【暗律の戦乙女(ヤミキューレ)】は盤上を覆すが故、己が未来を選ぶ   作:カミッシー

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第96話 新たな冒険者社会

 

かつて、この集まりはもっと単純なものだった。

 

 七大冒険者と呼ばれる者たちが一堂に会し、これから冒険者として生きていく若者たちの問いに答える。

 

 どのように強くなったのか。

 

 何を恐れ、何を失い、何を得たのか。

 

 クランとは何か。

 

 仲間とは何か。

 

 そして、冒険者として生きるということはどういうことなのか。

 

 先を歩く者が、自らの経験を後から歩く者へ渡す。

 

 本来ならば、それだけの会合だった。

 

 だが、世界が一つ増えれば、話はそう簡単には終わらない。

 

 ハイベルグ王国、王都。

 

 冒険者ギルド本部に設けられた大会議室は、これまでの七大冒険者会合とは比較にならないほど多くの人間で埋め尽くされていた。

 

 中央にはかつて七大冒険者として選ばれた者たち。

 

 その周囲にはS級、A級を中心とした各クランの代表者や、王国側の行政担当者、冒険者ギルドの上層部。

 

 さらに今回は、異世界側――アスタリスク六学園からも代表者が招かれている。

 

 学生という肩書きだけを見れば、この場には似つかわしくない。

 

 しかし。

 

 ダンジョン攻略。

 

 迷宮資源。

 

 武装開発。

 

 教育交流。

 

 フェスタ。

 

 そして、今や二つの世界をまたぐ巨大市場にまで成長したフェアトレード。

 

 ここ数年で冒険者社会に起きた変化の多くに、彼らが関わっている。

 

 ならば、呼ばれない方がおかしかった。

 

「……人数、多くない?」

 

 会場を見渡し、ハイセが小さく呟いた。

 

「お前が増やした議題の数を考えろ」

 

 隣からガイストの低い声が返ってくる。

 

「俺?」

 

「半分以上はそうだ」

 

「言いがかりじゃない?」

 

「セイレーン計画」

 

「…………」

 

「ダンジョン資源市場」

 

「…………」

 

「武装技術交流」

 

「…………」

 

「小規模フェスタ」

 

「それは俺だけじゃない」

 

「反論できるのが一つしかない時点で諦めろ」

 

「はい」

 

 ハイセは素直に口を閉じた。

 

 その向こうではリューネハイムが肩を震わせ、アーネストは穏やかに笑い、ディルクだけが朝から既に機嫌が悪そうな顔で資料を捲っている。

 

 もっとも。

 

 ディルクの場合、機嫌が良い時との差が分かる人間がどれほどいるのかは疑問だった。

 

「では」

 

 ガイストが立ち上がる。

 

 ざわめいていた会場が静まった。

 

「始める」

 

 短い一言だった。

 

 飾りもなければ、格式張った挨拶もない。

 

 だが、それだけで十分だった。

 

「本来、七大冒険者会合は、次代を担う冒険者へ我々の経験を伝えるために始まったものだ。今回もその目的自体は変わらない」

 

 一度、言葉を切る。

 

「ただし、冒険者を取り巻く環境は大きく変わった」

 

 壁面の大型投影装置へ、いくつもの資料が表示された。

 

 新規登録者。

 

 冒険者志願者。

 

 クラン加入者。

 

 依頼達成率。

 

 新人層の負傷率。

 

 そして死亡率。

 

 数字の意味を理解した者たちの間で、小さなざわめきが広がっていく。

 

「新しく冒険者を志す者は増えている」

 

 ガイストが続ける。

 

「だが、それ以上に重要なのは」

 

 視線が、一つの項目へ向く。

 

「死ぬ者が減ったことだ」

 

 冒険者という職業から、危険が消えたわけではない。

 

 魔物は人を殺す。

 

 ダンジョンは迷う。

 

 罠は待ってくれない。

 

 禁忌迷宮に至っては、準備を怠った人間が気軽に踏み込めるような場所では今もなかった。

 

 だが。

 

 かつては避けられなかった死の中に、実際には避けられたはずのものが大量に含まれていた。

 

