【暗律の戦乙女(ヤミキューレ)】は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

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第65話 天空のリゾート

 

 

 《ドレナ・デ・スタールの空中城》。

 

 かつて禁忌迷宮として冒険者達から恐れられていた巨大建造物は、天霧綾斗、ユリス、紗夜、綺凛の四人によって攻略された後、中枢制御機構を丸ごと解析されることになった。その担当になったハイセは、【雛形】やアルルカントの技術班を利用しながら時間を掛けて管理権限を奪取し、最終的には空中城そのものを自由に制御出来る状態まで持っていった。

 

 問題は、その後だった。

 

「……これ、何に使おう」

 

 アルルカントの研究室で、ハイセは巨大な立体映像を眺めながら腕を組んでいた。迷宮としての機能は停止出来るし、内部環境も再構築出来る。動力源も確保されており、アスタリスク側の空域へ移送することにも成功したが、城一つ分の建築物など簡単に用途を決められるものではない。

 

「研究所にするには大きすぎるねぇ」

 

 エルネスタが立体映像を回転させると、城内部に存在する無数の部屋や広間が次々に表示された。カミラはそれを見ながら嫌そうに眉を寄せる。

 

「研究施設はもう増やすな。今あるものだけでも管理する人間が足りなくなり始めている」

 

「じゃあ兵器?」

 

「却下だ」

 

 カミラの即答に、ハイセも素直に頷いた。最近は何でも兵器へ転用出来てしまう環境になっているだけに、むしろ使わない選択肢の方が重要になっている。

 

 そこで、それまで黙っていたディルクが口を開いた。

 

「リゾートスパなんてどうだ?」

 

 全員の視線が、一斉に彼へ集まった。

 

 

「……何でスパ?」

 

 ハイセが尋ねると、ディルクは当然のように空中城の内部図を指した。

 

「宿泊区画が広い。水源も引ける。景色は文句なし。何より、元禁忌迷宮ってだけで話題になる」

 

「最後の理由、商売人すぎない?」

 

「商売なんだから当然だろ」

 

 ディルクは既に計算を始めていた。改装費、維持費、空中城の動力コスト、客室数、一日の最大収容人数、警備費、輸送ルート。話を出してから数分もしないうちに、冗談だったはずの案が本格的な事業計画へ変わり始めている。

 

「客層は絞った方がいいな。高級路線だ。安売りすると維持費で死ぬ」

 

「誰向け?」

 

「最初は女性限定」

 

 ハイセが首を傾げると、ディルクは別の資料を開いた。

 

「クインヴェールの学生、芸能関係、六学園の女子生徒。美容、休養、宿泊、食事をまとめて売る。男まで入れるなら設備も導線も増やす必要があるから、最初は切る」

 

「合理的」

 

「だろ」

 

 カミラが二人を見ながら、深く溜息を吐いた。

 

「何故、迷宮の再利用案を話していただけなのに、十分もしないうちに事業計画書が出来ているんだ……」

 

 

「デザイン監修は任せて!」

 

 話を聞きつけてやって来たシルヴィア・リューネハイムが、翌日には大量の資料を持ち込んできた。空中城の古い意匠を完全に潰すのではなく、幻想的な城郭部分を残しながら、白を基調とした現代的なラウンジや温浴設備を組み合わせる案らしい。

 

「せっかく空に浮いているんだもの。景色を活かさないともったいないわ」

 

「露天風呂?」

 

「もちろん♪ 外から見えない構造にするけど、空はちゃんと見えるようにしたいわね」

 

 ハイセもその案には素直に感心した。

 

 空中庭園、温浴区画、スパトリートメント、休憩ラウンジ、ティールーム、宿泊室。旧迷宮の巨大な中枢広間は吹き抜けのロビーへ作り替えられ、かつて冒険者を阻んでいた通路には照明と植栽が配置された。

 

 数週間後。

 

 そこに迷宮だった頃の面影は、ほとんど残っていなかった。

 

「……本当に作ったのか」

 

 完成した映像を見て、カミラが呟く。

 

「うん」

 

「城を丸ごと?」

 

「うん」

 

「リゾートに?」

 

「うん」

 

 カミラはしばらく黙ったあと、珍しく抵抗をやめた。

 

