暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ 作:カミッシー
強化型煌式武装【ランビリス】と【ケリードーン】が市場へ投入されて、一週間。
アルルカント・アカデミーの研究室では、誰も予想していなかった数字が端末へ表示されていた。
「……七十・三パーセント」
カミラが呟く。
「何が?」
ハイセが画面を覗き込む。
「発売から一週間の、新規購入・更新契約におけるシェアだ」
「へえ」
「へえ、じゃない!」
カミラが振り返った。
「七割だぞ!? 既存の煌式武装まで含めた全市場じゃないとはいえ、新しく武器を買おうとしている奴らの十人に七人が、私達の強化型を選んでいる!」
エルネスタは椅子をくるりと回しながら、別の画面を表示した。
「比率としては【ランビリス】が少し上だね。攻撃、防御、拘束、移動補助まで一つで対応出来るから、一般的な星脈世代には扱いやすいみたい」
「【ケリードーン】は?」
「購入数そのものは少ない。でも上位層の採用率が異常」
高機動射撃型【ケリードーン】は、高速移動しながら複数方向へ高密度射撃を行う、攻撃的な強化型だった。防御用の展開も可能だが、本質は機動力と射撃火力を同時に成立させることにある。
一方、万能対応型【ランビリス】は複数の構造体を自在に配置し、盾、刃、拘束、射出、さらには移動補助まで状況に応じて組み替える。
そして両者を成立させているのが、【ジークフリート】で完成した収束制御だった。
「低収束なら自由に動く。必要な部分だけ高収束にすれば、形を固定して強度を確保出来る」
ハイセはランビリスの実演映像を見る。
「だから一つの武器なのに、使い方を決めなくていい」
「それが売れた一番の理由だろうな」
ディルクが通信越しに言った。
「使用者に合わせて選択肢を増やせる。初心者なら雛形が補助し、慣れた奴なら手動制御に切り替えられる。価格さえどうにかなりゃ、従来型を買う理由が減る」
「価格もどうにかなったよ」
エルネスタが笑う。
「量産ライン、予定より早く安定したし♪」
「…………」
カミラが嫌な顔をした。
「何だ?」
「お前らが順調すぎる時は、必ず何か起きる」
◇
そして、もう一つ。
数字が壊れていた。
「……これ何?」
ハイセは自分の端末を見る。
口座残高。
見慣れない桁が並んでいる。
「配当」
ディルクが即答した。
「こんなに?」
「売れたからな」
「間違ってない?」
「三回確認した」
ハイセはエルネスタを見る。
エルネスタも同じように、自分の口座を見ていた。
「研究費いっぱいだね!」
「第一声がそれか」
カミラが呆れる。
ヒルダも資料を眺めながら平然としていた。
「これだけあれば、人体適応系の研究設備を三段階ほど更新出来る」
「お前もか!」
ディルクだけが冷静に、利益配分と次期投資計画を確認している。
「利益の一部は量産設備へ戻す。残りは次世代規格、世界間物流、それと民生部門だ」
「《ジグラット》?」
「それもある。武器だけ売って喜んでる時代じゃねぇ」
ハイセは少し考えた。
「じゃあウォークマンも?」
「売れるなら売れ」
「スキンケアは?」
「好きにしろ」
「喉薬」
「もう何の会社なんだ俺達は」
「私が聞きたい!!」
カミラの叫びが研究室へ響いた。
◇
同じ週末。
ハイベルグ王国では、これまでにない規模の祝賀会が準備されていた。
名目は、二つの禁忌迷宮踏破と世界間交流の進展を記念した祝賀会。そして実際には、それ以上に重要な目的――ハイベルグ王国とアスタリスク六学園の間で、今後の新型煌式武装や資源流通を調整するための会談が組み込まれていた。
バルバロス王の正面には、六花それぞれの代表者が並ぶ。
