【暗律の戦乙女(ヤミキューレ)】は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

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第64話 免許皆伝

 

 

 

 クレアが【双月】を受け取ってから、しばらく経った。

 

 戦い方は既に大きく変わっている。双剣と大斧、攻撃と誘導、本命とフェイント。それらを自在に入れ替えながら、相手自身に間違った答えを選ばせる剣は、短期間で彼女独自のものになり始めていた。

 

 だからこそ。

 

「次はこれ」

 

 ハイセが差し出した紙を見て、クレアはしばらく黙った。

 

 そこには大きく。

 

【風鳴翼流・防人講座】

 

 と書かれていた。

 

「師匠」

 

「何?」

 

「また変なもの始めました?」

 

「失礼な」

 

「漫画の次にディルクさん、その次に派閥切り崩しだった人が言います!?」

 

 クレアの反論は、極めて正当だった。

 

 

「今回はちゃんと剣術だよ」

 

「“今回は”って自分で言いましたね?」

 

「細かい」

 

 ハイセは木刀を一本持ち、クレアの正面に立った。

 

「今のクレアって、相手に何を見せるか考えてるでしょ?」

 

「はい。それが私の戦い方なので」

 

「そこをやめる」

 

「…………え?」

 

 クレアの顔から、自信が消えた。

 

「待ってください。それをやめたら、私の長所がなくなりません?」

 

「なくならないよ」

 

「でも」

 

「嘘をつくために、嘘らしい動きをしたら駄目でしょ?」

 

 クレアが止まった。

 

 

 ハイセは木刀をゆっくり構える。

 

「今のクレアは、フェイントを上手く使える。でもフェイントをするとき、ほんの少しだけ『騙そう』って意識が出る」

 

「……分かります?」

 

「分かる人には」

 

「サーシャさんとか?」

 

「多分、今なら前より分かる」

 

 范星露の弟子になり始めたサーシャは、既に「動きを見てから考える」段階を越えつつある。呼吸、気配、身体の流れ、その全体から反応する方向へ進んでいる以上、作為の混じったフェイントほど逆に拾われやすくなる。

 

「じゃあどうするんですか?」

 

「騙そうとしない」

 

「それで騙せるんです?」

 

「本当に斬るつもりで振ればいい」

 

「……斬るんですよね?」

 

「途中で違うと思ったらやめる」

 

「それフェイントでは?」

 

「結果的にはね」

 

 クレアは頭を抱えた。

 

「もう意味が分かりません!」

 

 

 最初の課題は、驚くほど地味だった。

 

 立つ。

 

 構える。

 

 抜く。

 

 納める。

 

 それだけ。

 

 何百回繰り返しても、ハイセは「まだ」と言った。

 

「何が駄目なんです?」

 

「抜く前に、もう斬ろうとしてる」

 

「斬るために抜いてますから!」

 

「だから駄目」

 

「理不尽!」

 

 ハイセは木刀を持ったまま、クレアの正面に立つ。

 

「剣を抜く前から『こう斬る』って決めてたら、相手にはもう答えが見えてる」

 

「じゃあ何も考えない?」

 

「それも違う」

 

「またそれですか!?」

 

 最近クレアは、サーシャが星露へ怒鳴っていた理由を少し理解し始めていた。

 

 

「守りたいものだけ決める」

 

「守りたいもの?」

 

「うん」

 

 ハイセは静かに答える。

 

「誰を斬るかじゃなくて、何を守るためにここに立ってるか。それだけは最初から決めていい」

 

「それ以外は?」

 

「その時に決める」

 

「敵が動いてから?」

 

「敵も、自分も、周りも全部含めて」

 

 クレアはしばらく考えた。

 

「それって……今までと逆ですね」

 

「そう?」

 

「今までは相手に何を思わせるか考えてました。でもこれは、自分が何をするかすら最初から決めない」

 

「うん」

 

「怖くないですか?」

 

「最初は」

 

 ハイセは少し笑った。

 

「だから練習する」

 

 

 防人講座は、派手な技を一つも教えなかった。

 

 呼吸を整える。

 

 重心を落とす。

 

