暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ 作:カミッシー
「ハイセくーん!」
「朝からうるせぇ」
アルルカント・アカデミー。
研究棟。
到着して。
まだ。
三分。
「出来たよ!」
「何が」
「昨日のやつ!」
「昨日?」
ハイセ。
少し。
考える。
「異世界素材?」
「正解!」
エルネスタ。
満面の笑み。
「…………」
嫌な予感。
「カミラは?」
「いるよ?」
「どこ」
「実験室」
「何で?」
「止めるため」
「…………」
「何を?」
エルネスタ。
笑顔。
「私を」
「帰る」
「待って待って待って!」
腕。
掴まれる。
「離せ!」
「せっかく作ったのに!」
「何作ったんだよ!」
「見れば分かるって!」
「その台詞で安心できる要素が一個もねぇ!」
◇
「来たか」
実験室。
カミラ。
疲れていた。
「…………」
「おはよう」
「ああ」
「何かあった?」
「聞くな」
「聞かない方がいい?」
「ああ」
「カミラ酷くない?」
エルネスタ。
後ろ。
「私はちゃんと許可取ったよ?」
「試作開始の許可だ」
「うん」
「完成まで一晩で進める許可は出していない」
「でも出来ちゃったし」
「だからと言って」
カミラ。
机。
叩く。
「朝の四時に完成報告を送るな!」
「研究者って朝早いでしょ?」
「寝ている!!」
「寝るんだ」
「人間だからな!!」
ハイセ。
少し。
笑う。
「仲良いな」
「良くない!」
「良いよ?」
「どっちだよ」
◇
「で」
ハイセ。
机。
置かれた武器を見る。
「これ?」
「そう」
昨日。
使った。
試作煌式武装。
見た目は。
ほとんど。
変わっていない。
「どこ変えた?」
「内部」
エルネスタ。
指。
「ハイセくんが持ってた魔獣素材」
「あの角?」
「そう」
「削った?」
「削った」
「…………」
「怒った?」
「別に」
ハイセ。
確認。
「研究用に渡したやつだろ」
「うん」
「ならいい」
「ほらカミラ」
エルネスタ。
「ちゃんと話通じてる!」
「問題はそこではない」
「何?」
「素材の性質も完全には判明していない状態で」
一拍。
「試作機へ組み込む速度が早すぎると言っている!」
「でも」
「?」
「だから試すんじゃない?」
「…………」
「…………」
ハイセ。
「俺もそう思う」
「ハイセ」
「何?」
「少し黙っていろ」
「何で!?」
「エルネスタ側へ戦力を増やすな!」
「戦力扱いされてる!?」
◇
「まず」
カミラ。
説明。
「昨日提供された素材を分析した」
「ああ」
「現時点では」
一拍。
「こちらの万応素とは異なる物質だ」
「うん」
「だが」
画面。
表示。
「外部からエネルギーを加えた際」
「……」
「一定量を保持する性質がある」
「保持?」
「簡単に言えば」
エルネスタ。
横から。
「受け止めてくれる」
「…………」
「この子」
素材。
指差す。
「エネルギー入れても」
「……」
「いきなり外へ逃がさないの」
「へぇ」
「で」
一拍。
「ルークスの出力安定に使えないかなって」
「……なるほど」
ハイセ。
試作機。
見る。
「だから入れた?」
「そう!」
「面白そう」
「でしょ!」
「ハイセ」
「…………」
「何?」
「楽しそうにするな」
「無理だろ」
「何故」
「俺の世界の物が」
一拍。
「こっちの武器に使えるかもしれないんだろ?」
「…………」
「そりゃ」
少し。
笑う。
「面白い」
「…………」
カミラ。
ため息。
「お前まで研究者の顔になってきたな」
「なってねぇよ」
「なってるなぁ」
「エルネスタは黙れ」
◇
「では」
試験。
開始。
ハイセ。
試作ルークス。
起動。
光。
刃。
「…………」
構える。
「昨日と同じ?」
振る。
一回。
二回。
「…………」
「どう?」
エルネスタ。
「待って」
踏み込む。
斬撃。
返し。
連撃。
重心。
変更。
さらに。
出力。
上げる。
「…………!」
昨日。
僅かに。
感じていた。
違和感。
出力を上げた時。
刃が。