星導館学園からはクローディア。レヴォルフ黒学院からはディルク。聖ガラードワース学園をはじめとする各学園の代表も席につき、アルルカントからは生徒会長ではなく、技術側の全権代表としてヒルダ・ジェーン・ローランズが出席していた。
「……そなたが、アルルカントの代表でよいのか?」
バルバロスがヒルダを見る。
「技術交渉についてはね」
「外交官ではないのだな?」
「まったく違う」
「…………」
バルバロスがディルクを見る。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃなくても、そいつ以上に中身を理解してる奴がいねぇ」
「なるほど」
王は納得した。
納得していいのかどうかは、誰にも分からなかった。
◇
会談そのものは、驚くほど真面目に進んだ。
ハイベルグ側が求めているのは、完成品を大量に輸入するだけの関係ではない。世界間ゲートを介して素材を供給し、その対価として技術や製品を受け取るだけでは、いずれ依存関係が生まれる。
「我が国でも扱える形へ落とし込むことは可能か?」
バルバロスの問いに、クローディアが答えた。
「少なくとも基礎規格については可能ですわ。星導館は既に、ハイセさんとの間で技術提供契約を締結しております」
一部の出席者がざわめく。
ハイセは少し離れた席で紅茶を飲んでいた。
「もう契約したのか」
サーシャが小声で聞く。
「うん」
「いつ?」
「説教された次の日」
「お前は本当に……」
サーシャは額を押さえた。
「反省と研究を同じ箱に入れるな!」
「ピアソラと同じこと言うね」
「そこに感心するな!」
◇
クローディアは話を続ける。
「重要なのは、特定の学園だけが強化型の基礎技術を独占しないことです。安全規格と互換性を共通化した上で、各学園が独自に発展させる。その方針については、既にハイセさん側と合意しております」
ディルクが頷く。
「売る側としてもその方がいい。一社で全部抱えると市場が広がらねぇ」
「珍しく健全ですね」
「利益になるからだ」
「安心しましたわ」
「どういう意味だ」
クローディアは微笑んだだけだった。
ヒルダは別の意味で興味を示していた。
「ハイベルグ側の魔力体系と収束技術を直接組み合わせれば、煌式武装という名前すら必要なくなる可能性がある」
「それは興味深い」
バルバロスが身を乗り出す。
カミラが即座に割り込んだ。
「段階を踏め!!」
「まだ何もしていないよ?」
「お前の場合、思いついた時点で危険なんだ!」
◇
会談は順調だった。
少なくとも。
途中までは。
「ところで」
聖ガラードワース側から、静かな声が飛んだ。
「その強化型煌式武装の完成に至る過程で、一つ問題があったと聞いています」
ハイセの手が止まる。
サーシャがゆっくり振り返った。
カミラは目を閉じた。
「来たな」
エルネスタだけが楽しそうだった。
「何だ?」
バルバロスが尋ねる。
「試験機【ジークフリート】です」
室内の空気が変わった。
◇
「……ハイセ」
バルバロスが見る。
「はい」
「説明せよ」
「収束制御を試験するための籠手型煌式武装です」
「そこではない」
「はい」
「サーシャを本人へ知らせず、実証試験に利用したという話だ」
「…………はい」
「本当なのか!?」
「本当です」
会場がざわついた。
サーシャが腕を組む。
「ついでに言えば、こいつは裏で私を『踏み台』と呼んでいた」
「サーシャ」
「何だ」
「それ今言う?」
「今だから言うんだ!!」
バルバロスの顔から笑顔が消えた。
「ハイセ」
「はい」
「後で残れ」
「はい……」
◇
しかし。
火が広がるより先に。
クローディアが口を開いた。
「その件については、星導館側でも確認しております」
「確認?」
「ええ。サーシャさん本人への事前説明がなかった点について、正当化するつもりはありません。ハイセさん自身も、その点については既に非を認めています」
サーシャも渋々頷く。
「謝罪は受けた。許したかは別だ」