「もう好きにしてくれ」

 

 

 ただし、今回ハイセには一つだけ決めていることがあった。

 

「カミラ達は休んでて」

 

「……何?」

 

「今回は開発参加なし」

 

 カミラが疑わしそうな顔をする。

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

「秘密研究も?」

 

「ない」

 

「人体実験も?」

 

「ない」

 

「市場操作も?」

 

「ディルクが普通に経営するだけ」

 

 カミラは数秒ほどハイセの顔を観察した。それから、身体から力が抜けたように椅子へ背を預ける。

 

「助かる」

 

「早いね」

 

「私は疲れているんだ」

 

 その一言だけで、最近の苦労が全部伝わった。

 

 

 開業前の試験運用日。

 

 ピアソラのプライベートアドレスへ、一通のメールが届いた。

 

『女性限定リゾートスパを作ったから遊びに来て。試験利用だから無料。――ハイセ』

 

「…………」

 

 ピアソラは三秒ほど画面を見つめ、それから荷物をまとめ始めた。

 

「行くの早くない?」

 

 近くにいたロビンが呆れる。

 

「無料ですのよ?」

 

「そこ?」

 

「しかもハイセが作った美容施設ですわ。以前の基礎化粧品を考えれば、確認する価値があります」

 

「確認っていうより、普通に行きたいだけでしょ」

 

「何か問題でも?」

 

「ないけど」

 

 なお、この日サーシャとガイストは王都外へ出掛けていた。

 

 結果として招待を受けたのは、ピアソラ、ロビン、プレセア、ヒジリ、クレア、シムーンの六人だった。

 

 

 転移設備を抜けた六人は、最初の数秒、誰も声を出せなかった。

 

 目の前には広大なロビーが広がり、その向こうには雲海が見える。巨大な窓の外をゆっくりと雲が流れ、遠くにはアスタリスクの街並みまで見渡せた。

 

 かつての石造りの城壁は一部だけ残され、その古びた質感を活かすように新しい照明や家具が配置されている。迷宮と高級ホテルの中間のような、不思議な空間だった。

 

「……これ」

 

 クレアが辺りを見回す。

 

「元ダンジョンなんですよね?」

 

「そう聞いてるわ」

 

 プレセアも珍しく圧倒されている。

 

 ヒジリは窓際まで歩き、下を覗き込んだ。

 

「アタシ、高いところ平気だけどさ。これ、城そのものが空飛んでるんでしょ?」

 

「そうみたい」

 

 シムーンは窓へ近づきながら、目を輝かせていた。

 

「すごい……」

 

 最後にピアソラが、受付の案内を一通り読んでから呟いた。

 

「また妙な商売を始めましたわね」

 

 ロビンが案内板を見る。

 

「女性限定って……」

 

「ディルクの判断らしいわ」

 

「だったら急に現実的に聞こえるの何でだろ」

 

 

 六人は最初に温浴区画へ案内された。

 

 空中庭園へ面した露天区画は外部から完全に遮蔽されているものの、頭上には青空が広がっている。湯気の向こうには雲が流れ、風だけが柔らかく入り込んでいた。

 

 入浴後には専用ラウンジが用意されており、紅茶、ハーブティー、軽食、果物まで自由に取れる。

 

「ここ、かなり好きかも」

 

 ヒジリがソファへ身体を預ける。

 

「アタシ、最初はまたハイセが変なもん作ったと思ってたけど」

 

「変なものではあるわよ」

 

 ピアソラは冷たい飲み物を手にしながら、妙に満足そうな表情をしている。

 

「禁忌迷宮を丸ごとスパへ改造する発想が普通なわけありませんもの」

 

「でも来てるじゃん」

 

「美容施設に罪はありませんわ」

 

「前にも似たようなこと言ってなかった?」

 

 ピアソラは聞こえなかったことにした。

 

 

「そういえば」

 

 ロビンがカップを置く。

 

「最近のハイセって、結局何してるの?」

 

 全員が一瞬だけ考え込んだ。

 

「歌姫」

 

 プレセアが最初に答える。

 

「冒険者でもありますわね」

 

 ピアソラが続けた。

 

「研究者」

 

 シムーンも加える。

 

「師匠です」

 

