【暗律の戦乙女(ヤミキューレ)】は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ 作:カミッシー
フェスタ競技部門の決勝戦は、予想外の組み合わせになった。
一方は、ハイベルグを代表するS級冒険者達を擁する【セイクリッド】。サーシャを中心に、プレセア、ヒジリ、ピアソラ、ロビンという実戦経験豊富な五人が並び、装備面でも【ランビリス】や【ケリードーン】といった最新鋭の強化型煌式武装が投入されている。
対するのは【ルサールカ】。
観客の多くは当初、彼女達を「戦えるアイドルグループ」程度に考えていた。確かにここまでの試合は鮮やかだったが、正面からの殴り合いを避け、連携と戦術で勝利条件を拾う場面が多かったからだ。
決勝直前、サーシャも同じ認識を持っていた。
「連携は上手い。だが、まともにぶつかればこちらが上だ」
その言葉を聞いたプレセアは、静かにサーシャを見る。
「そうかしら」
「何だ?」
「ここまで、あの子達が一度でも本気で正面から戦ったように見えた?」
サーシャの眉が僅かに動いた。
遠く離れた控え席では、ハイセが何も言わずルサールカの五人を見ていた。
その表情が、妙に落ち着いていた。
◇
「両チーム、準備!」
競技場中央で号令が響く。
ルサールカの五人が横一列に並び、その向こうでセイクリッドも配置につく。観客席にはシルヴィアの姿があり、彼女はハイセの隣で楽しそうに試合開始を待っていた。
「ハイセ君」
「何?」
「まだ何か隠してるでしょう?」
「何で?」
「ルサールカのみんな、決勝前なのに全然緊張してないもの」
ハイセは答えず、競技場へ視線を戻した。
その態度だけで十分だった。
「……やっぱりね」
シルヴィアは小さく笑った。
◇
試合開始。
最初に前へ出たのはサーシャだった。
以前なら勢いだけで斬り込んでいたところだが、今は違う。相手を見ることを覚え、さらに范星露の指導によって、視覚情報を頭で処理するより先に身体全体で相手の流れを捉え始めている。
ルサールカの一人が右へ動く。
サーシャは追わない。
別の一人が左から距離を詰める。
そちらにも反応しない。
その裏で、本命がプレセアへ向かった瞬間だけ、サーシャの身体が動いた。
「そこだ!」
剣閃が走る。
ルサールカ側の攻撃を、サーシャが真正面から弾き飛ばした。
観客席から歓声が上がる。
「やるじゃない!」
ルサールカ側から楽しそうな声が返った。
「そっちもな!」
サーシャの表情にも、僅かに笑みが浮かぶ。
◇
そこからは、一進一退だった。
プレセアの【ランビリス】が複数の構造体を展開し、セイクリッド全体を覆うように防御網を構築する。ヒジリは【ケリードーン】の高速機動を利用して戦場を縦横に駆け、ルサールカ側の陣形へ高速射撃を叩き込んでいく。
ピアソラとロビンも支援に徹しながら、五人の陣形を崩さない。
対するルサールカは、誰か一人が突出することを徹底して避けていた。一人が押されれば別の二人が角度を変え、一人が攻撃を仕掛ければ残る四人が自然に次の配置へ移る。
まるで。
振付だった。
「……ステージと同じだ」
ハイセが呟く。
「やっぱり、そこを利用したのね」
シルヴィアが気付く。
五人が普段から培ってきたもの。
互いの位置。
視線。
呼吸。
曲の進行。
誰が前へ出て、誰が一歩退くか。
ルサールカにとって五人で同時に動くことは、戦闘より遥かに長い時間を掛けて身体へ染み込ませてきた技術だった。
◇
それでも、セイクリッドは強かった。
中盤。
ヒジリが一人を捉え、サーシャが別方向から切り込む。プレセアの【ランビリス】が退路を塞ぎ、あと一歩でルサールカの一角を崩せるところまで追い詰める。
「押せる!」
サーシャの声に力が入った。
その瞬間。
以前なら、プレセアは何も言わなかったかもしれない。
今は違う。
「サーシャ」
「何だ!」
「熱くなっているわ」
「分かってる!」
即答。
プレセアは小さく息を吐いた。
「分かっている人の返事じゃないわね」
「今押せば勝てる!」
サーシャはさらに踏み込む。
強い。
速い。
范星露との修行によって、以前とは比べものにならないほど動きも洗練されている。
だからこそ。
また。
自分の強さで。
相手の答えを。
押し潰そうとしていた。
◇
「来たね」
ハイセが呟いた。
シルヴィアが横を見る。
「何が?」
「サーシャが前に出すぎた」
その言葉と同時に。