「そこは重要ですわね」
「重要だから強調した」
続いてディルクが入る。
「ただし、手続き上の問題と、完成した強化型の安全性を混同するな。ジークフリートの戦闘データは再検証済みだ。ランビリスとケリードーンの市販モデルは、そこから別途安全試験を通してる」
「つまり?」
「ハイセが馬鹿やったことと、製品が危険かどうかは別問題だ」
「言い方!」
ハイセが抗議した。
「間違ってねぇだろ」
「……間違ってないけど」
サーシャが横から言う。
「珍しく自覚あるんだな」
「まだ怒ってる?」
「当たり前だ!」
◇
それでも、空気は少しずつ収まっていった。
クローディアが契約上の透明性を説明し、ディルクが市場と安全試験の話へ論点を戻す。バルバロスも「個人への責任と国家間の技術協議は分けるべきだ」と判断し、ジークフリート事件そのものは後日の当事者間協議へ持ち越された。
要するに。
燃えている。
だが。
今ここでは燃やさない。
そんな決着だった。
「……助かった」
ハイセが小声で言う。
「まだだぞ」
サーシャが答える。
「何が?」
「私の話は終わってない」
「…………」
ハイセは紅茶を飲んだ。
◇
会談が終わり。
祝賀会へ移る。
王城の大広間は一転して華やかな空気に包まれ、異世界側の料理とアスタリスクから運び込まれた料理が並ぶ。冒険者、研究者、各学園代表、王国関係者が同じ場所でグラスを交わす光景は、それだけで世界間交流の象徴だった。
「これで一件落着ね♪」
エルネスタが言う。
カミラが怪訝な目を向けた。
「何が?」
「会談」
「お前がそう言うと不安なんだが」
「失礼だなぁ」
「その手に持ってる端末は何だ」
「進行表」
「何の?」
エルネスタは。
満面の笑みを浮かべた。
「余興♪」
「待て」
◇
突然。
大広間の照明が落ちた。
「何だ!?」
サーシャが立ち上がる。
壇上。
一筋の紫色の光が落ちる。
そして。
暗紫色の長髪を揺らしながら。
ハイセが。
ステージ中央へ立った。
「…………」
本人も。
状況を理解していなかった。
「エルネスタ」
小声で呼ぶ。
返事は。
イヤーモニターから来た。
『サプライズだから♪』
「俺にも?」
『もちろん!』
「後で覚えてて」
『楽しみだね!』
伴奏が始まった。
◇
最初の曲。
【diva in abyss】。
低い音が、大広間全体へ静かに広がっていく。
«羽根をなくして堕ちていく やっと自由になれたの»
先ほどまで研究者として席についていたハイセとは別人だった。歌い始めた瞬間、声が空間の中心を奪う。
«正義を名乗る神様には 断罪を 今 あぁ»
深紫の照明。
黒に近い舞台演出。
足元へ走る光。
新型音響設備が声の輪郭を崩さず、大広間の隅まで届けていく。
「…………」
サーシャが。
何も言わなくなった。
ピアソラが横を見る。
「さっきまで怒ってたわよね?」
「怒ってる」
「顔は?」
「知らん」
「めちゃくちゃ見てるけど」
「うるさい」
プレセアは。
静かに目を閉じていた。
「やっぱり」
「何?」
ピアソラが聞く。
「ハイセの歌は、隠すのが下手ね」
「何を?」
「自分自身を」
プレセアは少しだけ笑った。
「綺麗な声だわ」
サーシャの眉が動いた。
「…………」
「サーシャ」
「何も言ってない!」
「顔が言ってる」
「誰に教わったその言い方!」
「あなた達」
◇
一曲目が終わる。
拍手。
歓声。
そして。
ステージの反対側へ。
今度は白い光が落ちた。
「え?」
ハイセが振り向く。
シルヴィア・リューネハイム。
世界最高峰の歌姫は、既に完全なステージ衣装だった。
「シルヴィア?」
「私も直前まで知らなかったんだけど?」
「エルネスタ」
「エルネスタね」
二人の視線が。
客席ではなく。
袖の奥へ。
突き刺さる。
袖から。
小さく。
親指が立った。