 装備が足りなかった。

 

 知識がなかった。

 

 自分の能力を理解していなかった。

 

 退路を知らなかった。

 

 怪我をした時の対処法を知らなかった。

 

 そもそも、自分が挑んでいい相手なのかすら分かっていなかった。

 

 経験を得る前に死ぬ。

 

 そんな若者は、決して珍しくなかった。

 

「装備規格の変化だけではありません」

 

 王国側の報告担当者が補足する。

 

「新人教育の標準化、六花学園との技術交流、アスタリスク側から提供された戦闘記録や訓練方式、さらに小規模フェスタによる実戦前教育。それらが複合的に作用しています」

 

「フェスタが教育になるのか?」

 

 若い冒険者の一人が、少し意外そうに訊ねた。

 

 答えたのはアーネストだった。

 

「なるよ」

 

 彼は柔らかく笑う。

 

「実戦と訓練の間に、一つ段階を作れるからね」

 

 命を奪わない。

 

 だが、本気で勝敗を競う。

 

 相手の能力を読む。

 

 仲間と連携する。

 

 自分の弱点を知る。

 

 そして。

 

 負けても、次がある。

 

「本当の実戦で最初の失敗を経験する必要がない。それだけでも意味は大きい」

 

「……なるほど」

 

「もちろん、フェスタで強いからダンジョンでも死なない、という意味ではないけれどね」

 

 それを聞いたガイストが小さく頷いた。

 

「重要なのは、失敗できる場所が増えたことだ」

 

 その言葉に。

 

 ハイセは少しだけ目を細めた。

 

 失敗できる。

 

 やり直せる。

 

 もう一度選べる。

 

 最近、自分たちが作ってきたものには、どうも同じ思想が繰り返し現れる。

 

 武器でも。

 

 教育でも。

 

 制度でも。

 

「小規模フェスタについては、現在二週間に一度の開催を基本としています」

 

 次にバルバロス王が口を開いた。

 

 会場全体の視線が集まる。

 

「当初は若者の訓練と交流が主目的だった」

 

 だが。

 

 人が集まれば。

 

 金が動く。

 

「現在では、観戦客を目当てに商人が集まり、飲食店が出店し、宿泊施設の利用も増えている。地方から王都へ足を運ぶ者も増えた」

 

「完全に興行じゃん」

 

 ハイセが小声で言った。

 

「フェスタとは元々そういうものだろう」

 

 ディルクが即座に返す。

 

「いや、そうだけど」

 

「人が集まる場所に商売が生まれるのは当たり前だ」

 

「分かるけどさ」

 

「分かってんなら黙れ」

 

「今日ずっと当たり強くない?」

 

「通常運転だ」

 

 バルバロスは二人のやり取りなど気にも留めず続ける。

 

「だが、儂が最も評価しているのは金ではない」

 

 王の視線が、若い冒険者たちへ向いた。

 

「フェスタを見るためだけに来た子供が、“自分も冒険者になりたい”と言うようになった」

 

 それは。

 

 数字だけでは見えにくい変化だった。

 

 かつて冒険者とは。

 

 危険な仕事だった。

 

 命を捨てられる者が選ぶもの。

 

 強者だけが残るもの。

 

 そんな印象が強かった。

 

 だが今は。

 

 学ぶ場所がある。

 

 試す場所がある。

 

 教える人間がいる。

 

 そして。

 

 その先に、目標となる者がいる。

 

「能力がある者だけが、偶然この道へ落ちてくる時代ではなくなりつつある」

 

 バルバロスが言う。

 

「自ら選んで冒険者になる者が増えている」

 

 その言葉に続くように。

 

 洲馬が手元の資料を切り替えた。

 

「その意味では、今後さらに環境が変化する可能性があります」

 

 表示された名称。

 

 ――【セイレーン計画】。

 

 先日。

 

 ようやく研究段階を終えたばかりの技術。

 

 その社会実装は既に、限定された認定施設から段階的に始まっている。

 

「現時点では全面的な一般提供ではありません」

 

 洲馬が慎重に説明する。

 