 剣を身体から切り離さない。

 

 相手を倒すことばかり考えず、守るべき範囲と自分の位置を意識する。

 

 そして何より、無駄を削る。

 

「今の一歩、多い」

 

「え?」

 

「避けてから踏み込んだでしょ?」

 

「はい」

 

「避けながら踏み込める」

 

「……出来ます?」

 

「出来る」

 

「師匠、最近范星露さんみたいなこと言い始めてません?」

 

「嫌なこと言うね」

 

 ハイセは少し傷ついた。

 

 

 だが。

 

 一週間。

 

 二週間。

 

 クレアの動きから、少しずつ余計なものが消え始めた。

 

 以前のクレアは、相手を騙すために多くの情報を見せていた。右を見せ、左を隠し、双剣を印象付け、大斧を本命として潜ませる。

 

 今は違う。

 

 右へ動く。

 

 その瞬間は、本当に右が最善だった。

 

 しかし相手が変化する。

 

 なら左へ。

 

 それも演技ではない。

 

「…………」

 

 模擬戦の途中。

 

 ハイセが剣を止めた。

 

「今の、何で左へ変えたの?」

 

「分かりません」

 

「考えなかった?」

 

「右へ行こうとしたら、違う気がして」

 

「それで?」

 

「身体が左へ行きました」

 

 クレア自身が、不安そうな顔をした。

 

「……これ、合ってます?」

 

「合ってると思う」

 

「思う!?」

 

 

 さらに数日後。

 

 ハイセは訓練方法を変えた。

 

 クレアの正面へ立つのではなく、周囲に複数の簡易標的を配置する。攻撃対象は指定しない。

 

「全部倒せばいいんですか?」

 

「違う」

 

「じゃあ?」

 

「守るのは、あそこ」

 

 訓練場の端。

 

 一つだけ。

 

 小さな旗。

 

「敵があの旗に触れたら負け」

 

「なるほど」

 

「クレアは何体倒してもいいし、一体も倒さなくてもいい」

 

「……また勝ち方を壊してきましたね」

 

「ディルクの授業覚えてる?」

 

「嫌というほど」

 

 クレアは苦笑しながら【双月】を構えた。

 

 

 訓練開始。

 

 三方向。

 

 敵役。

 

 クレアは一体目へ向かう。

 

 途中でやめた。

 

 二体目。

 

 追わない。

 

 三体目だけ。

 

 斬る。

 

 その判断に。

 

 ほとんど迷いがない。

 

 ハイセは途中から何度も敵の動きを変えたが、クレアは追いかけなかった。守るべき一点を中心に、自分と敵の位置が自然に組み替わっていく。

 

 最後。

 

 一体が旗へ飛び込む。

 

 クレアは。

 

 抜刀。

 

 一閃。

 

 それだけだった。

 

 敵役の剣だけが弾かれた。

 

「…………」

 

 静寂。

 

 クレアは、自分の剣を見た。

 

「今」

 

「うん」

 

「私、何も考えてませんでした」

 

「何も?」

 

「旗を守らないと、ってことだけ」

 

 ハイセの表情が。

 

 少し変わった。

 

 

「もう一回」

 

「はい」

 

 二回目。

 

 同じ。

 

 三回目。

 

 違う動き。

 

 結果は同じ。

 

 四回目。

 

 敵が一体増える。

 

 それでも。

 

 クレアは無理に全部倒そうとしない。

 

 斬る必要があれば斬る。

 

 必要がなければ。

 

 通す。

 

 避ける。

 

 誘導する。

 

 そして。

 

 最後だけ。

 

 一太刀。

 

「…………」

 

 五回目が終わった時。

 

 ハイセは木刀を下ろした。

 

「クレア」

 

「はい?」

 

「多分」

 

 少し考える。

 

「免許皆伝」

 

「…………」

 

「おめでとう」

 

「待ってください」

 

 

「何?」

 

「私」

 

 クレアは自分を指差した。

 

「何を会得したんですか?」

 

「剣禅一如みたいなもの?」

 

「何で師匠が疑問形なんですか!?」

 

「説明しづらいから」

 

