暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ 作:カミッシー
「……多くない?」
翌日。
ハイセは。
目の前に表示された一覧を見て。
素直な感想を口にした。
「多いよ?」
隣。
エルネスタが。
楽しそうに答える。
「フェスタの公式記録だけでも相当あるし、うちの子達が関わった試合なら観測データもいっぱい残ってるからね」
「…………」
画面。
スクロール。
しても。
しても。
終わらない。
「全部見ろって?」
「別に?」
「じゃあ何から見ればいい」
「好きなの」
「一番困る答えだな」
「えー?」
エルネスタが笑う。
「興味持ったものから見た方が楽しいじゃん」
「研究資料だろ、これ」
「研究って楽しいものだよ?」
「…………」
ハイセ。
少し考える。
「カミラも似たようなこと言ってたな」
「でしょ?」
「お前ほど軽くなかったけど」
「酷い!」
少し離れた机。
カミラ。
端末を操作しながら。
「エルネスタ」
「なぁに?」
「昨日言ったな」
「何を?」
「閲覧可能なのは、公開済み及び研究利用が許可された記録のみだ」
「分かってるってば」
「勝手に権限を書き換えるな」
「まだやってないよ」
「“まだ”を付けるな」
「…………」
ハイセ。
「昨日も同じ会話してなかった?」
「気にするな」
「進歩ないな」
「誰のせいだと思っている」
「エルネスタ?」
「正解だ」
「二人とも酷くない!?」
◇
ハイセが。
最初に選んだのは。
特別な理由があったわけではなかった。
「これ」
「ん?」
「昨日言ってた奴?」
画面。
二体の人影。
いや。
人間に見える。
だが。
「アルディとリムシィ?」
「そう」
エルネスタが。
嬉しそうに頷く。
「私の最高傑作の一つ!」
「人間じゃないんだよな?」
「自律型擬形体」
「…………」
「ざっくり言えば」
一拍。
「人間みたいに考えて、自分で戦う機械」
「……機械?」
「うん」
「これが?」
映像。
開始。
巨大な体躯。
人間離れした出力。
対して。
もう一体は。
より洗練された動き。
「…………」
ハイセ。
黙って見る。
「どう?」
「強いな」
「それだけ?」
「んー……」
少し。
巻き戻す。
「こいつ」
「アルディ?」
「ああ」
映像。
停止。
「動き自体は分かりやすい」
「へぇ」
「力で押してる部分が多い」
「まあね」
「でも」
再生。
「その分」
一撃。
「迷いがない」
「…………」
「人間みたいに躊躇しないのか?」
エルネスタ。
目を細める。
「いいところ見るね」
「そう?」
「うん」
「俺なら」
画面。
「相手がこれなら」
「?」
「最初から真正面には立ちたくない」
「逃げる?」
「違う」
ハイセ。
「崩す」
「…………」
「こういう力任せの相手は」
指。
「動かしたい方向を決めてやればいい」
エルネスタ。
「…………」
笑う。
「やっぱり面白いなぁ」
「何が」
「研究員だと」
一拍。
「出力とか反応速度から見るんだよ」
「普通そうじゃない?」
「ハイセくんは」
映像。
「最初から殺し合う前提で見てる」
「冒険者だからな」
「怖ぁい」
「笑いながら言うな」
◇
それから。
いくつか。
記録を見た。
アルディ。
リムシィ。
他学園の学生。
星脈世代。
魔女。
魔術師。
煌式武装。
そして。
純星煌式武装。
「…………」
「どう?」
「変な世界だな」
「今更!?」
「武器に意思があるとか」
「そこ?」
「俺の世界でも変な武器はあるけど」
「あるんだ」
「呪われてたり」
「詳しく」
「あとで」
「約束ね!」
「してねぇ」
映像。
次。
「……ん?」
ハイセの指が。
止まった。
「どうしたの?」
「こいつ」
画面。
一人の少年。
剣。
「…………」
「天霧綾斗?」
「あまぎり?」
「天霧綾斗」
エルネスタが。
説明する。
「星導館学園の学生だよ」
「…………」
「有名人」
「強いの?」
「すっごく」
「へぇ」
再生。
◇
最初は。
本当に。
それだけだった。
強い奴がいる。
なら。
どんな戦い方をするのか。
少し見てみよう。
その程度。
だった。
「…………」
数分後。
「…………」
「ハイセくん?」
「静かに」
「はい」
エルネスタが。
素直に黙る。
ハイセは。
映像から。
目を離さない。
剣。
踏み込み。
防御。
回避。
反撃。
「…………」
速い。
それだけではない。