少し。
不安定になる。
今日は。
「……違う」
「!」
「どこ?」
「高出力」
もう一度。
「昨日より」
一拍。
「暴れない」
「やっぱり!」
エルネスタ。
跳ねる。
「数値!」
「確認しています!」
研究員。
「出力変動幅、昨日比で減少!」
「保持率も上昇しています!」
「ほら!」
「まだ成功と決めるな」
カミラ。
冷静。
「耐久試験」
「はい!」
「連続稼働」
「はい!」
「発熱」
「測定中です!」
「…………」
ハイセ。
「厳しいな」
「当然だ」
カミラ。
「一度動いたから成功」
一拍。
「などというものは研究ではない」
「…………」
「百回動いて」
「……」
「千回動いて」
「……」
「別の人間が使っても」
「……」
「同じ結果が出る」
「…………」
「そこまで確認して初めて」
一拍。
「技術になる」
「…………」
ハイセ。
少し。
笑う。
「アンタらしいな」
「何が」
「いや」
◇
二時間後。
「…………」
「…………」
「…………」
「……壊れたね」
エルネスタ。
目の前。
試作機。
停止。
「壊れたな」
カミラ。
腕組み。
「壊れた」
ハイセ。
座る。
「…………」
沈黙。
「でも!」
エルネスタ。
「前より三十二パーセント長く――」
「エルネスタ」
「はい」
「まず原因分析だ」
「はーい」
「…………」
ハイセ。
「失敗?」
「いや」
カミラ。
即答。
「結果だ」
「結果?」
「ああ」
「…………」
「成功も」
一拍。
「失敗も」
「……」
「原因が分かれば」
「……」
「次に使える」
「…………」
「壊れたということは」
カミラ。
武器。
「壊れる条件を一つ知った」
「…………」
「それで十分だ」
「へぇ」
「何だ」
「いや」
「?」
「研究って」
一拍。
「冒険に似てるな」
「どういう意味だ?」
「ダンジョンで」
ハイセ。
「道間違えても」
「……」
「そこが行き止まりだって分かれば」
「……」
「次は行かねぇ」
「…………」
「罠踏んでも」
「……」
「生き残ったら」
一拍。
「次は避けられる」
「…………」
カミラ。
少し。
笑う。
「なるほど」
「?」
「だから君は」
一拍。
「研究への適応が早いのかもしれないな」
「だから研究者じゃねぇって」
「もう諦めろよハイセくん」
「何を!?」
◇
午後。
原因。
判明。
「素材が悪い?」
「正確には」
カミラ。
「素材そのものではない」
「?」
「この素材は」
画面。
「エネルギー保持性能が高すぎる」
「高すぎる?」
「ああ」
「良いことじゃないの?」
「場合による」
カミラ。
「保持したエネルギーを」
一拍。
「適切に逃がす構造がない」
「…………」
「溜めるだけ溜めれば」
試作機。
「当然」
「……壊れる」
「そういうことだ」
「なるほど」
ハイセ。
素材。
見る。
「じゃあ」
「?」
「逃がす道作れば?」
「…………」
カミラ。
止まる。
「…………」
エルネスタ。
止まる。
「何?」
「ハイセくん」
「?」
「それ」
エルネスタ。
「簡単に言うけど」
「難しい?」
「そこが研究」
「じゃあ研究すれば?」
「…………」
「…………」
「…………」
カミラ。
目。
閉じる。
「カミラ?」
「何だ」
「怒った?」
「違う」
「じゃあ何」
「……何故」
一拍。
「君は毎回」
「?」
「研究テーマを自然発生させるんだ」
「知らねぇよ!」
◇
「ただ」
カミラ。
少し。
真面目な顔。
「ここで一つ問題がある」
「何?」
「その素材」
「うん」
「大量に入手出来るのか?」
「…………」
ハイセ。
考える。
「物による」
「これは?」
「そこそこ珍しい」
「安定供給は?」
「無理じゃない?」
「…………」
エルネスタ。
「じゃあいっぱい取りに行けば?」
「簡単に言うな」
「強いんでしょ?」
「危険な場所だぞ」
「…………」
カミラ。
「なら」
一拍。
「この素材そのものを前提にするのは駄目だ」
「え?」
エルネスタ。
「何で?」
「私が」
一拍。
「何を目指していると思っている」
