」

 

 タイクーンは【ジークフリート】へ手を伸ばす。

 

 彼の魔法は、対象物や場所に残った魔力反応を手掛かりに、その周囲で交わされた音や会話の一部を再構成出来る。時間が経つほど精度は落ちるが、【ジークフリート】は戦闘前まで異世界側で調整されていたため、まだかなり新しい痕跡が残っていた。

 

「これで何か分かる?」

 

「完全な記録ではない。ただ、強く残っている言葉なら拾えるかもしれない」

 

 サーシャは即答した。

 

「やってくれ」

 

 遠く離れたアスタリスクで。

 

 この瞬間。

 

 カミラが何故か嫌な寒気を覚えた。

 

 

 タイクーンが魔法を発動する。

 

 【ジークフリート】の周囲へ淡い光が広がり、空中に魔力の波紋が浮かんだ。断片的なノイズの奥から、聞き覚えのない複数の声が少しずつ形を取っていく。

 

『……ヒジリにジークフリートを使ってもらう』

 

 ハイセの声だった。

 

「…………」

 

 サーシャの目が細くなる。

 

 次。

 

『そこまではいい』

 

 カミラ。

 

『サーシャと戦ってもらう』

 

『本人同士が了承するならいい』

 

『サーシャには武器のこと言わない』

 

 サーシャの眉間に、一本。

 

 さらに深い皺が刻まれた。

 

『駄目だ!!』

 

「カミラはまともだった」

 

 ピアソラが小さく呟く。

 

「少なくとも、この件ではな」

 

 サーシャはもう笑っていなかった。

 

 

 再現は続く。

 

『何で?』

 

『実験相手への説明と同意はどうした!』

 

『ヒジリにはするよ』

 

『サーシャの話をしている!』

 

『でも武器の性能言ったら、戦い方変えるかもしれない』

 

『当たり前だろう!』

 

 レイノルドが顔を覆った。

 

「駄目だ。完全にやってる」

 

「まだある」

 

 タイクーンは魔法を止めない。

 

 そして。

 

 最悪の部分が。

 

 出てきた。

 

『ハイセ』

 

 エルネスタの声。

 

『何?』

 

『サーシャをそんな風に使って、心は痛まないの?』

 

 短い沈黙。

 

 空中に。

 

 ハイセの姿まで。

 

 ぼんやり再構成される。

 

 口元。

 

 少し。

 

 悪い笑顔。

 

『違う』

 

『何が?』

 

 次の一言。

 

『踏み台だ! 扱いじゃない』

 

「…………」

 

 沈黙。

 

 完全な。

 

 沈黙だった。

 

「…………」

 

 サーシャが。

 

 ゆっくり。

 

 俯く。

 

 ヒジリが。

 

 一歩。

 

 後ろへ下がった。

 

「アタシ、帰った方がいい?」

 

「いた方がいい」

 

 ピアソラが答える。

 

「証人になるから」

 

「そっか」

 

 さらに一歩。

 

 下がった。

 

 

「ハイセは今どこだ」

 

 サーシャの声が。

 

 恐ろしいほど静かだった。

 

「たしかアスタリスク側」

 

 レイノルドが答える。

 

「呼べ」

 

「今?」

 

「今」

 

「でも向こうで仕事――」

 

「呼べ」

 

「はい」

 

 レイノルドは逆らわなかった。

 

 誰も。

 

 逆らわなかった。

 

 

 十五分後。

 

 世界間ゲートが開いた。

 

「何?」

 

 ハイセが。

 

 何も知らずに出てくる。

 

 暗紫色の長い髪。

 

 普段着。

 

 片手には、作業途中だったらしい端末。

 

「急に呼ばれたけど」

 

「座れ」

 

 サーシャが椅子を指差した。

 

「…………」

 

 ハイセが周囲を見る。

 

 ヒジリ。

 

 レイノルド。

 

 タイクーン。

 

 ロビン。

 

 ピアソラ。

 

 そして。

 

 机の上。

 

 【ジークフリート】。

 

「…………」

 

「座れ」

 

「はい」

 

 ハイセは素直に座った。

 

 危険察知だけは。

 

 かなり成長していた。

 

 

「これ」

 

 サーシャが【ジークフリート】を指差す。

 

「作ったな?」

 

「うん」

 

「私とヒジリを戦わせたな?」

 

「俺だけじゃないけど」

 

「質問に答えろ」

 

「はい」

 

「ヒジリには説明した」

 