ルサールカの五人が、一斉に動きを止めた。
そして。
下がった。
「……逃げる?」
サーシャが僅かに眉を寄せる。
違った。
彼女達は。
距離を取ったのではない。
配置についたのだ。
五人が作り出した空間。
そこが。
ステージになった。
◇
競技場の音響設備が切り替わる。
ハイセが事前に用意していたシーケンスが起動し、重厚なイントロが会場全体へ響き始めた。
観客席が一瞬ざわめき。
直後。
歓声へ変わる。
「まさか……」
サーシャの顔が引きつる。
ハイセが作戦へ組み込んでいた最後の札。
曲名。
《Perfect Showdown!》
ルサールカの五人は、それまでの試合では一度も使用していない。
決勝専用。
本気の戦闘用パフォーマンスだった。
◇
«完膚なきまでに 叩きのめしてやろう»
«極上の音を 味わうがいい»
一節目。
五人のプラーナが一斉に立ち上がる。
ヒジリが正面から撃ち込んだ射撃が、これまでとは比較にならない圧力で押し返された。
「うわっ……!」
ケリードーンの推進を噴かし、ぎりぎりで姿勢を戻す。
«選ばれし強者の前にひれ伏せ»
«僕たちの糧となれ»
次。
プレセアの【ランビリス】へ複数方向から攻撃が集中する。
「っ……!」
これまで何度も迷宮攻略で仲間を守ってきた防御網が、一気に軋んだ。
「出力が……違う?」
「違うわ」
プレセアはすぐに理解した。
「今まで、隠していたのよ」
◇
ルサールカの五人が動く。
一人ではない。
五人。
同時。
だが、同じ動きでもない。
一人がヒジリへ圧力を掛け、別の一人がプレセアの防御を削る。その間に残りがロビンとピアソラの支援経路を分断し、サーシャが前へ出ざるを得ない形を作る。
「させるか!」
サーシャが斬り込む。
剣。
一閃。
弾かれる。
二撃目。
避けられる。
三撃目。
今度は。
相手が。
サーシャを。
待っていた。
「――っ!」
横から衝撃。
防ぐ。
背後。
別の攻撃。
受ける。
正面。
また一人。
「クソッ!」
気付けば。
一人で。
三人を。
相手にしている。
◇
「ノってきたなぁ!」
一人が叫ぶ。
「思う存分聴くがいい!」
次。
「さあ、ここからが!」
さらに。
「私たちルサールカの!」
五人。
視線。
揃う。
「「「「「クライマックスだ!!!」」」」」
歓声。
爆発。
会場全体が、完全にルサールカのステージへ変わった。
サーシャの顔が引きつる。
「戦闘中に観客まで持っていくな!!」
ハイセが観客席で小さく頷く。
「いい感じ」
シルヴィアが笑う。
「あなた、本当にプロデューサー向いてるんじゃない?」
「研究の一種」
「まだそれで押し通すの?」
◇
サーシャは再び前へ出ようとした。
そこで。
止まる。
プレセアの声が聞こえた。
「サーシャ」
振り返る。
ヒジリ。
ピアソラ。
ロビン。
全員。
苦しい。
それなのに。
自分は。
勝とうとして。
前ばかり見ていた。
「…………」
天霧遥の言葉。
范星露の教え。
見る。
感じる。
そして。
自分だけで。
答えを決めない。
「……悪い」
サーシャが呟いた。
プレセアが少し笑う。
「気付いた?」
「ああ」
「なら、まだ間に合うわ」
サーシャは一度。
深く息を吸った。
「全員、戻れ!」
◇
セイクリッド。
再結集。
サーシャ。
前。
プレセア。
中央。
ヒジリ。
側面。
ロビンとピアソラ。
後衛。
今度は。
一人ではない。
五人。
サーシャが。
構える。
「来るぞ!」
ルサールカ側。
曲。
最終局面。
«使命を果たせ 今こそ 完璧な旋律で»
«どう足掻きもがこうと 無駄なことさ»
五人のプラーナが。
中央へ。
集まる。
「……何だあれ」
ヒジリが目を見開く。
光。
巨大。
さらに。
大きく。
プレセアが【ランビリス】を最大展開する。
「防ぐわよ!」
「アタシも!」
ケリードーン。
防御展開。
ピアソラ。
支援。
ロビン。
防御。
最後。
サーシャ。
正面。
◇
«恐れることはない 己の正しさを»
«最後の最後まで 貫くまで»
光が。
収束。
五人分。
別々だった。
プラーナ。
演奏。
呼吸。
完全同期。
ハイセがルサールカへ最後まで繰り返させた訓練。
出力を上げることではない。
誰か一人が。
強くなることでもない。
五人の。
タイミングを。
一瞬たりとも。
ずらさない。
その結果。
五つの力が。
一つになる。
◇
«Show down! Show down!»