「対象者の選定、安全確認、長期追跡を含む段階導入です。ただし、これまで生まれつき《星脈世代》ではなかった者にも、本人の意思によってその道を選べる可能性が生まれた」

 

 会場が静まった。

 

 情報自体を知らない者はいない。

 

 だが。

 

 改めて公の場で告げられると、その意味は重い。

 

「もちろん」

 

 ハイセが付け加える。

 

「冒険者になるために星脈世代にならなきゃいけない、って話じゃないからね」

 

 全員の視線が集まる。

 

「ならない選択も同じだけ守る。そこは絶対」

 

 サーシャが僅かに視線を動かした。

 

 ハイセは気付いていたが、何も言わなかった。

 

「セイレーン計画は、冒険者を増やすための徴兵装置じゃない」

 

 淡々と。

 

 だが、明確に。

 

「今まで“生まれつき違うから無理”で終わってた奴に、選択肢を一個増やすだけ」

 

 それでいい。

 

 むしろ。

 

 それ以上になってはいけない。

 

 ガイストが腕を組む。

 

「装備も教育も、星脈世代化も」

 

 低い声が響く。

 

「勘違いするな。便利になったからといって、冒険そのものが安全になったわけではない」

 

 若い冒険者たちが姿勢を正す。

 

「死ににくくなっただけだ」

 

 容赦のない言葉だった。

 

「死なないとは言っていない」

 

 それこそ。

 

 次代へ渡すべき経験だった。

 

 新しい武器を持っている。

 

 訓練環境もいい。

 

 情報もある。

 

 だから自分は死なない。

 

 そう思った瞬間が、一番危ない。

 

「でも」

 

 サーシャが口を開いた。

 

「昔よりはマシだ」

 

 皆が彼女を見る。

 

「装備が悪くて死ぬ。知らなかったから死ぬ。助けを呼ぶ方法がなくて死ぬ」

 

 僅かに目を伏せる。

 

「そんな死に方まで“冒険者だから仕方ない”で済ませる必要はない」

 

 サーシャ自身も。

 

 数え切れないほどの死を見てきた。

 

 そして。

 

 死なずに済んだかもしれない者も。

 

「弱いやつを甘やかすのとは違う」

 

 彼女は続ける。

 

「生きて帰ってこられなければ、強くなる機会すらないからな」

 

 その言葉には、以前のサーシャにはなかった種類の重さがあった。

 

 強ければいい。

 

 勝てばいい。

 

 それだけではない。

 

 未来があるから、人は次へ進める。

 

「その通りだ」

 

 バルバロスが満足そうに頷いた。

 

「そして、変わったのは冒険者だけではない」

 

 次の資料。

 

 そこには。

 

 無数のダンジョン名と、資源流通量。

 

 攻略履歴。

 

 取引価格。

 

 現地還元率。

 

 共同研究件数。

 

 そんな数字が並んでいた。

 

 空気が。

 

 少し変わる。

 

「数年前まで」

 

 ガイストが言う。

 

「ダンジョンは、攻略するものだった」

 

 魔物を倒す。

 

 素材を持ち帰る。

 

 宝があれば回収する。

 

 それで終わり。

 

 誰が最初に見つけるか。

 

 誰が最初に攻略するか。

 

 そこに価値があるなら。

 

 当然。

 

 奪い合いになる。

 

「アスタリスク側が来てから、事情が変わった」

 

「……言い方」

 

 ハイセが小さく抗議した。

 

「間違っているか?」

 

「間違ってない」

 

「なら黙れ」

 

「今日みんな俺に厳しくない?」

 

 だが。

 

 事実だった。

 

 アスタリスク側には。

 

 技術がある。

 

 そして。

 

 資源が足りない。

 

 そんな場所へ。

 

 未知素材と希少資源が大量に眠るダンジョン世界を繋げた。

 

 何が起きるかなど。

 

 考えるまでもなかった。

 

「最初は本当に酷かったね」

 

 リューネハイムが苦笑する。

 

「新しいダンジョンが発見されたら、どの学園が先に攻略するか競争みたいになっていたもの」

 

「競争じゃない」

 

