暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

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第五話 記録の向こう側

 

 

 

「……多くない?」

 

 翌日。

 

 ハイセは。

 

 目の前に表示された一覧を見て。

 

 素直な感想を口にした。

 

「多いよ?」

 

 隣。

 

 エルネスタが。

 

 楽しそうに答える。

 

「フェスタの公式記録だけでも相当あるし、うちの子達が関わった試合なら観測データもいっぱい残ってるからね」

 

「…………」

 

 画面。

 

 スクロール。

 

 しても。

 

 しても。

 

 終わらない。

 

「全部見ろって?」

 

「別に?」

 

「じゃあ何から見ればいい」

 

「好きなの」

 

「一番困る答えだな」

 

「えー?」

 

 エルネスタが笑う。

 

「興味持ったものから見た方が楽しいじゃん」

 

「研究資料だろ、これ」

 

「研究って楽しいものだよ?」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し考える。

 

「カミラも似たようなこと言ってたな」

 

「でしょ?」

 

「お前ほど軽くなかったけど」

 

「酷い!」

 

 少し離れた机。

 

 カミラ。

 

 端末を操作しながら。

 

「エルネスタ」

 

「なぁに?」

 

「昨日言ったな」

 

「何を?」

 

「閲覧可能なのは、公開済み及び研究利用が許可された記録のみだ」

 

「分かってるってば」

 

「勝手に権限を書き換えるな」

 

「まだやってないよ」

 

「“まだ”を付けるな」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

「昨日も同じ会話してなかった?」

 

「気にするな」

 

「進歩ないな」

 

「誰のせいだと思っている」

 

「エルネスタ?」

 

「正解だ」

 

「二人とも酷くない!?」

 

     ◇

 

 ハイセが。

 

 最初に選んだのは。

 

 特別な理由があったわけではなかった。

 

「これ」

 

「ん?」

 

「昨日言ってた奴?」

 

 画面。

 

 二体の人影。

 

 いや。

 

 人間に見える。

 

 だが。

 

「アルディとリムシィ?」

 

「そう」

 

 エルネスタが。

 

 嬉しそうに頷く。

 

「私の最高傑作の一つ!」

 

「人間じゃないんだよな?」

 

「自律型擬形体」

 

「…………」

 

「ざっくり言えば」

 

 一拍。

 

「人間みたいに考えて、自分で戦う機械」

 

「……機械?」

 

「うん」

 

「これが?」

 

 映像。

 

 開始。

 

 巨大な体躯。

 

 人間離れした出力。

 

 対して。

 

 もう一体は。

 

 より洗練された動き。

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 黙って見る。

 

「どう?」

 

「強いな」

 

「それだけ?」

 

「んー……」

 

 少し。

 

 巻き戻す。

 

「こいつ」

 

「アルディ?」

 

「ああ」

 

 映像。

 

 停止。

 

「動き自体は分かりやすい」

 

「へぇ」

 

「力で押してる部分が多い」

 

「まあね」

 

「でも」

 

 再生。

 

「その分」

 

 一撃。

 

「迷いがない」

 

「…………」

 

「人間みたいに躊躇しないのか?」

 

 エルネスタ。

 

 目を細める。

 

「いいところ見るね」

 

「そう?」

 

「うん」

 

「俺なら」

 

 画面。

 

「相手がこれなら」

 

「?」

 

「最初から真正面には立ちたくない」

 

「逃げる?」

 

「違う」

 

 ハイセ。

 

「崩す」

 

「…………」

 

「こういう力任せの相手は」

 

 指。

 

「動かしたい方向を決めてやればいい」

 

 エルネスタ。

 

「…………」

 

 笑う。

 

「やっぱり面白いなぁ」

 

「何が」

 

「研究員だと」

 

 一拍。

 

「出力とか反応速度から見るんだよ」

 

「普通そうじゃない?」

 

「ハイセくんは」

 

 映像。

 

「最初から殺し合う前提で見てる」

 

「冒険者だからな」

 

「怖ぁい」

 

「笑いながら言うな」

 

     ◇

 

 それから。

 

 いくつか。

 

 記録を見た。

 

 アルディ。

 

 リムシィ。

 

 他学園の学生。

 

 星脈世代。

 

 魔女。

 

 魔術師。

 

 煌式武装。

 

 そして。

 

 純星煌式武装。

 

「…………」

 

「どう?」

 

「変な世界だな」

 