«Show down! Show down!»
«轟かせろ!»
第一段階。
収束陣。
拡大。
「まだ上がるのか!?」
サーシャが叫ぶ。
«Show down! Show down!»
«Show down! Show down!»
«勝利を我らの手に»«Hi!!»
第二段階。
空気が。
震える。
観客席を守る防護障壁。
自動。
最大出力。
プレセアの頬に。
冷たい汗。
「サーシャ」
「分かってる!」
今度の返事は。
さっきとは。
違った。
ちゃんと。
仲間を。
見ている。
「全員!」
サーシャが。
剣を。
正面へ。
「一緒に受けるぞ!!」
◇
«Show down!»
光。
膨張。
«Show down!»
ルサールカ。
全員。
前へ。
«Show down!»
五人。
笑う。
「「「「「さあ、フィナーレの時間だ!」」」」」
瞬間。
世界が。
白くなった。
◇
極大プラーナレーザー。
一直線。
競技場。
飲み込む。
「うおおおおおおおっ!!」
サーシャ。
叫ぶ。
プレセアの【ランビリス】。
全防御構造。
集中。
ヒジリ。
ケリードーン。
重ねる。
ピアソラ。
ロビン。
支援。
五人。
受ける。
衝突。
一秒。
二秒。
拮抗。
「押し返せぇぇぇぇ!!」
サーシャの叫び。
だが。
レーザーは。
止まらない。
さらに。
出力。
上昇。
防壁。
亀裂。
そして。
破砕。
光。
全てを。
飲み込んだ。
直後。
大爆発。
◇
巨大な爆煙が競技場を覆った。
観客席は、完全に静まり返っている。
数秒。
誰も。
声を出せない。
煙。
少しずつ。
晴れる。
最初に見えたのは。
地面へ膝をついた。
サーシャ。
その後ろ。
プレセア。
ヒジリ。
ピアソラ。
ロビン。
全員。
無事。
ただし。
戦闘継続。
不可能。
判定装置。
赤。
セイクリッド。
全員。
戦闘不能。
反対側。
ルサールカ。
五人。
肩で息をしている。
それでも。
立っている。
一秒。
静寂。
審判が。
腕を。
上げた。
「勝者――」
一拍。
「【ルサールカ】!!」
◇
歓声が。
爆発した。
「勝ったぁぁぁぁ!!」
ルサールカの五人が抱き合う。
シルヴィアも立ち上がって拍手を送る。
「すごいわ!」
ハイセは。
静かに。
頷いた。
「優勝した」
「したわね♪」
地面。
サーシャ。
仰向け。
「…………」
プレセアが隣へ座る。
「大丈夫?」
「身体は」
「心は?」
「聞くな」
ヒジリが笑う。
「最後ヤバかったなー!」
「お前、楽しそうだな……」
「だってすごかったじゃん!」
サーシャ。
空。
見上げる。
「……負けた」
悔しい。
当然。
だが。
以前のような。
怒りだけではない。
「次は勝つ」
プレセアが笑った。
「ええ」
◇
表彰式。
ルサールカの五人は優勝トロフィーを受け取り、観客席へ大きく手を振っていた。
そこへ。
ハイセ。
「追加賞品」
「え?」
五人。
振り返る。
ハイセは。
五枚。
いや。
一式。
特別招待券。
差し出す。
「天空リゾートのVIPチケットは約束通り」
「やったー!」
「それと」
別の券。
「最近増設したプレミアム・スイーツビュッフェの招待券」
沈黙。
「…………」
五人の目。
輝く。
「スイーツ?」
「プレミアム?」
「限定メニューある!?」
「あるよ」
「何種類!?」
「かなり」
「予約制!?」
「VIP枠だから貸切時間も取れる」
次の瞬間。
優勝した時以上の。
歓声。
「やったぁぁぁぁぁぁ!!!」
サーシャ。
遠く。
見ている。
「…………」
ピアソラ。
気付く。
「どうしましたの?」
「……あいつら」
「はい?」
「優勝した時より喜んでないか?」