 ディルクが訂正する。

 

「資源確保だ」

 

「言葉を変えただけじゃない?」

 

「全然違う」

 

「同じよ♪」

 

「違う」

 

 ハイセは聞こえないふりをした。

 

 特に。

 

 禁忌迷宮。

 

 通常の迷宮とは桁違いの危険性。

 

 そして。

 

 桁違いの資源価値。

 

 冒険者側から見れば死地。

 

 だがアスタリスク側から見れば。

 

「……ボーナスステージだったんだよね」

 

 ハイセが口にした。

 

 周囲から微妙な視線が集まる。

 

「いや、だってさ」

 

 慌てて説明する。

 

「危険なのは本当だよ? でも向こうってページ・ワンクラス四人とか普通に編成できるじゃん。ちゃんと攻略情報集めて装備整えたら、危険度に対して得られるものが大きすぎるんだって」

 

「それをボーナスステージと呼ぶ神経が分からん」

 

 ガイストが呆れた。

 

「アスタリスク怖いな……」

 

 誰かが呟いた。

 

「否定できないわね」

 

 リューネハイムまで頷く。

 

 だからこそ。

 

 必要になった。

 

 【FAIR STAGE】。

 

 ダンジョン情報を一部の勢力だけが独占せず。

 

 攻略能力。

 

 安全管理。

 

 現地への還元。

 

 研究成果の公開。

 

 共同参加。

 

 そうした複数の要素を評価し、攻略権を調整する仕組み。

 

 特に禁忌迷宮については、単独組織による恒久独占を避け、現地国家と冒険者側にも明確な利益が残るよう設計された。

 

「当初は攻略権を公平に割り振るだけだった」

 

 洲馬が説明する。

 

「ですが、それだけでは足りませんでした」

 

 攻略できない組織はどうする。

 

 研究者は。

 

 小規模な国は。

 

 強力な冒険者を抱えていない地域は。

 

 資源が必要でも。

 

 戦力がなければ手に入らない。

 

 それでは。

 

 結局。

 

 力を持つ者だけが得をする構造から抜け出せない。

 

「だから」

 

 ハイセが言った。

 

「売ることにした」

 

 単純だった。

 

 だが。

 

 その単純な発想が、世界を変えた。

 

 攻略者は。

 

 危険を冒して得た資源を正当な価格で売れる。

 

 研究者は。

 

 迷宮へ入らなくても素材を買える。

 

 現地国家には。

 

 採取権や流通税、共同管理による利益が残る。

 

 アスタリスク側は。

 

 不足していた希少資源へ継続的にアクセスできる。

 

 そして異世界側には。

 

 その対価として技術、資金、設備、教育が戻ってくる。

 

「【FAIR STAGE】から【フェアトレード】へ」

 

 アーネストが穏やかに言った。

 

「公平に戦う場所を作るところから、公平に価値を交換する仕組みへ、ということだね」

 

「言葉にすると綺麗だなぁ」

 

 ハイセが感心したように呟く。

 

「君が始めたんだろう?」

 

「最初からそこまで考えてないもん」

 

「知っているよ」

 

 アーネストが笑った。

 

「君は大抵、後から話が大きくなる」

 

「みんなそれ言う」

 

「事実だからね」

 

 今回ばかりは。

 

 ハイセも反論しなかった。

 

 《狂乱磁空大森林》。

 

 《空中城》。

 

 《神の箱庭》。

 

 その過程で起きたことを考えれば。

 

 制度が必要だった理由は、嫌というほど理解している。

 

 放置すれば。

 

 資源は争いの種になる。

 

 強者が独占する。

 

 情報を隠す。

 

 相手より先に取る。

 

 そして。

 

 いつか必ず。

 

 攻略ではなく。

 

 資源そのものを巡って争うようになる。

 

「現在」

 

 バルバロスが言った。

 

「王国内の迷宮資源について、フェアトレード市場を経由する取引は拡大を続けている」

 

 単なる売買ではない。

 

 それによって。

 

 物流が増えた。

 

 加工業が生まれた。

 

 採取専門の冒険者も現れた。

 