 クレアは迷いがない。

 

「アタシからすると、勝手に実験に巻き込んできた奴」

 

 ヒジリが言う。

 

「でも【ケリードーン】は使ってるでしょう?」

 

「それとこれとは別!」

 

 ヒジリは即答したが、少しだけ笑っていた。

 

 ロビンが指折り数える。

 

「歌姫、冒険者、研究者、先生、天爵……」

 

「あと【FAIR STAGE】も」

 

「市場まで作ってるじゃん」

 

「今はリゾート経営も追加ですわね」

 

 全員。

 

 黙る。

 

「……何なんだろう、あの人」

 

 ロビンの疑問に、誰も答えられなかった。

 

 

 プレセアは紅茶を口に運びながら、少しだけ笑った。

 

「でも、話してみれば昔から変わっていないところもあるわ」

 

「そうなんですか?」

 

 クレアが尋ねる。

 

「ええ。姿も立場も随分変わったけれど、本人が大切だと思ったものには意外と頑固なのよ」

 

「分かります」

 

 シムーンが小さく頷いた。

 

「私達を学校に入れる時も、研究に協力しなくてもいいって最初に言ってた」

 

 ピアソラはその言葉を聞き、少しだけ表情を緩めた。

 

「その辺りは、以前よりずっとマシになりましたわ」

 

「以前?」

 

「サーシャを本人に黙って実験相手にした事件がありますの」

 

 クレアの顔が引きつる。

 

「師匠、何してるんですか……」

 

「本人も反省したらしいわよ」

 

「サーシャにめちゃくちゃ怒られてたじゃん」

 

 ヒジリが笑った。

 

 

「でも」

 

 クレアはしばらく考え、自分のカップを見る。

 

「私は師匠に会えて良かったです」

 

 それまで笑っていた空気が、少しだけ静かになった。

 

「教え方は変ですけど」

 

「そこは否定しないのね」

 

 プレセアが微笑む。

 

「漫画読まされましたし、ディルクさんに心理戦教わりましたし、派閥の崩し方まで覚えました」

 

「剣士の修行として聞くと本当に酷いですわね」

 

「最後はよく分からない講座で免許皆伝になりました」

 

 ロビンがとうとう笑い出した。

 

「やっぱりハイセの弟子って大変なんだ」

 

「すごく」

 

 クレアも笑う。

 

「でも、自分だけの剣になりました」

 

 その言葉には、確かな嬉しさがあった。

 

 

 少し離れた最上階。

 

 VIPルームでは、別の三人が完全に仕事を放棄していた。

 

 カミラは大きなソファへ身体を沈め、温かい飲み物を両手で持っている。エルネスタはマッサージチェアの機能を片っ端から試し、ヒルダは窓際の長椅子へ横になっていた。

 

「……静かだ」

 

 カミラが呟く。

 

「珍しいねぇ」

 

 エルネスタが答える。

 

「誰も怒鳴っていない」

 

 ヒルダも楽しそうに笑う。

 

 カミラは天井を見上げた。

 

「それが一番ありがたい」

 

「普段怒鳴ってるのカミラじゃん」

 

「誰のせいだと思っている!?」

 

「ほら、もう怒鳴った」

 

「お前が煽ったからだ!」

 

 十秒も保たなかった。

 

 

「でも」

 

 エルネスタが少しだけ真面目な声を出す。

 

「ハイセ、今回は本当に私達を休ませるために外したみたいだね」

 

「らしいな」

 

 カミラはカップへ視線を落とした。

 

「最近、王冠、セイレーン、ダンジョン予測、クレアの件まで続いていたからな」

 

「君も随分疲れていたじゃないか」

 

 ヒルダが言う。

 

「お前がその原因のかなりの割合を占めている」

 

「光栄だね」

 

「褒めていない」

 

 それでも。

 

 カミラの表情は、いつもより穏やかだった。

 

「……まあ」

 

「うん?」

 

「今回くらいは、ありがたく休ませてもらう」

 

 エルネスタとヒルダが顔を見合わせる。

 

 誰も茶化さなかった。

 

 

 一方。

 

 管理区画では。

 

 全く違う空気が流れていた。

 