「今更!?」

 

「武器に意思があるとか」

 

「そこ?」

 

「俺の世界でも変な武器はあるけど」

 

「あるんだ」

 

「呪われてたり」

 

「詳しく」

 

「あとで」

 

「約束ね!」

 

「してねぇ」

 

 映像。

 

 次。

 

「……ん?」

 

 ハイセの指が。

 

 止まった。

 

「どうしたの?」

 

「こいつ」

 

 画面。

 

 一人の少年。

 

 剣。

 

「…………」

 

「天霧綾斗?」

 

「あまぎり?」

 

「天霧綾斗」

 

 エルネスタが。

 

 説明する。

 

「星導館学園の学生だよ」

 

「…………」

 

「有名人」

 

「強いの?」

 

「すっごく」

 

「へぇ」

 

 再生。

 

     ◇

 

 最初は。

 

 本当に。

 

 それだけだった。

 

 強い奴がいる。

 

 なら。

 

 どんな戦い方をするのか。

 

 少し見てみよう。

 

 その程度。

 

 だった。

 

「…………」

 

 数分後。

 

「…………」

 

「ハイセくん?」

 

「静かに」

 

「はい」

 

 エルネスタが。

 

 素直に黙る。

 

 ハイセは。

 

 映像から。

 

 目を離さない。

 

 剣。

 

 踏み込み。

 

 防御。

 

 回避。

 

 反撃。

 

「…………」

 

 速い。

 

 それだけではない。

 

 強い。

 

 それだけでもない。

 

「……無駄がない」

 

 ぽつり。

 

「うん?」

 

「こいつの剣」

 

「綾斗くん?」

 

「ああ」

 

 巻き戻す。

 

 再び。

 

 見る。

 

「必要な時に」

 

「……」

 

「必要なだけ動いてる」

 

「…………」

 

「力も」

 

「……」

 

「速さも」

 

「……」

 

「全部」

 

 一拍。

 

「使う場所が決まってる」

 

 ハイセ自身。

 

 何故。

 

 これほど。

 

 気になっているのか。

 

 分からなかった。

 

 強い剣なら。

 

 今までにも。

 

 見てきた。

 

 サーシャも。

 

 強い。

 

 剣の腕そのものを。

 

 否定する気はない。

 

 だが。

 

「…………」

 

 違う。

 

 何かが。

 

「……綺麗だな」

 

「え?」

 

 エルネスタが。

 

 目を瞬く。

 

「何?」

 

「剣」

 

「…………」

 

「この剣」

 

 映像。

 

 天霧綾斗。

 

「完成されてる」

 

「…………」

 

 ハイセは。

 

 知らず。

 

 僅かに。

 

 笑っていた。

 

「俺」

 

「?」

 

「こういう剣」

 

 一拍。

 

「好きだな」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 にやり。

 

「へぇ~?」

 

「何だよ」

 

「いやぁ」

 

「?」

 

「ハイセくんにも」

 

 楽しそうに。

 

「そういう顔あるんだなぁって」

 

「どんな顔だよ」

 

「好きなもの見つけた顔」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

「うるせぇ」

 

「照れた?」

 

「消すぞ」

 

「何を!?」

 

     ◇

 

「まだ見ていたのか?」

 

 声。

 

 振り返る。

 

 カミラ。

 

「カミラ」

 

「昼から随分経っているぞ」

 

「…………」

 

 時計。

 

「マジ?」

 

「集中しすぎだ」

 

「腹減ったと思った」

 

「先に気づけ」

 

 カミラが。

 

 画面を見る。

 

「天霧綾斗か」

 

「ああ」

 

「気に入ったのか?」

 

「剣がな」

 

「ほう」

 

「何だよ」

 

「いや」

 

 カミラ。

 

 隣へ。

 

「君は武器なら何でもいいのかと思っていた」

 

「何でも使えるのと」

 

 一拍。

 

「何でも好きなのは別だろ」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 少し。

 

 目を見開く。

 

「それもそうだな」

 

「俺だって」

 

 映像。

 

「好き嫌いくらいある」

 

「なら」

 

「?」

 

「何故、この剣が好きなんだ?」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 もう一度。

 

 見る。

 

「強いからじゃない」

 

「……」

 

「多分」

 

「…………」

 

「剣そのものが」

 

 一拍。

 

「綺麗だからだ」

 

 カミラは。

 

 しばらく。

 

 何も言わなかった。

 