ハイセとシルヴィアは同時にため息をついた。
◇
二曲目。
【いけないボーダーライン】。
シルヴィアの声が始まった瞬間、先ほどまでの重く幻想的な空気が一気に弾けた。
彼女は観客を巻き込むことに関して、ハイセとは比べものにならないほど慣れている。視線一つ、手の動き一つで会場全体を煽り、六学園の代表者と異世界の冒険者が同じリズムに乗っていく。
「すごいな」
バルバロスが素直に感心していた。
「これがアスタリスクの歌姫か」
「はい」
クローディアが微笑む。
「ただし、あそこまで大規模な余興を勝手に組むのは通常ではありませんわ」
「通常ではないのか?」
「エルネスタが絡んでおりますから」
「なるほど」
「もう理解したんですの?」
「さっき覚えた」
順応が早かった。
◇
その頃。
会場の外。
報道端末へ流れる話題の順位が。
急速に変化していた。
第一位――六学園・ハイベルグ王国、新型技術流通協議
数分後。
第一位――Yami_Q_ray、祝賀会でサプライズライブ
さらに。
第二位――シルヴィア・リューネハイム、新曲披露
ジークフリート事件。
順位。
落下。
落下。
さらに落下。
舞台袖。
エルネスタが。
端末を見る。
「ふふ」
カミラが。
横から覗いた。
「…………お前」
「何?」
「まさか」
「何のことかな?」
「ライブで話題を上書きしたな!?」
「上書きなんて失礼だよ。皆が楽しい話題を選んだだけ♪」
「同じだ!!」
◇
そこへ。
ディルクから通信。
『成功したか?』
「大成功♪」
『ならいい』
「お前も共犯か!!」
カミラが怒鳴る。
『何が悪い。契約交渉は終わった、謝罪も済んでる。後は祝賀会を盛り上げるだけだろ』
「意図的に報道を流しただろ!」
『証拠あんのか?』
「ある! 今の会話だ!」
『切るぞ』
「逃げるな!!」
その横で。
クローディアまで現れた。
「随分盛り上がっていますわね」
「クローディア!」
「はい?」
「お前も知っていたな?」
「ライブについては」
「事件の報道が沈むことも?」
クローディアは。
にっこり。
微笑んだ。
「偶然というものは、時として素晴らしいですわね」
「絶対知ってた!!」
◇
そして。
舞台。
照明が。
二色に分かれる。
紫。
白。
ハイセとシルヴィアが。
並ぶ。
「最後?」
ハイセが聞く。
「らしいわよ」
「聞いてない」
「私も」
「でも」
シルヴィアが笑う。
「せっかくだから楽しみましょう?」
ハイセは。
少しだけ。
笑った。
「うん」
最後の曲。
【絶対零度θノヴァティック】。
◇
二人の声が。
重なる。
ハイセの声は。
深い。
鋭い。
闇を。
切り開くような。
シルヴィアの声は。
明るく。
高く。
空間そのものを。
持ち上げていくような。
異なる二つの声。
だが。
重なる。
ぶつからない。
互いに。
押し潰さない。
片方が前へ出れば。
もう片方が支える。
そして。
再び。
二人が並ぶ。
会場。
誰も。
話していなかった。
◇
サーシャも。
ただ。
見ていた。
昔。
知っていた。
ハイセ。
追放された少年。
怒り。
孤独。
執着。
そして。
今。
壇上で。
世界最高峰の歌姫と。
同じ舞台に立つ。
身体も。
能力も。
歩いてきた道も。
以前とは。
何もかも違う。
それでも。
あれは。
ハイセだった。
「…………」
ピアソラが。
横から見る。
「泣いてる?」
「泣いてない」
「じゃあ何で目が赤いのよ」
「照明だ!」
「便利ね、その照明」
「うるさい!!」
◇
最後の音。
消える。
数秒。
静寂。
そして。
会場全体が。
爆発したような。
拍手。
歓声。
ハイセとシルヴィアが。
顔を見合わせる。
笑う。
頭を下げる。
エルネスタの。
計画は。
完璧だった。
少なくとも。
その瞬間までは。
◇
舞台を降りた。
ハイセ。
「疲れた」
「お疲れ様」
シルヴィアが笑う。