 巨大モニターには、試験運用に参加した利用者の満足度、施設稼働率、将来予約希望数、想定客単価が並んでいる。

 

「需要層は?」

 

 シルヴィアが尋ねた。

 

 ディルクは数字を確認しながら答える。

 

「予想通りクインヴェールの学生が多い。次が一般の女子学生、その次が芸能関係。高級宿泊プランは保護者層からも問い合わせが来てる」

 

「売れそう?」

 

 ハイセが聞く。

 

「条件付きでな」

 

「条件?」

 

「宣伝」

 

 ディルクが二人を見る。

 

「それはお前達の仕事だ」

 

「…………」

 

 ハイセとシルヴィアが。

 

 同時に。

 

「oh……」

 

 

「何だその反応は」

 

「俺、温泉紹介したことない」

 

「私もリゾート施設の公式PRはそんなにないわよ?」

 

「歌姫二人いるんだから何とかしろ」

 

「雑じゃない?」

 

「経営計画は俺が作った。空中城の権利処理も、価格帯も、予約枠も、警備計画も組んだ」

 

 ディルクは指を二人へ向ける。

 

「次はお前らが客を連れて来る番だ」

 

 シルヴィアがハイセを見る。

 

「……動画?」

 

「動画かな」

 

「二人で?」

 

「多分」

 

 ディルクが口を挟む。

 

「どうでもいいから予約埋めろ」

 

「経営者怖い」

 

「誰が始めたと思ってんだ」

 

 ハイセは黙った。

 

 発端を辿れば、用途に困っていた自分だった。

 

 

 三日後。

 

 公開されたPR動画は。

 

 予想以上に伸びた。

 

 Yami_Q_rayとシルヴィア・リューネハイムが、空中庭園やティールーム、宿泊室を紹介する内容だった。二人とも慣れない施設紹介に多少ぎこちなさはあったが、それが逆に自然だと好評だった。

 

 予約受付開始。

 

 十分後。

 

 初週。

 

 満室。

 

「…………」

 

 ハイセが画面を見る。

 

「売れた」

 

「売れたわね」

 

 シルヴィアも驚いている。

 

 ディルクだけは平然としていた。

 

「だから言っただろ」

 

「最初から分かってた?」

 

「数字見りゃな」

 

「怖」

 

「褒め言葉として受け取っとく」

 

 

 さらに数日後。

 

 サーシャとガイストが帰ってきた。

 

 サーシャが最初に目にしたのは、街中の大型広告だった。

 

天空に浮かぶ、女性だけの休息地。

 

 映像。

 

 空中城。

 

 温浴施設。

 

 その横。

 

 Yami_Q_ray。

 

 シルヴィア。

 

「…………」

 

 サーシャは。

 

 完全に。

 

 立ち止まった。

 

「ガイスト」

 

「何だ」

 

「私は知らない」

 

「私も知らなかった」

 

「何故だ」

 

「私に聞くな」

 

 嫌な予感が。

 

 ものすごい勢いで。

 

 膨らんだ。

 

 

 翌日。

 

 アルルカント。

 

 ハイセは研究室で普通に資料を整理していた。

 

 扉が。

 

 勢いよく。

 

 開く。

 

「ハイセ!!!」

 

「おはよう」

 

「おはようじゃない!」

 

 サーシャが広告映像を突き付けた。

 

「これは何だ!」

 

「リゾート」

 

「それは見れば分かる!」

 

「天空城を改装した」

 

「それも読んだ!」

 

 サーシャは深く息を吸った。

 

「なんで呼ばなかった!?」

 

 ハイセは。

 

 一瞬だけ。

 

 考えた。

 

「壊されたら困る」

 

「私をなんだと思っている!?」

 

 ハイセは。

 

 もう一度。

 

 本気で。

 

 考えた。

 

「…………ビッグフット?」

 

 空気が。

 

 止まった。

 

 

「殺すぞ!!!!」

 

 アルルカントの廊下全体へ、サーシャの怒声が響いた。

 

「待って」

 

「何を待つんだ!!」

 

「答えろって言ったから」

 

「だからって何故ビッグフットなんだ!!!」

 

「丈夫そう?」

 

「褒めてないだろ!!」

 

 そこへ、ちょうどプレセア達が通り掛かった。

 

