【暗律の戦乙女(ヤミキューレ)】は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

58 / 104
第58話 祝福と呪い

 

 

 【破滅のグレイブヤード】攻略から帰還した翌朝、アルルカント・アカデミーの中央研究区画では、ここ数ヶ月で最も静かな最終試験が行われていた。

 

 実験台に置かれているのは、ごく一般的な煌式武装だった。強化型でも、純星煌式武装でもない。特別な能力を持たない量産品へ、小型化された新しい制御装置だけが接続されている。

 

 カミラは端末を操作しながら、普段以上に慎重な目で数値を追っていた。

 

「中央【雛形】との通信を切る」

 

 研究員が確認する。

 

「本当に完全切断で?」

 

「ああ。切れ」

 

 通信表示が消える。

 

CENTRAL CONNECTION:OFFLINE

 

 それでも、武器は停止しなかった。

 

 使用者の手の震え、出力の変化、過去数分間の動作傾向を、装置自身が読み取っていく。出力を上げすぎれば抑制し、余裕があれば安全域の中で許容範囲を広げる。

 

 中央からの指示はない。

 

 それでも。

 

 学習している。

 

「次。使用者を交代」

 

 別の研究員が武器を受け取った。

 

 癖が変わる。

 

 動作も違う。

 

 制御装置は一度、既存の個人適応値を切り離した。そのうえで、新しい使用者の動きに合わせて、もう一度学び始める。

 

 カミラは一言も喋らなかった。

 

 数分。

 

 十分。

 

 そして最後の安全試験。

 

LOCAL ADAPTATION:STABLE

 

SAFETY ENVELOPE:FUNCTIONAL

 

CENTRAL DEPENDENCY:0.00%

 

 画面の中央へ、最終判定が表示された。

 

PROJECT CROWN

 

PROTOTYPE STABILITY:100.00%

 

ALL PRIMARY TESTS:PASSED

 

 誰かが息を呑んだ。

 

 カミラは、しばらく画面を見つめ続けた。

 

「……出来た」

 

 その声は、驚くほど小さかった。

 

◇

 

 究極の汎用性。

 

 それは、カミラ・パレートがずっと追い続けてきたものだった。

 

 天才だけが扱える武器ではない。生まれつき強い者だけに許された力でもない。

 

 誰もが手に取れる。

 

 誰もが自分に合った形で使える。

 

 誰もが、今の自分より少し先へ進める。

 

 その理想へ近づくほど、一つの問題が大きくなっていた。

 

 【雛形】。

 

 あまりにも優秀だった。

 

 武器を知り、能力を解析し、使用者を理解し、安全性を確保する。だが、全てが【雛形】を経由しなければ成立しないなら、それは汎用ではない。

 

 ただ一つの巨大な入口を、アルルカントが握っているだけだ。

 

「……もう」

 

 カミラは中央【雛形】を見る。

 

「お前がいなくても動くぞ」

 

 わずかな処理時間。

 

SYSTEM RESPONSE:AFFIRMATIVE

 

 カミラが笑った。

 

「自分が不要になるのに、随分あっさりしているな」

 

PRIMARY OBJECTIVE:USER AUTONOMY

 

CENTRAL PRESENCE:NOT REQUIRED

 

「……そうだったな」

 

 教師が永遠に生徒を抱え込んではいけない。

 

 技術も。

 

 同じだ。

 

◇

 

 正式名称。

 

 汎用個人適応制御規格【王冠】。

 

 各メーカーが独立して実装出来る共通規格であり、中央【雛形】の複製ではない。安全制御、個人適応、学習補助、出力管理といった基本構造だけを共有し、それぞれの企業や開発者が独自の技術を載せられる余地を残す。

 

 カミラが最も拘ったのは、そこだった。

 

 王冠を作った者が、王になるのではない。

 

 使う者自身が、自分の頭に載せる。

 

「これで」

 

 カミラは完成データを見る。

 

「私達が消えても残る」

 

 心から。

 

 嬉しかった。

 

 この瞬間だけは。

 

◇

 

「そうだ。ハイセにも見せるか」

 

 カミラは端末を手に、研究区画を出た。

 