「でも楽しかったでしょ?」
「うん」
「なら良かった」
そこへ。
一人。
近づく。
サーシャ。
「ハイセ」
「何?」
笑っている。
「ライブ、よかった?」
「……良かった」
「よかった」
「歌も」
「うん」
「シルヴィアとの最後の曲も」
「うん」
「凄かった」
「ありがとう」
ハイセが。
安心する。
そして。
サーシャが。
ハイセの肩を。
掴んだ。
「それはそれとして」
「…………」
「【ジークフリート】の話に戻ろうか」
「まだ覚えてたの!?」
「忘れるかぁぁぁぁぁ!!」
祝賀会の会場へ。
本日。
最大級の。
怒声が響いた。
◇
夜。
祝賀会を終えたあと。
五人は。
アルルカントの研究室へ戻っていた。
エルネスタはライブの反響。
ヒルダは強化型のログ。
ディルクは売上。
ハイセは新曲の反応。
カミラだけが。
一人。
別の画面を。
見ていた。
「……七十・三」
「まだ見てるの?」
ハイセが聞く。
「ああ」
「売れたんだからいいじゃん」
「違う」
カミラの声が。
静かだった。
エルネスタが。
顔を上げる。
「何が?」
「私達は何を作りたかった?」
誰も。
すぐには。
答えなかった。
「誰でも手に取れて、誰でも強くなれる。弱いからという理由だけで、誰かが切り捨てられないための武器だ」
カミラは。
市場データを見る。
「そのために、選択肢を増やした」
「うん」
「だが」
画面。
新規・更新市場シェア
ランビリス/ケリードーン系統――70.3%
「これでは」
カミラが。
呟いた。
「私達が、選択肢そのものになり始めている」
ハイセの。
表情が変わった。
◇
「売れるのは悪いこと?」
「違う」
「強い武器を皆が選ぶのも?」
「悪くない」
「じゃあ」
「問題は」
カミラは。
ハイセを見る。
「私達の規格を選ばなければ不利になる世界を作った時だ」
研究室が。
静かになる。
「【雛形】に繋がらなければ安全性で劣る。私達の収束規格を使わなければ性能で劣る。私達から技術を買わなければ、市場で戦えない」
「…………」
「それは選択肢か?」
ハイセは。
答えなかった。
「それとも」
カミラは。
静かに続ける。
「新しい支配か?」
◇
ディルクが。
椅子へ深く座る。
「だから星導館に技術出したんだろ」
「足りない」
カミラが即答した。
「一校に提供しただけでは、まだ私達が入口を握っている」
ヒルダが。
興味深そうに。
画面を見る。
「では、規格そのものを公開する?」
「そこまで単純ではない。危険な部分まで無制限に公開すれば、今度は安全性を失う」
エルネスタが。
笑う。
「面白くなってきたね」
「お前は本当に……」
カミラが呆れる。
だが。
ハイセは。
別のことを考えていた。
「カミラ」
「何だ」
「最終的に」
一拍。
「【雛形】がなくても動くように出来ない?」
全員が。
ハイセを見る。
「今すぐじゃなくていい。でも」
ハイセは。
画面の七十・三という数字を見る。
「俺達がいなくなっても。アルルカントがなくなっても。誰かが勝手に入口を閉じられないように」
「…………」
「俺が作りたかったのは」
ハイセは。
静かに。
言った。
「正解じゃない」
カミラが。
僅かに。
笑った。
「選択肢、か」
「うん」
◇
その夜。
祝賀会では。
三つの歌が。
世界を沸かせた。
市場では。
二つの武器が。
七割を奪った。
そして。
研究室では。
一つの問いが。
初めて。
生まれた。
自分達が生み出した力を。
自分達だけのものにしないためには。
どうすればいいのか。
《武器マスター》を。
手放した時と。
同じだった。
持っていることと。
握り続けることは。
同じではない。
ハイセ達が。
次に手放さなければならないものは。
もしかすると。
武器ではなく。
武器を作る者だけが持つ、選択権そのものなのかもしれなかった。