暗律の戦乙女は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

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第八話 悪辣の王

 

 

 

「……誰?」

 

 昼。

 

 アルルカント・アカデミー。

 

 研究室。

 

 ハイセは。

 

 カミラから渡された端末を見た。

 

 画面。

 

 一人の男。

 

「ディルク・エーベルヴァイン」

 

「知らない」

 

「だろうな」

 

「有名?」

 

「非常にな」

 

「強いの?」

 

「そういう意味ではない」

 

 カミラ。

 

 腕を組む。

 

「レヴォルフ黒学院の生徒会長だ」

 

「生徒会長?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 画面。

 

 見る。

 

「学生に見えない」

 

「それは本人へ言うな」

 

「何で」

 

「面倒になる」

 

「…………」

 

 少し離れた場所。

 

 エルネスタ。

 

「私は言ってもいいと思うよ?」

 

「お前は黙っていろ」

 

「えー」

 

「で」

 

 ハイセ。

 

 端末を戻す。

 

「何でその生徒会長が俺に?」

 

「それを」

 

 カミラ。

 

 深い。

 

 ため息。

 

「私が聞きたい」

 

     ◇

 

 発端。

 

 数時間前。

 

 研究室へ。

 

 一件。

 

 連絡が届いた。

 

 レヴォルフ黒学院。

 

 生徒会。

 

 その代表者。

 

 ディルク・エーベルヴァイン。

 

『アルルカントで妙な素材を使った試験を始めたそうだな』

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 その場で。

 

 眉間。

 

 押さえた。

 

『情報が早すぎないか?』

 

『そうか?』

 

『外部へ発表していない』

 

『なら、外部へ漏れたんじゃねえのか』

 

『…………』

 

『俺に怒るなよ』

 

『お前以外に誰へ怒れというんだ』

 

『知らねえな』

 

 そして。

 

 ディルク。

 

『その素材の持ち主』

 

 一拍。

 

『会わせろ』

 

『断る』

 

『即答かよ』

 

『研究協力者だ。見世物ではない』

 

『別に見世物にする気はねえ』

 

『では何だ』

 

『商談』

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 沈黙。

 

『本人が望めばな』

 

『…………』

 

『俺が決めることではない』

 

『なるほど』

 

 ディルク。

 

 低く。

 

 笑った。

 

『じゃあ本人に聞け』

 

     ◇

 

「商談?」

 

「ああ」

 

 ハイセ。

 

 首。

 

 傾げる。

 

「俺と?」

 

「そう言っている」

 

「何売るの?」

 

「恐らく」

 

 カミラ。

 

「異世界素材だろう」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 考える。

 

「会う」

 

「…………」

 

「早いな」

 

「だって」

 

「?」

 

「何欲しいのか聞かないと」

 

 一拍。

 

「断るかどうかも決められない」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

「まあ」

 

「ああ」

 

「正論だ」

 

「でしょ?」

 

 エルネスタ。

 

 笑う。

 

「私も行く!」

 

「何故だ」

 

「面白そうだから!」

 

「帰れ」

 

「まだ出発してない!」

 

     ◇

 

 結局。

 

 三人。

 

 だった。

 

「何でお前まで来てる」

 

 カミラ。

 

「護衛?」

 

 エルネスタ。

 

「誰の」

 

「ハイセくん」

 

「誰から」

 

「ディルク?」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

「危ない奴なの?」

 

「危ない」

 

 カミラ。

 

「面白い」

 

 エルネスタ。

 

「どっち?」

 

「両方だ」

 

 答え。

 

 同じ。

 

「…………」

 

「なるほど」

 

     ◇

 

 指定された場所。

 

 中立区域。

 

 個室。

 

 扉。

 

 開く。

 

「来たか」

 

「…………」

 

 男。

 

 座っている。

 

 大柄。

 

 鋭い目。

 

 態度。

 

 悪い。

 

「お前が」

 

 一拍。

 

「ハイセ・ササキか」

 

「ああ」

 

「ディルク?」

 

「そうだ」

 

「…………」

 

 二人。

 

 見る。

 

「…………」

 

「…………」

 

 最初に。

 

 口を開いたのは。

 

 ディルク。

 

「思ったより普通だな」

 

「そっちも」

 

「…………」

 

「学生に見えないけど」

 

「ハイセ!」

 