ピアソラも見る。
「…………」
「そうですわね」
「目的そっちだったのか!?」
◇
その頃。
フェスタ会場から遠く離れた廃倉庫。
歓声など。
届かない。
イレーネが屋根から内部を監視していた。
『取引開始』
通信の向こう。
ディルク。
『記録』
「してる」
倉庫内部では。
荷馬車。
盗品。
金。
複数。
人。
そして。
明らかに盗賊ではない。
上等な服。
男。
プリシラ。
既に。
内部。
商人の護衛に紛れている。
『姉さん』
通信。
小声。
『聞こえる?』
「聞こえてる」
『あの奥の男、たぶん帳簿持ってる』
「確認出来る?」
『机の上。二冊』
「触らないで。まだ」
『分かった』
イレーネは。
周囲。
見る。
倉庫外。
別の人影。
一つ。
二つ。
三つ。
増える。
「……人数増えた」
『何人』
「十五以上」
ディルク。
一拍。
『まだ待て』
◇
倉庫の中。
男が。
机へ。
金貨。
積む。
「例の祭りで警備が薄い。今夜中にもう二便通せる」
別の男。
笑う。
「王都の連中は祭りに夢中だ」
プリシラ。
俯く。
内心。
思う。
その祭り。
罠なんだけど。
もちろん。
言わない。
「次は?」
「南側の商隊を狙う。積み荷は――」
そこまで。
記録。
通信。
ディルク。
『十分だ』
プリシラの表情が。
変わる。
『イレーネ』
「はいはい」
『外を塞げ』
「了解」
『プリシラ』
「うん」
『帳簿確保』
「了解」
最後。
『抵抗が大きければ――』
少し。
間。
『オーフェリアを出す』
◇
プリシラが。
立つ。
「何だ?」
近くの男が。
見る。
プリシラ。
笑顔。
「ごめんなさい」
「何が――」
起動。
双剣。
【双月】。
光。
男達。
固まる。
「それ……煌式武装!?」
「うん」
一人。
飛び掛かる。
プリシラ。
双剣。
受ける。
流す。
二人目。
横。
避ける。
双剣。
接続。
機構。
変形。
巨大な。
大斧。
「…………」
盗賊。
止まる。
プリシラ。
少し困った顔。
「出来れば大人しくしてほしいな」
数秒。
「……無理?」
「殺せ!!」
「あー……」
プリシラ。
構える。
「やっぱり?」
◇
外。
逃げ出した。
数人。
だが。
「はい、そっちは駄目」
イレーネ。
待機。
逃走路。
潰す。
別方向。
盗賊。
走る。
矢。
いや。
攻撃。
地面。
前。
直撃。
「っ!」
「逃げるなら、せめて私のいない方向にしなさいよ」
包囲。
完成。
倉庫内。
轟音。
プリシラ。
大斧形態。
【双月】。
一振り。
武器だけ。
吹き飛ばす。
もう一人。
双剣へ。
分離。
手首。
狙わず。
武器。
切る。
倒すためではない。
動けなくする。
ハイセから。
何度も。
言われている。
捕らえる。
情報。
残す。
◇
だが。
奥。
男。
魔法道具。
取り出す。
イレーネ。
気付く。
「プリシラ!」
「え?」
魔力。
急上昇。
倉庫全体。
破壊。
証拠。
帳簿。
全部。
消すつもり。
「まず――」
瞬間。
空気。
変わった。
プリシラ。
止まる。
イレーネ。
顔。
引きつる。
「……来た」
倉庫外。
地面。
異様な。
圧力。
オーフェリア。
静かに。
立つ。
◇
「やめなさい」
ただ。
一言。
男。
動けない。
魔法道具を持つ手。
震える。
オーフェリアが。
一歩。
進む。
「それを使えば」
静かな声。
「全員巻き込まれる」
「く、来るな!」
「なら置いて」
「ふざけるな!」
魔力。
さらに。
上昇。
イレーネ。
溜息。
「……あーあ」
プリシラ。
小さく聞く。
「どうなるの?」
「知らない方がいいわよ」
次。
瞬間。
男の手から。
魔法道具。
消えた。