「うん」

 

「私にはしなかった」

 

「うん」

 

「何故だ」

 

「知られたら自然な戦闘データにならないから」

 

「…………」

 

 ピアソラがそっと額を押さえた。

 

「こいつ、まだ普通に答えるわよ」

 

「正直ではあるな」

 

 タイクーンが言う。

 

「正直なら許されると思うな!!」

 

 サーシャが机を叩いた。

 

「思ってないよ」

 

「なら何でやった!!」

 

「データ欲しかったから」

 

「そこを迷え!!」

 

 

「それから」

 

 サーシャがタイクーンを見る。

 

「もう一度」

 

「本当に?」

 

「もう一度」

 

 ハイセの顔が。

 

 僅かに。

 

 引きつった。

 

「何するの?」

 

 誰も答えない。

 

 タイクーンが。

 

 再生する。

 

『サーシャをそんな風に使って、心は痛まないの?』

 

 ハイセが。

 

 固まった。

 

『違う』

 

 さらに。

 

 過去のハイセ。

 

 悪い笑顔。

 

『踏み台だ! 扱いじゃない』

 

 再生終了。

 

「…………」

 

 現在のハイセ。

 

 沈黙。

 

「言ったな?」

 

「…………」

 

「言ったな?」

 

「……そういえば言ったね」

 

「反省の第一声がそれかぁぁぁぁぁ!!」

 

 サーシャの怒声が。

 

 王城へ響いた。

 

 

「いや」

 

 ハイセは慌てて手を上げた。

 

「言い方は悪かったと思う」

 

「言い方だけか!?」

 

「使ったことも」

 

「遅い!!」

 

「でもヒジリは強くなったし」

 

「私の同意はどこへ行った!」

 

「…………」

 

 そこだけは。

 

 ハイセも。

 

 言い返せなかった。

 

 サーシャは。

 

 怒鳴るのを止める。

 

「ハイセ」

 

「うん」

 

「お前は昔、私達に自分の人生を決められたことを怒っていたな」

 

「……うん」

 

「私達が『お前のため』と言って、勝手に決めたことを」

 

「うん」

 

「なら」

 

 サーシャは。

 

 まっすぐ。

 

 ハイセを見る。

 

「お前も同じことをするな」

 

 部屋が。

 

 静かになった。

 

 

 これは。

 

 ハイセにも。

 

 刺さった。

 

 相手のためだと言って。

 

 本人へ聞かず。

 

 勝手に決める。

 

 規模は違う。

 

 目的も違う。

 

 それでも。

 

 構造は。

 

 似ている。

 

「……ごめん」

 

 今度は。

 

 誰も。

 

 笑わなかった。

 

「実験に使うなら、先に言うべきだった」

 

「ああ」

 

「サーシャなら戦うと思ったから」

 

「それでも聞け」

 

「うん」

 

「私が断ったら?」

 

「別の方法探した」

 

「なら最初からそうしろ」

 

「……はい」

 

 サーシャは。

 

 ようやく。

 

 少しだけ。

 

 肩の力を抜いた。

 

 

「ただ」

 

 ハイセが言った。

 

「何だ」

 

「データ自体はすごく良かった」

 

「ハイセ」

 

「はい」

 

「今その話をするな」

 

「はい」

 

 ヒジリが。

 

 吹き出した。

 

「アンタ、すげぇね」

 

「何が?」

 

「怒られてる時まで研究の話するじゃん」

 

「気になるから」

 

「そりゃサーシャもキレるわ」

 

「ヒジリまで?」

 

「アタシでも分かるって!」

 

 サーシャが。

 

 じろりと。

 

 ハイセを見る。

 

「まだ終わってないからな」

 

「長い?」

 

「今日は長い」

 

「…………」

 

「何だその顔」

 

「ガイストの説教より長そう」

 

「比較するな!!」

 

 

 その頃。

 

 アスタリスクでは。

 

 四人のうち三人が。

 

 かなり自由だった。

 

「バレたね」

 

 エルネスタが笑う。

 

「見事にバレたな」

 

 ディルクも。

 

 大して驚いていない。

 

 ヒルダは。

 

 むしろ興味深そうに映像を見ていた。

 

「タイクーンの魔法、面白いね。記録媒体として応用出来ないだろうか」

 

「今そこを研究するな!」

 

 カミラが怒鳴った。

 

「私は言ったぞ!」

 

「何を?」

 

「バレても知らんからな、と!」

 

