暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

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第58話 祝福と呪い

 

 

 【破滅のグレイブヤード】攻略から帰還した翌朝、アルルカント・アカデミーの中央研究区画では、ここ数ヶ月で最も静かな最終試験が行われていた。

 

 実験台に置かれているのは、ごく一般的な煌式武装だった。強化型でも、純星煌式武装でもない。特別な能力を持たない量産品へ、小型化された新しい制御装置だけが接続されている。

 

 カミラは端末を操作しながら、普段以上に慎重な目で数値を追っていた。

 

「中央【雛形】との通信を切る」

 

 研究員が確認する。

 

「本当に完全切断で?」

 

「ああ。切れ」

 

 通信表示が消える。

 

CENTRAL CONNECTION:OFFLINE

 

 それでも、武器は停止しなかった。

 

 使用者の手の震え、出力の変化、過去数分間の動作傾向を、装置自身が読み取っていく。出力を上げすぎれば抑制し、余裕があれば安全域の中で許容範囲を広げる。

 

 中央からの指示はない。

 

 それでも。

 

 学習している。

 

「次。使用者を交代」

 

 別の研究員が武器を受け取った。

 

 癖が変わる。

 

 動作も違う。

 

 制御装置は一度、既存の個人適応値を切り離した。そのうえで、新しい使用者の動きに合わせて、もう一度学び始める。

 

 カミラは一言も喋らなかった。

 

 数分。

 

 十分。

 

 そして最後の安全試験。

 

LOCAL ADAPTATION:STABLE

 

SAFETY ENVELOPE:FUNCTIONAL

 

CENTRAL DEPENDENCY:0.00%

 

 画面の中央へ、最終判定が表示された。

 

PROJECT CROWN

 

PROTOTYPE STABILITY:100.00%

 

ALL PRIMARY TESTS:PASSED

 

 誰かが息を呑んだ。

 

 カミラは、しばらく画面を見つめ続けた。

 

「……出来た」

 

 その声は、驚くほど小さかった。

 

 

 究極の汎用性。

 

 それは、カミラ・パレートがずっと追い続けてきたものだった。

 

 天才だけが扱える武器ではない。生まれつき強い者だけに許された力でもない。

 

 誰もが手に取れる。

 

 誰もが自分に合った形で使える。

 

 誰もが、今の自分より少し先へ進める。

 

 その理想へ近づくほど、一つの問題が大きくなっていた。

 

 【雛形】。

 

 あまりにも優秀だった。

 

 武器を知り、能力を解析し、使用者を理解し、安全性を確保する。だが、全てが【雛形】を経由しなければ成立しないなら、それは汎用ではない。

 

 ただ一つの巨大な入口を、アルルカントが握っているだけだ。

 

「……もう」

 

 カミラは中央【雛形】を見る。

 

「お前がいなくても動くぞ」

 

 わずかな処理時間。

 

SYSTEM RESPONSE:AFFIRMATIVE

 

 カミラが笑った。

 

「自分が不要になるのに、随分あっさりしているな」

 

PRIMARY OBJECTIVE:USER AUTONOMY

 

CENTRAL PRESENCE:NOT REQUIRED

 

「……そうだったな」

 

 教師が永遠に生徒を抱え込んではいけない。

 

 技術も。

 

 同じだ。

 

 

 正式名称。

 

 汎用個人適応制御規格【王冠】。

 

 各メーカーが独立して実装出来る共通規格であり、中央【雛形】の複製ではない。安全制御、個人適応、学習補助、出力管理といった基本構造だけを共有し、それぞれの企業や開発者が独自の技術を載せられる余地を残す。

 

 カミラが最も拘ったのは、そこだった。

 

 王冠を作った者が、王になるのではない。

 

 使う者自身が、自分の頭に載せる。

 

「これで」

 

 カミラは完成データを見る。

 

「私達が消えても残る」

 

 心から。

 

 嬉しかった。

 

 この瞬間だけは。

 

 

「そうだ。ハイセにも見せるか」

 

 カミラは端末を手に、研究区画を出た。

 

 あれほどこの計画へ深く関わった本人が、最終試験に顔を出していない。昨夜から別区画に籠もっているらしいが、何をしているのかまでは聞いていなかった。

 