「何を騒いでいるの?」

 

「プレセア!」

 

 サーシャが救いを求めるように振り返る。

 

「こいつ、私が施設を壊すと思って呼ばなかったらしい!」

 

「…………」

 

 プレセアは少し考えた。

 

「でもサーシャ、この前訓練場の床を壊していたでしょう?」

 

「范星露のせいだ!!」

 

 

「アタシとの時も結構派手だったじゃん」

 

 ヒジリまで加わる。

 

「お前まで乗るな!」

 

 クレアも恐る恐る手を上げた。

 

「私との決闘でも壁が――」

 

「クレア!!」

 

「はい!」

 

 ピアソラは少し離れた場所で腕を組んでいた。

 

「まあ、でも施設はとても良かったですわよ」

 

「お前は行ったのか!?」

 

「招待されましたもの」

 

「ピアソラは呼んで私を呼ばない!?」

 

「美容施設を壊しませんから」

 

「私だって壊さない!!」

 

 ロビンが小声で呟く。

 

「故意には」

 

「聞こえてるぞ!!!」

 

 

 サーシャは。

 

 全員を。

 

 睨む。

 

「つまり」

 

 指を折り始める。

 

「ピアソラ」

 

「ええ」

 

「ロビン」

 

「うん」

 

「プレセア」

 

「ええ」

 

「ヒジリ」

 

「アタシも」

 

「クレア」

 

「はい」

 

「シムーンまで?」

 

「行った」

 

 サーシャの目が。

 

 ハイセへ。

 

 戻る。

 

「何故」

 

 一拍。

 

「私だけ!?」

 

「ガイストも呼んでないよ」

 

「そういう問題ではない!!」

 

 少し後ろに立っていたガイストが、静かに呟く。

 

「私は別に気にしていない」

 

「味方しろ!!!」

 

 

 そこへ。

 

 ハイセの端末が鳴った。

 

 ディルク。

 

『初月分、ほぼ埋まった』

 

「ほんと?」

 

『クインヴェールが予想以上だ。増枠検討する』

 

「増やせそう?」

 

『空中城なんだから部屋なら余ってる』

 

 サーシャが。

 

 ゆっくり。

 

 端末を見る。

 

「まさか」

 

『何だ、いたのか』

 

「ディルク」

 

『何だ』

 

「お前も共犯か?」

 

『経営者だ』

 

「もっと悪い!!」

 

 通信の向こうで。

 

 ディルクが鼻で笑った。

 

 

 さらに。

 

 別の声。

 

『サーシャ?』

 

 シルヴィアだった。

 

『今度一緒に行きましょうよ♪』

 

「リューネハイム……」

 

『景色、本当に綺麗なのよ。それに貸切区画も――』

 

「……行く」

 

 即答。

 

 ハイセが目を丸くする。

 

「行くの?」

 

「行く!!」

 

「壊さない?」

 

 サーシャの額に。

 

 また。

 

 青筋。

 

「お前は」

 

 一歩。

 

「私を」

 

 さらに一歩。

 

「何だと」

 

 ハイセ。

 

 後退。

 

「思ってるんだぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ビッグ――」

 

「二度と言うな!!!」

 

 

 数日後。

 

 天空。

 

 《ドレナ・デ・スタールの空中城》。

 

 かつて。

 

 冒険者を。

 

 阻んだ。

 

 禁忌迷宮。

 

 今では。

 

 静かな音楽。

 

 温かい湯。

 

 紅茶。

 

 美容施設。

 

 宿泊客。

 

 そして。

 

 窓の向こう。

 

 広がる。

 

 雲海。

 

 時代が変われば。

 

 場所の意味も。

 

 変わる。

 

 人を。

 

 傷つけるために。

 

 使われた場所が。

 

 人を。

 

 休ませるための場所へ。

 

 変わることもある。

 

 ただし。

 

 その最上階。

 

「……次は男性向け区画も検討する?」

 

「採算取れるなら」

 

「なら別棟にしろ」

 

 ハイセ、シルヴィア、ディルクの三人は。

 

 既に。

 

 次の経営会議を。

 

 始めていた。

 

 そのことを。

 

 まだ。

 

 サーシャだけは。

 

 知らない。

 

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