 カミラ。

 

「言うなと言っただろう!」

 

「別にいいだろ」

 

 ディルク。

 

 鼻。

 

 鳴らす。

 

「よく言われる」

 

「言われるんだ」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 肩。

 

 震える。

 

「笑うな」

 

「ごめんごめん」

 

「絶対謝ってないだろ」

 

     ◇

 

「で」

 

 席。

 

 着く。

 

「俺に何の用?」

 

「話が早くて助かる」

 

「長い話嫌いだから」

 

「俺もだ」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 二人を見る。

 

 嫌な。

 

 予感。

 

「異世界の素材」

 

 ディルク。

 

 机。

 

「売る気はあるか?」

 

「物による」

 

「条件は?」

 

「先に」

 

 ハイセ。

 

「アンタが何に使うのか聞きたい」

 

「…………」

 

「研究?」

 

「商売」

 

「…………」

 

「場合によっちゃ」

 

 一拍。

 

「研究にも回す」

 

「なるほど」

 

 ハイセ。

 

 即座に。

 

 理解する。

 

「つまり」

 

「?」

 

「価値があるか調べて」

 

「……」

 

「売れるなら売りたい?」

 

「そういうことだ」

 

「…………」

 

「嫌か?」

 

 ディルク。

 

 薄く。

 

 笑う。

 

「研究成果は」

 

 一拍。

 

「世の中に出して初めて金になる」

 

「…………」

 

「金になれば」

 

「……」

 

「次の研究費が生まれる」

 

「……」

 

「研究費が増えれば」

 

「……」

 

「次の物が作れる」

 

「…………」

 

「綺麗事だけじゃ」

 

 一拍。

 

「技術は回らねえ」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 黙る。

 

「ディルク」

 

 カミラ。

 

 声。

 

 低い。

 

「我々の研究をお前の商売へ組み込むな」

 

「まだ組み込んでねえ」

 

「今まさに組み込もうとしているだろう」

 

「だから商談してんだろ」

 

「…………」

 

「勝手に持っていくより」

 

 一拍。

 

「よっぽど誠実じゃねえか」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

「確かに」

 

「ハイセ」

 

「え?」

 

 カミラ。

 

「何故そっちへ納得する」

 

「でも」

 

 一拍。

 

「欲しいって言って」

 

「……」

 

「対価払うって言ってるだけだろ?」

 

「…………」

 

「別に」

 

 ハイセ。

 

「嫌なら断ればいい」

 

「…………」

 

 ディルク。

 

 口元。

 

 上がる。

 

「話が分かるな」

 

「普通じゃない?」

 

「意外と」

 

 一拍。

 

「普通じゃねえ」

 

     ◇

 

「一つ」

 

 ディルク。

 

 指。

 

 立てる。

 

「サンプルが欲しい」

 

「何をくれる?」

 

「現金」

 

「いらない」

 

「…………」

 

 ディルク。

 

 少し。

 

 目を細める。

 

「金はいらねえ?」

 

「ある程度はカミラ達から貰ってる」

 

「…………」

 

「今」

 

 一拍。

 

「もっと欲しいものある」

 

「何だ」

 

「情報」

 

「…………」

 

 エルネスタ。

 

 にや。

 

 笑う。

 

「へぇ」

 

「どんな情報だ?」

 

 ディルク。

 

「この街の」

 

 一拍。

 

「武器が」

 

「……」

 

「実際にどう使われてるか」

 

「…………」

 

「研究所の中じゃなく」

 

 一拍。

 

「外で」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 少し。

 

 目。

 

 変わる。

 

「誰が」

 

 ハイセ。

 

「何を欲しがって」

 

「……」

 

「何を使えなくて」

 

「……」

 

「何なら金払うのか」

 

「…………」

 

「そういうの」

 

 ディルク。

 

 数秒。

 

 ハイセ。

 

 見る。

 

「お前」

 

「?」

 

「本当に異世界から来たばっかりか?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

「何?」

 

「いや」

 

 ディルク。

 

 椅子。

 

 深く。

 

 座る。

 

「思ってたより」

 

 一拍。

 

「使える」

 

「褒めてる?」

 

「俺なりにな」

 

「変な褒め方」

 

「お互い様だろ」

 

     ◇

 

「なら」

 

 ディルク。

 

「情報を出す」

 