「また曲でも作っているのか?」

 

 その程度に思っていた。

 

 だから。

 

 ノックもせず。

 

 扉を開けた。

 

「ハイセ、完成し――」

 

 止まった。

 

 室内。

 

 ハイセ。

 

 ヒルダ。

 

 ディルク。

 

 シムーン。

 

 イーサン。

 

 大型画面。

 

 そして。

 

SIREN-Δ SYSTEM

 

HIGH-RANK DUNGEON PRE-EMERGENCE PREDICTION

 

A-RANK:94.1%

 

S-RANK:90.3%

 

 カミラは。

 

 何も言わなかった。

 

 ハイセも。

 

 何も言わなかった。

 

 ヒルダだけが。

 

「あ」

 

 と言った。

 

 

 十秒。

 

 誰も動かなかった。

 

 ディルクが、ゆっくりとハイセを見る。

 

「……知らねぇって言ってなかったか?」

 

「言った」

 

「来たぞ」

 

「見れば分かる」

 

「何か言え」

 

「考えてる」

 

 カミラが静かに扉を閉めた。

 

 鍵まで掛けた。

 

 ハイセの顔が少し引きつる。

 

「カミラ?」

 

「まず」

 

 非常に穏やかな声だった。

 

「この画面は何だ?」

 

「ダンジョン発生予測」

 

「見れば分かる」

 

「じゃあ何聞いてるの?」

 

「どうして出来ているのかを聞いている!!」

 

 一瞬で研究室全体へ怒声が響いた。

 

 

「説明する!」

 

「しろ!」

 

「ヒルダが昔保存してたバックアップを借りた」

 

 カミラがヒルダを見る。

 

「バックアップ?」

 

「【セイレーンデルタシステム】だね」

 

「私は知らないぞ」

 

「知らせてないからね」

 

「ヒルダ!!」

 

「落ち着きたまえ」

 

「お前が言うな!!」

 

 シムーンとイーサンが、揃って椅子の背へ身を縮めた。

 

 それに気づいたハイセが、すぐ二人の前へ少しだけ身体を移す。

 

「二人は悪くないよ。俺が手伝ってもらった」

 

 カミラの視線が向く。

 

「本人達には説明したのか?」

 

「した。断ってもいいって言ったし、途中でやめてもいい。身体を弄るようなこともしてない」

 

「……そこは学習したんだな」

 

「かなり怒られたから」

 

「当然だ」

 

 怒鳴ってはいる。

 

 だが。

 

 カミラの声が、そこでほんの少しだけ落ち着いた。

 

 

「それで?」

 

 カミラが腕を組む。

 

「ダンジョン発生予測を作って、何をするつもりだ」

 

 ハイセとディルクが。

 

 一瞬。

 

 目を合わせた。

 

 カミラはそれを見逃さなかった。

 

「何だ、その目配せは」

 

「いや」

 

「何を決めた?」

 

「まだ途中」

 

「途中でも言え」

 

 ディルクが面倒そうに息を吐いた。

 

「レヴォルフ側で何件か先行確保する」

 

「何?」

 

「A級とS級だ」

 

「お前ら正気か!?」

 

「全部じゃねぇ」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 ハイセが手を上げた。

 

「最終的には公開する」

 

「……何?」

 

 

 そこで。

 

 ハイセは。

 

 全部話した。

 

 最初は数件だけ発生前から人員を待機させ、偶然を装って攻略する。

 

 他学園にもダンジョンは残す。

 

 独占はしない。

 

 ただし。

 

 気付く者には。

 

 気付かせる。

 

「威嚇射撃?」

 

 カミラが眉を寄せる。

 

「うん」

 

「何のために」

 

「俺達が発生前から読めるって分からせるため」

 

「それで?」

 

「そのタイミングでYami_Q_rayとして発表する」

 

「…………」

 

「発生予測の存在を公開する。候補地も、一定範囲までは皆に出す」

 

 カミラの表情が。

 

 少しずつ。

 

 怒りだけではなくなった。

 

「その後は」

 

「ディルク」

 

「俺かよ」

 

「制度はディルクが考えた方が上手い」

 