「だから今ハイセが怒られてるじゃん」

 

「お前も共犯だ!!」

 

「私は企画担当♪」

 

「同じだ!!」

 

 

 ただし。

 

 四人は。

 

 もう次へ進んでいた。

 

 【ジークフリート】から得たデータ。

 

 収束率。

 

 相対座標固定。

 

 逐次展開。

 

 使用者の判断。

 

 これらを。

 

 完全版へ落とし込む。

 

「ランビリス」

 

 エルネスタが。

 

 空中へ。

 

 複数の小さな構造体を表示する。

 

 低収束時には自在に配置を変える。

 

 高収束時には。

 

 盾。

 

 刃。

 

 拘束。

 

 足場。

 

 攻撃。

 

 防御。

 

 機動。

 

 その全てへ。

 

 姿を変える。

 

「万能対応型」

 

 ハイセ不在の研究室で。

 

 カミラが。

 

 画面を見る。

 

「そして」

 

 別画面。

 

 ケリードーン。

 

 高速移動。

 

 空中機動。

 

 射撃。

 

 多方向への。

 

 高密度エネルギー投射。

 

「高機動射撃型」

 

 ディルクは。

 

 既に。

 

 市場予測を出していた。

 

「売れる」

 

「まだ試作段階だぞ」

 

「完成する」

 

「断言するな」

 

「するだろ?」

 

 カミラは。

 

 否定出来なかった。

 

 

 ただ。

 

 一つ。

 

 問題がある。

 

「六学園で規格が違う」

 

 ディルクが言う。

 

「このまま売れば揉める」

 

「じゃあ共通規格にする?」

 

 エルネスタ。

 

「簡単に言うな」

 

「でも基礎技術だけ共有すれば、それぞれの学園で独自拡張出来るよ」

 

 カミラが。

 

 画面を見る。

 

「……その方がいい」

 

「珍しいね」

 

「何が?」

 

「独占しないんだ」

 

「私は最初から独占したいなどと言っていない!」

 

 ディルクは。

 

 鼻で笑った。

 

「問題は他が信用するかだ」

 

 

 その答えを。

 

 持っていたのは。

 

 ハイセだった。

 

 サーシャから。

 

 六時間近く説教された。

 

 その翌日。

 

 ハイセは。

 

 星導館学園を訪れていた。

 

「いらっしゃいませ、ハイセさん」

 

 クローディア・エンフィールドが。

 

 いつもの微笑みで迎える。

 

「話って?」

 

「契約です」

 

 テーブル。

 

 書類。

 

 既に。

 

 用意されていた。

 

「早い」

 

「ディルクさんからお話だけは伺っています」

 

「仲良いの?」

 

「そう見えます?」

 

「見えない」

 

「正解です」

 

 クローディアは。

 

 楽しそうに笑った。

 

 

「強化型煌式武装の完成版を出す」

 

「ええ」

 

「でも、アルルカントだけで技術握るのは違うと思う」

 

「それで星導館へ?」

 

「うん」

 

 ハイセは。

 

 基礎技術資料を。

 

 テーブルへ置く。

 

「個人適応制御、安全層、収束制御。その基礎規格」

 

 クローディアの目が。

 

 僅かに。

 

 細くなる。

 

「かなり重要な技術ですわね」

 

「だから」

 

「私達へもライセンスを?」

 

「うん」

 

「条件は?」

 

「互換性を切らないこと。利用者側で、どの学園の製品を使うか選べること」

 

「なるほど」

 

「あと」

 

 ハイセが。

 

 少し考える。

 

「俺達がいなくても動くようにしたい」

 

 クローディアの。

 

 笑みが。

 

 少し変わった。

 

 

「それは」

 

「何?」

 

「かなり危険な考えですわね」

 

「何で?」

 

「自分達の優位性を、自分達で削ろうとしているからです」

 

「でも」

 

 ハイセは。

 

 普通に答えた。

 

「一個しか選べないなら、選択肢じゃないでしょ」

 

「…………」

 

 クローディアは。

 

 少しだけ。

 

 黙った。

 

「カミラさんの影響ですか?」

 

「たぶん」

 

「それとも、ご自身の?」

 

「もう分からない」

 

 ハイセは。

 

 笑った。

 

「でも俺は、それがいい」

 

「分かりました」

 

 クローディアは。

 

 契約書へ。

 

 署名する。

 

「星導館は、その条件を受け入れます」

 

 

「ただし」

 