「そうか」

 

「何?」

 

「いや」

 

 小さく。

 

 笑う。

 

「良いと思うぞ」

 

「何が」

 

「強さ以外を理由に」

 

「?」

 

「武器を見ることが出来るのは」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 眉を寄せる。

 

「それ褒めてる?」

 

「ああ」

 

「変な褒め方」

 

「君に言われたくない」

 

     ◇

 

 昼食を挟んで。

 

 再開。

 

「次どうする?」

 

 エルネスタ。

 

「綾斗くん特集?」

 

「そんなのあるの?」

 

「作れるよ!」

 

「作るな」

 

 カミラ。

 

「えー」

 

「本人の戦闘記録を勝手に個人鑑賞用へ再編集するな」

 

「研究用なら?」

 

「目的を言え」

 

「ハイセくんを喜ばせる」

 

「却下だ」

 

「厳しい!」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

「普通に検索できる記録でいい」

 

「はーい」

 

 画面。

 

 一覧。

 

「じゃあ」

 

 エルネスタが。

 

 適当に。

 

 スクロール。

 

「この辺とか?」

 

 映像。

 

 少女。

 

 金色。

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

「誰?」

 

「シルヴィア・リューネハイム」

 

「知らない」

 

「嘘でしょ!?」

 

「異世界から来たって忘れた?」

 

「あ」

 

「お前な」

 

「世界的トップスターだから、つい」

 

「歌手?」

 

「それだけじゃないよ」

 

「?」

 

 エルネスタ。

 

 再生。

 

     ◇

 

 最初。

 

 ハイセは。

 

 普通に。

 

 ライブ映像だと思った。

 

「歌ってるだけじゃん」

 

「まあ見てて」

 

「…………」

 

 その後。

 

 戦闘記録。

 

「…………」

 

 歌。

 

 声。

 

 そして。

 

 現象。

 

「……は?」

 

 ハイセ。

 

 目を細める。

 

「何今の」

 

「能力」

 

「歌で?」

 

「うん」

 

「…………」

 

 もう一度。

 

 巻き戻す。

 

「何でもあり?」

 

「何でも、とは少し違うかな」

 

「でも」

 

「?」

 

「歌って」

 

 一拍。

 

「それで現象起こしてんだろ?」

 

「そうだね」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 しばらく。

 

 画面を見る。

 

「変な能力」

 

「感想それ!?」

 

 エルネスタが。

 

 盛大に突っ込んだ。

 

「だって変だろ」

 

「世界最高峰の魔女だよ!?」

 

「知らねぇもん」

 

「もっとこう」

 

「?」

 

「すごいとか!」

 

「強いとは思う」

 

「それだけ!?」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 横から。

 

「ハイセ」

 

「何?」

 

「歌には興味がないのか?」

 

「歌?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

 少し。

 

 考える。

 

「聞くことはある」

 

「自分で?」

 

「歌う?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 首を傾げる。

 

「別に」

 

「そうか」

 

「何で?」

 

「いや」

 

 カミラ。

 

「妙に映像を見ていたからな」

 

「能力が変だったから」

 

「また言った!」

 

 エルネスタ。

 

「シルヴィアが聞いたら怒るよ!?」

 

「本人に言わなきゃいいだろ」

 

「…………」

 

「何?」

 

「その発想」

 

 一拍。

 

「好き」

 

「お前に好かれると不安になる」

 

「酷い!」

 

     ◇

 

 夕方。

 

「……疲れた」

 

 椅子。

 

 背もたれ。

 

「昨日も同じこと言ってたよ?」

 

「研究って疲れる」

 

「慣れる慣れる」

 

「慣れたくない」

 

「またまたぁ」

 

 エルネスタ。

 

 ハイセの閲覧履歴を見る。

 

「結構見たね」

 

「ああ」

 

「何が一番面白かった?」

 

「…………」

 

 考えるまでもなかった。

 

「天霧綾斗」

 

「即答!」

 

「剣」

 

「はいはい、剣ね」

 

「何だよ」

 

「じゃあ」

 

 エルネスタ。

 

 悪戯っぽく。

 

「あの剣」

 

 一拍。

 

「自分で使ってみたい?」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 一瞬。

 

 止まる。

 

「どういう意味?」

 

「そのまんま」

 

「…………」

 

「昨日話したでしょ?」

 

「戦闘データを直接学習させるってやつ?」

 

「そうそう」

 

「エルネスタ」

 

 カミラ。

 

 即座に。

 

「余計なことを吹き込むな」

 

「聞いてるだけだよ?」

 

「今はな」

 

「カミラってば疑り深い」

 

「お前相手なら当然だ」

 

 ハイセ。

 

 画面。

 

 見る。

 

 天霧綾斗。

 

 剣。

 

「…………」

 

 使ってみたい?