「本人はもっと説明出来ませんよ!」

 

 クレアは本気で困っていた。

 

「嘘をつく剣を練習してたはずなんです」

 

「うん」

 

「なのに最近、嘘つこうって考えなくなって」

 

「うん」

 

「フェイントしたと思ったら、本当に斬ってる時もあるし」

 

「うん」

 

「本当に斬ろうと思ったら途中でやめるし」

 

「うん」

 

「何なんですかこれ!?」

 

 ハイセは少し考えた。

 

「自然体?」

 

「雑にまとめないでください!!」

 

 

 けれど。

 

 それこそが。

 

 今のクレアだった。

 

 嘘をつく。

 

 真実を見せる。

 

 その二つを。

 

 もう分けていない。

 

 相手がどう動くか。

 

 自分がどこにいるか。

 

 何を守るか。

 

 その瞬間に。

 

 必要なものだけを選ぶ。

 

 だから相手から見ても。

 

 本命とフェイントの差が。

 

 さらに消えた。

 

 嘘をついているのではない。

 

 相手が勝手に。

 

 意味を決める。

 

 そこまで。

 

 剣が。

 

 自然になった。

 

 

「ということで」

 

 ハイセは。

 

 新しいケースを運んできた。

 

「卒業証書」

 

「紙じゃないんですか?」

 

「紙もあるよ」

 

「じゃあこれは?」

 

「おまけ」

 

「師匠のおまけ、毎回重いんですよ!」

 

 ケースを開く。

 

 中には。

 

 一振り。

 

 日本刀型の純星煌式武装。

 

 派手な装飾は少ない。

 

 むしろ。

 

 異様なほど。

 

 静かな武器だった。

 

「名前は」

 

 ハイセが言う。

 

《風刃》

 

 

「抜刀型純星煌式武装?」

 

「うん」

 

 クレアは。

 

 慎重に。

 

 柄へ触れる。

 

 起動。

 

 刀身。

 

 その周囲。

 

 複数の光帯が。

 

 静かに浮かんだ。

 

「この光は?」

 

「遠隔斬撃の残数」

 

「……遠隔?」

 

 ハイセは訓練場の壁を指す。

 

「一回やってみて」

 

 クレア。

 

 抜刀。

 

 壁へ。

 

 軽く。

 

 斬撃を入れる。

 

 何も起きない。

 

「失敗?」

 

「待って」

 

 数秒。

 

 離れた位置。

 

 標的。

 

 突然。

 

 斬撃。

 

「!?」

 

 クレアの目が。

 

 大きくなる。

 

「今の……」

 

「《風刃》の能力」

 

 

 斬撃を。

 

 物体表面へ。

 

 伝える。

 

 床。

 

 壁。

 

 柱。

 

 構造物。

 

 そこへ。

 

 斬撃を仕込み。

 

 離れた位置から。

 

 発生させる。

 

 さらに。

 

 複数を。

 

 時間差で。

 

 放つことも出来る。

 

 ただし。

 

 無制限ではない。

 

 光帯。

 

 残弾。

 

 使い切れば。

 

 再充填。

 

「……これ」

 

 クレアが。

 

 しばらく。

 

 風刃を見る。

 

「私に渡して大丈夫です?」

 

「何で?」

 

「絶対、性格悪い使い方しますよ?」

 

「分かってて作った」

 

「師匠!!」

 

 

 ハイセは。

 

 【双月】を見る。

 

 次に。

 

 《風刃》。

 

「【双月】は」

 

 クレアが聞く。

 

「うん?」

 

「何だったんです?」

 

「選択肢を増やす武器」

 

「じゃあ《風刃》は?」

 

 ハイセは。

 

 少しだけ。

 

 考える。

 

「選んだ一手を」

 

 一拍。

 

「相手が思ってない場所から届かせる武器」

 

 クレアが。

 

 静かに。

 

 風刃を見る。

 

 そして。

 

 笑った。

 

「……ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 

 その日の午後。

 

 もう一つ。

 

 話があった。

 

「クレア」

 

「はい?」

 

「今日から正式にアルルカントの学生」

 

「…………」

 