 あれほどこの計画へ深く関わった本人が、最終試験に顔を出していない。昨夜から別区画に籠もっているらしいが、何をしているのかまでは聞いていなかった。

 

「また曲でも作っているのか?」

 

 その程度に思っていた。

 

 だから。

 

 ノックもせず。

 

 扉を開けた。

 

「ハイセ、完成し――」

 

 止まった。

 

 室内。

 

 ハイセ。

 

 ヒルダ。

 

 ディルク。

 

 シムーン。

 

 イーサン。

 

 大型画面。

 

 そして。

 

SIREN-Δ SYSTEM

 

HIGH-RANK DUNGEON PRE-EMERGENCE PREDICTION

 

A-RANK:94.1%

 

S-RANK:90.3%

 

 カミラは。

 

 何も言わなかった。

 

 ハイセも。

 

 何も言わなかった。

 

 ヒルダだけが。

 

「あ」

 

 と言った。

 

◇

 

 十秒。

 

 誰も動かなかった。

 

 ディルクが、ゆっくりとハイセを見る。

 

「……知らねぇって言ってなかったか?」

 

「言った」

 

「来たぞ」

 

「見れば分かる」

 

「何か言え」

 

「考えてる」

 

 カミラが静かに扉を閉めた。

 

 鍵まで掛けた。

 

 ハイセの顔が少し引きつる。

 

「カミラ?」

 

「まず」

 

 非常に穏やかな声だった。

 

「この画面は何だ?」

 

「ダンジョン発生予測」

 

「見れば分かる」

 

「じゃあ何聞いてるの?」

 

「どうして出来ているのかを聞いている!!」

 

 一瞬で研究室全体へ怒声が響いた。

 

◇

 

「説明する!」

 

「しろ!」

 

「ヒルダが昔保存してたバックアップを借りた」

 

 カミラがヒルダを見る。

 

「バックアップ?」

 

「【セイレーンデルタシステム】だね」

 

「私は知らないぞ」

 

「知らせてないからね」

 

「ヒルダ!!」

 

「落ち着きたまえ」

 

「お前が言うな!!」

 

 シムーンとイーサンが、揃って椅子の背へ身を縮めた。

 

 それに気づいたハイセが、すぐ二人の前へ少しだけ身体を移す。

 

「二人は悪くないよ。俺が手伝ってもらった」

 

 カミラの視線が向く。

 

「本人達には説明したのか?」

 

「した。断ってもいいって言ったし、途中でやめてもいい。身体を弄るようなこともしてない」

 

「……そこは学習したんだな」

 

「かなり怒られたから」

 

「当然だ」

 

 怒鳴ってはいる。

 

 だが。

 

 カミラの声が、そこでほんの少しだけ落ち着いた。

 

◇

 

「それで?」

 

 カミラが腕を組む。

 

「ダンジョン発生予測を作って、何をするつもりだ」

 

 ハイセとディルクが。

 

 一瞬。

 

 目を合わせた。

 

 カミラはそれを見逃さなかった。

 

「何だ、その目配せは」

 

「いや」

 

「何を決めた?」

 

「まだ途中」

 

「途中でも言え」

 

 ディルクが面倒そうに息を吐いた。

 

「レヴォルフ側で何件か先行確保する」

 

「何?」

 

「A級とS級だ」

 

「お前ら正気か!?」

 

「全部じゃねぇ」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 ハイセが手を上げた。

 

「最終的には公開する」

 

「……何?」

 

◇

 

 そこで。

 

 ハイセは。

 

 全部話した。

 

 最初は数件だけ発生前から人員を待機させ、偶然を装って攻略する。

 

 他学園にもダンジョンは残す。

 

 独占はしない。

 

 ただし。

 

 気付く者には。

 

 気付かせる。

 

「威嚇射撃?」

 

 カミラが眉を寄せる。

 

「うん」

 

「何のために」

 

「俺達が発生前から読めるって分からせるため」

 

「それで?」

 

「そのタイミングでYami_Q_rayとして発表する」

 

「…………」

 

「発生予測の存在を公開する。候補地も、一定範囲までは皆に出す」

 

 カミラの表情が。

 

 少しずつ。

 

 怒りだけではなくなった。

 

「その後は」

 

「ディルク」

 

「俺かよ」

 

「制度はディルクが考えた方が上手い」

 