本人。
気付く。
遅い。
オーフェリア。
既に。
目の前。
「終わり」
一撃。
男。
床。
沈む。
◇
静寂。
盗賊達。
全員。
動き。
止める。
イレーネが。
両手。
広げる。
「はい。抵抗したい奴?」
誰も。
いない。
「賢いわね」
プリシラが帳簿を回収する。
「二冊あった」
イレーネ。
見る。
「それが本命かも」
通信。
ディルク。
『開くな』
「何で?」
『罠の可能性もある。持ち帰れ』
「了解」
『他には』
プリシラ。
机。
確認。
「地図と、取引先っぽい一覧」
一拍。
通信の向こう。
ディルク。
声。
低くなる。
『全部確保しろ』
◇
同時刻。
街道。
ウル・フッドは。
岩。
座る。
レイノルド。
バシリッサ。
待機。
タイクーン。
デスピニス。
周囲。
浮く。
通信。
レイノルド。
震える。
確認。
短い。
メッセージ。
【第一段階完了】
「終わったみたいだ」
ウル。
立つ。
「なら行っていいか?」
「多分」
「多分?」
「ハイセから次の指示ないから」
ウルは。
深い。
溜息。
「本当にお前達、諜報任務向いてないな」
「もう言うな!」
タイクーン。
笑う。
ウル。
街道の先。
見る。
「……ハイセ」
小さく。
呟く。
「随分、面倒なことを覚えたもんだ」
◇
フェスタ会場。
ルサールカの表彰。
終了。
ハイセの端末。
震える。
ディルク。
『一段目は終わった』
ハイセ。
読む。
『帳簿、取引先、資金提供者一人確保。まだ本体じゃねぇ』
返信。
『了解』
すぐ。
次。
『陽動は?』
ハイセ。
競技場。
見る。
ルサールカ。
トロフィー。
VIPチケット。
スイーツ。
大喜び。
観客。
大盛り上がり。
そして。
遠く。
ボロボロ。
サーシャ。
こちら。
睨んでいる。
ハイセ。
返信。
『大成功』
数秒後。
『派手にしろとは言った』
さらに。
『ここまでやれとは言ってねぇ』
ハイセ。
首。
傾げる。
「何で?」
シルヴィア。
画面。
覗く。
「多分、本当に派手すぎたんじゃない?」
◇
「ハイセ」
背後。
声。
ハイセ。
固まる。
ゆっくり。
振り返る。
サーシャ。
いる。
非常に。
静か。
「何?」
「ルサールカ」
「うん」
「お前が曲を書いた」
「うん」
「お前が戦術を組んだ」
「うん」
「お前が決勝用の曲まで用意した」
「うん」
「私達は負けた」
「うん」
サーシャ。
拳。
震える。
「そのうえ」
ハイセ。
嫌な予感。
「……何?」
「今、お前の端末に『陽動』って見えた」
停止。
「…………」
「ハイセ」
「はい」
「説明しろ」
ハイセ。
数秒。
考える。
「……フェスタの裏で、ちょっと盗賊捕まえてた」
サーシャ。
笑う。
「ちょっと?」
「うん」
「誰が?」
「オーフェリアとイレーネとプリシラ」
「…………」
「あとウルが邪魔するかもしれなかったから、レイノルドとタイクーンに足止めしてもらった」
サーシャの。
笑顔。
消える。
「つまり」
「うん?」
「私達が必死に戦っている間に」
「うん」
「お前はルサールカを優勝させながら」
「うん」
「別働隊を五人も動かして」
「うん」
「盗賊団を追っていた?」
「そう」
一拍。
「お前いつから諜報戦まで始めたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
フェスタ会場。
最後。
一番。
大きな。
歓声ではない声が。
響いた。
ハイセは。
少しだけ。
考えた。
「最近?」
「最近で済ませるなぁぁぁぁぁ!!!」
その横で。
ルサールカの五人は。
スイーツビュッフェの。
メニュー表を。
楽しそうに。
眺めていた。