「編入手続き終わったよ」

 

「待ってください」

 

「何?」

 

「いつ?」

 

「昨日」

 

「聞いてません!」

 

「今日言った」

 

「そういう問題ではありません!」

 

 そこへ。

 

 カミラが。

 

 勢いよく。

 

 扉を開けた。

 

「ハイセ!!」

 

「何?」

 

「何故、免許皆伝と学校編入と純星煌式武装の譲渡が全部同じ日なんだ!?」

 

「手続き効率いいから」

 

「人間の進路を事務処理みたいに言うな!!」

 

 

「でも本人の同意は?」

 

 カミラが確認する。

 

「今聞く」

 

「今!?」

 

 ハイセが。

 

 クレアを見る。

 

「アルルカント来る?」

 

「今聞くんですか!?」

 

「嫌なら断っていい」

 

 クレアは。

 

 一瞬。

 

 呆れた。

 

 そして。

 

 笑った。

 

「行きます」

 

「じゃあ決まり」

 

「軽い!!」

 

 カミラは。

 

 また。

 

 頭を抱えた。

 

 しかし。

 

 本人が自分で選んだ以上。

 

 止める理由も。

 

 なかった。

 

 

 問題は。

 

 その会話を。

 

 たまたま。

 

 廊下の向こうで。

 

 聞いてしまった人物が。

 

 一人いたことだった。

 

「…………」

 

 サーシャ。

 

 停止。

 

 隣には。

 

 プレセア。

 

「どうしたの?」

 

「今」

 

「ええ」

 

「免許皆伝って聞こえた」

 

「聞こえたわね」

 

「純星煌式武装って」

 

「言っていたわ」

 

「アルルカント編入とも」

 

「ええ」

 

 サーシャが。

 

 ゆっくり。

 

 扉を開けた。

 

「待て」

 

 

 ハイセ。

 

 振り返る。

 

「いたの?」

 

「いたよ!!!」

 

 サーシャの怒声が。

 

 研究室。

 

 直撃。

 

「何で聞いてるの?」

 

「聞こえたんだよ!!」

 

「そうなんだ」

 

「そうなんだ、じゃない!」

 

 指。

 

 クレア。

 

「免許皆伝?」

 

「はい」

 

 指。

 

 風刃。

 

「新しい純星煌式武装?」

 

「はい」

 

 指。

 

 ハイセ。

 

「お前が渡した?」

 

「うん」

 

「アルルカントへ編入?」

 

「はい」

 

「私が范星露に地面へ転がされ続けてる間に!?」

 

「うん」

 

 サーシャの。

 

 何かが。

 

 切れた。

 

「もう一回やるぞクレアァァァァ!!!」

 

 

「えぇ!?」

 

 クレアが。

 

 風刃を抱えたまま。

 

 後退する。

 

「何故です!?」

 

「成長確認だ!!」

 

「絶対それだけじゃないですよね!?」

 

「安心しろ!」

 

「何をです!?」

 

「私は昨日も今日も范星露に負け続けて機嫌が悪い!」

 

「安心材料が一個もないです!!」

 

 プレセアが。

 

 静かに。

 

 ハイセを見る。

 

「止めないの?」

 

「止められる?」

 

「無理ね」

 

 二人。

 

 納得。

 

 

 一時間後。

 

 ハイベルグ王都。

 

 模擬戦場。

 

 情報を聞きつけた。

 

 ガイスト。

 

 ピアソラ。

 

 レイノルド。

 

 そして。

 

 范星露まで。

 

 来ていた。

 

「ほっほ。面白そうじゃのう」

 

「何故いる!」

 

 サーシャが怒鳴る。

 

「弟子の成長を見るのも師の務めじゃ」

 

「お前に見られると余計プレッシャーなんだ!」

 

 クレアも。

 

 少し離れた場所で。

 

 風刃を持つ。

 

「師匠」

 

「何?」

 

「これ、今日初めて使った武器なんですけど」

 

「大丈夫」

 

「何が?」

 

「素質?」

 

 サーシャが遠くから叫ぶ。

 

「その言葉を禁止しただろうが!!!」

 

 