「お前が投げたんだろうが」

 

 それでもディルクは説明した。

 

「攻略権を競売式で調整する。単純な最高値じゃねぇ。攻略実績、安全性、現地還元、共同参加枠まで込みだ」

 

「……つまり」

 

 カミラが呟く。

 

「早い者勝ちだったダンジョンを、公開された市場へ変える?」

 

「そう」

 

 ハイセが頷いた。

 

 

 カミラは黙った。

 

 怒る理由は、いくらでもある。

 

 相談がない。

 

 旧システムの存在すら知らされていない。

 

 秘密裏にレヴォルフと組んでいる。

 

 市場へわざと不自然な動きを見せようとしている。

 

 どれ一つ取っても。

 

 頭が痛い。

 

 しかし。

 

「……独占はしないんだな」

 

「しない」

 

「予測技術を、お前達だけの武器として残さない?」

 

「残さない」

 

「発表後は、レヴォルフだけが候補地を先に知ることもない?」

 

 ディルクが答える。

 

「それを続けたら市場にならねぇ」

 

「…………」

 

 カミラは。

 

 額を押さえた。

 

「何だ」

 

「いや」

 

 深く。

 

 息を吐く。

 

「方向性そのものは、私の理想と一致しているのが腹立たしい」

 

「じゃあ怒ってない?」

 

「怒っている!!」

 

「どっち?」

 

「両方だ!!」

 

 

 その時。

 

 別の通知が鳴った。

 

 ディルクの端末。

 

 新規S級ダンジョン。

 

 発生。

 

 候補地点は。

 

 予測済み。

 

 そして。

 

 既に近隣へ。

 

 レヴォルフ側の人員が。

 

 「偶然」。

 

 滞在していた。

 

「二発目」

 

 ハイセが言う。

 

 カミラの顔が。

 

 完全に固まった。

 

「もう始めていたのか?」

 

「一発目は昨日」

 

「昨日!?」

 

「今が二発目」

 

「私に説明している間にも陰謀を進行させるな!!」

 

 ディルクが肩を竦める。

 

「自動で動くよう組んである」

 

「もっと悪いわ!!」

 

 

 星導館。

 

 同じ速報を。

 

 クローディアも見ていた。

 

 一度目。

 

 A級。

 

 発生直後。

 

 レヴォルフ。

 

 二度目。

 

 S級。

 

 また。

 

 発生直後。

 

 近すぎる。

 

「……偶然」

 

 クローディアは。

 

 笑った。

 

「ということに、してほしいのでしょうか」

 

 その横。

 

 資料を運んできた綾斗が。

 

 少し首を傾げる。

 

「何かあった?」

 

「いえ」

 

「また僕に依頼?」

 

「今回は違いますわ」

 

「よかった……」

 

 綾斗は。

 

 本気で。

 

 安心した。

 

 クローディアは。

 

 そんな彼を見て。

 

 少し考える。

 

「ちなみに」

 

「うん?」

 

「もし新しいS級ダンジョンの依頼が――」

 

「授業があるから!」

 

「まだ最後まで言っておりませんわ」

 

「最近その導入でいいことなかったから!」

 

 クローディアは楽しそうに笑った。

 

 

 ハイベルグ。

 

 【セイクリッド】にも。

 

 第二報が届く。

 

 サーシャは。

 

 発生地点。

 

 レヴォルフ所属冒険者の滞在記録。

 

 時刻。

 

 順番に見る。

 

「…………」

 

 ガイストが隣から覗く。

 

「二度目か」

 

「ああ」

 

「偶然と思うか?」

 

「思わない」

 

「誰だと思う?」

 

 サーシャは。

 

 迷わなかった。

 

「ハイセ」

 

「即答だな」

 

「嫌な予感がすると大体あいつなんだよ!」

 

 プレセアが苦笑する。

 

「さすがに、それだけで決めつけるのは可哀想ではなくて?」

 

 サーシャの端末。

 

 通知。

 

送信者:ハイセ

 

件名:あとで説明する

 

「…………」

 

 サーシャは。

 

 プレセアへ。

 

 画面を向けた。

 

「撤回するわ」

 

「だろ!?」

 

 

 アルルカント。

 

 カミラの怒りは。

 