「何?」

 

「一つだけ」

 

 クローディアの。

 

 笑みが。

 

 妙に。

 

 深くなる。

 

「今回の【ジークフリート事件】」

 

「…………」

 

「伺いましたわ」

 

「早い」

 

「情報は鮮度が命ですもの」

 

「怒ってる?」

 

「私個人は?」

 

「うん」

 

「とても面白いと思っています」

 

「よかった」

 

「ですが」

 

 クローディアは。

 

 さらに。

 

 笑う。

 

「サーシャさんは、そうではないでしょうね」

 

「昨日怒られた」

 

「何時間?」

 

「六時間くらい」

 

「…………」

 

 クローディアが。

 

 初めて。

 

 少し同情した。

 

「それは……大変でしたわね」

 

「途中で天霧綾斗の話にもなった」

 

「何故です?」

 

「分からない」

 

「…………」

 

 今度は。

 

 本気で。

 

 同情した。

 

 

 夕方。

 

 ハイセが。

 

 アルルカントへ戻る。

 

「契約取れた」

 

「早っ」

 

 エルネスタが。

 

 書類を見る。

 

「星導館?」

 

「うん」

 

 ディルクが。

 

 条件を確認する。

 

「悪くない」

 

「何でお前が評価するんだ」

 

 カミラが睨む。

 

「市場の話だからだ」

 

 ヒルダは。

 

 別画面。

 

 ランビリス。

 

 ケリードーン。

 

 最終調整。

 

 そして。

 

 ハイセ。

 

「いつ出す?」

 

 ディルク。

 

「一週間後」

 

「早くない?」

 

「遅い」

 

 カミラ。

 

「また始まった……」

 

 

 数日後。

 

 六学園へ。

 

 一斉に。

 

 新しい製品情報が流れた。

 

強化型煌式武装・完全規格

 

万能対応型――【ランビリス】

 

高機動射撃型――【ケリードーン】

 

 基礎規格。

 

 安全制御。

 

 収束方式。

 

 互換仕様。

 

 全て。

 

 市場投入可能な形へ。

 

 整えられている。

 

 そして。

 

 画面の。

 

 一番下。

 

 共同研究者。

 

 並ぶ名前。

 

 カミラ。

 

 エルネスタ。

 

 ヒルダ。

 

 ディルク。

 

 ハイセ。

 

「…………」

 

 カミラは。

 

 自分の名前を見る。

 

「私」

 

「うん」

 

「共犯扱いになってないか?」

 

「共同研究者だよ」

 

「私は止めたぞ!」

 

 エルネスタが。

 

 楽しそうに。

 

 笑う。

 

「でも完成には協力したじゃん」

 

「…………」

 

「ね?」

 

「…………」

 

 カミラは。

 

 頭を抱えた。

 

「バレても知らんと言ったのに……」

 

「もうバレたよ」

 

「そういう意味じゃない!!」

 

 

 そして。

 

 遠く離れた。

 

 ハイベルグ王国。

 

 サーシャの元にも。

 

 製品発表資料が届いた。

 

「…………」

 

 ピアソラが。

 

 横から。

 

 覗く。

 

「新しい武器?」

 

「ああ」

 

「すごいじゃない」

 

「…………」

 

「サーシャ?」

 

 資料の共同研究者欄。

 

 一番下。

 

Haise

 

「…………」

 

 サーシャが。

 

 目を閉じた。

 

「どうしたの?」

 

「昨日」

 

「うん」

 

「六時間説教した」

 

「うん」

 

「その次の日に」

 

「うん」

 

「新しい武器を市場へ出す準備してる」

 

「…………」

 

 ピアソラは。

 

 少し考えた。

 

「反省はしてるんじゃない?」

 

「どこがだ!!」

 

「倫理の反省と研究を止めるのは別なんじゃない?」

 

「正論で追撃するな!!」

 

 王都へ。

 

 また。

 

 サーシャの叫び声が響いた。

 

 その声を。

 

 ハイセは。

 

 まだ。

 

 聞いていない。

 

 だが。

 

 一週間後。

 

 彼女の怒りなど。

 

 比較にならないほど。

 

 大きな数字が。

 

 六学園の市場へ。

 

 表示されることになる。

 

 強化型煌式武装。

 

 新規購入・更新市場。

 

 その。

 

 七割。

 

 ハイセ達自身が。

 

 まだ。

 

 それが何を意味するのか。

 

 理解していないまま。

 

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