「どこまで?」

 

「レヴォルフ内で流通してる武器」

 

「……」

 

「需要」

 

「……」

 

「不満」

 

「……」

 

「価格帯」

 

「…………」

 

「当然」

 

 一拍。

 

「出せない情報もある」

 

「いい」

 

「代わりに」

 

「?」

 

「素材を数点」

 

「全部は無理」

 

「分かってる」

 

「加工していい?」

 

「研究用として売るなら」

 

 一拍。

 

「戻ってこない前提で渡す」

 

「話が早い」

 

「でも」

 

 ハイセ。

 

「結果」

 

「?」

 

「教えて」

 

「何の」

 

「売れそうか」

 

「…………」

 

「どう使えそうか」

 

「……」

 

「駄目だったなら」

 

 一拍。

 

「何が駄目だったか」

 

「…………」

 

 ディルク。

 

 少し。

 

 笑う。

 

「なるほど」

 

「?」

 

「金より」

 

 一拍。

 

「次に使えるものを欲しがるか」

 

「そっちの方が得だろ」

 

「…………」

 

「金は」

 

 ハイセ。

 

「使ったら減る」

 

「……」

 

「情報は」

 

 一拍。

 

「使い方次第で増える」

 

「…………」

 

 沈黙。

 

 ディルク。

 

 笑った。

 

「気に入った」

 

「そう?」

 

「商売相手としてな」

 

「俺も」

 

「…………」

 

「話分かりやすい」

 

 カミラ。

 

 額。

 

 押さえる。

 

「何故」

 

 一拍。

 

「そこだけ相性がいいんだ」

 

「そこだけ?」

 

 エルネスタ。

 

「私は全部いけそうだと思うよ?」

 

「黙れ」

 

     ◇

 

「一つ聞いていい?」

 

 ハイセ。

 

「何だ」

 

「アンタ」

 

 一拍。

 

「何でこんなに」

 

「……」

 

「露骨なの?」

 

「…………」

 

「欲しいものは欲しい」

 

「……」

 

「金になるならやる」

 

「……」

 

「得するなら話す」

 

「…………」

 

「普通」

 

 一拍。

 

「もうちょい隠さない?」

 

「隠して」

 

 ディルク。

 

 鼻で笑う。

 

「何になる」

 

「…………」

 

「綺麗な理由並べて」

 

 一拍。

 

「裏で別のこと考えてる奴より」

 

「……」

 

「最初から」

 

 一拍。

 

「利益が欲しいと言った方が早い」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 目。

 

 細める。

 

「…………」

 

 妙に。

 

 胸。

 

 ざわつかない。

 

 むしろ。

 

 楽。

 

 だった。

 

「俺は」

 

 ディルク。

 

「欲しいものがある」

 

「……」

 

「なら」

 

 一拍。

 

「相応のもんを出す」

 

「…………」

 

「お前も」

 

 一拍。

 

「欲しいもんがあるなら」

 

「……」

 

「何か払え」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 その言葉。

 

 少し。

 

 考える。

 

「……それ」

 

「?」

 

「いいな」

 

「何が」

 

「分かりやすい」

 

「…………」

 

「欲しいなら」

 

 一拍。

 

「払う」

 

「……」

 

「何か得るなら」

 

 一拍。

 

「何か渡す」

 

「…………」

 

「それなら」

 

 ハイセ。

 

 小さく。

 

 笑う。

 

「納得できる」

 

「そうか」

 

 ディルク。

 

「なら」

 

 一拍。

 

「覚えとけ」

 

「?」

 

「何かを欲しがるのは」

 

「……」

 

「悪いことじゃねえ」

 

「…………」

 

「払えるならな」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 黙る。

 

 欲しい。

 

 何かを。

 

 欲しいと。

 

 言う。

 

 そのこと。

 

 今まで。

 

 あまり。

 

 考えなかった。

 

 強さ。

 

 必要だった。

 

 生きるため。

 

 追いつくため。

 

 でも。

 

 欲しい。

 

 というのは。

 

 少し。

 

 違う。

 

「…………」

 

 天霧綾斗。

 

 あの。

 

 美しい剣。

 

 ふと。

 

 頭。

 

 浮かぶ。

 

「…………」

 

「どうした」

 

「いや」

 

 首。

 

 振る。

 

「何でもない」

 