「…………」
ハイセ。
分かる。
「【究極の汎用性】」
「ああ」
「…………」
カミラ。
素材。
見る。
「希少」
「……」
「入手困難」
「……」
「特定の場所でしか手に入らない」
「…………」
「そのような素材がなければ成立しない武器では」
一拍。
「結局」
「…………」
「使える人間が限られる」
「…………」
ハイセ。
黙る。
「性能が高い」
「……」
「希少価値がある」
「……」
「強力」
「…………」
「それは」
一拍。
「汎用性とは別の話だ」
「…………」
「なら」
ハイセ。
「使わない?」
「いや」
「?」
「研究には使う」
「使うんだ」
「当然だ」
「…………」
「この素材から」
一拍。
「何故この性質が生まれるのか」
「……」
「それを調べる」
「…………」
「そして」
カミラ。
地元素材の一覧。
表示。
「こちらで手に入る物質」
「……」
「こちらの加工技術」
「……」
「こちらのルークス制御」
「……」
「それらで」
一拍。
「同じ結果を再現する」
「…………」
ハイセ。
目。
少し。
見開く。
「素材を」
「?」
「コピーする?」
「違う」
カミラ。
「性質を」
一拍。
「技術へ変える」
「…………」
エルネスタ。
口元。
笑う。
「いいねぇ」
「だろう?」
「うん!」
「…………」
ハイセ。
二人を見る。
「…………」
「何だ?」
「いや」
一拍。
「やっぱアンタら」
「?」
「似てるよ」
「似てない!」
「似てるよ!」
「どっちだよ」
◇
その日。
研究は。
夕方まで続いた。
異世界素材。
成分。
内部構造。
エネルギー保持。
放出。
代替。
「…………」
ハイセは。
何度も。
意見を求められた。
魔獣。
生息地。
素材の特徴。
加工方法。
冒険者の使い方。
気づけば。
自分の世界のことを。
かなり。
話していた。
「ハイセ」
「何?」
「この素材」
カミラ。
「どの程度の魔獣から取れる?」
「それなら――」
「ハイセくん!」
「何?」
「こっちの骨素材は?」
「それは――」
「ハイセ」
「今度は何!?」
「報告書に」
「待って!」
「?」
「一人ずつ喋れ!!」
研究員達。
笑う。
「…………」
「何笑ってんだよ」
◇
夜。
実験終了。
「今日はここまでだ」
「やっと……」
ハイセ。
机。
突っ伏す。
「研究者って魔物よりしつこい」
「失礼だな」
「褒めてない」
「分かっている」
エルネスタ。
「明日もやろうね!」
「元気だな、お前」
「楽しいから!」
「…………」
ハイセ。
ふと。
笑う。
「まあ」
「?」
「俺も」
一拍。
「少し楽しいけど」
「!」
「…………」
エルネスタ。
カミラ。
同時。
ハイセを見る。
「何だよ」
「いや」
エルネスタ。
にやにや。
「とうとう言ったなぁって」
「何を」
「研究楽しいって」
「少しって言っただろ!」
「同じ同じ!」
「違う!」
カミラ。
小さく。
笑う。
「認めた方が楽だぞ」
「アンタまで言う!?」
◇
「ところで」
帰る前。
カミラが。
ハイセを呼び止めた。
「何?」
「少し話がある」
「また実験?」
「違う」
「じゃあ?」
カミラ。
端末。
置く。
「君の立場についてだ」
「…………」
「立場?」
「ああ」
「…………」
「現在」
カミラ。
「君は」
一拍。
「私の研究協力者として」
「……」
「臨時の入構許可を出している」
「うん」
「だが」
「?」
「この状態を」
一拍。
「いつまでも続けるわけにはいかない」
「…………」
ハイセ。
少し。
表情。
固くなる。
「出てけって?」
「違う」
即答。
「…………」
「むしろ」
カミラ。
「逆だ」
「?」
「ハイセ」
一拍。
「アルルカントへ」
「…………」
「正式に所属する気はないか?」
「…………」
静か。
なる。
「……所属?」
「ああ」
「学生として?」
「制度上」
一拍。
「それが一番扱いやすい」
「…………」
「君の身分」
「……」
「研究施設へのアクセス権」
「……」
「生活基盤」
「……」