「お前が投げたんだろうが」

 

 それでもディルクは説明した。

 

「攻略権を競売式で調整する。単純な最高値じゃねぇ。攻略実績、安全性、現地還元、共同参加枠まで込みだ」

 

「……つまり」

 

 カミラが呟く。

 

「早い者勝ちだったダンジョンを、公開された市場へ変える?」

 

「そう」

 

 ハイセが頷いた。

 

◇

 

 カミラは黙った。

 

 怒る理由は、いくらでもある。

 

 相談がない。

 

 旧システムの存在すら知らされていない。

 

 秘密裏にレヴォルフと組んでいる。

 

 市場へわざと不自然な動きを見せようとしている。

 

 どれ一つ取っても。

 

 頭が痛い。

 

 しかし。

 

「……独占はしないんだな」

 

「しない」

 

「予測技術を、お前達だけの武器として残さない?」

 

「残さない」

 

「発表後は、レヴォルフだけが候補地を先に知ることもない?」

 

 ディルクが答える。

 

「それを続けたら市場にならねぇ」

 

「…………」

 

 カミラは。

 

 額を押さえた。

 

「何だ」

 

「いや」

 

 深く。

 

 息を吐く。

 

「方向性そのものは、私の理想と一致しているのが腹立たしい」

 

「じゃあ怒ってない?」

 

「怒っている!!」

 

「どっち?」

 

「両方だ!!」

 

◇

 

 その時。

 

 別の通知が鳴った。

 

 ディルクの端末。

 

 新規S級ダンジョン。

 

 発生。

 

 候補地点は。

 

 予測済み。

 

 そして。

 

 既に近隣へ。

 

 レヴォルフ側の人員が。

 

 「偶然」。

 

 滞在していた。

 

「二発目」

 

 ハイセが言う。

 

 カミラの顔が。

 

 完全に固まった。

 

「もう始めていたのか?」

 

「一発目は昨日」

 

「昨日!?」

 

「今が二発目」

 

「私に説明している間にも陰謀を進行させるな!!」

 

 ディルクが肩を竦める。

 

「自動で動くよう組んである」

 

「もっと悪いわ!!」

 

◇

 

 星導館。

 

 同じ速報を。

 

 クローディアも見ていた。

 

 一度目。

 

 A級。

 

 発生直後。

 

 レヴォルフ。

 

 二度目。

 

 S級。

 

 また。

 

 発生直後。

 

 近すぎる。

 

「……偶然」

 

 クローディアは。

 

 笑った。

 

「ということに、してほしいのでしょうか」

 

 その横。

 

 資料を運んできた綾斗が。

 

 少し首を傾げる。

 

「何かあった?」

 

「いえ」

 

「また僕に依頼?」

 

「今回は違いますわ」

 

「よかった……」

 

 綾斗は。

 

 本気で。

 

 安心した。

 

 クローディアは。

 

 そんな彼を見て。

 

 少し考える。

 

「ちなみに」

 

「うん?」

 

「もし新しいS級ダンジョンの依頼が――」

 

「授業があるから!」

 

「まだ最後まで言っておりませんわ」

 

「最近その導入でいいことなかったから!」

 

 クローディアは楽しそうに笑った。

 

◇

 

 ハイベルグ。

 

 【セイクリッド】にも。

 

 第二報が届く。

 

 サーシャは。

 

 発生地点。

 

 レヴォルフ所属冒険者の滞在記録。

 

 時刻。

 

 順番に見る。

 

「…………」

 

 ガイストが隣から覗く。

 

「二度目か」

 

「ああ」

 

「偶然と思うか?」

 

「思わない」

 

「誰だと思う?」

 

 サーシャは。

 

 迷わなかった。

 

「ハイセ」

 

「即答だな」

 

「嫌な予感がすると大体あいつなんだよ!」

 

 プレセアが苦笑する。

 

「さすがに、それだけで決めつけるのは可哀想ではなくて?」

 

 サーシャの端末。

 

 通知。

 

送信者:ハイセ

 

件名:あとで説明する

 

「…………」

 

 サーシャは。

 

 プレセアへ。

 

 画面を向けた。

 

「撤回するわ」

 

「だろ!?」

 

◇

 

 アルルカント。

 