 まだ。

 

 終わっていなかった。

 

「他にもあるな?」

 

 ハイセ。

 

 視線を逸らす。

 

「ハイセ」

 

「…………」

 

「今言え」

 

「何も」

 

 ヒルダが。

 

 楽しそうに口を開いた。

 

「セイレーン計画を再開する」

 

 ハイセ。

 

 固まる。

 

 ディルク。

 

 目を閉じる。

 

 カミラ。

 

 動かない。

 

 三秒。

 

「…………何を?」

 

「セイレーン計画を――」

 

「聞こえている!!」

 

 今度の怒声は。

 

 さっきより。

 

 大きかった。

 

「ヒルダ!!」

 

「何故私だけ!?」

 

「お前が元凶だからだ!!」

 

「再開を要求したのはハイセだよ?」

 

 カミラの首が。

 

 ゆっくり。

 

 ハイセへ向く。

 

「…………」

 

「説明するよ」

 

「最初から全部説明しろ!!!」

 

 

 今度の計画は。

 

 以前と違う。

 

 人体を勝手に弄らない。

 

 本人同意。

 

 撤回権。

 

 事前シミュレーション。

 

 不可逆領域の明示。

 

 安全域の設定。

 

 そして。

 

 【王冠】の技術も。

 

 利用する。

 

「待て」

 

 カミラが止める。

 

「【王冠】?」

 

「うん」

 

「今日完成したばかりだぞ?」

 

 ハイセの目が。

 

 少し。

 

 輝いた。

 

「完成したの?」

 

「そこに食いつくな!!」

 

「おめでとう」

 

「ありがとう! だが今はそれどころではない!!」

 

 喜びと怒りが。

 

 本当に。

 

 同時だった。

 

 

 それでも。

 

 カミラは。

 

 研究者だった。

 

「目的は?」

 

「非星脈世代にも、選択肢を作る」

 

 ハイセが答える。

 

「星脈世代として生まれなかった。それだけで、同じ舞台に立てない人がいる」

 

「……だから?」

 

「望む人だけ」

 

 一度。

 

 区切る。

 

「自分で選べるようにしたい」

 

 カミラは。

 

 何も言わない。

 

「ならない選択も残す。今のまま強くなる道も残す。デミルークスも、強化型も、普通の煌式武装も残す」

 

「セイレーンだけを正解にはしない?」

 

「しない」

 

「……そうか」

 

 カミラは。

 

 椅子へ。

 

 深く座った。

 

「本当に」

 

 額を押さえる。

 

「腹立たしい」

 

「何で?」

 

「また理想に近づいているからだ!!」

 

 

「私は」

 

 カミラが言う。

 

「誰もが手に取れる武器を作りたかった」

 

 視線。

 

 完成した【王冠】。

 

「今日、それが一つ形になった」

 

 次に。

 

 ダンジョン発生予測。

 

「その直後に、お前達が情報格差を利用した市場支配を始めたと聞いた」

 

「最終的には公開する」

 

「分かっている! そこまで聞いたから余計に腹が立つ!」

 

 そして。

 

 セイレーン計画。

 

「今度は、生まれ方による格差まで選択可能にしようとしている」

 

「うん」

 

「私の思想を」

 

 カミラが。

 

 ハイセを見る。

 

「私が想定していない速度で拡大するな」

 

「駄目?」

 

「駄目とは言っていない!」

 

「じゃあ」

 

「相談しろと言っている!!」

 

 研究室の隅。

 

 シムーンが。

 

 イーサンへ小声で尋ねる。

 

「この人達、いつもこうなの?」

 

 イーサンが。

 

 少し考える。

 

「多分」

 

「アルルカント怖い」

 

「分かる」

 

 

 最終的に。

 

 カミラは。

 

 条件付きで。

 

 認めた。

 

 ダンジョン予測。

 

 公開前提。

 

 独占期間は最小限。

 

 制度設計は外部監査可能にする。

 

 セイレーン計画。

 

 倫理審査。

 

 本人同意。

 

 途中撤回。

 

 不可逆操作の二重承認。

 

 【王冠】安全系統の独立監視。

 

 そして。

 

「ヒルダ」

 