「フェスタ関係の記録閲覧」
「……」
「全て」
カミラ。
「今より自由になる」
「…………」
ハイセ。
黙る。
所属。
組織。
仲間。
その言葉。
嫌な記憶。
浮かぶ。
必要ない。
弱い。
危険。
お前のため。
「…………」
カミラ。
黙って。
待っている。
「……決めたの?」
「何を?」
「俺が入るって」
「…………」
「そっちで」
「馬鹿を言うな」
カミラ。
即答。
「…………」
「私は」
一拍。
「選択肢を提示しているだけだ」
「…………」
「入るかどうかは」
真っ直ぐ。
ハイセを見る。
「君が決めろ」
「…………」
胸。
少し。
軽くなる。
「断っても?」
「構わない」
「……研究は?」
「可能な範囲で継続する」
「辞めたくなったら?」
「辞めればいい」
「…………」
「私は」
一拍。
「君の人生を」
「…………」
「決める権利など持っていない」
「…………」
ハイセ。
何も。
言えない。
何故。
この女は。
こう。
当たり前のように。
言うのだろう。
「…………」
エルネスタ。
珍しく。
何も言わない。
ただ。
少し離れて。
待っている。
「……俺」
一拍。
「この世界」
「……」
「まだ」
「……」
「ほとんど知らない」
「ああ」
「帰る方法も」
「……」
「分からない」
「ああ」
「でも」
研究室。
見る。
試作武器。
異世界素材。
端末。
記録。
知らない。
もの。
たくさん。
「…………」
面白い。
それは。
確かだった。
「俺が」
一拍。
「ここにいたいって言ったら」
「…………」
「いられる?」
カミラ。
迷わない。
「ああ」
「…………」
ハイセ。
小さく。
笑った。
「なら」
一拍。
「入る」
「…………」
「アルルカント」
自分の言葉で。
「俺が」
一拍。
「ここを選ぶ」
「…………」
カミラ。
少しだけ。
笑った。
「そうか」
「うん」
「歓迎する」
エルネスタ。
一秒。
二秒。
「やったぁぁぁ!」
「うるせぇ!」
「ハイセくん正式加入!」
「抱きつくな!」
「仲間仲間!」
「離れろ!」
「エルネスタ」
カミラ。
呆れる。
「落ち着け」
「カミラも嬉しいくせに!」
「別に」
「顔笑ってるよ?」
「…………」
「図星?」
「黙れ!」
◇
翌日。
端末。
表示。
所属。
アルルカント・アカデミー。
名前。
ハイセ・ササキ。
「…………」
ハイセ。
しばらく。
それを見る。
「どうした?」
カミラ。
「いや」
「?」
「自分で」
一拍。
「入る場所決めたの」
「……」
「初めてかも」
「…………」
カミラ。
少しだけ。
目を細める。
「なら」
「?」
「覚えておけ」
一拍。
「ここへ入ったのは」
「……」
「誰かに命令されたからでも」
「……」
「追い込まれたからでもない」
「…………」
「君自身が」
静かに。
「選んだ結果だ」
「…………」
ハイセ。
笑う。
「ああ」
そして。
背後。
「ねえねえハイセくん!」
「何?」
「正式所属になったってことはさ!」
「うん?」
「深夜実験も申請出来るね!」
「マジ?」
「待て」
カミラ。
「じゃあ昨日の――」
「待て」
「異世界素材の続き夜まで――」
「待てと言っている!!」
ハイセ。
「別に俺はいいけど」
「ハイセェ!!」
「何で怒るんだよ!」
「所属初日に研究室へ泊まり込むな!!」
「まだ泊まるって言ってねぇ!」
「エルネスタが言い出す!」
「言おうと思ってた!」
「ほら見ろ!!」
研究棟。
朝から。
カミラの声。
響く。
そうして。
ハイセは。
自分の意思で。
新しい。
居場所を。
選んだ。
この時。
誰も。
知らない。
その選択が。
後に。
遥か離れた世界で。
一人の少女を。
激怒させ。
さらに。
別の男の。
長年積み重ねた計画を。
跡形もなく。
吹き飛ばすことになるなど。
もちろん。
カミラ自身も。
知るはずがなかった。
ただ。
一つ。
確かなことがある。
この日。
ハイセ・ササキは。
誰かに。
所属させられたのではない。
自分で。
アルルカントを。
選んだ。