 カミラの怒りは。

 

 まだ。

 

 終わっていなかった。

 

「他にもあるな?」

 

 ハイセ。

 

 視線を逸らす。

 

「ハイセ」

 

「…………」

 

「今言え」

 

「何も」

 

 ヒルダが。

 

 楽しそうに口を開いた。

 

「セイレーン計画を再開する」

 

 ハイセ。

 

 固まる。

 

 ディルク。

 

 目を閉じる。

 

 カミラ。

 

 動かない。

 

 三秒。

 

「…………何を?」

 

「セイレーン計画を――」

 

「聞こえている!!」

 

 今度の怒声は。

 

 さっきより。

 

 大きかった。

 

「ヒルダ!!」

 

「何故私だけ!?」

 

「お前が元凶だからだ!!」

 

「再開を要求したのはハイセだよ?」

 

 カミラの首が。

 

 ゆっくり。

 

 ハイセへ向く。

 

「…………」

 

「説明するよ」

 

「最初から全部説明しろ!!!」

 

◇

 

 今度の計画は。

 

 以前と違う。

 

 人体を勝手に弄らない。

 

 本人同意。

 

 撤回権。

 

 事前シミュレーション。

 

 不可逆領域の明示。

 

 安全域の設定。

 

 そして。

 

 【王冠】の技術も。

 

 利用する。

 

「待て」

 

 カミラが止める。

 

「【王冠】?」

 

「うん」

 

「今日完成したばかりだぞ?」

 

 ハイセの目が。

 

 少し。

 

 輝いた。

 

「完成したの?」

 

「そこに食いつくな!!」

 

「おめでとう」

 

「ありがとう! だが今はそれどころではない!!」

 

 喜びと怒りが。

 

 本当に。

 

 同時だった。

 

◇

 

 それでも。

 

 カミラは。

 

 研究者だった。

 

「目的は?」

 

「非星脈世代にも、選択肢を作る」

 

 ハイセが答える。

 

「星脈世代として生まれなかった。それだけで、同じ舞台に立てない人がいる」

 

「……だから?」

 

「望む人だけ」

 

 一度。

 

 区切る。

 

「自分で選べるようにしたい」

 

 カミラは。

 

 何も言わない。

 

「ならない選択も残す。今のまま強くなる道も残す。デミルークスも、強化型も、普通の煌式武装も残す」

 

「セイレーンだけを正解にはしない?」

 

「しない」

 

「……そうか」

 

 カミラは。

 

 椅子へ。

 

 深く座った。

 

「本当に」

 

 額を押さえる。

 

「腹立たしい」

 

「何で?」

 

「また理想に近づいているからだ!!」

 

◇

 

「私は」

 

 カミラが言う。

 

「誰もが手に取れる武器を作りたかった」

 

 視線。

 

 完成した【王冠】。

 

「今日、それが一つ形になった」

 

 次に。

 

 ダンジョン発生予測。

 

「その直後に、お前達が情報格差を利用した市場支配を始めたと聞いた」

 

「最終的には公開する」

 

「分かっている! そこまで聞いたから余計に腹が立つ!」

 

 そして。

 

 セイレーン計画。

 

「今度は、生まれ方による格差まで選択可能にしようとしている」

 

「うん」

 

「私の思想を」

 

 カミラが。

 

 ハイセを見る。

 

「私が想定していない速度で拡大するな」

 

「駄目?」

 

「駄目とは言っていない!」

 

「じゃあ」

 

「相談しろと言っている!!」

 

 研究室の隅。

 

 シムーンが。

 

 イーサンへ小声で尋ねる。

 

「この人達、いつもこうなの?」

 

 イーサンが。

 

 少し考える。

 

「多分」

 

「アルルカント怖い」

 

「分かる」

 

◇

 

 最終的に。

 

 カミラは。

 

 条件付きで。

 

 認めた。

 

 ダンジョン予測。

 

 公開前提。

 

 独占期間は最小限。

 

 制度設計は外部監査可能にする。

 

 セイレーン計画。

 

 倫理審査。

 

 本人同意。

 

 途中撤回。

 

 不可逆操作の二重承認。

 

 【王冠】安全系統の独立監視。

 

 そして。

 

「ヒルダ」

 