     ◇

 

 商談。

 

 終了。

 

「じゃあ」

 

 ハイセ。

 

 立つ。

 

「素材は後で送る」

 

「ああ」

 

「情報」

 

「用意させる」

 

「約束な」

 

「取引だろ」

 

「…………」

 

 その一言。

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 笑う。

 

「ああ」

 

「取引だ」

 

     ◇

 

 部屋。

 

 出た。

 

「ハイセ」

 

「何?」

 

 カミラ。

 

「ディルクを」

 

 一拍。

 

「信用しすぎるな」

 

「してないよ」

 

「…………」

 

「でも」

 

「?」

 

「約束守る限り」

 

 一拍。

 

「取引相手としては信用する」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 何も。

 

 言わない。

 

「何?」

 

「いや」

 

 一拍。

 

「それならいい」

 

「アンタ」

 

「?」

 

「ディルク嫌い?」

 

「好き嫌いの問題ではない」

 

「じゃあ」

 

「手段を選ばない」

 

「…………」

 

「利益になるなら」

 

 一拍。

 

「人間すら駒として扱う」

 

「…………」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 考える。

 

「でも」

 

「?」

 

「本人に」

 

 一拍。

 

「駒にするって言って」

 

「……」

 

「対価も払うなら?」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 眉間。

 

 寄る。

 

「話が変わる」

 

「でしょ」

 

「だからといって」

 

 一拍。

 

「何でも許されるわけではない」

 

「それは分かってる」

 

「…………」

 

「俺」

 

 ハイセ。

 

「勝手に決められるのが嫌いなだけ」

 

「…………」

 

「条件」

 

「……」

 

「対価」

 

「……」

 

「拒否権」

 

「…………」

 

「それがあるなら」

 

 一拍。

 

「考える」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 静かに。

 

 ハイセを見る。

 

「そうか」

 

「ああ」

 

     ◇

 

 少し。

 

 後ろ。

 

 エルネスタ。

 

 一人。

 

 楽しそうに。

 

 笑っている。

 

「…………」

 

「何だ」

 

 カミラ。

 

「いやぁ」

 

「?」

 

「ハイセくん」

 

 一拍。

 

「ディルクとも仲良くなれそうだなって」

 

「仲良くはならねぇよ」

 

「商売仲間!」

 

「それなら」

 

 ハイセ。

 

 少し。

 

 考える。

 

「ありかも」

 

「…………」

 

 カミラ。

 

 止まる。

 

「何?」

 

「……いや」

 

 一拍。

 

「もう何も言わん」

 

「諦めた?」

 

「少しな」

 

「カミラァ」

 

「誰のせいだ」

 

     ◇

 

 数日後。

 

 レヴォルフ黒学院。

 

「会長」

 

「何だ」

 

「アルルカントより」

 

 一拍。

 

「サンプルが届きました」

 

「ああ」

 

「それと」

 

「?」

 

「ハイセ・ササキ氏から」

 

 一通。

 

 メモ。

 

『結果が出たら全部教えて』

 

「…………」

 

 ディルク。

 

 少し。

 

 笑う。

 

「図々しいですね」

 

「違う」

 

「?」

 

「取引条件だ」

 

「…………」

 

 サンプル。

 

 見る。

 

「調べろ」

 

「はい」

 

「使えるなら」

 

 一拍。

 

「買う」

 

「研究用ですか?」

 

「最初はな」

 

「…………」

 

「市場に出せるなら」

 

 一拍。

 

「市場に出す」

 

「…………」

 

「利益になるなら」

 

 口元。

 

 上がる。

 

「何度でも」

 

 一拍。

 

「アルルカントへ金を落とす」

 

「…………」

 

 そして。

 

 ディルクは。

 

 まだ。

 

 知らない。

 

 この。

 

 一度の取引が。

 

 後に。

 

 異世界産。

 

 希少素材。

 

 ルークス。

 

 さらに。

 

 ウルム=マナダイト。

 

 それらを巡る。

 

 巨大な流通網の。

 

 始まりになることを。

 

 何より。

 

 知らなかった。

 

 自分が。

 

 後々。

 

 六学園の中でも。

 

 とりわけ。

 

 美味しい位置へ。

 

 滑り込むことになるなど。

 

 もちろん。

 

 この時点では。

 

 知る由もなかった。

 

 

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