 今回。

 

 クレアは。

 

 【双月】ではなく。

 

 《風刃》。

 

 サーシャは。

 

 普段の剣。

 

 ガイストが。

 

 中央に立つ。

 

「一本先取。ただし、新武装の能力確認も兼ねる。無理はするな」

 

「分かった」

 

「はい!」

 

 范星露が。

 

 遠くで。

 

 楽しそうに。

 

 笑っている。

 

「始め」

 

 

 クレア。

 

 抜刀。

 

 サーシャ。

 

 見る。

 

 以前なら。

 

 相手の構え。

 

 剣先。

 

 予備動作。

 

 そこから。

 

 答えを。

 

 考えた。

 

 今は。

 

 違う。

 

 クレアが。

 

 一歩。

 

 サーシャも。

 

 自然に。

 

 半歩。

 

 動く。

 

「…………」

 

 ピアソラが。

 

 眉を寄せる。

 

「何してるの?」

 

「待ってるようには見えないわ」

 

 プレセアが答える。

 

「でも攻めてもいない」

 

 范星露が。

 

 楽しそうに。

 

 言った。

 

「ほっほ」

 

「二人とも」

 

 一拍。

 

「相手の答えを待っておらんのじゃよ」

 

 

 クレア。

 

 刀身。

 

 床へ。

 

 軽く。

 

 触れる。

 

 サーシャ。

 

 見た。

 

 だが。

 

 考えない。

 

 身体が。

 

 僅かに。

 

 位置を変える。

 

 何も。

 

 起きない。

 

 クレア。

 

 踏み込む。

 

 抜刀。

 

「――!」

 

 サーシャ。

 

 身体が。

 

 勝手に。

 

 半歩。

 

 ずれる。

 

 風刃。

 

 頬。

 

 紙一重。

 

 その瞬間。

 

 背後。

 

 床。

 

 遠隔斬撃。

 

 発生。

 

 

 サーシャは。

 

 振り返らない。

 

 剣。

 

 背後へ。

 

 流す。

 

 受ける。

 

 音。

 

 火花。

 

 そして。

 

 そのまま。

 

 前へ。

 

「っ!」

 

 クレアの目が。

 

 少しだけ。

 

 大きくなる。

 

 今までは。

 

 遠隔斬撃を見せれば。

 

 相手は。

 

 それを。

 

 意識した。

 

 今のサーシャは。

 

 意識する前に。

 

 処理する。

 

「なるほど……!」

 

 クレア。

 

 笑った。

 

 

 壁。

 

 斬る。

 

 床。

 

 触れる。

 

 柱。

 

 刀身。

 

 通過。

 

 どれが。

 

 仕込み。

 

 どれが。

 

 ただの動作か。

 

 分からない。

 

 そもそも。

 

 クレア自身が。

 

 意識して。

 

 分けていない。

 

 だから。

 

 気配から。

 

 読めない。

 

 サーシャも。

 

 読もうとしない。

 

 発生した瞬間。

 

 身体。

 

 動く。

 

 一つ。

 

 右。

 

 一つ。

 

 左。

 

 正面。

 

 直接斬撃。

 

 全部。

 

 一続き。

 

 

「……静かね」

 

 プレセアが。

 

 呟く。

 

「前回と全然違う」

 

 ピアソラも。

 

 目を離せない。

 

 以前。

 

 クレアとサーシャが戦った時は。

 

 騙す。

 

 読む。

 

 疑う。

 

 その応酬。

 

 だった。

 

 今は。

 

 もっと。

 

 静か。

 

 クレアは。

 

 騙そうとしない。

 

 サーシャは。

 

 読もうとしない。

 

 ただ。

 

 必要な瞬間に。

 

 必要な動きだけが。

 

 出る。

 

 

 クレア。

 

 鞘。

 

 納刀。

 

 サーシャの目が。

 

 僅かに。

 

 細くなる。

 

 抜刀。

 

 一瞬。

 

 速い。

 

 サーシャ。

 

 踏み込む。

 

 避けるのではない。

 

 斬撃の内側。

 

 クレア。

 

 風刃。

 

 途中で。

 