「何だい?」

 

「お前一人の判断で人体操作する権限はない」

 

「信用がないねぇ」

 

「あると思うのか?」

 

「ないね」

 

「自覚があるなら直せ!!」

 

 ハイセが。

 

 横から。

 

「じゃあ再開していい?」

 

「条件を全部満たしてからだ!」

 

「分かった」

 

「即日始めるなよ?」

 

「…………」

 

「ハイセ?」

 

「努力する」

 

「今すぐ『しない』と言え!!」

 

◇

 

 夕方。

 

 カミラは。

 

 ようやく。

 

 中央研究区画へ戻った。

 

 机。

 

 完成報告書。

 

 【王冠】。

 

PROJECT CROWN:COMPLETE

 

 横には。

 

 今日一日の。

 

 追加案件。

 

高ランクダンジョン発生予測技術

 

新規攻略権市場構想

 

SIREN PROJECT:RESTART PROPOSAL

 

「…………」

 

 朝。

 

 一つだった。

 

 夕方。

 

 三つ増えている。

 

「どうしてだ」

 

 中央【雛形】。

 

 沈黙。

 

「私は今日」

 

 カミラは。

 

 机へ突っ伏した。

 

「理想が叶ったはずなんだぞ……」

 

SYSTEM RESPONSE:AFFIRMATIVE

 

「なのに何故こんなに疲れている?」

 

 少し。

 

 処理。

 

CAUSE ANALYSIS――

 

「分析するな」

 

PROCESS ABORTED

 

「そこだけ素直だな……」

 

◇

 

 同じ頃。

 

 クローディアは。

 

 レヴォルフ側の二件目の先行攻略を。

 

 もう一度。

 

 確認していた。

 

 そして。

 

 ハイセ。

 

 いや。

 

 Yami_Q_rayの。

 

 最近の活動記録。

 

 アルルカント。

 

 異世界交流。

 

 強化型。

 

 六学園会談。

 

 全て。

 

 並べる。

 

「威嚇……」

 

 小さく。

 

 呟く。

 

「でしょうか」

 

 もし。

 

 そうなら。

 

 次がある。

 

 隠し続けるつもりなら。

 

 こんな目立つ動きはしない。

 

「何を見せてくださるのかしら」

 

 クローディアは。

 

 楽しそうに。

 

 微笑んだ。

 

◇

 

 そして。

 

 ハイセの研究室。

 

 ディルクから。

 

 短い通信。

 

『三発目の候補出た』

 

「ランクは?」

 

『A』

 

「取る?」

 

『いや』

 

 ハイセが。

 

 少し笑う。

 

「見送る?」

 

『星導館側が近い』

 

「ちょうどいいね」

 

『ああ』

 

 全部は。

 

 取らない。

 

 それが。

 

 重要だった。

 

 情報を。

 

 持っている。

 

 しかし。

 

 独占しない。

 

 気付かせる。

 

 疑わせる。

 

 そして。

 

 次に。

 

 開く。

 

「そろそろかな」

 

 ハイセが言う。

 

『クローディアならもう気付いてる』

 

「多分ね」

 

『発表準備しろ』

 

「うん」

 

『市場側は俺がやる』

 

「助かる」

 

 通信が切れる。

 

◇

 

 ハイセは。

 

 一人。

 

 画面を見る。

 

 Yami_Q_ray。

 

 歌姫。

 

 世界間交流。

 

 冒険者。

 

 研究。

 

 技術。

 

 今なら。

 

 声が届く。

 

 以前は。

 

 自分の人生を。

 

 誰かに決められた。

 

 今は。

 

 自分が。

 

 世界の選択肢を。

 

 増やそうとしている。

 

 そのために。

 

 一度。

 

 情報を握った。

 

 なら。

 

 次は。

 

 手放す番だった。

 

 ハイセは。

 

 新しい資料を開く。

 

 表題。

 

高ランクダンジョン発生予測技術・公開発表案

 

 その下。

 

新規攻略権調整制度――暫定名称:FAIR STAGE

 

「……これでいい」

 

 次の一手は。

 

 もう。

 

 威嚇射撃ではない。

 

 世界へ。

 

 ルールそのものを。

 

 渡すための。

 

 一発だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。