「何だい?」

 

「お前一人の判断で人体操作する権限はない」

 

「信用がないねぇ」

 

「あると思うのか?」

 

「ないね」

 

「自覚があるなら直せ!!」

 

 ハイセが。

 

 横から。

 

「じゃあ再開していい?」

 

「条件を全部満たしてからだ!」

 

「分かった」

 

「即日始めるなよ?」

 

「…………」

 

「ハイセ?」

 

「努力する」

 

「今すぐ『しない』と言え!!」

 

 

 夕方。

 

 カミラは。

 

 ようやく。

 

 中央研究区画へ戻った。

 

 机。

 

 完成報告書。

 

 【王冠】。

 

PROJECT CROWN:COMPLETE

 

 横には。

 

 今日一日の。

 

 追加案件。

 

高ランクダンジョン発生予測技術

 

新規攻略権市場構想

 

SIREN PROJECT:RESTART PROPOSAL

 

「…………」

 

 朝。

 

 一つだった。

 

 夕方。

 

 三つ増えている。

 

「どうしてだ」

 

 中央【雛形】。

 

 沈黙。

 

「私は今日」

 

 カミラは。

 

 机へ突っ伏した。

 

「理想が叶ったはずなんだぞ……」

 

SYSTEM RESPONSE:AFFIRMATIVE

 

「なのに何故こんなに疲れている?」

 

 少し。

 

 処理。

 

CAUSE ANALYSIS――

 

「分析するな」

 

PROCESS ABORTED

 

「そこだけ素直だな……」

 

 

 同じ頃。

 

 クローディアは。

 

 レヴォルフ側の二件目の先行攻略を。

 

 もう一度。

 

 確認していた。

 

 そして。

 

 ハイセ。

 

 いや。

 

 Yami_Q_rayの。

 

 最近の活動記録。

 

 アルルカント。

 

 異世界交流。

 

 強化型。

 

 六学園会談。

 

 全て。

 

 並べる。

 

「威嚇……」

 

 小さく。

 

 呟く。

 

「でしょうか」

 

 もし。

 

 そうなら。

 

 次がある。

 

 隠し続けるつもりなら。

 

 こんな目立つ動きはしない。

 

「何を見せてくださるのかしら」

 

 クローディアは。

 

 楽しそうに。

 

 微笑んだ。

 

 

 そして。

 

 ハイセの研究室。

 

 ディルクから。

 

 短い通信。

 

『三発目の候補出た』

 

「ランクは?」

 

『A』

 

「取る?」

 

『いや』

 

 ハイセが。

 

 少し笑う。

 

「見送る?」

 

『星導館側が近い』

 

「ちょうどいいね」

 

『ああ』

 

 全部は。

 

 取らない。

 

 それが。

 

 重要だった。

 

 情報を。

 

 持っている。

 

 しかし。

 

 独占しない。

 

 気付かせる。

 

 疑わせる。

 

 そして。

 

 次に。

 

 開く。

 

「そろそろかな」

 

 ハイセが言う。

 

『クローディアならもう気付いてる』

 

「多分ね」

 

『発表準備しろ』

 

「うん」

 

『市場側は俺がやる』

 

「助かる」

 

 通信が切れる。

 

 

 ハイセは。

 

 一人。

 

 画面を見る。

 

 Yami_Q_ray。

 

 歌姫。

 

 世界間交流。

 

 冒険者。

 

 研究。

 

 技術。

 

 今なら。

 

 声が届く。

 

 以前は。

 

 自分の人生を。

 

 誰かに決められた。

 

 今は。

 

 自分が。

 

 世界の選択肢を。

 

 増やそうとしている。

 

 そのために。

 

 一度。

 

 情報を握った。

 

 なら。

 

 次は。

 

 手放す番だった。

 

 ハイセは。

 

 新しい資料を開く。

 

 表題。

 

高ランクダンジョン発生予測技術・公開発表案

 

 その下。

 

新規攻略権調整制度――暫定名称:FAIR STAGE

 

「……これでいい」

 

 次の一手は。

 

 もう。

 

 威嚇射撃ではない。

 

 世界へ。

 

 ルールそのものを。

 

 渡すための。

 

 一発だった。

 

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