 

 もし。

 

 あんな剣を。

 

 自分が。

 

「…………」

 

 少し。

 

 想像する。

 

 そして。

 

「いや」

 

「え?」

 

 エルネスタ。

 

「今はいい」

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

「何で?」

 

「俺は」

 

 一拍。

 

「見てるだけでも面白い」

 

「…………」

 

「それに」

 

 映像。

 

「こいつの剣だから」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 少し。

 

 意外そうに。

 

 ハイセを見る。

 

「へぇ」

 

「何だよ」

 

「ううん」

 

 笑う。

 

「何でも欲しがるタイプじゃないんだなぁって」

 

「当たり前だろ」

 

「そう?」

 

「…………」

 

「まあ」

 

 ハイセ。

 

 立ち上がる。

 

「もし」

 

「?」

 

 少しだけ。

 

 笑った。

 

「本当に出来るって言われたら」

 

 一拍。

 

「その時考える」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 満面の笑み。

 

「了解♪」

 

「エルネスタ」

 

「何?」

 

「今の会話を研究計画書へ書くな」

 

「まだ書いてないって」

 

「端末を置け」

 

「何でバレたの!?」

 

「お前だからだ!!」

 

     ◇

 

 帰り道。

 

 ハイセは。

 

 ふと。

 

 昼間見た映像を。

 

 思い出していた。

 

 天霧綾斗。

 

 完成された。

 

 美しい剣。

 

 シルヴィア・リューネハイム。

 

 歌によって。

 

 現象を引き起こす。

 

 変な能力。

 

「…………」

 

 別に。

 

 まだ。

 

 それだけ。

 

 欲しいわけでもない。

 

 必要なわけでもない。

 

 ただ。

 

 知らなかったものを。

 

 知った。

 

 それだけだった。

 

 だが。

 

 一度。

 

 知ったものは。

 

 知らなかった頃には。

 

 戻れない。

 

「…………」

 

 ハイセは。

 

 自分の右手を見る。

 

【武器マスター】。

 

 武器へ。

 

 自分を。

 

 近づける力。

 

 もし。

 

 武器だけではなく。

 

 技術。

 

 知識。

 

 それ以外のものへ。

 

 近づく方法が。

 

 存在するなら。

 

「……いや」

 

 首を振る。

 

「考えすぎだな」

 

 今は。

 

 まだ。

 

 必要ない。

 

 ただ。

 

 面白い。

 

 それだけ。

 

 それだけの。

 

 はずだった。

 

     ◇

 

 一方。

 

 研究室。

 

「エルネスタ」

 

「なぁに?」

 

「何をしている」

 

「今日のログ整理」

 

「見せろ」

 

「え」

 

「見せろ」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 端末。

 

 奪う。

 

「…………」

 

 読む。

 

『異世界由来能力【武器マスター】と外部戦闘データを利用した技能学習について』

 

「…………」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 ゆっくり。

 

 顔を上げる。

 

「エルネスタ」

 

「はい」

 

「昨日」

 

「うん」

 

「私は何と言った?」

 

「えっと」

 

「言ってみろ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「ハイセくんに変なことを教えるな?」

 

「分かっているじゃないか」

 

「でも」

 

「?」

 

「これ」

 

 エルネスタ。

 

 楽しそうに。

 

 笑う。

 

「出来たら面白いと思わない?」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 端末を見る。

 

 ハイセのデータ。

 

 そして。

 

 戦闘記録。

 

「…………」

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

「……理論検証だけだ」

 

「!」

 

「人体実験はしない」

 

「やった!」

 

「喜ぶな!」

 

「カミラも興味あるんじゃん!」

 

「研究者だからな!!」

 

 そう。

 

 この時。

 

 カミラは。

 

 まだ。

 

 知らなかった。

 

 この。

 

 たった一枚の。

 

 理論検証用資料が。

 

 遠い未来。

 

 一人の男の。

 

 剣を。

 

 歌を。

 

 身体すら。

 

 変えてしまう。

 

 最初の一枚になることを。

 

 

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