強い。
それだけでもない。
「……無駄がない」
ぽつり。
「うん?」
「こいつの剣」
「綾斗くん?」
「ああ」
巻き戻す。
再び。
見る。
「必要な時に」
「……」
「必要なだけ動いてる」
「…………」
「力も」
「……」
「速さも」
「……」
「全部」
一拍。
「使う場所が決まってる」
ハイセ自身。
何故。
これほど。
気になっているのか。
分からなかった。
強い剣なら。
今までにも。
見てきた。
サーシャも。
強い。
剣の腕そのものを。
否定する気はない。
だが。
「…………」
違う。
何かが。
「……綺麗だな」
「え?」
エルネスタが。
目を瞬く。
「何?」
「剣」
「…………」
「この剣」
映像。
天霧綾斗。
「完成されてる」
「…………」
ハイセは。
知らず。
僅かに。
笑っていた。
「俺」
「?」
「こういう剣」
一拍。
「好きだな」
「…………」
エルネスタ。
にやり。
「へぇ~?」
「何だよ」
「いやぁ」
「?」
「ハイセくんにも」
楽しそうに。
「そういう顔あるんだなぁって」
「どんな顔だよ」
「好きなもの見つけた顔」
「…………」
ハイセ。
「うるせぇ」
「照れた?」
「消すぞ」
「何を!?」
◇
「まだ見ていたのか?」
声。
振り返る。
カミラ。
「カミラ」
「昼から随分経っているぞ」
「…………」
時計。
「マジ?」
「集中しすぎだ」
「腹減ったと思った」
「先に気づけ」
カミラが。
画面を見る。
「天霧綾斗か」
「ああ」
「気に入ったのか?」
「剣がな」
「ほう」
「何だよ」
「いや」
カミラ。
隣へ。
「君は武器なら何でもいいのかと思っていた」
「何でも使えるのと」
一拍。
「何でも好きなのは別だろ」
「…………」
カミラ。
少し。
目を見開く。
「それもそうだな」
「俺だって」
映像。
「好き嫌いくらいある」
「なら」
「?」
「何故、この剣が好きなんだ?」
「…………」
ハイセ。
もう一度。
見る。
「強いからじゃない」
「……」
「多分」
「…………」
「剣そのものが」
一拍。
「綺麗だからだ」
カミラは。
しばらく。
何も言わなかった。
「そうか」
「何?」
「いや」
小さく。
笑う。
「良いと思うぞ」
「何が」
「強さ以外を理由に」
「?」
「武器を見ることが出来るのは」
「…………」
ハイセ。
少し。
眉を寄せる。
「それ褒めてる?」
「ああ」
「変な褒め方」
「君に言われたくない」
◇
昼食を挟んで。
再開。
「次どうする?」
エルネスタ。
「綾斗くん特集?」
「そんなのあるの?」
「作れるよ!」
「作るな」
カミラ。
「えー」
「本人の戦闘記録を勝手に個人鑑賞用へ再編集するな」
「研究用なら?」
「目的を言え」
「ハイセくんを喜ばせる」
「却下だ」
「厳しい!」
「…………」
ハイセ。
「普通に検索できる記録でいい」
「はーい」
画面。
一覧。
「じゃあ」
エルネスタが。
適当に。
スクロール。
「この辺とか?」
映像。
少女。
金色。
「…………」
ハイセ。
「誰?」
「シルヴィア・リューネハイム」
「知らない」
「嘘でしょ!?」
「異世界から来たって忘れた?」
「あ」
「お前な」
「世界的トップスターだから、つい」
「歌手?」
「それだけじゃないよ」
「?」
エルネスタ。
再生。
◇
最初。
ハイセは。
普通に。
ライブ映像だと思った。
「歌ってるだけじゃん」
「まあ見てて」
「…………」
その後。
戦闘記録。
「…………」
歌。
声。
そして。
現象。
「……は?」
ハイセ。
目を細める。
「何今の」
「能力」
「歌で?」
「うん」
「…………」
もう一度。
巻き戻す。
「何でもあり?」
「何でも、とは少し違うかな」
「でも」
「?」
「歌って」
一拍。
「それで現象起こしてんだろ?」
「そうだね」
「…………」
ハイセ。
しばらく。
画面を見る。
「変な能力」
「感想それ!?」
エルネスタが。
盛大に突っ込んだ。
「だって変だろ」
「世界最高峰の魔女だよ!?」
「知らねぇもん」
「もっとこう」
「?」
「すごいとか!」
「強いとは思う」
「それだけ!?」
「…………」
カミラ。
横から。
「ハイセ」
「何?」
「歌には興味がないのか?」
「歌?」
「ああ」
「…………」
少し。
考える。
「聞くことはある」
「自分で?」
「歌う?」
「ああ」
「…………」
ハイセ。
首を傾げる。