 護衛依頼も増えた。

 

 研究施設が建った。

 

 宿泊客も増えた。

 

 新しい仕事が生まれ。

 

 冒険者ではない人間にも利益が流れ始めている。

 

「空中城に至ってはスパになったしね」

 

 ハイセが言った。

 

 一瞬。

 

 会場全体が静かになった。

 

「……何故だ?」

 

 冒険者の一人が真顔で尋ねた。

 

「ディルクが」

 

「俺のせいみたいに言うな」

 

「ディルクが『リゾートにした方が儲かる』って」

 

「実際儲かってんだろ」

 

「儲かってる」

 

「なら問題ねえ」

 

「禁忌迷宮が温泉施設になるとは思わないじゃん」

 

「活用できる資産を遊ばせておく方が馬鹿だ」

 

「……アスタリスク怖いな」

 

 再び。

 

 誰かが同じことを言った。

 

 今度は。

 

 誰も否定しなかった。

 

「ともかく」

 

 ガイストが強引に話を戻した。

 

「ダンジョンの意味も変わった」

 

 以前なら。

 

 冒険者だけが見る場所だった。

 

 今は。

 

 研究者も見る。

 

 商人も見る。

 

 行政も見る。

 

 学園も見る。

 

 そこに眠るものを。

 

 どう倒すかではなく。

 

 どう使うか。

 

 どう分けるか。

 

 どう残すか。

 

 そこまで考える時代になった。

 

「これは」

 

 バルバロスがゆっくりと言った。

 

「冒険者の価値が薄れたという意味ではない」

 

 むしろ。

 

 逆だった。

 

 ダンジョンから価値を持ち帰る最初の人間。

 

 危険を調査する人間。

 

 未知を確かめる人間。

 

 その役割は。

 

 今まで以上に重要になっている。

 

「ただ」

 

 王は七大冒険者たちを見る。

 

「力だけでは、世界を回せなくなった」

 

 強ければ。

 

 奪える。

 

 だが。

 

 奪ったものを。

 

 誰に渡す。

 

 どう使う。

 

 何を残す。

 

 そこまで考えなければ。

 

 社会は続かない。

 

「冒険者の仕事も変わっていくということか」

 

 シグムントが静かに言った。

 

「ああ」

 

 ガイストが応える。

 

「そして、それを若い連中にも理解してもらうために、今回の会合を開いた」

 

 剣を振るうだけが冒険者ではない。

 

 強さだけが価値ではない。

 

 生きて帰る。

 

 知識を持ち帰る。

 

 資源を社会へ戻す。

 

 次の世代へ経験を渡す。

 

 そして。

 

 自分がいなくても残るものを作る。

 

 その全てが。

 

 冒険者という生き方の一部になり始めていた。

 

 ハイセは。

 

 会場を見渡した。

 

 昔。

 

 自分にとって冒険者とは。

 

 強くなければ居場所を失う世界だった。

 

 弱かった自分には。

 

 選択肢などほとんどなかった。

 

 それが今では。

 

 強くなる方法すら。

 

 一つではない。

 

 戦う者。

 

 研究する者。

 

 教える者。

 

 資源を運ぶ者。

 

 制度を作る者。

 

 そして。

 

 その全てを必要に応じて行き来する者。

 

 随分。

 

 遠くまで来たものだと思う。

 

「では」

 

 バルバロスが資料を閉じた。

 

「冒険者社会については、ひとまずここまでとしよう」

 

 そして。

 

 次の資料へ手を伸ばす。

 

「次は」

 

 画面が切り替わる。

 

 そこには。

 

 アスタリスクからハイベルグへ渡った技術。

 

 ハイベルグからアスタリスクへ渡った資源。

 

 無数の項目が左右に並んでいた。

 

「二つの世界が、互いに何を与えたのか」

 

 会場が再び静まる。

 

「そこを整理しよう」

 

 冒険者の世界は変わった。

 

 だが。

 

 変わったのは。

 

 こちらだけではない。

 

 二つの世界が出会ったことで。

 

 アスタリスクもまた。

 

 以前と同じではいられなくなっていた。

 

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