という書きたくなったので書いてみただけの短編小説です
「パパー! アクアがまたルビーのピーマンお皿に入れてきたー!」
「入れてない。僕の皿にルビーが勝手に移したのを、元の位置に戻しただけだ」
「うそつき! ピーマン食べたらスーパーマン、みんなも踊ればピーターパンだよ!」
念願の東京ドーム公演を迎えた、記念すべき日の朝。
星野家のリビングは、いつもと変わらない双子の騒々しい声で満たされていた。
「こらこら、二人とも朝から喧嘩しないの。アクアもルビーも、ピーマンを残さず食べないと、今日のママのステージを最前列で見せてあげないよ?」
そう言って、お玉を片手にエプロン姿でキッチンから顔を出したのは、神木プロダクションの代表取締役であり、この家の不器用で、けれど優しい『パパ』――カミキヒカルだった。
中学生の頃、お互いの孤独を埋め合うようにして出会ったアイとヒカル。
原作では歪んで、すれ違って、最悪の悲劇へと繋がってしまった二人の運命は、この世界では違っていた。
ヒカルはアイの妊娠を知ったあの日、自らの弱さと決別し、
「アイと、生まれてくる子供たちを自分の命に代えても守る」
と誓ったのだ。
彼は若くして自らの事務所を立ち上げて芸能界の裏方に回り、世間には隠しつつも、裏では徹底的に星野アイの旦那として、そして二人の子供の父親として、泥臭く家庭を支え続けてきた。
「もー、ヒカルたら朝からお小言? アイドルはピーマンなんて食べなくても、ファンのみんなに愛を届けられるんだからね!」
寝癖をつけたまま、ふにゃりと締まりのない笑顔でリビングに現れたのは、当代随一のトップアイドル――星野アイだ。
ステージの上のカリスマ性はどこへやら、現在の彼女はただの『甘えん坊な妻』だった。
アイはヒカルの背中に後ろから抱きつくと、その背中に小さく顔を埋める。
「ほら、アイ。子供たちの前だよ。……それより、今日の警備体制だけど、もう一度確認させてくれ。ドームの入場ルートの警備員は通常の三倍に増やした。不審なプレゼントや手紙はすべて僕の事務所のセキュリティ班が事前にX線検査にかける。ストーカーの類は半径一キロ以内に近づくことすらできないように――」
「ヒカル、心配しすぎ! あはは、私の旦那様は世界一過保護だなぁ!」
アイはヒカルの頬にちゅっとキスをして、楽しそうに笑う。ヒカルの過保護さは、この10年間で業界一有名になっていた。アイを狙うような悪質なファンやアンチは、彼が築いた鉄壁の防壁と、裏からの合法的な社会的抹殺によって、近づくことすら許されずにすべて未然に弾かれてきたのだ。
そんな夫婦のイチャつきを、朝食を食べながら冷ややかな目で見つめる二つの視線があった。
((……愛が重すぎる))
ゴローの記憶を持つアクアと、さりなの記憶を持つルビーは、心の中で同時に激しいツッコミを入れていた。
「あ、パパ! ママばっかりズルい! ルビーにもいってらっしゃいのハグして!」
「もちろん。ルビーも、アクアも、僕の最高の宝物だからね」
ヒカルはエプロンを脱ぎ、愛おしそうに双子を両腕で抱きしめる。
その瞳には、かつて宿っていたはずのドス黒い闇など欠片もなく、家族への底なしの愛だけが優しく揺らめいていた。――夜。東京ドーム。地鳴りのような大歓声のなか、ステージのセンターで、星野アイは人生で一番最高の輝きを放っていた。その客席の最前列、関係者席の特等席。
「アイーーっ! 世界一可愛いよ――っ!!」
両手にアイのイメージカラーのサイリウムを限界まで握りしめ、誰よりも大声で涙ぐみながら叫んでいるカミキの姿があった。
その隣で、アクアとルビーは少し恥ずかしそうにしながらも、やっぱり嬉しそうに赤いサイリウムを振っている。
誰も欠けない、誰も死なない。
歪んだ愛の代わりに、本物の家族の愛で満たされた星野家の、これが新しく刻まれていく、ありふれた奇跡の物語。