「別に」
「そうか」
「何で?」
「いや」
カミラ。
「妙に映像を見ていたからな」
「能力が変だったから」
「また言った!」
エルネスタ。
「シルヴィアが聞いたら怒るよ!?」
「本人に言わなきゃいいだろ」
「…………」
「何?」
「その発想」
一拍。
「好き」
「お前に好かれると不安になる」
「酷い!」
◇
夕方。
「……疲れた」
椅子。
背もたれ。
「昨日も同じこと言ってたよ?」
「研究って疲れる」
「慣れる慣れる」
「慣れたくない」
「またまたぁ」
エルネスタ。
ハイセの閲覧履歴を見る。
「結構見たね」
「ああ」
「何が一番面白かった?」
「…………」
考えるまでもなかった。
「天霧綾斗」
「即答!」
「剣」
「はいはい、剣ね」
「何だよ」
「じゃあ」
エルネスタ。
悪戯っぽく。
「あの剣」
一拍。
「自分で使ってみたい?」
「…………」
ハイセ。
一瞬。
止まる。
「どういう意味?」
「そのまんま」
「…………」
「昨日話したでしょ?」
「戦闘データを直接学習させるってやつ?」
「そうそう」
「エルネスタ」
カミラ。
即座に。
「余計なことを吹き込むな」
「聞いてるだけだよ?」
「今はな」
「カミラってば疑り深い」
「お前相手なら当然だ」
ハイセ。
画面。
見る。
天霧綾斗。
剣。
「…………」
使ってみたい?
もし。
あんな剣を。
自分が。
「…………」
少し。
想像する。
そして。
「いや」
「え?」
エルネスタ。
「今はいい」
「そうなの?」
「ああ」
「何で?」
「俺は」
一拍。
「見てるだけでも面白い」
「…………」
「それに」
映像。
「こいつの剣だから」
「…………」
エルネスタ。
少し。
意外そうに。
ハイセを見る。
「へぇ」
「何だよ」
「ううん」
笑う。
「何でも欲しがるタイプじゃないんだなぁって」
「当たり前だろ」
「そう?」
「…………」
「まあ」
ハイセ。
立ち上がる。
「もし」
「?」
少しだけ。
笑った。
「本当に出来るって言われたら」
一拍。
「その時考える」
「…………」
エルネスタ。
満面の笑み。
「了解♪」
「エルネスタ」
「何?」
「今の会話を研究計画書へ書くな」
「まだ書いてないって」
「端末を置け」
「何でバレたの!?」
「お前だからだ!!」
◇
帰り道。
ハイセは。
ふと。
昼間見た映像を。
思い出していた。
天霧綾斗。
完成された。
美しい剣。
シルヴィア・リューネハイム。
歌によって。
現象を引き起こす。
変な能力。
「…………」
別に。
まだ。
それだけ。
欲しいわけでもない。
必要なわけでもない。
ただ。
知らなかったものを。
知った。
それだけだった。
だが。
一度。
知ったものは。
知らなかった頃には。
戻れない。
「…………」
ハイセは。
自分の右手を見る。
【武器マスター】。
武器へ。
自分を。
近づける力。
もし。
武器だけではなく。
技術。
知識。
それ以外のものへ。
近づく方法が。
存在するなら。
「……いや」
首を振る。
「考えすぎだな」
今は。
まだ。
必要ない。
ただ。
面白い。
それだけ。
それだけの。
はずだった。
◇
一方。
研究室。
「エルネスタ」
「なぁに?」
「何をしている」
「今日のログ整理」
「見せろ」
「え」
「見せろ」
「…………」
カミラ。
端末。
奪う。
「…………」
読む。
『異世界由来能力【武器マスター】と外部戦闘データを利用した技能学習について』
「…………」
「…………」
カミラ。
ゆっくり。
顔を上げる。
「エルネスタ」
「はい」
「昨日」
「うん」
「私は何と言った?」
「えっと」
「言ってみろ」
「…………」
「…………」
「ハイセくんに変なことを教えるな?」
「分かっているじゃないか」
「でも」
「?」
「これ」
エルネスタ。
楽しそうに。
笑う。
「出来たら面白いと思わない?」
「…………」
カミラ。
端末を見る。
ハイセのデータ。
そして。
戦闘記録。
「…………」
一秒。
二秒。
三秒。
「……理論検証だけだ」
「!」
「人体実験はしない」
「やった!」
「喜ぶな!」
「カミラも興味あるんじゃん!」
「研究者だからな!!」
そう。
この時。
カミラは。
まだ。
知らなかった。
この。
たった一枚の。
理論検証用資料が。
遠い未来。
一人の男の。
剣を。
歌を。
身体すら。
変えてしまう。
最初の一枚になることを。