 軌道変更。

 

 自然。

 

 意図。

 

 見えない。

 

 サーシャの剣。

 

 クレアの喉元。

 

 風刃。

 

 サーシャの肩。

 

 同時。

 

 停止。

 

 

 静寂。

 

 ガイストが。

 

 近づく。

 

「……相打ち」

 

 クレア。

 

 息を吐く。

 

 サーシャも。

 

 少し。

 

 目を見開いていた。

 

「今の」

 

「はい?」

 

「お前」

 

 クレアを見る。

 

「途中で斬撃を変えたな」

 

「……多分」

 

「多分?」

 

「違う気がしたので」

 

「…………」

 

 サーシャが。

 

 ハイセを見る。

 

「これが免許皆伝?」

 

「うん」

 

「本人が説明出来てないぞ」

 

「だから免許皆伝」

 

「意味が分からん!」

 

 

 だが。

 

 サーシャは。

 

 剣を。

 

 下ろした。

 

「……クレア」

 

「はい」

 

「免許皆伝」

 

 一瞬。

 

 間。

 

「認める」

 

 クレアの顔が。

 

 ぱっと。

 

 明るくなる。

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし」

 

「はい?」

 

「次は勝つ」

 

「私もです」

 

 二人。

 

 笑う。

 

 ハイセも。

 

 少しだけ。

 

 嬉しそうに。

 

 頷いた。

 

「よかった」

 

 サーシャが。

 

 すぐ。

 

 振り返る。

 

「お前のことは認めてない!!!」

 

「何で!?」

 

 

「何でじゃない!」

 

 サーシャが。

 

 ハイセへ。

 

 詰め寄る。

 

「また弟子を勝手に完成させて!」

 

「勝手では」

 

「新しい純星煌式武装まで渡して!」

 

「卒業証書」

 

「紙で渡せ!!」

 

「紙もある」

 

「余計腹立つ!!!」

 

 范星露が。

 

 横から。

 

 笑っている。

 

「ほっほ。面白い弟子を育てたのう」

 

「范星露」

 

「何じゃ?」

 

「お前まで褒めるな!」

 

「何故じゃ!?」

 

 

 そして。

 

 クレア。

 

 正式に。

 

 アルルカント・アカデミー。

 

 編入。

 

 登録。

 

 完了。

 

 新しい。

 

 学生証。

 

 手元。

 

 【双月】。

 

 《風刃》。

 

 二つ。

 

 性質は。

 

 全く違う。

 

 【双月】は。

 

 選択肢を。

 

 増やす。

 

 《風刃》は。

 

 一つ。

 

 選んだ答えを。

 

 遠く。

 

 想定外から。

 

 届かせる。

 

 そして。

 

 その二つを。

 

 使う。

 

 本人は。

 

 もう。

 

 嘘を。

 

 嘘として。

 

 考えていなかった。

 

 

 その夜。

 

 アルルカント。

 

 寮。

 

 クレアは。

 

 新しい制服を。

 

 ベッドへ。

 

 置く。

 

 隣。

 

 学生証。

 

 そして。

 

 《風刃》。

 

「…………」

 

 本当に。

 

 ここまで。

 

 来た。

 

 最初は。

 

 強くなりたかった。

 

 剣を。

 

 学びたかった。

 

 なのに。

 

 漫画を。

 

 読まされた。

 

 ディルクに。

 

 心理戦。

 

 エルネスタとカミラに。

 

 派閥切り崩し。

 

 シルヴィアに。

 

 魅せ方。

 

 そして最後は。

 

 よく分からない。

 

 防人講座。

 

「……私」

 

 クレアは。

 

 小さく。

 

 呟いた。

 

「本当に剣士として育てられたんですよね?」

 

 返事は。

 

 ない。

 

 少し考える。

 

 そして。

 

 笑った。

 

「まあ、いいか」

 

 強くなった。

 

 それだけは。

 

 分かる。

 

 なら。

 

 答えは。

 

 これから。

 

 自分で。

 

 見つければいい。

 

 剣を。

 

 握って。

 

 自分の。

 

 未来を。

 

 選びながら。

 

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